異世界転移料理人は、錬金術師カピバラとスローライフを送りたい。

山いい奈

文字の大きさ
14 / 92
2章 関節痛のお婆ちゃんと、骨を強くするご飯

第9話 少し頑張ってみませんか?

しおりを挟む
「お母さん、錬金術師さまの助手さんが珍しいご飯を作ってくれたんだけど、食べる?」

 ミリアがナリノにそう問い掛けるのが聞こえる。すると怒鳴り声で「お前の作るもんよりはましなんだろうね!」と返って来た。ナリノ、今日も絶好調だ。

「お母さん食べるって。運ぶわね」

 そう言ってトレイを出すミリア。浅葱あさぎは布製の鍋つかみを使い、熱々のグラタンを鍋敷きに乗せた。

「鍋敷きに置くの?」

「はい。直接置くと、トレイとかが焦げ付いてしまいますから」

「あら、そうよね。ガス窯で焼いているんだものね。やだ、いつもの食器のつもりでそのままトレイに乗せちゃうところだったわ」

 浅葱から鍋つかみを受け取ったミリアは、グラタンを鍋敷きごと両手で持ち上げてトレイに乗せ、冷たい水とスプーンを添えてナリノの部屋へ。

 浅葱はナリノの反応が気になって、そっと部屋の様子を伺える位置に移動した。ロロアとカロムも気になるのか付いて来る。アントンはテーブルに着いたまま、優雅に紅茶のカップを傾けていた。

 ベッドにいながら食事が出来る様に作られたテーブル。そこにトレイが置かれると、ナリノはいぶかしげな表情でグラタンを覗き込んだ。

「何だい、これは」

「グラタンって言うお料理なんですって。骨を強くしたり、血液をサラサラにしたりする材料で作られているらしいわよ。そして痩せられる。お母さんにぴったりのお料理じゃ無い?」

「ふん、そんな都合の良い料理があるもんか。本当だとしたら、薬みたいに不味まずいんじゃ無いだろうね」

「失礼な事言わないでよ。私たちが考えた事も無い様な、食材が持っている効果ってものがあるんですって。助手さんが教えてくれたの。それにとても良い匂いでしょう? 不味くなんか無いわよ絶対」

「確かに、お前が作るもんよりはましだろうしね」

 ナリノは不機嫌な表情のまま、それでもスプーンをグラタンに突っ込んだ。大盛りに掬って口へ。もぐもぐと咀嚼そしゃくする。

 するとそれまでしわが寄りっぱなしだった眉間がつるりとなり、釣り上がり気味だった眼も見開かれ、かすかだが優しいものになった。

 そのまま黙々と食べ続けるナリノ。そんなナリノにミリアが言う。

「ね、美味しいでしょう?」

「ま、お前の作るもんよりは幾らかましだね。ん? この肉の中にある硬いものは何だい?」

「鶏の軟骨ですって。それが1番効くんですって」

「はん、またけったいなものを食わすもんだね」

 ナリノはまた眉間に皴を寄せ、それでも手は止まらない。しかしふと気付いた様に言った。

「ミリア、米は」

「お米はしばらくお預けよ。お米は太るんですって。今のお母さんは痩せなきゃならないんだから」

 するとナリノはスプーンを持ったままの手で、テーブルを苛立いらだたしげに叩いた。

「言っただろう、こんなになっちまって食べる事しか楽しみが無いって。好きなもんもろくに食べられないんなら、死んだ方がましだよ!」

「縁起でも無い事言わないでよ! 痩せて、痛みが少なくなったら食べる事以外にも楽しみが出来るわよ。だから少しは我慢してよ」

うるさいね。こんなもんだけで足りるかい。早く米を持って来るんだよ!」

 すると、そんな様子をハラハラと見守る浅葱とロロア、「あ~あ」と呆れ気味のカロムの横を通り過ぎ、ナリノの部屋へと入って行ったのはアントンだった。

「ナリノよ、少しはミリアの言う事も聞いてくれんかの。お前さんの関節痛は、太っている事も悪影響なんじゃ。確かに食べる以外に楽しみが無いと言われればそうなのかも知れんが、それで悪循環を起こしておるんじゃよ」

 穏やかに言うアントンだが、それはナリノにとって、火に油を注ぐ様なもの。ナリノには何を言ってもそうなってしまうのだ。

「本当に誰もかれも煩いね! 私がこうなって誰かに迷惑を掛けてる訳じゃ無いだろ! 好きな様にさせとくれよ!」

 その台詞には、流石にミリアが黙ってはいなかった。ナリノが癇癪かんしゃくを起こし始めてからぐっと我慢をしていた様だが、堪忍袋の緒が切れたのだろう。

 だがその口調はそれまでの「反射的に言い返す」様なものでは無く、静かなものだった。その分それまで以上の怒りが感じられた。

「迷惑を掛けていないって、本気で思ってるの? 痛いのがしんどいのは解るわよ。でもそれで嫌な事ばかり言って、私たちが辛く無いとでも思ってる? この前はメリーヌに村外れの錬金術師さまのお家にまでお薬を買いに行かせたりもしたわよね。それでも迷惑を掛けて無いって思う?」

 すると、ナリノはぐっと喉を鳴らして黙ってしまった。正論を言われたからなのか、それとも普段とは違う娘の様子に怯んでしまったからなのか。

「良い加減にちゃんと話を聞いてよ。このお料理だって、お母さんの痛みが少しでも和らぐ様にって助手さんが考えてくれたのよ。痛みだけじゃ無くて、お米とお肉ばかり食べるお母さんの身体に良い様にって、他にも考えてくれたの。錬金術師さまだって新しいお薬を調合してくださった。皆、お母さんの事を心配してくれてるんだから」

 ナリノは不貞腐ふてくされた様に唇を尖らせ、まるで駄々っ子の様にうつむいてしまう。これまで跳ね返ってばかりだったから、素直に聞き入れる事が出来ないのだろう。

 浅葱が口出しを出来る事は何も無いが、それでも何か無いかと考えていると、横で浅葱と揃って固唾かたずを飲んでいたロロアが部屋の中にそっと入って行った。

「あ、あの、ナリノお婆ちゃま」

 おずおずと口を開くと、ナリノがちらとロロアを見遣り、すぐに視線を逸らして「何だい」と呟く様に言った。

「僕、お薬の調合頑張りましたカピ。アサギさんはナリノお婆ちゃまに美味しく食べて貰える様にお料理を作りましたカピ。僕たち、ナリノお婆ちゃまにお元気にしていて欲しいですカピ。でも僕たちだけではナリノお婆ちゃまの痛みを和らげる事は難しいのですカピ。なのでナリノお婆ちゃまにも頑張って欲しいのですカピ。僕たちはその為のお手伝いをしますカピ」

 するとナリノは気不味きまずそうに言い放つ。

「ふん……まさか畜生に説教をされるとはね」

 浅葱はナリノの部屋の戸口に立つと、「あ、あの」と声を掛けた。

「ナリノさん、グラタン、どうでした?」

 ナリノの視線がゆっくりと浅葱に動く。

「……まぁ、ミリアの作るもんよりはましだったかね」

 その言葉の中には少しの照れの様なものが感じられ、「美味しい」と思ってくれた事が感じられた。

「良かったです。お料理もうひとつ、作り方をミリアさんにお渡ししているので、作って貰ってくださいね。お米、美味しいですよね。僕も好きです。だけど、お米は食べ過ぎてしまうと太ってしまうんです。ナリノさんは今自由に動く事が難しいと思うので、食べ過ぎると身体に太る成分が溜まってしまうんです。なので、好きなものを我慢するのはお辛いとは思いますけど、少し頑張ってみませんか? お肉もお野菜もバランス良く食べられて身体に良いお料理、僕、また考えますから」

 浅葱がそう言って柔らかな笑みを浮かべると、ナリノは「はぁ」と観念した様に息を吐いた。

「こんな若造にまで言われるとはね。解ったよ。暫くは我慢してやるよ。その代わり、薬も料理も効果が無かったらただじゃおかないよ」

 また物騒だが、これでナリノ本人が少しでも自分を大事にしてくれたら、それが1番良い。

 幾ら周りが手を貸そうが、本人が無頓着なら、効果は殆ど出るものでは無いのだ。

 ナリノの台詞に浅葱とロロアは安堵し、アントンも「うんうん」と頷く。部屋の外で様子を見ていたカロムは「やれやれ」と言う様に肩をすくめ、ミリアは「もうっ」と呆れた様に息を吐いた。

「本当にお願いね、お母さん。私もご飯作り頑張るから」

「何度も言うんじゃ無いよ煩いね。解ったから、お前はもう少し料理の腕を上げとくれ。そうしたら少しは楽しみも出来るってもんさ」

「努力するわ」

 ミリアはそう言って苦笑した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます! ※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...