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#24 味方ばかりでは無いだろうけども
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ツエルトに促され、王座の間に入ったサミエルは、天井の高さに思わず顔を上げる。
「うわぁ……」
つい感嘆の声が上がる。大きく品の良いシャンデリアが下げられていて、その仄かな灯りは眼に優しい。
周りを見渡すと、白をベースとした壁は平坦だが、同じ色の柱には細かな彫刻が成されていて、手が込んでいる事が判る。
足元のマロを見てみれば、やはり眼を見開いて視線を彷徨わせていた。
正面には赤い絨毯が引かれ、先には数段の段差が続いていて、上に鎮座している立派な椅子にゆったりと掛けているのは若々しい男性。あれが王座で、男性が国王陛下だろう。
その周りを取り囲んでいるのは、妃と思われる淑やかな女性に、王子や王女と思われる少年少女。妃はスレンダーラインの碧いドレスが美しく、王女はベルラインのピンク色のドレスが可愛らしい。
国王陛下と王子は揃いで、ワインレッドの裾の長いジャケットに白いボトム。襟や袖などにはゴールドがあしらわれている。国王陛下はそれに色取り取りの刺繍が施された襷を掛けていた。
段差の下にも幾人かが控えている。皆リラックスした様子だった。
「国王陛下、サミエルさまとマロさまをお連れいたしました」
ツエルトが言い、恭しく頭を下げる。サミエルとマロも続く様に会釈をした。
「待っておったぞ、サミエル、そしてマロよ。楽にするが良い」
国王陛下の鷹揚な声。それは不思議と人を穏やかにさせるものだった。王族だからと驕らず、こんな一介の民草にも優しく接する。それがこのニンクルメルの国の国王陛下、アデルバート・ラ・ニンクルメルなのだ。
とは言え、楽にしろと言われても姿勢を崩せるものでも無い。サミエルもマロも姿勢良く真っ直ぐに立つ。
そんなふたりを見てか、国王陛下はふわりと口元を緩めた。
「サミエル、そなたの料理が今からとても楽しみである。ここにいる私の妻に息子、娘。そして今ここにはいないが私の両親と弟家族もな」
そうだ。確か国王陛下には弟がひとりいて、貴族の娘を娶って王都に屋敷を構えている筈だ。
妃が王子を出産した事で王位継承権は完全に失われているので、表に出て来る事は滅多に無い。
だが子どもが生まれた事などの目出度いニュースは新聞の記事などになり、市井の知る事になっていた。
「是非、その腕を存分に奮って欲しい」
国王陛下に言われ、サミエルは深々と頭を下げた。
「全力を尽くします」
国王陛下は満足げに頷き、次に目線をマロに移す。
「時にマロよ、其方は祓魔師なのだそうだな」
「は、はいですカピ」
急に話を振られ、マロは慌てる。
「どうだろうか、我々王族、そして王都に不穏な気配は無いだろうか」
そう訊かれ、マロは一瞬にして眼を細める。「仕事」をする表情だ。やがてマロは顔を上げた。
「この王都にその様なものは微塵もありませんのですカピ。この王都に張られている結界は物凄く上位なものなのですカピ。そう滅多に破られるとは思わないのですカピ」
マロが言うと、段差の下で並んで立っていた、幼いと言っても良い様な若い男性と女性が嬉しそうに「わぁっ」と声を上げた。
「ほら、やっぱり僕ら凄いんだって!」
「本当? 本当!? やったぁ!」
ふたりは手を取り合って喜んでいる。
サミエルとマロは首を傾げてと眼を見合わせ、次にそのふたりに視線を移した。すると国王陛下は「はっはっは」と楽しそうに笑い声を上げた。
「このふたりが、我が王都が抱える祓魔師と結界師なのだ。最近雇い入れた者たちなのだが、成る程、あの能力者の眼は間違っていなかったのだな」
「あの能力者」とは、恐らく能力測定の能力を持つ者の事。その人がこのふたりを王家に推したのだろう。成る程、マロの言葉をそのまま受け取るのなら、慧眼と言える。
「そうなのだと思うのですカピ。国王陛下はご安心されると良いと思うのですカピ」
「仕事」をした為か、平静を取り戻したマロが言うと、国王陛下は「うんうん」と頷いた。
「それは良かった。以前の結界師がもう良い年だったのでね。隠居して貰う時に後任を探すのに、測定人の手を借りたのだ」
国王陛下が満足げに言うと、王座に凭れ掛かる様に立っていた王女が国王陛下のジャケットの袖を引っ張った。
「ねぇお父さま、私、マロちゃんを撫でてみたいわ。だってとても可愛らしいのだもの」
すると国王陛下は軽く眉を寄せる。
「マリーアンジェ、マロは玩具では無いのだぞ。そう軽々しく撫でたいだなどと言うものでは無い」
王女はそう窘められ、ぷぅと頬を膨らませた。
「玩具だなんで思っていないわ。大切なお客さまで、凄い祓魔師だって解っているもの。ちゃんと敬っているわ。ねぇマロくん、本当に少しだけ。駄目かしら」
王女に訊かれ、マロは小さく頷いた。
「王女さまに撫でていただけるだなんて、光栄な事なのですカピ。ボクは大丈夫なのですカピ」
「やったわぁ! 嬉しい!」
王女はその場で嬉しそうに跳ねると、スキップでもするかの様な軽やかな足取りでマロの側へ。恐る恐ると言った調子でゆっくりと手を伸ばし、マロの背中に触れた。
マロは鼻をぴくりとひくつかせながらも、おとなしくその手を受け入れる。王女は優しく優しく、マロを撫でた。
「まぁ……毛が少し固いのね。でも滑らかだわ。とても良いわね。ありがとう、マロちゃん」
「どういたしましてですカピ」
王女は眼を輝かせている。そんな王女を王子が羨まし気に見ている気がするが、サミエルに僭越な事は出来ない。ここは口を噤んでおく。
王女がマロから離れ王座の傍に戻ると、国王陛下は口を開く。
「マロ、済まなかったな。マリーアンジェは少し我儘なところがあってな。許して欲しい」
「全然大丈夫なのですカピ。ありがとうございますカピ」
マロが言うと、女王が国王陛下に何やら耳打ちする。
「おお、そうだな。ではサミエルとマロを厨房に案内させるが良い。サミエル、よろしく頼むぞ」
「私も楽しみだわ! 何を作ってくださるのかしら!」
国王陛下に言葉に続けて、王女も元気な声を上げる。
「どうぞお楽しみにしていてください。この王都で丹精込めて育てられている肉や野菜を、存分に味わえるものに出来たらと思っております」
サミエルは言うと、小さく会釈する。国王陛下は満足そうにゆったりと頷いた。
結局女王と王子の声は聞かぬまま、謁見は終了した。女王はとても内気でおとなしく、王子がその気質を継いだのだろうと言われている。
将来国を担う王子がそんな事で大丈夫か? そんな国民の声を聞いた事もあるが、裏を返せば思慮深いとも言える。
現国王陛下とは違った視線で良い国造りをされるのでは無いだろうか。何せ国王陛下の血も継いでいるのだから。
王座の間の外で控えていたキャスパに案内され、エレベータで1階分下の厨房に向かう。
荷物はキャスパに預けたまま。返して貰おうとしたが、このまま持たせてくれと言われたので、有り難くそのままにしている。
「こちらが厨房になります」
木製のドアが開けられると、広い厨房が開かれていた。清潔に掃除されていて明るい。きょろりと見回してみると、使い勝手も良さそうだ。
奥に白い料理人服を着た男性が3人立っていた。やや年嵩のふたりはにこにこと笑顔を浮かべているが、若いひとりは忌々しげにサミエルを睨み付けている。俺何かしたっけ、と言うか知り合いだっけ、と首を傾げる。
「サミエルさま、マロさま、こちらの3人がこの城の料理人でございます。皆さん、サミエルさまとマロさまにご挨拶を」
するとふたりは笑顔のまま頭を深く下げる。
「よろしくお願いいたします」
そう言って、それぞれ名乗ってくれる。恰幅の良い方がカーシー、中肉中背の方がデーヴと言った。
さて若いひとりはと言うと、ぶすっくれた表情のまま無言だ。キャスパがそれをやんわりと咎める。
「ルイジ、サミエルさまとマロさまにご挨拶を」
するとルイジと呼ばれた若い料理人は、チッと短く舌打ちする。
「ルイジ!」
キャスパが僅かに声を荒げる。本当に俺何かしたっけ? サミエルは不思議に思い眉を顰める。マロも同じ様な事を思ったのか、きょとんとした表情。
「申し訳ありませんサミエルさま、マロさま。何とも失礼な事を」
キャスパが慌てて頭を下げると、カーシーが困った様な顔を浮かべる。
「済んませんなぁ、サミエルさん、マロさん。ルイジは悪いやつでは無いんですわ。ただ、儂らの仕事を軽んじられてると思っているみたいでしてなぁ」
「だってよぉ!」
そこで漸くルイジが口を開く。
「カーシーさんは料理の能力持ちなんだぜ? 毎日旨ぇの作ってるっての。凄ぇっての。いくら街や村で旨ぇ飯作るって噂で有名だからって、カーシーさんたちを差し置いてって、許せるかっての。しかもあれだろ、お前、サミエルだっけ? 能力は料理じゃ無くて味覚だって言うかねぇか。そんなんでろくなもん作れんのかよ」
「ルイジ、国王陛下は私たちを軽んじている訳では無いよ。好奇心の強いお方だから、そんな噂を聞いてしまえば、じっとしていられないだけなんだよ」
デーヴがそう言って宥める。しかしルイジは不機嫌さを隠そうともしない。するとキャスパが少し呆れた様に口を開いた。
「ルイジ、貴方の気持ちも解らないではありません。しかし国王陛下、そしてマリーアンジェ王女はその通り好奇心の旺盛な方。サミエルさまをご招待出来なければ、それこそ王都を抜け出してしまいかねません。そういうお方なのです。決してルイジたちこの城の料理人を軽んじている訳ではありません」
「そう言われても、はいそうですか、なんて簡単に納得出来るかよ。カーシーさんの料理だって凄ぇ旨ぇじゃ無ぇかよ」
成る程、このルイジは自分が敬愛するカーシーが軽んじられていると思い、それを怒っているのだ。しかし流石にそれを国王陛下本人に陳情する訳にも行かず、矛先がサミエルに向かっている訳だ。
サミエルはともかく、マロは完全にとばっちりである。マロは困った様な表情を浮かべていた。
ここはサミエルが何を言っても火に油である。凄んで来るかの様なルイジの視線をどうにか受け流す。
「全くもう……サミエルさま、マロさま、誠に申し訳ございません。ルイジの事はお気になさらず、どうか調理を始めてくださいませ」
「済んませんなぁ」
「申し訳ありません」
キャスパとカーシー、デーヴに詫びられ、サミエルは「いえ」と首を振った。
「大丈夫っす。じゃあ早速下拵えから始めますんで。キャスパさん、バッグありがとうございました」
サミエルはキャスパからバッグを受け取る。キャスパはそれをとても大切そうに両手で抱えていてくれた。
「ではカーシーさん、デーヴさん、よろしくお願いいたします。わたくしも勿論こちらに控えておりますが」
「はいはい、厨房は儂らの領分ですからな。サミエルさん、よろしくお願いしますな。まずは食材ですな。ええと」
カーシーに案内され、サミエルは動き始める。マロはキャスパに促され、厨房隅の椅子にちょこんと落ち着いた。
「うわぁ……」
つい感嘆の声が上がる。大きく品の良いシャンデリアが下げられていて、その仄かな灯りは眼に優しい。
周りを見渡すと、白をベースとした壁は平坦だが、同じ色の柱には細かな彫刻が成されていて、手が込んでいる事が判る。
足元のマロを見てみれば、やはり眼を見開いて視線を彷徨わせていた。
正面には赤い絨毯が引かれ、先には数段の段差が続いていて、上に鎮座している立派な椅子にゆったりと掛けているのは若々しい男性。あれが王座で、男性が国王陛下だろう。
その周りを取り囲んでいるのは、妃と思われる淑やかな女性に、王子や王女と思われる少年少女。妃はスレンダーラインの碧いドレスが美しく、王女はベルラインのピンク色のドレスが可愛らしい。
国王陛下と王子は揃いで、ワインレッドの裾の長いジャケットに白いボトム。襟や袖などにはゴールドがあしらわれている。国王陛下はそれに色取り取りの刺繍が施された襷を掛けていた。
段差の下にも幾人かが控えている。皆リラックスした様子だった。
「国王陛下、サミエルさまとマロさまをお連れいたしました」
ツエルトが言い、恭しく頭を下げる。サミエルとマロも続く様に会釈をした。
「待っておったぞ、サミエル、そしてマロよ。楽にするが良い」
国王陛下の鷹揚な声。それは不思議と人を穏やかにさせるものだった。王族だからと驕らず、こんな一介の民草にも優しく接する。それがこのニンクルメルの国の国王陛下、アデルバート・ラ・ニンクルメルなのだ。
とは言え、楽にしろと言われても姿勢を崩せるものでも無い。サミエルもマロも姿勢良く真っ直ぐに立つ。
そんなふたりを見てか、国王陛下はふわりと口元を緩めた。
「サミエル、そなたの料理が今からとても楽しみである。ここにいる私の妻に息子、娘。そして今ここにはいないが私の両親と弟家族もな」
そうだ。確か国王陛下には弟がひとりいて、貴族の娘を娶って王都に屋敷を構えている筈だ。
妃が王子を出産した事で王位継承権は完全に失われているので、表に出て来る事は滅多に無い。
だが子どもが生まれた事などの目出度いニュースは新聞の記事などになり、市井の知る事になっていた。
「是非、その腕を存分に奮って欲しい」
国王陛下に言われ、サミエルは深々と頭を下げた。
「全力を尽くします」
国王陛下は満足げに頷き、次に目線をマロに移す。
「時にマロよ、其方は祓魔師なのだそうだな」
「は、はいですカピ」
急に話を振られ、マロは慌てる。
「どうだろうか、我々王族、そして王都に不穏な気配は無いだろうか」
そう訊かれ、マロは一瞬にして眼を細める。「仕事」をする表情だ。やがてマロは顔を上げた。
「この王都にその様なものは微塵もありませんのですカピ。この王都に張られている結界は物凄く上位なものなのですカピ。そう滅多に破られるとは思わないのですカピ」
マロが言うと、段差の下で並んで立っていた、幼いと言っても良い様な若い男性と女性が嬉しそうに「わぁっ」と声を上げた。
「ほら、やっぱり僕ら凄いんだって!」
「本当? 本当!? やったぁ!」
ふたりは手を取り合って喜んでいる。
サミエルとマロは首を傾げてと眼を見合わせ、次にそのふたりに視線を移した。すると国王陛下は「はっはっは」と楽しそうに笑い声を上げた。
「このふたりが、我が王都が抱える祓魔師と結界師なのだ。最近雇い入れた者たちなのだが、成る程、あの能力者の眼は間違っていなかったのだな」
「あの能力者」とは、恐らく能力測定の能力を持つ者の事。その人がこのふたりを王家に推したのだろう。成る程、マロの言葉をそのまま受け取るのなら、慧眼と言える。
「そうなのだと思うのですカピ。国王陛下はご安心されると良いと思うのですカピ」
「仕事」をした為か、平静を取り戻したマロが言うと、国王陛下は「うんうん」と頷いた。
「それは良かった。以前の結界師がもう良い年だったのでね。隠居して貰う時に後任を探すのに、測定人の手を借りたのだ」
国王陛下が満足げに言うと、王座に凭れ掛かる様に立っていた王女が国王陛下のジャケットの袖を引っ張った。
「ねぇお父さま、私、マロちゃんを撫でてみたいわ。だってとても可愛らしいのだもの」
すると国王陛下は軽く眉を寄せる。
「マリーアンジェ、マロは玩具では無いのだぞ。そう軽々しく撫でたいだなどと言うものでは無い」
王女はそう窘められ、ぷぅと頬を膨らませた。
「玩具だなんで思っていないわ。大切なお客さまで、凄い祓魔師だって解っているもの。ちゃんと敬っているわ。ねぇマロくん、本当に少しだけ。駄目かしら」
王女に訊かれ、マロは小さく頷いた。
「王女さまに撫でていただけるだなんて、光栄な事なのですカピ。ボクは大丈夫なのですカピ」
「やったわぁ! 嬉しい!」
王女はその場で嬉しそうに跳ねると、スキップでもするかの様な軽やかな足取りでマロの側へ。恐る恐ると言った調子でゆっくりと手を伸ばし、マロの背中に触れた。
マロは鼻をぴくりとひくつかせながらも、おとなしくその手を受け入れる。王女は優しく優しく、マロを撫でた。
「まぁ……毛が少し固いのね。でも滑らかだわ。とても良いわね。ありがとう、マロちゃん」
「どういたしましてですカピ」
王女は眼を輝かせている。そんな王女を王子が羨まし気に見ている気がするが、サミエルに僭越な事は出来ない。ここは口を噤んでおく。
王女がマロから離れ王座の傍に戻ると、国王陛下は口を開く。
「マロ、済まなかったな。マリーアンジェは少し我儘なところがあってな。許して欲しい」
「全然大丈夫なのですカピ。ありがとうございますカピ」
マロが言うと、女王が国王陛下に何やら耳打ちする。
「おお、そうだな。ではサミエルとマロを厨房に案内させるが良い。サミエル、よろしく頼むぞ」
「私も楽しみだわ! 何を作ってくださるのかしら!」
国王陛下に言葉に続けて、王女も元気な声を上げる。
「どうぞお楽しみにしていてください。この王都で丹精込めて育てられている肉や野菜を、存分に味わえるものに出来たらと思っております」
サミエルは言うと、小さく会釈する。国王陛下は満足そうにゆったりと頷いた。
結局女王と王子の声は聞かぬまま、謁見は終了した。女王はとても内気でおとなしく、王子がその気質を継いだのだろうと言われている。
将来国を担う王子がそんな事で大丈夫か? そんな国民の声を聞いた事もあるが、裏を返せば思慮深いとも言える。
現国王陛下とは違った視線で良い国造りをされるのでは無いだろうか。何せ国王陛下の血も継いでいるのだから。
王座の間の外で控えていたキャスパに案内され、エレベータで1階分下の厨房に向かう。
荷物はキャスパに預けたまま。返して貰おうとしたが、このまま持たせてくれと言われたので、有り難くそのままにしている。
「こちらが厨房になります」
木製のドアが開けられると、広い厨房が開かれていた。清潔に掃除されていて明るい。きょろりと見回してみると、使い勝手も良さそうだ。
奥に白い料理人服を着た男性が3人立っていた。やや年嵩のふたりはにこにこと笑顔を浮かべているが、若いひとりは忌々しげにサミエルを睨み付けている。俺何かしたっけ、と言うか知り合いだっけ、と首を傾げる。
「サミエルさま、マロさま、こちらの3人がこの城の料理人でございます。皆さん、サミエルさまとマロさまにご挨拶を」
するとふたりは笑顔のまま頭を深く下げる。
「よろしくお願いいたします」
そう言って、それぞれ名乗ってくれる。恰幅の良い方がカーシー、中肉中背の方がデーヴと言った。
さて若いひとりはと言うと、ぶすっくれた表情のまま無言だ。キャスパがそれをやんわりと咎める。
「ルイジ、サミエルさまとマロさまにご挨拶を」
するとルイジと呼ばれた若い料理人は、チッと短く舌打ちする。
「ルイジ!」
キャスパが僅かに声を荒げる。本当に俺何かしたっけ? サミエルは不思議に思い眉を顰める。マロも同じ様な事を思ったのか、きょとんとした表情。
「申し訳ありませんサミエルさま、マロさま。何とも失礼な事を」
キャスパが慌てて頭を下げると、カーシーが困った様な顔を浮かべる。
「済んませんなぁ、サミエルさん、マロさん。ルイジは悪いやつでは無いんですわ。ただ、儂らの仕事を軽んじられてると思っているみたいでしてなぁ」
「だってよぉ!」
そこで漸くルイジが口を開く。
「カーシーさんは料理の能力持ちなんだぜ? 毎日旨ぇの作ってるっての。凄ぇっての。いくら街や村で旨ぇ飯作るって噂で有名だからって、カーシーさんたちを差し置いてって、許せるかっての。しかもあれだろ、お前、サミエルだっけ? 能力は料理じゃ無くて味覚だって言うかねぇか。そんなんでろくなもん作れんのかよ」
「ルイジ、国王陛下は私たちを軽んじている訳では無いよ。好奇心の強いお方だから、そんな噂を聞いてしまえば、じっとしていられないだけなんだよ」
デーヴがそう言って宥める。しかしルイジは不機嫌さを隠そうともしない。するとキャスパが少し呆れた様に口を開いた。
「ルイジ、貴方の気持ちも解らないではありません。しかし国王陛下、そしてマリーアンジェ王女はその通り好奇心の旺盛な方。サミエルさまをご招待出来なければ、それこそ王都を抜け出してしまいかねません。そういうお方なのです。決してルイジたちこの城の料理人を軽んじている訳ではありません」
「そう言われても、はいそうですか、なんて簡単に納得出来るかよ。カーシーさんの料理だって凄ぇ旨ぇじゃ無ぇかよ」
成る程、このルイジは自分が敬愛するカーシーが軽んじられていると思い、それを怒っているのだ。しかし流石にそれを国王陛下本人に陳情する訳にも行かず、矛先がサミエルに向かっている訳だ。
サミエルはともかく、マロは完全にとばっちりである。マロは困った様な表情を浮かべていた。
ここはサミエルが何を言っても火に油である。凄んで来るかの様なルイジの視線をどうにか受け流す。
「全くもう……サミエルさま、マロさま、誠に申し訳ございません。ルイジの事はお気になさらず、どうか調理を始めてくださいませ」
「済んませんなぁ」
「申し訳ありません」
キャスパとカーシー、デーヴに詫びられ、サミエルは「いえ」と首を振った。
「大丈夫っす。じゃあ早速下拵えから始めますんで。キャスパさん、バッグありがとうございました」
サミエルはキャスパからバッグを受け取る。キャスパはそれをとても大切そうに両手で抱えていてくれた。
「ではカーシーさん、デーヴさん、よろしくお願いいたします。わたくしも勿論こちらに控えておりますが」
「はいはい、厨房は儂らの領分ですからな。サミエルさん、よろしくお願いしますな。まずは食材ですな。ええと」
カーシーに案内され、サミエルは動き始める。マロはキャスパに促され、厨房隅の椅子にちょこんと落ち着いた。
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