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2幕 新婚旅行を満喫します!
74場 籠の中の小鳥
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予想通り、金属の比重が軽い順に針を動かすと、柱時計は滑らかに横に動いた。
裏に隠し通路があったのだ。その先には闇がぽっかりと口を開けている。迂闊に足を踏み入れたものを飲み込もうとするように。
大剣を抜いたグレイグがゆっくりと中へ進んでいく。その足元を魔石灯で照らしながら、メルディと杖を持ったエレンが続く。アズロは鳥目なのでメルディの肩の上だ。
闇の中は、ひりつくような緊張感に満たされていた。
広さはそんなにない。直線の廊下の向こうに、古びたドアがぼんやりと浮かび上がっている。中から明かりが漏れているのだ。つまり、あの向こうにレイたちがいる。
ごくりと唾を飲み込み、無意識にズボンのポケットを触る。この中にはプレートの鋳型から作った鍵が入っている。レイの帰りを無邪気に待っていた間に作った鍵が。
「……明かりを消して。同時にドアを開けるよ。気をつけてね」
ドアの向こうの気配を探りながら囁くグレイグに頷き、魔石灯のスイッチを切る。次の瞬間、グレイグが扉を蹴り開けて中に飛び込んだ。
「ダメだ! 下がって!」
レイの声だと気づいたときには遅かった。あっという間もなく伸びてきた木の根が、メルディたちの首と体を締め上げる。
こちらとて警戒していたはずなのに、全く何もできなかった。レイを凌ぐほどの反応速度だ。ミルディアが成績優秀だと言うだけのことはある。
頼みの綱のアズロも拘束からは逃れられず、床の上で嘴を押さえられてもがいていた。
「メルディ! グレイグ!」
「レイ先輩、動かないでください。リヒトシュタインもだ。その根を引きちぎろうとしたら、メルディさんの首の骨を砕く」
ニールの右手にはレイの杖が、左手にはニール自身の杖が握られている。その二本の杖は、それぞれメルディとレイたちに向けられていた。
「こういうときは木属性でよかったと思いますよ。両手代わりに使えますからね」
操った木の根でグレイグとエレンの手から武器をもぎ取り、床に投げ捨てる。その背後には古びたテーブルと、丸椅子が七脚。そして、大人が一人余裕で入れそうな大きな暖炉があった。
「エステル……。君、いつも実技で手を抜いてたみたいだね。あとで先生にちくってやる」
呻きながら悪態をつくグレイグに、ニールが薄く笑う。
「魔法使いは切り札を隠し持つものなんだよ。油断したね。それにしても、驚きましたよ先輩。もう解いたんですか、僕の渾身の拘束魔法を」
「僕を舐めてるの? 年季が違うんだよ、年季が。たとえ平衡感覚を奪われていようが、これぐらいの魔法ならわけないね」
こちらから見て右――つまりニールの左手側の壁際の床に、ぐったりしたドニと頭から血を流したレイが座り込んでいた。
レイの顔にも、手首にも、縄のようなものが食い込んだ跡が残っている。周りの床には鋭利な何かで切られた木の根が落ちていた。
「すごいなあ。迷路蝶の鱗粉をたっぷり振り掛けたのに。でも、リヒトシュタインの拘束を解こうとしないでくださいね。反応速度だけなら僕の方が早い。それに、僕に魔法は通用しませんよ。聖属性の結界を張っていますから」
ニールの足元には魔法紋が書かれた紙が広げられていた。中心には白銀色の鉱石が置かれている。聖属性を帯びたセレネス鉱石だ。
「ニール君……。どうして、こんなことを? ヒンギス先生に何か言われたの?」
「何も言われてませんよ。僕が勝手にしたことです。ドニ先生を人質に取れば、レイ先輩は従わざるを得ない。ヒンギス先生にも有利になる。一石二鳥じゃないですか?」
口の端を歪めるニールに、メルディはショックを隠せなかった。誰かに言わされているのではなく、ニール自身の言葉だとわかってしまったからだ。
一体いつから? いつからニールは闇を抱えていたのだろうか。レイのファンだと言ったのも、全て演技だったのだろうか。とてもそうは見えなかったのに。
声を振り絞るように、ニールに問う。
「……なら、どういうつもりで私にあの手紙を渡したの? わざわざ本物とすり替えてまで」
「凶行を止めてほしがってると思いましたか? ハズレですね。僕は暗号の答えが気になっただけです。きっとレイ先輩は教えてくれないだろうから」
レイはニールを黙って睨んでいる。だが、その目は時折あらぬ方向を向いていた。
迷路蝶の鱗粉で視界を惑わされているのだろう。対象が定まらぬ状態で、杖もなしに木の根を断ち切れたのは、ひとえにレイが経験豊富だからだ。
「ただ、こんなに早く謎を解かれるとは思いませんでしたけどね。抜け駆けして正解だったかな」
「どういう意味……?」
「僕も賢者の雫がほしかったってことです。もし本当に魔力増幅のアイテムだったとして、あなたたちはシュミットに渡すでしょう?」
エレンが息を飲んだ。自分が凶行のきっかけになったなど信じたくもないだろう。ただ声もなくニールを凝視している。
「そんな……。どうして? どうしてよ! そんなものなくても、あなたはすごい子なのに!」
メルディの叫びが、部屋の中に虚しく響いて消えていく。耳が痛いほどの静寂の中、ニールは唇を噛み締めた。
「全然すごくないですよ……。どれだけ努力したって、僕は所詮ヒト種。生まれつき力に恵まれたリヒトシュタインや、シュミットみたいな天才には敵わないんだ」
「ボ、ボク、別に天才じゃ……」
「天才だよ、君は。ずっと羨ましかった。首席をキープできる頭を持つ君が、それだけの努力をできる君が。賢者の雫探しだって、きっと君がいなければこんなに順調にはいかなかった」
苦しげに寄る眉の下で、緑色の目が光った。嫉妬に染まった目が。
まっすぐな感情をぶつけられ、エレンが体を震わせる。大きく見開かれた彼の一対の青白い瞳は、困惑と――そして、ニールと同じ嫉妬に揺らいでいた。
「そんな……。ボクこそ君が羨ましかったよ。君はボクにないものを全部持ってる。魔法の知識も、魔力も、他人からの信頼も、実の両親じゃなくても愛してくれる家族も……。ここに入学したときから、ずっとそう思ってた」
「シュミット……。君、知ってたのか。僕が養子だってことを」
「職員室で先生たちが話しているのを聞いて……」
ニールが「……っ!」と息を飲み、小さくため息をつく。
「……そうだな。たとえエルフの血が薄くとも、家族は僕を愛してくれたよ。ヒンギス先生だって、僕を大事にしてくれた。でも、それは対等の人間としてじゃなく、ただペットみたいな……庇護が必要な弱い存在としてなんだよ!」
ふいに、玄関ホールで見た兄たちの姿を思い出した。
彼らはニールを心から心配していた。けれど、それは行き過ぎた心配じゃなかったか。
ヒンギスもそうだ。他者との接触を阻み、姿が見えなければ必死に探す。未成年とはいえ、ニールは立派な青年なのに。
「家族から疎まれていた君にはわからないだろ? 鳥籠に入れられたような、真綿で首を絞められるような圧迫感が。愛だってな、過ぎれば重いだけなんだよ!」
「エステル!」
グレイグが怒鳴った。目の中に怒りの炎が激しく燃えている。レイに倣い、常に冷静さを保とうとする弟が、ここまで他者に感情を曝け出すのは初めてのことだった。
「いい加減にしろよ! さっきから聞いてれば泣き言ばっかり! お前のどこが弱いんだよ! 僕よりも遥かに成績いいくせに!」
「君にはわからないよ、リヒトシュタイン。知識なんて、何の役にも立たない。僕には力が必要なんだ。誰からも認められる圧倒的な力が。じゃないと、いつまでも何もできない子供のままなんだよ!」
木の根がグレイグの顔の闇を覆い隠した。木の根の隙間から「……テル!」ともがく弟の声が聞こえる。
ニールはそんなグレイグをしばらく見つめていたが、やがてレイに視線を移した。
「先輩、もう一度聞きます。賢者の雫はどこですか。大事な奥さんを傷つけられたくなかったら、素直に答えてください」
メルディの首の根が微かに締まり、レイが小さく舌打ちをした。
「……君の後ろの暖炉の中だよ。奥の壁が隠し扉になってて、その中に宝箱がある」
「ありがとうございます。――シュミット。君が開けるんだ。逆らうなよ。下手な真似をすればメルディさんを……」
「鍵がないと開かないわよ」
その場にいた全員の視線がメルディに集中した。顔の闇を塞がれたグレイグも、「何言ってんだ、この姉は」という雰囲気を醸している。
「あのプレートはね、鍵の鋳型だったのよ。七枚集めたら作れるようになってるの。あなたが渡してくれた手紙の封筒に、七枚目のプレートが隠されてたわ。暗号はただのブラフよ。あなた、百二十年前のレイさんに一杯食わされたのよ」
ニールは呆気に取られたように「え?」と呟くと、黙ってレイに目を向けた。悔しそうな、それでいて嬉しそうな目を。
その目を見て、少しだけほっとした。レイのファンだと言っていたのは、嘘ではなかったのだ。
「鍵は私が持ってる。でも、どこかは言わない。ポケットの中かもしれないし、ブーツの中かもしれないわ。胸の谷間かもね?」
ニールの顔が赤くなった。周りからの人気は高くとも、まだ未成年。女性への耐性はないらしい。
「そ、そんなの、全部探してみれば……!」
「あら、私の体をまさぐるつもり? そんなことしたら、あなたレイさんに殺されるわよ」
「殺すよ、本当。指一本でも触れたら殺す」
殺意マシマシの目で睨みつけるレイに、ニールが喉を鳴らす。どれだけ虚勢を張ったところで、モルガン戦争を乗り越えてきた相手に迫力で敵うわけがない。
「……わかりました。あなたの体だけ拘束を解きます。こっちにゆっくり歩いてきてください」
首以外の木の根が外れ、体中に血が巡っていく。全員が見守る中、足の痺れをこらえながらニールに近づく。
一歩、また一歩。
そして、ニールの間合いに入ったその瞬間、メルディは大きく吠えた。
「金槌で鍛えた腕を舐めるんじゃないわよ!」
裏に隠し通路があったのだ。その先には闇がぽっかりと口を開けている。迂闊に足を踏み入れたものを飲み込もうとするように。
大剣を抜いたグレイグがゆっくりと中へ進んでいく。その足元を魔石灯で照らしながら、メルディと杖を持ったエレンが続く。アズロは鳥目なのでメルディの肩の上だ。
闇の中は、ひりつくような緊張感に満たされていた。
広さはそんなにない。直線の廊下の向こうに、古びたドアがぼんやりと浮かび上がっている。中から明かりが漏れているのだ。つまり、あの向こうにレイたちがいる。
ごくりと唾を飲み込み、無意識にズボンのポケットを触る。この中にはプレートの鋳型から作った鍵が入っている。レイの帰りを無邪気に待っていた間に作った鍵が。
「……明かりを消して。同時にドアを開けるよ。気をつけてね」
ドアの向こうの気配を探りながら囁くグレイグに頷き、魔石灯のスイッチを切る。次の瞬間、グレイグが扉を蹴り開けて中に飛び込んだ。
「ダメだ! 下がって!」
レイの声だと気づいたときには遅かった。あっという間もなく伸びてきた木の根が、メルディたちの首と体を締め上げる。
こちらとて警戒していたはずなのに、全く何もできなかった。レイを凌ぐほどの反応速度だ。ミルディアが成績優秀だと言うだけのことはある。
頼みの綱のアズロも拘束からは逃れられず、床の上で嘴を押さえられてもがいていた。
「メルディ! グレイグ!」
「レイ先輩、動かないでください。リヒトシュタインもだ。その根を引きちぎろうとしたら、メルディさんの首の骨を砕く」
ニールの右手にはレイの杖が、左手にはニール自身の杖が握られている。その二本の杖は、それぞれメルディとレイたちに向けられていた。
「こういうときは木属性でよかったと思いますよ。両手代わりに使えますからね」
操った木の根でグレイグとエレンの手から武器をもぎ取り、床に投げ捨てる。その背後には古びたテーブルと、丸椅子が七脚。そして、大人が一人余裕で入れそうな大きな暖炉があった。
「エステル……。君、いつも実技で手を抜いてたみたいだね。あとで先生にちくってやる」
呻きながら悪態をつくグレイグに、ニールが薄く笑う。
「魔法使いは切り札を隠し持つものなんだよ。油断したね。それにしても、驚きましたよ先輩。もう解いたんですか、僕の渾身の拘束魔法を」
「僕を舐めてるの? 年季が違うんだよ、年季が。たとえ平衡感覚を奪われていようが、これぐらいの魔法ならわけないね」
こちらから見て右――つまりニールの左手側の壁際の床に、ぐったりしたドニと頭から血を流したレイが座り込んでいた。
レイの顔にも、手首にも、縄のようなものが食い込んだ跡が残っている。周りの床には鋭利な何かで切られた木の根が落ちていた。
「すごいなあ。迷路蝶の鱗粉をたっぷり振り掛けたのに。でも、リヒトシュタインの拘束を解こうとしないでくださいね。反応速度だけなら僕の方が早い。それに、僕に魔法は通用しませんよ。聖属性の結界を張っていますから」
ニールの足元には魔法紋が書かれた紙が広げられていた。中心には白銀色の鉱石が置かれている。聖属性を帯びたセレネス鉱石だ。
「ニール君……。どうして、こんなことを? ヒンギス先生に何か言われたの?」
「何も言われてませんよ。僕が勝手にしたことです。ドニ先生を人質に取れば、レイ先輩は従わざるを得ない。ヒンギス先生にも有利になる。一石二鳥じゃないですか?」
口の端を歪めるニールに、メルディはショックを隠せなかった。誰かに言わされているのではなく、ニール自身の言葉だとわかってしまったからだ。
一体いつから? いつからニールは闇を抱えていたのだろうか。レイのファンだと言ったのも、全て演技だったのだろうか。とてもそうは見えなかったのに。
声を振り絞るように、ニールに問う。
「……なら、どういうつもりで私にあの手紙を渡したの? わざわざ本物とすり替えてまで」
「凶行を止めてほしがってると思いましたか? ハズレですね。僕は暗号の答えが気になっただけです。きっとレイ先輩は教えてくれないだろうから」
レイはニールを黙って睨んでいる。だが、その目は時折あらぬ方向を向いていた。
迷路蝶の鱗粉で視界を惑わされているのだろう。対象が定まらぬ状態で、杖もなしに木の根を断ち切れたのは、ひとえにレイが経験豊富だからだ。
「ただ、こんなに早く謎を解かれるとは思いませんでしたけどね。抜け駆けして正解だったかな」
「どういう意味……?」
「僕も賢者の雫がほしかったってことです。もし本当に魔力増幅のアイテムだったとして、あなたたちはシュミットに渡すでしょう?」
エレンが息を飲んだ。自分が凶行のきっかけになったなど信じたくもないだろう。ただ声もなくニールを凝視している。
「そんな……。どうして? どうしてよ! そんなものなくても、あなたはすごい子なのに!」
メルディの叫びが、部屋の中に虚しく響いて消えていく。耳が痛いほどの静寂の中、ニールは唇を噛み締めた。
「全然すごくないですよ……。どれだけ努力したって、僕は所詮ヒト種。生まれつき力に恵まれたリヒトシュタインや、シュミットみたいな天才には敵わないんだ」
「ボ、ボク、別に天才じゃ……」
「天才だよ、君は。ずっと羨ましかった。首席をキープできる頭を持つ君が、それだけの努力をできる君が。賢者の雫探しだって、きっと君がいなければこんなに順調にはいかなかった」
苦しげに寄る眉の下で、緑色の目が光った。嫉妬に染まった目が。
まっすぐな感情をぶつけられ、エレンが体を震わせる。大きく見開かれた彼の一対の青白い瞳は、困惑と――そして、ニールと同じ嫉妬に揺らいでいた。
「そんな……。ボクこそ君が羨ましかったよ。君はボクにないものを全部持ってる。魔法の知識も、魔力も、他人からの信頼も、実の両親じゃなくても愛してくれる家族も……。ここに入学したときから、ずっとそう思ってた」
「シュミット……。君、知ってたのか。僕が養子だってことを」
「職員室で先生たちが話しているのを聞いて……」
ニールが「……っ!」と息を飲み、小さくため息をつく。
「……そうだな。たとえエルフの血が薄くとも、家族は僕を愛してくれたよ。ヒンギス先生だって、僕を大事にしてくれた。でも、それは対等の人間としてじゃなく、ただペットみたいな……庇護が必要な弱い存在としてなんだよ!」
ふいに、玄関ホールで見た兄たちの姿を思い出した。
彼らはニールを心から心配していた。けれど、それは行き過ぎた心配じゃなかったか。
ヒンギスもそうだ。他者との接触を阻み、姿が見えなければ必死に探す。未成年とはいえ、ニールは立派な青年なのに。
「家族から疎まれていた君にはわからないだろ? 鳥籠に入れられたような、真綿で首を絞められるような圧迫感が。愛だってな、過ぎれば重いだけなんだよ!」
「エステル!」
グレイグが怒鳴った。目の中に怒りの炎が激しく燃えている。レイに倣い、常に冷静さを保とうとする弟が、ここまで他者に感情を曝け出すのは初めてのことだった。
「いい加減にしろよ! さっきから聞いてれば泣き言ばっかり! お前のどこが弱いんだよ! 僕よりも遥かに成績いいくせに!」
「君にはわからないよ、リヒトシュタイン。知識なんて、何の役にも立たない。僕には力が必要なんだ。誰からも認められる圧倒的な力が。じゃないと、いつまでも何もできない子供のままなんだよ!」
木の根がグレイグの顔の闇を覆い隠した。木の根の隙間から「……テル!」ともがく弟の声が聞こえる。
ニールはそんなグレイグをしばらく見つめていたが、やがてレイに視線を移した。
「先輩、もう一度聞きます。賢者の雫はどこですか。大事な奥さんを傷つけられたくなかったら、素直に答えてください」
メルディの首の根が微かに締まり、レイが小さく舌打ちをした。
「……君の後ろの暖炉の中だよ。奥の壁が隠し扉になってて、その中に宝箱がある」
「ありがとうございます。――シュミット。君が開けるんだ。逆らうなよ。下手な真似をすればメルディさんを……」
「鍵がないと開かないわよ」
その場にいた全員の視線がメルディに集中した。顔の闇を塞がれたグレイグも、「何言ってんだ、この姉は」という雰囲気を醸している。
「あのプレートはね、鍵の鋳型だったのよ。七枚集めたら作れるようになってるの。あなたが渡してくれた手紙の封筒に、七枚目のプレートが隠されてたわ。暗号はただのブラフよ。あなた、百二十年前のレイさんに一杯食わされたのよ」
ニールは呆気に取られたように「え?」と呟くと、黙ってレイに目を向けた。悔しそうな、それでいて嬉しそうな目を。
その目を見て、少しだけほっとした。レイのファンだと言っていたのは、嘘ではなかったのだ。
「鍵は私が持ってる。でも、どこかは言わない。ポケットの中かもしれないし、ブーツの中かもしれないわ。胸の谷間かもね?」
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「あら、私の体をまさぐるつもり? そんなことしたら、あなたレイさんに殺されるわよ」
「殺すよ、本当。指一本でも触れたら殺す」
殺意マシマシの目で睨みつけるレイに、ニールが喉を鳴らす。どれだけ虚勢を張ったところで、モルガン戦争を乗り越えてきた相手に迫力で敵うわけがない。
「……わかりました。あなたの体だけ拘束を解きます。こっちにゆっくり歩いてきてください」
首以外の木の根が外れ、体中に血が巡っていく。全員が見守る中、足の痺れをこらえながらニールに近づく。
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