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#12 家族の団欒はいつでも和やかで

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 久々に自分の部屋で目覚めた。モリアに豪快に起こされて。

「おはよう兄さん! 朝ご飯作って!」

 こいつの俺への関心は飯だけか。そう思いながらも、サミエルは重い頭をどうにか上げる。「うー……」とうめく様な声が漏れた。

「解った……すぐに行くから……待っててくれ……」

 サミエルが開かない眼をしょぼしょぼさせながら言うと、モリアはサミエルの胸ぐらを掴んでいた手を離し、笑顔で言った。

「よろしくね!」

 そうして颯爽さっそうと部屋を出て行く。同じ親から生まれたと言うのに、この寝起きの差は何だと言うのか。

 とにかく起きなければ。サミエルは無理矢理に眼を見開いて、上半身を起こした。と、したところで眠いものは眠い。しかし2度寝は許されない。次は胸ぐらでは済まないだろう。

 両眼をこすり、どうにか意識を覚醒させようとした。

「お、おはようございますカピ!」

 既にしっかりと目覚めているだろう、はっきりとしたマロの声が耳に届く。

「ああ……おはようさん……」

「あの、あまりご無理をされない様に……」

 数日一緒に暮らしていて、マロはサミエルの寝起きの悪さを知っている。気遣う様に言ってくれるが、そうも行かない。

 しかし今朝はいつも以上に疲れている。昨日の移動もあったが、それだけだろうか。

 サミエル本人が気付かないところで、負担が掛かっていたのか。

 今日はゆっくりすると決めた。なら1日使って疲れを取れば良いのだ。まずは朝食を作らなければ。

「よっしゃあ!」

 サミエルは気合を入れる様に声を上げると、ベッドから立ち上がった。顔を洗えばしゃっきりもするだろう。



 今朝はサンドイッチにする。

 まずは卵とオリーブオイル、ビネガーと塩でマヨネーズを作る。

 先に作っておいた茹で卵をマッシャーで粗く潰してマヨネーズと和え、塩と胡椒こしょうで調味。トーストした食パンにバターを塗り、スライスしたチェダーチーズとレタスを一緒に挟んだ。

「ほらよ、朝飯」

 出来たサンドイッチを、家族とマロが待つテーブルに置くと、各々おのおの「いただきます」と手を合わせ、我先とサンドイッチを掴んだ。

「ん~この卵の味付け絶妙~」
「チーズと合うわね~」

 そんな感想を口々に言いながら、サンドイッチを頬張る。

「朝からこんな旨いものを食べられたら、今日も1日仕事を頑張ろうと思えるなぁ。勿論母さんの料理もとても旨いんだが」

 父親の仕事は書店員である。そんな父親が頬を綻ばせながら言うと、母親は「あら、ほほほ」と小さく笑う。

「そう言ってくれるのはとても嬉しいけど、私は楽が出来る上に美味しいものが食べられるんだから助かるわ」

「えっ、母さん料理が面倒なのかい?」

 母親の台詞に父親が驚くが、母親は何ひとつ表情を変えず。

「料理は好きだけど、毎日の事だもの、面倒に思う事もあるわよ。貴方も仕事が面倒だって思う事だってあるでしょう?」

「ああ、まぁ、それはそうか」

 父親が母親の例えに納得していると、モリアがうんうんと頷く。

「私が勉強を面倒だと思ってるのと一緒よね」

「それは違うだろう」
「それは違うわよ」
「それは違うだろ」

 父親と母親、サミエルの突っ込みが重なり、モリアは「えー?」と不満げに唇を尖らせた。

 マロはもぐもぐと美味しそうに口を動かしながら、そんな家族の団欒だんらんを楽しそうに眺めている。

「マロ、いっぱい食って大きくなれよ」

 サミエルもサンドイッチをつまみながら言うと、マロは「はい!」と元気に返事をする。カピバラを始め動物は子どもが特に可愛いとは思うが、成長は順調にして欲しい。

 まろやかな味の卵に、チーズのほのかな塩気が良く合っている。しゃきしゃきレタスの食感がアクセント。

 パンは焼いてあるので、香ばしさも美味しさを助長させている。

「あ、そろそろ学校に行かなきゃ」

「僕も仕事の時間だ。サミエル、晩ご飯楽しみしてるぞ」

 気付けばサンドイッチはすっかり空になっていた。競争に負けたか。サミエルは物足りなさを感じた。今度からは大皿では無く、それぞれに盛り付けようと思う。

「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」

 母親とサミエルに見送られ、父親とモリアは「行って来まーす」と軽やかに出て行った。

「さて、と」

 サミエルはまたキッチンに立ち、冷暗庫から卵とゴーダチーズを出す。

「あらサミエル。また何か作るの?」

 食後の珈琲コーヒーを傾けていた母親が訊いて来る。

「母さんたちサンドイッチ食い過ぎ。足りなかったから、チーズオムレツでも作ろうかと思ってさ」

 サミエルは言いながら、ボウルに卵を割った。

「あら、いいわねぇ。私も食べたい」

「だから食い過ぎだっての。あ、マロは食って良いからな」

「何それ。マロくん羨ましい~」

 母親が拗ね、サミエルは苦笑する。マロはそんなふたりを見ておろおろと。

「あ、あの、あの」

 マロが焦った様に言うと、母親はすぐに機嫌を直し、マロの頭を撫でた。

「もう~マロくん沢山食べて良いのよ~」

 何ともころころと気分が変わるものだ。サミエルはまた苦笑し、オリーブオイルとバターを熱したフライパンに、塩と砂糖で調味した卵液を流し込んだ。



 午前中をゆっくりと過ごし、昼ご飯は3人分を作る。

 フレッシュバジルとから炒りした松の実、にんにくを乳鉢にゅうばちを使って潰し、オリーブオイルとしっかり混ぜたらジェノベーゼソースの出来上がり。

 オリーブオイルでにんにくの微塵みじん切りをじっくりと炒め、パスタの茹で汁を加えて少し煮詰める。

 そこに茹だったパスタ、リングイネを入れて良く混ぜて、塩と胡椒で味付け。

 そこにジェノベーゼソースを入れてしっかりと絡め、り下ろしたパルミジャーノ・レッジャーノと黒胡椒を加えて混ぜたら、ジェノベーゼパスタの出来上がり。

「私がサミエルのレシピで作っても同じ味にならないの、どうしてかしら」

 母親が満足げな表情で何口かを食べた後、そう言って首を傾げた。

「調味料の違いじゃ無いんか?」

 サミエルはしれっと応える。

 ユリンの調味料もそうだが、恐らくはサミエルの2つめの能力も大いに関係しているのだろう。

 が、その事は家族にも言わないと、マロと示し合わせてある。心苦しいが、どこから世間に漏れるか判らない。人の口には戸が立てられない、だ。

「だから、その調味料のお店、私にも教えてよ」

「こっちの取り分減ると困るから駄目」

「もう」

 母親は少し拗ねるが、次の一口でまた機嫌を直す。

「やっぱり美味し~い。堪らないわね!」

 マロもはふはふと嬉しそうに頬張っている。

 摘み立てのフレッシュパジルを使用しているので、新鮮な爽やかさを生み出している。

 松の実がまろやかさとコクになり、にんにくが味を締める。

 香りが豊かでとても美味しいジェノベーゼパスタだ。

 サミエルも満足げに口を動かした。



 昼食を終え、母親は仕事に出掛けて行った。父親と同じ書店に勤めている。

 サミエルはマロと共に、部屋で横になったり、気分転換を兼ねて散歩に出たり。その帰りには夕飯の買い物の為に市場へ。

 体調はまだいまいち戻らないので、今夜も簡単なもので許してもらおう。サミエルは家にあったものを思い出しながら、足りないものを買い足して行った。
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