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第8部
3話 ハンスの調査結果
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「まず、連隊長の様子がおかしくなったのは、一週間前にメルクス森の神殿の地下に潜ってからです。いつも元気いっぱいなのに、急に口数少なくなっちゃって……」
記憶を辿るように、ハンスが手帳を指で叩いた。
「でも、そのときは、ただ疲れたのかなあって思ってたんですよ。なかなかハードな仕事でしたからね。前も後ろも見えないほど真っ暗な上に狭いし、なんか嫌な雰囲気が漂ってましたし」
地震の影響で神殿の説教台あたりの石床にヒビが入り、取り替え作業を行なったところ、地下へと続く空洞がぽっかりと口を開けていたそうだ。すぐさま調査隊を手配して中に下りたものの、満遍なく闇の魔素が充満していて、上級の光魔法を使わないと足元すら見えない有様だったという。
地下にあったものは狭い廊下と、その奥にある小部屋が一つ。それ以外に通路や部屋は見当たらなかったが、小部屋の壁を叩くと向こうに空洞が広がっていることがわかった。そして、位置的に森の奥のダンジョンに繋がっているらしいとも。
このあたりの話は、以前ハンスから聞いた通りだ。
「そのときに、何か変わったことはありませんでしたか?」
「別段、思い当たることは。魔物もいませんでしたし……。ただ、小部屋から、百年ほど前に作られたとみられる鉄製の鎧兜と、錆びたナイフが見つかりました。おそらく兵士のものだと思います。ご遺体はすでに朽ちてしまったようで、骨の一本も見つかりませんでした」
周囲から唸り声が上がる。アルティも同じ気持ちだ。今まで何度も神殿に足を運んだのに、全く気づかなかったとは。
「その鎧兜とナイフって、今はどうなってるんですか?」
「王城の魔学研究所で保管されていますが、特に何かが見つかったという報告は上がってきていません。小部屋の方も、完全に闇の魔素が消えるまで進展はなさそうです。何せ暗いので」
「そうですか……」
シエラ・シエルの一件があったあとだ。口数が少なくなったのは、見つかった鎧兜をフェリクスに重ねてしまったからなのかもしれない。
「言っとくけど、リリィは見知らぬ兵士の遺品や遺体見つけて落ち込むとか、そんなタマじゃないからね。君はちょっと美化しすぎなんだよ。戦女神さまとか言うし」
心を読んだようなラドクリフの言葉に、肩がびくりと揺れる。向かいに座るトリスタンの視線が痛い。
「まあ、それは置いておいて。とにかく、それからの連隊長はどこか心あらずというか……。発掘調査に立ち会ったあとも、遅くまで王城の執務室や書庫にこもって、何か調べ物をしているようでした」
「うちの登記について?」
「おそらくは」
頷いたハンスが続けて語る。
「確かに、登記の名義は前の所有者になっています。でも……どうも改竄された形跡があるんですよ。レイさんはご存知だと思いますけど、登記制度が確立されたのは戦後二十二年目です。クリフさんの時代はギリギリ違う。もちろん、前の所有者もそうです」
「じゃろうな。あの爺さん、戦後すぐに工房を立ち上げたと言っとたぞい」
「僕も覚えてるよ。首都を離れるときに、挨拶に来てくれたし」
生き証人がいると信憑性が増す。とはいえ、全て口頭での話だ。だから、その穴をつかれたのだろうが。
「これは復興が完了し、人の流入が活性化したため、必要に迫られて策定した法律です。なので、戦後からずっと首都にいらっしゃる方で、改めて登記書を提出された方はほとんど見受けられません。登記制度以前に手に入れた土地は、上物の固定資産税をきちんと支払っていれば、その権利を認められますからね」
「ちゃ、ちゃんと払ってました! 毎年!」
「存じ上げています。連隊長が言っていた相続人なんですけど、調べてみたらうちの新入りでした。こちらは第三傍系……つまり前の所有者の甥っ子ですが、生まれたのは前の所有者が亡くなった後なんです」
長寿の種族は、子供が生まれるスパンが長いのであり得なくはない。だが、直接関わりのない叔父の土地を得ようと思うものだろうか。
「周りの評判を聞くと、金に目が眩む人間にも思えませんし、経緯も不自然です。ご存知の通り、役所って何をするにも時間がかかるので、民間の土地を買い上げるなんて話が、その日のうちに決まるなんてあり得ないんですよ。その上、あのケチくさい経理官たちが右から左に決裁を通すなんて前代未聞です。よっぽど弱みでも握られたんですかねー」
若干私怨が入っているようだが、状況はよくわかった。アルティを含め、その場にいる一同が感心して頷いている。
「こんな短時間でよく調べたね。さすが警備隊。すごいね」
「恐れ入りますー」
ラドクリフの賞賛に、ハンスは照れくさそうに頭を下げた。
「新聞社の記事を差し止めたのは誰なの? 連隊長? 今日の夕刊に何も載ってなかったんだけど」
「僕です。さすがに、あんなの流されたら連隊長の評判に傷がつきますからね。工房の地下に魔の魔素だまりが見つかったって適当に嘘ついときました。調査が完了したら独占取材を受けるから、周辺住民に不安を与えないよう差し止めてくれって」
「……君、連隊長に似てきたね」
レイの呆れた声に、ハンスが「恐縮ですー」とまた頭を下げた。
「それにしても、なんでうちの工房を? 国からの命令じゃないとしたら、余計納得できません。侯爵が追い出されるのはともかく」
「おい。ともかくってなんだ」
「一応、神殿と工房の関係性も当たってみましたけど、こっちはさっぱりです。クリフさん、前の所有者の方から何か聞いていますか?」
「いや。何も聞いとらん。工房を手放した理由も、後継者がおらんかったからだぞ。まさか相続人がおるとは思っとらんかったわ」
もっともな意見にハンスが兜を掻いた。
「うーん。連隊長の気質からいって、誰かに脅されてるとは考えにくいですしねー。侯爵が下剋上されるのはともかく」
「だから、ともかくってなんだ!」
大人たちが揃って首を捻る中、今まで黙って聞いていたエスメラルダがぽつりと呟いた。
「……おねえさま、魔属性に取り憑かれてるんじゃないかな?」
その場にいる全員の視線が集中したが、エスメラルダは臆することなく、自分の考えを口にした。
「私ね、今、魔属性に取り憑かれた人を助けるお手伝いをしてるんだけど、おねえさまから同じ気配がしたの。うまく言葉にはできないんだけど……。とにかく、いつものおねえさまじゃなかった。なんで工房を取り上げちゃったのって聞いても、何も答えてくれないし、ちっとも私の目を見てくれないし……」
俺もだ、と心の中で呟いたとき、ハンスが片手を挙げた。
「僕も同じです。目を合わせようすると、巧みにかわされるんですよねー」
「俺もそうだった。リリィが面頬を下ろしてるのも珍しいよね」
「本当に連隊長が魔属性に取り憑かれてるとすると……赤目を隠すためかな? でも、それなら兜を脱げばいいよね? デュラハンって何も被らなければ目は浮かばないんでしょ」
「いや、それ、逆に目立ちます。連隊長みたいな人ならなおさら」
ハンスの言葉にトリスタンも追従する。
「デュラハンは人前で兜を脱がん。もし脱いだとしても、帽子やカツラを被る。……こいつと逢引きしてたときみたいにな」
「だから、逢引きじゃありませんって! そもそも、リリアナさんはあんまり気にしないタイプでしたよ。シエラ・シエルでも素肌見せてたし……」
「あ?」
地を這うようなトリスタンの声で失言に気づき、慌てて口をつぐんだ。そんなアルティを尻目に、レイたちの議論は続く。
「ハンス君が新聞社についた嘘みたいに、神殿の地下に魔の魔素だまりがあった可能性はあるね。デュラハンは他の種族より魔属性に影響されやすいし、シエラ・シエルから戻ってきてずっと忙しかったんなら、疲れやストレスが溜まってただろうし」
「じゃあ、リリィが取り込んだ魔の魔素が、リリィの部下や王城の経理官にまで影響してるってこと?」
「もしくは、魔属性には人を操る力があるのかもね。魔王は魔物を操ってた。人だって動物だ。できなくはないと思うよ」
しん、と沈黙が降りる。その中でも、レイは探究に余念がなかった。
「エスメラルダちゃん。連隊長には触った?」
「鎧には……。でも、人や魔物に取り憑いた魔属性を浄化するには、素手で相手の肌を触る必要があるの。もしくはセレネス鉱石を使うか。属性を強化するときも、素手の方が効果が強まるみたい。空中に漂ってる魔の魔素を浄化するときは、そんなことないんだけど……。聖女さまもそう言っていたし」
毅然と話すエスメラルダに、レイが頷く。
「無属性ならセレネス鉱脈を掘れた……いうことは、無属性を介することで効果が阻害されるのかもしれないね。ずっと不思議に思ってたんだ。周りを属性持ちのデュラハンで囲まれてるのに、なんでもっと早く魔素欠乏症にかからなかったんだろうって。直接触れてないからだったんだね」
「俺が火属性のリベットを使ったときは?」
「鎧を着たときか兜を被ったときに、リベットが顔の闇か肌に触れちゃったんだと思うよ。少量の魔の魔素だと、エスメラルダちゃんがいるだけで相殺されるんだろうけど、取り憑かれるほどの多量だと駄目だってことだね」
ふと、工房に来たときのリリアナの姿が脳裏に浮かんだ。あのとき、リリアナはセレネス鋼製のものを一切身につけていなかった。
「あの……。リリアナさんの髪留めと短剣、いつからなかったですか」
アルティの言葉の意図に気づいたハンスが、ハッと息を飲んだ。
「地下に行ってからです。翌日にはなかった気がします。汚すのが嫌だからかなって思ってたんですけど」
「アルティ、セレネス鋼以外の素材は何使ったの?」
「鞘は無属性の革。髪留めの台座も無属性の銀。その上、無闇矢鱈に属性効果を上げないように、魔法紋を刻んでる」
「直接肌に触れず、かつ手袋越しながら外せるかもね……」
呟くように言い、レイが両手を叩いた。
「ほぼ確定と見ていいね。連隊長は魔属性に取り憑かれてる。それも、相当強い。神殿の聖の魔素に耐えられるぐらいだからね。査問会で王さまに会わせるのはまずいかもしれないよ」
職人街で魔属性に取り憑かれた男に出会ったときのことを思い出して、背筋がぞっとした。万が一にも、あんなことをさせてはいけない。
「リリアナさんを取り戻そう!」
アルティの言葉に、その場にいた全員が一斉に頷いた。
記憶を辿るように、ハンスが手帳を指で叩いた。
「でも、そのときは、ただ疲れたのかなあって思ってたんですよ。なかなかハードな仕事でしたからね。前も後ろも見えないほど真っ暗な上に狭いし、なんか嫌な雰囲気が漂ってましたし」
地震の影響で神殿の説教台あたりの石床にヒビが入り、取り替え作業を行なったところ、地下へと続く空洞がぽっかりと口を開けていたそうだ。すぐさま調査隊を手配して中に下りたものの、満遍なく闇の魔素が充満していて、上級の光魔法を使わないと足元すら見えない有様だったという。
地下にあったものは狭い廊下と、その奥にある小部屋が一つ。それ以外に通路や部屋は見当たらなかったが、小部屋の壁を叩くと向こうに空洞が広がっていることがわかった。そして、位置的に森の奥のダンジョンに繋がっているらしいとも。
このあたりの話は、以前ハンスから聞いた通りだ。
「そのときに、何か変わったことはありませんでしたか?」
「別段、思い当たることは。魔物もいませんでしたし……。ただ、小部屋から、百年ほど前に作られたとみられる鉄製の鎧兜と、錆びたナイフが見つかりました。おそらく兵士のものだと思います。ご遺体はすでに朽ちてしまったようで、骨の一本も見つかりませんでした」
周囲から唸り声が上がる。アルティも同じ気持ちだ。今まで何度も神殿に足を運んだのに、全く気づかなかったとは。
「その鎧兜とナイフって、今はどうなってるんですか?」
「王城の魔学研究所で保管されていますが、特に何かが見つかったという報告は上がってきていません。小部屋の方も、完全に闇の魔素が消えるまで進展はなさそうです。何せ暗いので」
「そうですか……」
シエラ・シエルの一件があったあとだ。口数が少なくなったのは、見つかった鎧兜をフェリクスに重ねてしまったからなのかもしれない。
「言っとくけど、リリィは見知らぬ兵士の遺品や遺体見つけて落ち込むとか、そんなタマじゃないからね。君はちょっと美化しすぎなんだよ。戦女神さまとか言うし」
心を読んだようなラドクリフの言葉に、肩がびくりと揺れる。向かいに座るトリスタンの視線が痛い。
「まあ、それは置いておいて。とにかく、それからの連隊長はどこか心あらずというか……。発掘調査に立ち会ったあとも、遅くまで王城の執務室や書庫にこもって、何か調べ物をしているようでした」
「うちの登記について?」
「おそらくは」
頷いたハンスが続けて語る。
「確かに、登記の名義は前の所有者になっています。でも……どうも改竄された形跡があるんですよ。レイさんはご存知だと思いますけど、登記制度が確立されたのは戦後二十二年目です。クリフさんの時代はギリギリ違う。もちろん、前の所有者もそうです」
「じゃろうな。あの爺さん、戦後すぐに工房を立ち上げたと言っとたぞい」
「僕も覚えてるよ。首都を離れるときに、挨拶に来てくれたし」
生き証人がいると信憑性が増す。とはいえ、全て口頭での話だ。だから、その穴をつかれたのだろうが。
「これは復興が完了し、人の流入が活性化したため、必要に迫られて策定した法律です。なので、戦後からずっと首都にいらっしゃる方で、改めて登記書を提出された方はほとんど見受けられません。登記制度以前に手に入れた土地は、上物の固定資産税をきちんと支払っていれば、その権利を認められますからね」
「ちゃ、ちゃんと払ってました! 毎年!」
「存じ上げています。連隊長が言っていた相続人なんですけど、調べてみたらうちの新入りでした。こちらは第三傍系……つまり前の所有者の甥っ子ですが、生まれたのは前の所有者が亡くなった後なんです」
長寿の種族は、子供が生まれるスパンが長いのであり得なくはない。だが、直接関わりのない叔父の土地を得ようと思うものだろうか。
「周りの評判を聞くと、金に目が眩む人間にも思えませんし、経緯も不自然です。ご存知の通り、役所って何をするにも時間がかかるので、民間の土地を買い上げるなんて話が、その日のうちに決まるなんてあり得ないんですよ。その上、あのケチくさい経理官たちが右から左に決裁を通すなんて前代未聞です。よっぽど弱みでも握られたんですかねー」
若干私怨が入っているようだが、状況はよくわかった。アルティを含め、その場にいる一同が感心して頷いている。
「こんな短時間でよく調べたね。さすが警備隊。すごいね」
「恐れ入りますー」
ラドクリフの賞賛に、ハンスは照れくさそうに頭を下げた。
「新聞社の記事を差し止めたのは誰なの? 連隊長? 今日の夕刊に何も載ってなかったんだけど」
「僕です。さすがに、あんなの流されたら連隊長の評判に傷がつきますからね。工房の地下に魔の魔素だまりが見つかったって適当に嘘ついときました。調査が完了したら独占取材を受けるから、周辺住民に不安を与えないよう差し止めてくれって」
「……君、連隊長に似てきたね」
レイの呆れた声に、ハンスが「恐縮ですー」とまた頭を下げた。
「それにしても、なんでうちの工房を? 国からの命令じゃないとしたら、余計納得できません。侯爵が追い出されるのはともかく」
「おい。ともかくってなんだ」
「一応、神殿と工房の関係性も当たってみましたけど、こっちはさっぱりです。クリフさん、前の所有者の方から何か聞いていますか?」
「いや。何も聞いとらん。工房を手放した理由も、後継者がおらんかったからだぞ。まさか相続人がおるとは思っとらんかったわ」
もっともな意見にハンスが兜を掻いた。
「うーん。連隊長の気質からいって、誰かに脅されてるとは考えにくいですしねー。侯爵が下剋上されるのはともかく」
「だから、ともかくってなんだ!」
大人たちが揃って首を捻る中、今まで黙って聞いていたエスメラルダがぽつりと呟いた。
「……おねえさま、魔属性に取り憑かれてるんじゃないかな?」
その場にいる全員の視線が集中したが、エスメラルダは臆することなく、自分の考えを口にした。
「私ね、今、魔属性に取り憑かれた人を助けるお手伝いをしてるんだけど、おねえさまから同じ気配がしたの。うまく言葉にはできないんだけど……。とにかく、いつものおねえさまじゃなかった。なんで工房を取り上げちゃったのって聞いても、何も答えてくれないし、ちっとも私の目を見てくれないし……」
俺もだ、と心の中で呟いたとき、ハンスが片手を挙げた。
「僕も同じです。目を合わせようすると、巧みにかわされるんですよねー」
「俺もそうだった。リリィが面頬を下ろしてるのも珍しいよね」
「本当に連隊長が魔属性に取り憑かれてるとすると……赤目を隠すためかな? でも、それなら兜を脱げばいいよね? デュラハンって何も被らなければ目は浮かばないんでしょ」
「いや、それ、逆に目立ちます。連隊長みたいな人ならなおさら」
ハンスの言葉にトリスタンも追従する。
「デュラハンは人前で兜を脱がん。もし脱いだとしても、帽子やカツラを被る。……こいつと逢引きしてたときみたいにな」
「だから、逢引きじゃありませんって! そもそも、リリアナさんはあんまり気にしないタイプでしたよ。シエラ・シエルでも素肌見せてたし……」
「あ?」
地を這うようなトリスタンの声で失言に気づき、慌てて口をつぐんだ。そんなアルティを尻目に、レイたちの議論は続く。
「ハンス君が新聞社についた嘘みたいに、神殿の地下に魔の魔素だまりがあった可能性はあるね。デュラハンは他の種族より魔属性に影響されやすいし、シエラ・シエルから戻ってきてずっと忙しかったんなら、疲れやストレスが溜まってただろうし」
「じゃあ、リリィが取り込んだ魔の魔素が、リリィの部下や王城の経理官にまで影響してるってこと?」
「もしくは、魔属性には人を操る力があるのかもね。魔王は魔物を操ってた。人だって動物だ。できなくはないと思うよ」
しん、と沈黙が降りる。その中でも、レイは探究に余念がなかった。
「エスメラルダちゃん。連隊長には触った?」
「鎧には……。でも、人や魔物に取り憑いた魔属性を浄化するには、素手で相手の肌を触る必要があるの。もしくはセレネス鉱石を使うか。属性を強化するときも、素手の方が効果が強まるみたい。空中に漂ってる魔の魔素を浄化するときは、そんなことないんだけど……。聖女さまもそう言っていたし」
毅然と話すエスメラルダに、レイが頷く。
「無属性ならセレネス鉱脈を掘れた……いうことは、無属性を介することで効果が阻害されるのかもしれないね。ずっと不思議に思ってたんだ。周りを属性持ちのデュラハンで囲まれてるのに、なんでもっと早く魔素欠乏症にかからなかったんだろうって。直接触れてないからだったんだね」
「俺が火属性のリベットを使ったときは?」
「鎧を着たときか兜を被ったときに、リベットが顔の闇か肌に触れちゃったんだと思うよ。少量の魔の魔素だと、エスメラルダちゃんがいるだけで相殺されるんだろうけど、取り憑かれるほどの多量だと駄目だってことだね」
ふと、工房に来たときのリリアナの姿が脳裏に浮かんだ。あのとき、リリアナはセレネス鋼製のものを一切身につけていなかった。
「あの……。リリアナさんの髪留めと短剣、いつからなかったですか」
アルティの言葉の意図に気づいたハンスが、ハッと息を飲んだ。
「地下に行ってからです。翌日にはなかった気がします。汚すのが嫌だからかなって思ってたんですけど」
「アルティ、セレネス鋼以外の素材は何使ったの?」
「鞘は無属性の革。髪留めの台座も無属性の銀。その上、無闇矢鱈に属性効果を上げないように、魔法紋を刻んでる」
「直接肌に触れず、かつ手袋越しながら外せるかもね……」
呟くように言い、レイが両手を叩いた。
「ほぼ確定と見ていいね。連隊長は魔属性に取り憑かれてる。それも、相当強い。神殿の聖の魔素に耐えられるぐらいだからね。査問会で王さまに会わせるのはまずいかもしれないよ」
職人街で魔属性に取り憑かれた男に出会ったときのことを思い出して、背筋がぞっとした。万が一にも、あんなことをさせてはいけない。
「リリアナさんを取り戻そう!」
アルティの言葉に、その場にいた全員が一斉に頷いた。
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