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7章 2次元の幻想の中で
第7話 二次元が作られる
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有田さんが運転されるステーションワゴンは無事服部緑地に到着し、曽根方面からいちばん近い第2駐車場に停める。トランクを開けてそれぞれの荷物を取り出し、円形花壇に向かった。
途中で西中央広場を通り過ぎ、木々や花壇が綺麗なフラワー通りを進む。左手にはバーベキューのできる「ちかくの森」があり、右手には日時計に日本庭園。目的地に行くまでも見所があるのだ。
そして円形花壇に到着する。真ん中が池になっていて、噴水から放たれた水が踊っている。それを囲む様に、色とりどりバラなどの花と緑の芝生が広がっていた。
この円形花壇は、昭和34年に皇太子殿下のご結婚を記念して整備されたそうだ。周囲には4基の銅像が建てられており、梅塚古墳の一部も遺されている。
向かって右側の手前には梅林があり、春先にはきっと可愛らしい花々が甘い香りとともに開くのだろう。
確かにこの空間で座敷童子が遊び回るという風景は、素晴らしいものになるだろう。朔はわくわくとした感情を「わぁ」と表情に出した。
「綺麗やねぇ。どう? マリコちゃん」
「ふむ、悪く無いの」
まんざらでも無い様子である。その途端、マリコちゃんを取り囲む様に、7体の座敷童子が姿を現した。
「綺麗じゃー」
「おお、良いのう」
そんなことを言いながら、花壇の中に駆け出して行った。マリコちゃんは「やれやれ」と呆れた様に言いながらも、皆の後を追い掛けた。
これが人間の子どもなどであるなら、入らない様に注意するところだ。だが妖怪に実体は無い。どれだけ暴れ回っても花壇を荒らす心配は無い。
座敷童子たちはまるで花の上から上へと飛ぶ様に跳ね回る。きらきらと輝く噴水、赤白黄色と綺麗な花々と青々とした芝生、可愛らしい和装の子どもの姿の座敷童子。それはとても幻想的であった。
有田さんはさっそく機材を用意する。ボストンバッグからデジタルビデオカメラを取り出し、その光景を写し始めた。じっくりと時間を掛けて、座敷童子を追い掛ける。
続けてデジタルカメラを取り出し、様々な角度で収めて行く。
そしてようやく、小さな折りたたみ椅子を開き、そこに掛けるとスケッチブックと鉛筆を出して、スケッチを始められた。
その流れを、有田さんのお邪魔にならない様にと、少し離れた後方で、双子と吉本さんは並んで眺めていた。
後ろから見えるスケッチブックには、みるみる間に円形花壇と座敷童子たちが描かれて行く。色は付いていないし、かなりラフなものなのだが、見ている現実と相まって、まるで朔には完成形が見える様な気がしてしまった。
滑らかに動かされる有田さんの手。消しごむなどは使わずに、さらさらと線を重ねて行かれる。その卓越した技術に朔は吐息とともに「すご……」と漏らした。
「ね。僕もいつ見ても、凄いなぁて思うんです」
吉本さんもふんわりとした表情で、有田さんのお手元を見つめている。穏やかな中にも誇りの様なものが見えた気がした。
「そう言えば、吉本さんはいつも有田さんがこうして描きはるん、ご一緒してはるんですか?」
陽の問いに、吉本さんは「はい」と頷かれる。
「妖怪と折衝するんは僕ですからね。そこはちゃんとしてます」
「折衝て、あの、今回は座敷童子ちゃんたち、お赤飯とおしるこで引き受けてくれましたけど、いつもはどうしてはるんですか?」
朔が聞くと、吉本さんは「そうですねぇ」と考え巡らす様に右手を顎に添える。
「例えば油すましやった時は、いろんな油が欲しいて言われて、オリーブオイルとかアマニオイルとかココナッツオイルとかね、用意しましたよ」
「え、油すましって、ほんまに油好きなんですか?」
朔が目を丸くし、陽も驚いた様に聞くと、吉本さんはおかしそうに笑う。
「そうなんです。もとは油を盗もうとした罪人の成れの果てですからね。油への執着はなかなかのもんですよ」
双子は揃って「へぇ~」と感心してしまう。そう言えば朔が持っている画集に、油すましが描かれたものが載せられていたことを思い出す。
つるっとした頭に蓑を羽織った姿の油すましが、大阪市の天神橋筋商店街にある、行列の絶えない有名なコロッケ屋さん「中村屋」さんの厨房で、揚げものをする調理人の横から、今にもフライヤーに飛び込みそうな姿で表現されていた。
その画集で拝見した有田さんの画は微笑ましいものが多く、朔の心を和ませてくれた。妖怪というものを恐ろしいものでは無く、慈しむべき、敬うべきだと、有田さんご自身がそう思われているからでは無いだろうか。
吉本さんとのご関係があるので、悪いものがいることだってお判りなのだろうが、それでもその吉本さんのお力をお借りして、こうして妖怪を描かれているのだ。
もちろん画には有田さんの穏やかなお人柄も溢れている。だから見た人の心を暖かく包むのだ。
有田さんはじっくりと時間を掛けられ、円形花壇と座敷童子の景色を収められた。描き込まれたスケッチブックを閉じ、「よっしゃ」と満足げなお声を上げられる。すっと立ち上がって「んー」と伸びをされた。
「お待たせしました。退屈させてしもたでしょう」
有田さんが吉本さんと双子に申し訳なさげに頭を下げられる。
「いやいや、僕はいつものことやし、妖怪と有田くんの手元見てたら飽きひんし」
「はい。私も貴重なものを拝見できて、良かったと思ってます」
「はい。私もええ経験さしてもらいました」
吉本さんと双子のせりふに、有田さんは恐縮されたご様子で、また頭を下げられた。
「ありがとうございます」
そして有田さんは、円形花壇にいる座敷童子たちに手を振られた。すると座敷童子たちがわらわらと有田さんと吉本さんの足元に、マリコちゃんは双子の元へと戻って来た。
有田さんと吉本さんは、座敷童子1体1体に、丁寧にお礼をしている。座敷童子たちは頭を優しく撫でてもらえて嬉しそうである。
「朔、陽、これから赤飯としるこじゃな」
「うん。朝、たっぷり用意したからね。たくさん食べてもらえると思うんやけど」
「お赤飯のおにぎり、めっちゃ握ったもんな。あれで足りひんかったら、座敷童子大食い疑惑がますます高まるで」
朔は今や確信に近いものを持っているわけなのだが。さて、小豆パーティの準備である。
「そろそろ行きましょうか。皆、お腹空いたんちゃう?」
朔が座敷童子たちに聞くと、揃って「空いたぞー」と声が上がった。
そしてぞろぞろとちかくの森に移動する。その名の通り、エリアの半分は森の様に木々が生い茂っている。春の今は緑が綺麗だ。
今はバーベキューシーズンということもあり、大勢の人々で賑わっていた。炭火でバーベキューをしたり、アウトドア料理をしたりされているのだろう、良い香りが漂っている。双子はきょろきょろと見渡し、木々の近くに広めの場所を見付けた。
朔はスーツケースから大きなブルーのレジャーシートを取り出し、芝生の上に敷いた。
スニーカーを脱いで上がって適当な場所にカセットコンロを置き、その上にお鍋を置く。その中に陽が出してくれた、ジッパーバッグに入れたおしるこを入れた。
座敷童子たちは「おお!」と歓声を上げ、押せや押せやでお鍋を取り囲む。待ち遠しいのか「早く早く!」「まだか!?」と声を上げた。
「あったまるまで待ってね」
朔はカセットコンロの火を付け、中火にして焦げ付かない様に混ぜ続ける。これがなかなか大変なので、陽と交代である。
「おしるこできるまで、お赤飯食べといてな。おにぎりぎょうさんあるで」
陽が風呂敷に包んだお赤飯のおにぎりをシートに広げると、座敷童子たちは「わぁ!」と嬉しそうに突撃して行った。そこにはマリコちゃんもしっかりと混ざっている。
「吉本さんと有田さんも食べてくださいね」
「ありがとうございます。あの、しるこあっためるん、僕らも代わりますから」
「ありがとうございます。お願いします」
全員がお赤飯のおにぎりを手にすると、円形になって腰を降ろした。
「ほな、いただきます」
「いただきまーす」
有田さんの音頭で、座敷童子たちもお行儀良く手を合わせた。陽がお大根の塩昆布漬けのタッパも開けると、お赤飯の合間にとお箸が伸びる。
「旨い!」
「美味しいのう」
「小豆がごろごろしておって良いのう。歯ごたえと甘さがたまらん」
座敷童子たちは夢中になってお赤飯にかぶり付く。やはり普段、お供えの分だけのお赤飯では物足りなかったのだろう。今日はこぶし大のおにぎりを、ひとり3個ほど行き渡る様に握って来た。少しでも満足してもらえたら良いのだが。
おしるこの温めは陽や吉本さん、有田さんとも交代しながらして、そのうちにふつふつと表面が沸いて来た。ふんわりと甘い香りも立ち昇っている。
「そろそろかな」
その時は一巡して、お鍋をかき混ぜていたのは朔だった。陽が出してくれていた発泡スチロールのお椀によそい、シートに置いて行った。
「皆さん、おしるこがあったまりましたよ~」
するとまた座敷童子たちが「わぁ!」「おお!」「早く飲みたい!」と沸き立つ。陽が座敷童子たちにスプーンを添えて配って行った。
「吉本さんと有田さんは、お赤飯の後のスイーツでいかがですか?」
「はい。それでお願いします。自分の分は自分でよそいますから」
「はい」
朔の言葉に吉本さんと有田さんが応えられると、朔は「そうですね」と頷いた。
「食べはりたい時に、お好きによそってもろた方がええですね。たくさんありますから、たっぷり食べてくださいね」
「ありがとうございます。ええ匂いや」
あたりを包む甘い香りに、吉本さんも有田さんも、お顔を綻ばせた。
座敷童子たちは、おしるこをまるでお味噌汁の様に、お赤飯と一緒に味わっていた。
「久々のしるこじゃー」
「嬉しい!」
「美味しいぞ!」
口々に言い、満面の笑顔で小豆料理を楽しんでいる。その様子を見て、朔もお赤飯のおにぎりを頬張りながら、微笑ましい気持ちでその様子を眺めた。
途中で西中央広場を通り過ぎ、木々や花壇が綺麗なフラワー通りを進む。左手にはバーベキューのできる「ちかくの森」があり、右手には日時計に日本庭園。目的地に行くまでも見所があるのだ。
そして円形花壇に到着する。真ん中が池になっていて、噴水から放たれた水が踊っている。それを囲む様に、色とりどりバラなどの花と緑の芝生が広がっていた。
この円形花壇は、昭和34年に皇太子殿下のご結婚を記念して整備されたそうだ。周囲には4基の銅像が建てられており、梅塚古墳の一部も遺されている。
向かって右側の手前には梅林があり、春先にはきっと可愛らしい花々が甘い香りとともに開くのだろう。
確かにこの空間で座敷童子が遊び回るという風景は、素晴らしいものになるだろう。朔はわくわくとした感情を「わぁ」と表情に出した。
「綺麗やねぇ。どう? マリコちゃん」
「ふむ、悪く無いの」
まんざらでも無い様子である。その途端、マリコちゃんを取り囲む様に、7体の座敷童子が姿を現した。
「綺麗じゃー」
「おお、良いのう」
そんなことを言いながら、花壇の中に駆け出して行った。マリコちゃんは「やれやれ」と呆れた様に言いながらも、皆の後を追い掛けた。
これが人間の子どもなどであるなら、入らない様に注意するところだ。だが妖怪に実体は無い。どれだけ暴れ回っても花壇を荒らす心配は無い。
座敷童子たちはまるで花の上から上へと飛ぶ様に跳ね回る。きらきらと輝く噴水、赤白黄色と綺麗な花々と青々とした芝生、可愛らしい和装の子どもの姿の座敷童子。それはとても幻想的であった。
有田さんはさっそく機材を用意する。ボストンバッグからデジタルビデオカメラを取り出し、その光景を写し始めた。じっくりと時間を掛けて、座敷童子を追い掛ける。
続けてデジタルカメラを取り出し、様々な角度で収めて行く。
そしてようやく、小さな折りたたみ椅子を開き、そこに掛けるとスケッチブックと鉛筆を出して、スケッチを始められた。
その流れを、有田さんのお邪魔にならない様にと、少し離れた後方で、双子と吉本さんは並んで眺めていた。
後ろから見えるスケッチブックには、みるみる間に円形花壇と座敷童子たちが描かれて行く。色は付いていないし、かなりラフなものなのだが、見ている現実と相まって、まるで朔には完成形が見える様な気がしてしまった。
滑らかに動かされる有田さんの手。消しごむなどは使わずに、さらさらと線を重ねて行かれる。その卓越した技術に朔は吐息とともに「すご……」と漏らした。
「ね。僕もいつ見ても、凄いなぁて思うんです」
吉本さんもふんわりとした表情で、有田さんのお手元を見つめている。穏やかな中にも誇りの様なものが見えた気がした。
「そう言えば、吉本さんはいつも有田さんがこうして描きはるん、ご一緒してはるんですか?」
陽の問いに、吉本さんは「はい」と頷かれる。
「妖怪と折衝するんは僕ですからね。そこはちゃんとしてます」
「折衝て、あの、今回は座敷童子ちゃんたち、お赤飯とおしるこで引き受けてくれましたけど、いつもはどうしてはるんですか?」
朔が聞くと、吉本さんは「そうですねぇ」と考え巡らす様に右手を顎に添える。
「例えば油すましやった時は、いろんな油が欲しいて言われて、オリーブオイルとかアマニオイルとかココナッツオイルとかね、用意しましたよ」
「え、油すましって、ほんまに油好きなんですか?」
朔が目を丸くし、陽も驚いた様に聞くと、吉本さんはおかしそうに笑う。
「そうなんです。もとは油を盗もうとした罪人の成れの果てですからね。油への執着はなかなかのもんですよ」
双子は揃って「へぇ~」と感心してしまう。そう言えば朔が持っている画集に、油すましが描かれたものが載せられていたことを思い出す。
つるっとした頭に蓑を羽織った姿の油すましが、大阪市の天神橋筋商店街にある、行列の絶えない有名なコロッケ屋さん「中村屋」さんの厨房で、揚げものをする調理人の横から、今にもフライヤーに飛び込みそうな姿で表現されていた。
その画集で拝見した有田さんの画は微笑ましいものが多く、朔の心を和ませてくれた。妖怪というものを恐ろしいものでは無く、慈しむべき、敬うべきだと、有田さんご自身がそう思われているからでは無いだろうか。
吉本さんとのご関係があるので、悪いものがいることだってお判りなのだろうが、それでもその吉本さんのお力をお借りして、こうして妖怪を描かれているのだ。
もちろん画には有田さんの穏やかなお人柄も溢れている。だから見た人の心を暖かく包むのだ。
有田さんはじっくりと時間を掛けられ、円形花壇と座敷童子の景色を収められた。描き込まれたスケッチブックを閉じ、「よっしゃ」と満足げなお声を上げられる。すっと立ち上がって「んー」と伸びをされた。
「お待たせしました。退屈させてしもたでしょう」
有田さんが吉本さんと双子に申し訳なさげに頭を下げられる。
「いやいや、僕はいつものことやし、妖怪と有田くんの手元見てたら飽きひんし」
「はい。私も貴重なものを拝見できて、良かったと思ってます」
「はい。私もええ経験さしてもらいました」
吉本さんと双子のせりふに、有田さんは恐縮されたご様子で、また頭を下げられた。
「ありがとうございます」
そして有田さんは、円形花壇にいる座敷童子たちに手を振られた。すると座敷童子たちがわらわらと有田さんと吉本さんの足元に、マリコちゃんは双子の元へと戻って来た。
有田さんと吉本さんは、座敷童子1体1体に、丁寧にお礼をしている。座敷童子たちは頭を優しく撫でてもらえて嬉しそうである。
「朔、陽、これから赤飯としるこじゃな」
「うん。朝、たっぷり用意したからね。たくさん食べてもらえると思うんやけど」
「お赤飯のおにぎり、めっちゃ握ったもんな。あれで足りひんかったら、座敷童子大食い疑惑がますます高まるで」
朔は今や確信に近いものを持っているわけなのだが。さて、小豆パーティの準備である。
「そろそろ行きましょうか。皆、お腹空いたんちゃう?」
朔が座敷童子たちに聞くと、揃って「空いたぞー」と声が上がった。
そしてぞろぞろとちかくの森に移動する。その名の通り、エリアの半分は森の様に木々が生い茂っている。春の今は緑が綺麗だ。
今はバーベキューシーズンということもあり、大勢の人々で賑わっていた。炭火でバーベキューをしたり、アウトドア料理をしたりされているのだろう、良い香りが漂っている。双子はきょろきょろと見渡し、木々の近くに広めの場所を見付けた。
朔はスーツケースから大きなブルーのレジャーシートを取り出し、芝生の上に敷いた。
スニーカーを脱いで上がって適当な場所にカセットコンロを置き、その上にお鍋を置く。その中に陽が出してくれた、ジッパーバッグに入れたおしるこを入れた。
座敷童子たちは「おお!」と歓声を上げ、押せや押せやでお鍋を取り囲む。待ち遠しいのか「早く早く!」「まだか!?」と声を上げた。
「あったまるまで待ってね」
朔はカセットコンロの火を付け、中火にして焦げ付かない様に混ぜ続ける。これがなかなか大変なので、陽と交代である。
「おしるこできるまで、お赤飯食べといてな。おにぎりぎょうさんあるで」
陽が風呂敷に包んだお赤飯のおにぎりをシートに広げると、座敷童子たちは「わぁ!」と嬉しそうに突撃して行った。そこにはマリコちゃんもしっかりと混ざっている。
「吉本さんと有田さんも食べてくださいね」
「ありがとうございます。あの、しるこあっためるん、僕らも代わりますから」
「ありがとうございます。お願いします」
全員がお赤飯のおにぎりを手にすると、円形になって腰を降ろした。
「ほな、いただきます」
「いただきまーす」
有田さんの音頭で、座敷童子たちもお行儀良く手を合わせた。陽がお大根の塩昆布漬けのタッパも開けると、お赤飯の合間にとお箸が伸びる。
「旨い!」
「美味しいのう」
「小豆がごろごろしておって良いのう。歯ごたえと甘さがたまらん」
座敷童子たちは夢中になってお赤飯にかぶり付く。やはり普段、お供えの分だけのお赤飯では物足りなかったのだろう。今日はこぶし大のおにぎりを、ひとり3個ほど行き渡る様に握って来た。少しでも満足してもらえたら良いのだが。
おしるこの温めは陽や吉本さん、有田さんとも交代しながらして、そのうちにふつふつと表面が沸いて来た。ふんわりと甘い香りも立ち昇っている。
「そろそろかな」
その時は一巡して、お鍋をかき混ぜていたのは朔だった。陽が出してくれていた発泡スチロールのお椀によそい、シートに置いて行った。
「皆さん、おしるこがあったまりましたよ~」
するとまた座敷童子たちが「わぁ!」「おお!」「早く飲みたい!」と沸き立つ。陽が座敷童子たちにスプーンを添えて配って行った。
「吉本さんと有田さんは、お赤飯の後のスイーツでいかがですか?」
「はい。それでお願いします。自分の分は自分でよそいますから」
「はい」
朔の言葉に吉本さんと有田さんが応えられると、朔は「そうですね」と頷いた。
「食べはりたい時に、お好きによそってもろた方がええですね。たくさんありますから、たっぷり食べてくださいね」
「ありがとうございます。ええ匂いや」
あたりを包む甘い香りに、吉本さんも有田さんも、お顔を綻ばせた。
座敷童子たちは、おしるこをまるでお味噌汁の様に、お赤飯と一緒に味わっていた。
「久々のしるこじゃー」
「嬉しい!」
「美味しいぞ!」
口々に言い、満面の笑顔で小豆料理を楽しんでいる。その様子を見て、朔もお赤飯のおにぎりを頬張りながら、微笑ましい気持ちでその様子を眺めた。
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