あなたの頭、お作りします! 〜デュラハン防具職人の業務日誌〜

遠野さつき

文字の大きさ
56 / 110
第5部

8話 共に眺める大輪の花

しおりを挟む
「アルティちゃーん。そろそろ、どう?」
「あ、は、はいっ。すぐに戻ります!」

 伸ばしかけていた手を急いで引っ込め、洗いかけだった皿を洗い終える。きっと酒を飲みすぎたのだ。リリアナに触れてみたいと思うなんて!

「行きましょう、リリアナさん。早くしないと年越しちゃいますもんね!」
「え? うん」

 洗い終わった皿を抱えて逃げるように歩き出す。リリアナはそんなアルティを不思議そうに見つめつつも、遅れないようあとをついてきた。

「いよいよお披露目か?」
「そ、そうですね。年を越す前に渡したいので」

 真横に感じる体温に声が上擦ったが、リリアナが気づいた様子はない。後ろ手を組んで機嫌よさそうに月を眺めている。その横顔を盗み見て、アルティはそっとため息をついた。

 テントに戻ると、ヨハンナがクーラーボックスからホールケーキを取り出しているところだった。今朝、ここに来る前にアルティと一緒に作ったものだ。

 クリフが好きな生クリームとイチゴをふんだんに使ったそれは、みんなの興味を大いに引いたようだ。特に声もかけてないのに、明かりに誘われる虫のごとく長テーブルに集まってくる。

「なんじゃ、やけに大きなケーキじゃな。食後のデザートか?」
「それもありますけど、実は誕生日ケーキです。今日で九十七歳を迎える師匠に」
「ワシに?」

 目を丸くするクリフに、バルバトスが笑みを漏らす。

「クリフさん、自分の誕生日忘れたのかよ。年末なんて忘れようもなさそうなのに」
「それが歳を取ると不思議と忘れちゃうんだよね。もし覚えてても『何回目だっけ?』ってなる」

 この中で一番年上のレイが言うと説得力がある。

 今日がクリフの誕生日だということは事前にみんなに伝えてあった。めいめい持参してきたプレゼントを渡す中、アルティは破裂しそうな心臓を押さえるので精一杯だ。

 一生懸命用意したものだが、クリフが喜んでくれるかはわからない。というか、いつも何をあげても喜んだ姿を見たことがない。元々別のものを用意していたのだが、ヨハンナが来てから急遽用意し直したものなので、いつも以上に自信がなかった。

「ほら、アルティも」
「は、はい……」

 リリアナに促され、手にした長方形の小箱をクリフに差し出す。クリフはみんなからのプレゼントに目を白黒させていたが、アルティの緊張の面持ちを見ると、心持ち表情を引き締めて蓋を開けた。

「これは……」

 クリフの視線の先にあるもの。それは、アルティが一から作った金槌だった。

 金槌の頭に使用した鋼は、アルティの財布には少々厳しい高級品で、年末休みに入っていたハウルズ製鉄所のガンツを拝み倒して融通してもらったものだ。形には少し悩んだが、結局、何にでも使えるようにシンプルな円筒状にした。

 金槌の頭を鍛造するのは初めてだったが、その前に武器を作っていたおかげか、思ったよりもすんなりと作ることができた。経験は何よりも雄弁である。

「師匠の金槌をもらったので、その代わりに。師匠が使いやすいように、少し大きめにしてみました。柄は耐久性を重視して樫の木を使用しています。まっすぐより、少し湾曲してる方が好みでしたよね?」

 黙って手に取ったクリフが、何度か確かめるように金槌を振る。それをはらはらして見つめながら、アルティはクリフの顔を覗き込んだ。

「どうですか……?」
「ふん。相変わらず磨きが甘いのう。そのせいでささくれが手に刺さるし、頭の形も若干歪じゃ。あと、もうちっとこう……頭と柄を平行にせんとな。半人前が職人の魂とも呼べる金槌を作るなんざ、まだ早いわい」

 相変わらずのボロクソ批評だ。肩を落とすアルティの周りで「クリフ、言い過ぎよ」やら「お師匠さん、厳しー」という声が飛ぶ中、金槌をじっと見つめていたクリフがにやっと笑った。

「だが、気に入った。ありがたく使わせてもらうぞ、アルティ」

 その笑顔に嘘はない。どうやら及第点はいただけたようだ。

「よかったな、アルティ」
「はい!」

 何故かアルティ以上に嬉しそうなリリアナに頷き返す。

 それを機にヨハンナが切り分けてくれたケーキに舌鼓を打っているうちに、いよいよ年越しが近づいてきた。

 どことなくそわそわした雰囲気の中、温かいコーヒーを飲み終えたヨハンナが「そうだわ」と手を打ち鳴らす。

「ねぇ、せっかくだから新年に向けて抱負を言っていきましょうよ。ドワーフの横穴ではいつもそうしてるの」

 さすが職人だらけのドワーフというべきか、それぞれが抱負を言い合うことで、来年は何を作るか、どんな技術を身につけるかの指標にしているらしい。

 ヨハンナの提案に、バルバトスが顔を輝かせる。

「いいなそれ。なんか気合いが入りそうじゃん」
「それ以上気合い入れてどうすんの。ただでさえ暑苦しいのに」
「うるせぇなあ! いいだろ別に! 茶々入れんなよ」
「バルバトスさま、ラドクリフさま、年越し前に喧嘩しないでください……」
「うふふ。じゃあ、私から行くわね。あとは時計回りに」

 わいわいと騒ぐバルバトスたちを軽く流し、こほんと咳払いしたヨハンナがクリフをじっと見つめた。

「遠く離れた息子が、いつでも気楽に帰ってこられるようにするわ。もう二度と、誰にも傷つけさせないわよ」
「おふくろ……」

 母親の愛は八十年経った今も色褪せていないのだ。目を見開いたクリフに、ヨハンナがにこっと微笑む。

「じゃあ、次はリリアナちゃんね」

 水を向けられたリリアナが、少し考えながら言葉を紡いだ。

「そうだな……。部下たちの労働環境をもっとよくしたいかな。あとはもっと人と関わりたい。駐屯地を転々としていたときはいつも一人だった。でも、今はとても楽しいから」

 照れくさそうに兜を撫でるリリアナを、みんなが微笑ましそうに見ている。アルティも同じ気持ちだ。それが恥ずかしくなったのか、リリアナは隣に座るハンスの背中をやや強めに叩いた。

「じゃあ、次はハンス!」
「はーい。僕は今年と同じく、仲間たちと一緒に連隊長を支えますよ。いつもサボってるように見えて、一人で頑張りすぎる人だから」

 まさかそうくると思わなかったのか、リリアナが目を丸くする。

「……何言ってんだお前。急に生意気になったな」

 その声には、少し涙が滲んでいるような気がした。

「じゃあ、次は僕だね。僕は聖属性と魔属性の魔法紋の研究を進めるよ。みんなの生活、もっと便利にしちゃうからね。楽しみにしといて」

 レイの言葉に、左隣に座っていたバルバトスがひゅうと口笛を吹く。

「頼もしいなあ。俺はそんな立派なこと言えねーや。せいぜい、来年もラドクリフに勝つぐらいだな」
「エクテス領のイルギス火山みたいに高い目標だね。俺は身の程知らずを返り討ちにするよ。あとは教え子たちをしっかり鍛える」

 相変わらずの二人にくすくすと笑みがこぼれる。次はいよいよクリフだ。アルティが贈った金槌を振り上げて、高らかに宣言する。

「ワシも弟子をより一層鍛えるぞ!」
「お、お手柔らかにしてください……」

 気合いの入れようが怖い。鍛えてくれるのは嬉しいが、これ以上仕事が増えると死んでしまう。慄くアルティに、バルバトスが笑みを含みながら続きを促す。

「じゃあ、トリはアルティだな」
「俺は……」

 みんなの視線が集中し、ごくり、と唾を飲み込んだ。自分の気持ちを言葉にするのはいつだって緊張する。背筋をすっと伸ばし、ゆっくりと言葉を選んでいく。

「俺は職人としてはまだ半人前です。さっきも師匠にボロクソに言われましたし……。でも、いつか……師匠を超えて立派な職人になってみせます!」

 そして、リリアナに恥じない職人になるのだ。彼女から初めて依頼を受けたときに抱いた思いを、アルティは改めて胸に刻んだ。

「いや、来年の抱負だからね? スケールでか過ぎだって」

 レイの呆れた声に、みんなから一斉に笑い声が弾ける。

 その瞬間、夜空に大輪の花が咲いた。王城から打ち上がった花火だ。

 賑やかな音を聞きつけて、周りのキャンプ客がテントから出てくる。アルティたちも自然と椅子から立ち上がり、吸い寄せられるように展望台の方へ集まっていく。

 そこには、すでに大勢の人間が花火を眺めていた。色とりどりの花が咲き乱れる下では、首都の明かりがきらきらと輝いている。

 アルティたちがそうしているように、多くの人間が家族や恋人、親しい友人たちと身を寄せ合いながら同じ光景を眺めているのだろう。たとえ一人だったとしても、今このときばかりは、年越しの高揚感に身を浸しているはずだ。

「新年おめでとう!」

 誰かが夜空に向かって大きく叫んだ。

 それぞれの決意と期待を抱いて、新しい年が始まったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...