カピバラさんと異世界のんびり料理旅(スローライフ風味)

山いい奈

文字の大きさ
24 / 30

#24 味方ばかりでは無いだろうけども

しおりを挟む
 ツエルトにうながされ、王座の間に入ったサミエルは、天井てんじょうの高さに思わず顔を上げる。

「うわぁ……」

 つい感嘆かんたんの声が上がる。大きく品の良いシャンデリアが下げられていて、その仄かな灯りは眼に優しい。

 周りを見渡すと、白をベースとした壁は平坦だが、同じ色の柱には細かな彫刻が成されていて、手が込んでいる事が判る。

 足元のマロを見てみれば、やはり眼を見開いて視線を彷徨さまよわせていた。

 正面には赤い絨毯じゅうたんが引かれ、先には数段の段差が続いていて、上に鎮座ちんざしている立派な椅子にゆったりと掛けているのは若々しい男性。あれが王座で、男性が国王陛下だろう。

 その周りを取り囲んでいるのは、きさきと思われるしとやかな女性に、王子や王女と思われる少年少女。妃はスレンダーラインのあおいドレスが美しく、王女はベルラインのピンク色のドレスが可愛らしい。

 国王陛下と王子は揃いで、ワインレッドのすその長いジャケットに白いボトム。えりそでなどにはゴールドがあしらわれている。国王陛下はそれに色取り取りの刺繍ししゅうが施されたたすきを掛けていた。

 段差の下にも幾人かが控えている。皆リラックスした様子だった。

「国王陛下、サミエルさまとマロさまをお連れいたしました」

 ツエルトが言い、うやうやしく頭を下げる。サミエルとマロも続く様に会釈をした。

「待っておったぞ、サミエル、そしてマロよ。楽にするが良い」

 国王陛下の鷹揚おうような声。それは不思議と人を穏やかにさせるものだった。王族だからとおごらず、こんな一介の民草にも優しく接する。それがこのニンクルメルの国の国王陛下、アデルバート・ラ・ニンクルメルなのだ。

 とは言え、楽にしろと言われても姿勢を崩せるものでも無い。サミエルもマロも姿勢良く真っ直ぐに立つ。

 そんなふたりを見てか、国王陛下はふわりと口元をゆるめた。

「サミエル、そなたの料理が今からとても楽しみである。ここにいる私の妻に息子、娘。そして今ここにはいないが私の両親と弟家族もな」

 そうだ。確か国王陛下には弟がひとりいて、貴族の娘を娶って王都に屋敷を構えている筈だ。

 妃が王子を出産した事で王位継承権は完全に失われているので、表に出て来る事は滅多に無い。

 だが子どもが生まれた事などの目出度めでたいニュースは新聞の記事などになり、市井しせいの知る事になっていた。

「是非、その腕を存分に奮って欲しい」

 国王陛下に言われ、サミエルは深々と頭を下げた。

「全力を尽くします」

 国王陛下は満足げに頷き、次に目線をマロに移す。

「時にマロよ、其方そなた祓魔師エクソシストなのだそうだな」

「は、はいですカピ」

 急に話を振られ、マロは慌てる。

「どうだろうか、我々王族、そして王都に不穏な気配は無いだろうか」

 そう訊かれ、マロは一瞬にして眼を細める。「仕事」をする表情だ。やがてマロは顔を上げた。

「この王都にその様なものは微塵みじんもありませんのですカピ。この王都に張られている結界は物凄く上位なものなのですカピ。そう滅多に破られるとは思わないのですカピ」

 マロが言うと、段差の下で並んで立っていた、幼いと言っても良い様な若い男性と女性が嬉しそうに「わぁっ」と声を上げた。

「ほら、やっぱり僕ら凄いんだって!」

「本当? 本当!? やったぁ!」

 ふたりは手を取り合って喜んでいる。

 サミエルとマロは首を傾げてと眼を見合わせ、次にそのふたりに視線を移した。すると国王陛下は「はっはっは」と楽しそうに笑い声を上げた。

「このふたりが、我が王都が抱える祓魔師と結界師バリアマスターなのだ。最近雇い入れた者たちなのだが、成る程、あの能力者の眼は間違っていなかったのだな」

 「あの能力者」とは、恐らく能力測定の能力を持つ者の事。その人がこのふたりを王家に推したのだろう。成る程、マロの言葉をそのまま受け取るのなら、慧眼と言える。

「そうなのだと思うのですカピ。国王陛下はご安心されると良いと思うのですカピ」

 「仕事」をした為か、平静を取り戻したマロが言うと、国王陛下は「うんうん」と頷いた。

「それは良かった。以前の結界師がもう良い年だったのでね。隠居して貰う時に後任を探すのに、測定人の手を借りたのだ」

 国王陛下が満足げに言うと、王座にもたれ掛かる様に立っていた王女が国王陛下のジャケットの袖を引っ張った。

「ねぇお父さま、私、マロちゃんをでてみたいわ。だってとても可愛らしいのだもの」

 すると国王陛下は軽く眉を寄せる。

「マリーアンジェ、マロは玩具おもちゃでは無いのだぞ。そう軽々しく撫でたいだなどと言うものでは無い」

 王女はそうたしなめられ、ぷぅと頬を膨らませた。

「玩具だなんで思っていないわ。大切なお客さまで、凄い祓魔師だって解っているもの。ちゃんとうやまっているわ。ねぇマロくん、本当に少しだけ。駄目かしら」

 王女に訊かれ、マロは小さく頷いた。

「王女さまに撫でていただけるだなんて、光栄な事なのですカピ。ボクは大丈夫なのですカピ」

「やったわぁ! 嬉しい!」

 王女はその場で嬉しそうに跳ねると、スキップでもするかの様な軽やかな足取りでマロの側へ。恐る恐ると言った調子でゆっくりと手を伸ばし、マロの背中に触れた。

 マロは鼻をぴくりとひくつかせながらも、おとなしくその手を受け入れる。王女は優しく優しく、マロを撫でた。

「まぁ……毛が少し固いのね。でも滑らかだわ。とても良いわね。ありがとう、マロちゃん」

「どういたしましてですカピ」

 王女は眼を輝かせている。そんな王女を王子が羨まし気に見ている気がするが、サミエルに僭越せんえつな事は出来ない。ここは口をつぐんでおく。

 王女がマロから離れ王座のそばに戻ると、国王陛下は口を開く。

「マロ、済まなかったな。マリーアンジェは少し我儘わがままなところがあってな。許して欲しい」

「全然大丈夫なのですカピ。ありがとうございますカピ」

 マロが言うと、女王が国王陛下に何やら耳打ちする。

「おお、そうだな。ではサミエルとマロを厨房に案内させるが良い。サミエル、よろしく頼むぞ」

「私も楽しみだわ! 何を作ってくださるのかしら!」

 国王陛下に言葉に続けて、王女も元気な声を上げる。

「どうぞお楽しみにしていてください。この王都で丹精込めて育てられている肉や野菜を、存分に味わえるものに出来たらと思っております」

 サミエルは言うと、小さく会釈する。国王陛下は満足そうにゆったりと頷いた。



 結局女王と王子の声は聞かぬまま、謁見えっけんは終了した。女王はとても内気でおとなしく、王子がその気質を継いだのだろうと言われている。

 将来国をになう王子がそんな事で大丈夫か? そんな国民の声を聞いた事もあるが、裏を返せば思慮しりょ深いとも言える。

 現国王陛下とは違った視線で良い国造りをされるのでは無いだろうか。何せ国王陛下の血も継いでいるのだから。

 王座の間の外で控えていたキャスパに案内され、エレベータで1階分下の厨房に向かう。

 荷物はキャスパに預けたまま。返して貰おうとしたが、このまま持たせてくれと言われたので、有り難くそのままにしている。

「こちらが厨房になります」

 木製のドアが開けられると、広い厨房が開かれていた。清潔に掃除されていて明るい。きょろりと見回してみると、使い勝手も良さそうだ。

 奥に白い料理人服を着た男性が3人立っていた。やや年嵩のふたりはにこにこと笑顔を浮かべているが、若いひとりは忌々しげにサミエルを睨み付けている。俺何かしたっけ、と言うか知り合いだっけ、と首を傾げる。

「サミエルさま、マロさま、こちらの3人がこの城の料理人でございます。皆さん、サミエルさまとマロさまにご挨拶を」

 するとふたりは笑顔のまま頭を深く下げる。

「よろしくお願いいたします」

 そう言って、それぞれ名乗ってくれる。恰幅かっぷくの良い方がカーシー、中肉中背の方がデーヴと言った。

 さて若いひとりはと言うと、ぶすっくれた表情のまま無言だ。キャスパがそれをやんわりととがめる。

「ルイジ、サミエルさまとマロさまにご挨拶を」

 するとルイジと呼ばれた若い料理人は、チッと短く舌打ちする。

「ルイジ!」

 キャスパがわずかに声を荒げる。本当に俺何かしたっけ? サミエルは不思議に思い眉をひそめる。マロも同じ様な事を思ったのか、きょとんとした表情。

「申し訳ありませんサミエルさま、マロさま。何とも失礼な事を」

 キャスパが慌てて頭を下げると、カーシーが困った様な顔を浮かべる。

「済んませんなぁ、サミエルさん、マロさん。ルイジは悪いやつでは無いんですわ。ただ、儂らの仕事を軽んじられてると思っているみたいでしてなぁ」

「だってよぉ!」

 そこでようやくルイジが口を開く。

「カーシーさんは料理の能力持ちなんだぜ? 毎日旨ぇの作ってるっての。凄ぇっての。いくら街や村で旨ぇ飯作るって噂で有名だからって、カーシーさんたちを差し置いてって、許せるかっての。しかもあれだろ、お前、サミエルだっけ? 能力は料理じゃ無くて味覚だって言うかねぇか。そんなんでろくなもん作れんのかよ」

「ルイジ、国王陛下は私たちを軽んじている訳では無いよ。好奇心の強いお方だから、そんな噂を聞いてしまえば、じっとしていられないだけなんだよ」

 デーヴがそう言ってたしなめる。しかしルイジは不機嫌さを隠そうともしない。するとキャスパが少し呆れた様に口を開いた。

「ルイジ、貴方の気持ちも解らないではありません。しかし国王陛下、そしてマリーアンジェ王女はその通り好奇心の旺盛おうせいな方。サミエルさまをご招待出来なければ、それこそ王都を抜け出してしまいかねません。そういうお方なのです。決してルイジたちこの城の料理人を軽んじている訳ではありません」

「そう言われても、はいそうですか、なんて簡単に納得出来るかよ。カーシーさんの料理だって凄ぇ旨ぇじゃ無ぇかよ」

 成る程、このルイジは自分が敬愛するカーシーが軽んじられていると思い、それを怒っているのだ。しかし流石にそれを国王陛下本人に陳情ちんじょうする訳にも行かず、矛先がサミエルに向かっている訳だ。

 サミエルはともかく、マロは完全にとばっちりである。マロは困った様な表情を浮かべていた。

 ここはサミエルが何を言っても火に油である。すごんで来るかの様なルイジの視線をどうにか受け流す。

「全くもう……サミエルさま、マロさま、誠に申し訳ございません。ルイジの事はお気になさらず、どうか調理を始めてくださいませ」

「済んませんなぁ」

「申し訳ありません」

 キャスパとカーシー、デーヴに詫びられ、サミエルは「いえ」と首を振った。

「大丈夫っす。じゃあ早速下拵したごしらえから始めますんで。キャスパさん、バッグありがとうございました」

 サミエルはキャスパからバッグを受け取る。キャスパはそれをとても大切そうに両手で抱えていてくれた。

「ではカーシーさん、デーヴさん、よろしくお願いいたします。わたくしも勿論こちらに控えておりますが」

「はいはい、厨房は儂らの領分ですからな。サミエルさん、よろしくお願いしますな。まずは食材ですな。ええと」

 カーシーに案内され、サミエルは動き始める。マロはキャスパに促され、厨房隅の椅子にちょこんと落ち着いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...