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7章 痩せたいお嬢さんのダイエットご飯

第5話 満足感は大事ですよね

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 翌日の朝を迎える。ルーシーたちの出勤時間に合わせる為にいつもより早く起きた浅葱は、「んん」とうめき声を上げながらも、どうにか上半身を起こした。

 やや朦朧もうろうとした頭で共有スペースに行くと、ルーシーも眼をこすりながら入って来た。浅葱はルーシーに言わなければならない事がある、と途端に覚醒する。

「あ、アサギさん、おはようございます~」

「おはようございます。ルーシーさん、起きたばかりですね?」

「は、はい~」

「では、まずコップ1杯の水を一気飲みしてください」

「は、はい?」

 ルーシーは眼をしばたかせる。

「人は寝ている時にも汗をかいて、水分不足になっているものなんです。それと、胃を刺激してお通じを良くしたいんです」

「お水の一気飲みにそんな効果があるんですか?」

「はい。先に歯を磨いて貰って、それから飲んでくださいね」

「わ、解りました。ああ、昨日もお風呂の後にしっかりとお水飲んでって言ってましたものねぇ。水分不足がそれだけ駄目だって事なんですねぇ……」

 ルーシーはまだぼんやりした様子で、ふらふらと洗面所に向かった。

 浅葱も朝の支度をしなければ。ルーシーに続いて洗面所へ。するとそこには先客がいた。カロムだ。そう言えば、浅葱が起きた時には既にカロムのマットレスは空だった。ちなみにロロアはまだ夢の中である。

「おうアサギ、起きれたな。おはよう。床に寝るなんて滅多に無いだろ、良く眠れたか?」

 歯を磨きながら器用に挨拶をしてくれる。

「おはようカロム。良く眠れたよ。僕の世界では、床にお布団を敷いて寝るのは珍しく無いんだよ」

「へぇ、そうなんだ」

「ロロアは後で起こすので良いよね?」

「ああ。まずは朝飯な。ルーシーたちは今日も仕事だからな」

「そうだね」

 浅葱は返事をして、歯磨きを始めた。



 さて、朝食の支度である。

 鍋に沸かした湯に塩を入れ、小房にしたブロッコリとカリフラワを入れて、塩茹でする。

 その間に弱火に掛けたフライパンにオリーブオイルを引き、薄切りにした燻製豚ベーコンを置く。少しこんがりしたら卵を割る。

 白身が白くなり、黄身にも薄っすら膜が張って来たら厚みのあるゴーダチーズを乗せ、程良くとろけるまで火を通す。

 ブロッコリとカリフラワが茹で上がったら、ざるに丘上げして粗熱を取る。

 トマトは一口大に切って、粗熱が取れたブロッコリとカリフラワとボウルで和えておく。

 続けてドレッシング作り。ワインビネガーに塩胡椒こしょうをし、オリーブオイルを少量ずつ垂らしながら泡立て器でしっかりと混ぜる。

 乳化にゅうかして来たら、パセリの微塵みじん切りを加えて良く混ぜる。

 出来たドレッシングを野菜に良く絡め、馴染なじませる為に少し置いておく。

 さて、フライパンのチーズが良い感じにとろけて来た。そうなると出来上がりなので、皿に移し、ブロッコリなどを合えたものをたっぷりと添えたら。

 燻製豚卵ベーコンエッグのチーズ乗せと、パセリドレッシングのサラダの完成だ。

 そして、朝食ではヨーグルトも一緒に出してしまおう。器に盛り、カットしたバナナを乗せ、蜂蜜を掛ける。

 出来たものを共有部分のテーブルに運び、ロロアを起こしに行く。朝の支度を終えたルーシーも既に食卓へ。ウォルトとカリーナも朝食を作る間に起きて来ていて、支度を済ませていた。

「ほいほい、おはようさん」

「おはようございます!」

 アントンとクリントもやって来た。これで勢揃いである。

「じゃあ食べましょうか」

 お祈りをして、浅葱たちは「いただきます」と手を合わせる。

「まずひと口目はお野菜から食べてください。痩せやすくなる食べる順番って言うのも実はあるんです。お野菜から食べると、太る元になってしまう物質が出難でにくくなるんです」

「そんなものまであるんですか……!」

 フォークを手にしたルーシーが驚いて声を上げる。

「細かくて面倒かも知れませんが、合宿の間だけは守って欲しいです」

「分かりました。それが習慣になったら良いのかも知れませんね」

 浅葱も、まずはサラダをひと口。たっぷりのパセリでほのかな苦味を感じるが、淡白な味のカリフラワ、ブロッコリとトマトの甘みに良く合っている。

 そして燻製豚卵のチーズ乗せ。とろりと溶けたチーズと燻製豚の程良い塩分が、半熟に焼き上がった卵と合わさって、なんともしっかりとした味わい。だからこその満足感を感じられる。

「野菜美味しいですねぇ。この緑色の細かいのはパセリですか? こうすると沢山食べられますねぇ」

「このチーズが乗ったのも、すっごく美味しいです。チーズって溶けるとまろやかになるんですね」

「そうじゃなぁ。燻製豚がカリッとして良く合っておる。卵もこんな風に、黄身の半分ぐらいに火が通っておらん様じゃのにちゃんと熱くなっておる。とろとろじゃ」

「そういう調理法なんです。半分だけ火が通った様に見えるので、半熟って言うんですよ。弱火でじっくりと火を通してます」

「朝からこんなにしっかり食べて、大丈夫なんですか?」

 ルーシーが不思議そうに首を傾げると、浅葱は頷く。

「大丈夫ですよ。むしろ朝は動く力を蓄える為に、たっぷり食べてください。お米とかパンは控えますけど、その分お野菜もお肉類もたっぷりと。でないとお昼までちませんからね」

「何か、昨日の晩から我慢とかそんな事気にしないで食べている様な気がします。あ、お米が食べられないのはちょっと残念ですけど、しっかりと食べられてるからか、あまり気にならないと言うか」

「満足感は大事ですよね」

「そうですよね。それは本当につくづく思います。お米1皿だけを食べていた時、切ないと言うかわびしいと言うか……痩せたいって思っていても、心が折れそうでした。加えてお腹ぱんぱんになっちゃったし」

 ルーシーは先日の事を思い出したのか、苦笑いを浮かべる。

「我慢の減量はどうしても続きにくくなると思います。なのでそうしない方法で」

「そうじゃなぁ。これまでは痩せにゃあならん患者がおっても、食べる量を減らして、としか言えんかったんじゃが、この方法なら患者も受け入れやすいと思うのう。本当に勉強になるのう」

 アントンも感心した様に頷き、ブロッコリを口に放り込んで「旨いのう」と眼を細めた。

「爺ちゃん、教えて貰った控えた方が良いもの、ちゃんと書いてあるからね。食べる順番も後で書いとくね」

「おお、ありがとうのう」

「私も、減量の合宿だと言われていたので、しばらくは我慢だなぁと思っていたんですが、全然苦になりませんね。驚いています。それどころかアサギくんのご飯が毎食楽しみです」

 ウォルトもそう言って、嬉しそうに口角を上げた。その横ではカリーナが黙々と口を動かしている。やはり仏頂面ではあるのだが、不満そうな気配は感じない。

「それなら良かったです。お昼ご飯も頑張って作りますね。お手間ですけど、食べに帰って来てくださいね」

「はい」

 一同は揃って頷いた。

「それと、またお食事中にごめんなさい。ルーシーさん、1日のうちに時間を決めて、お手洗いの時間を作って欲しいんです」

「お手洗いの時間? どう言う事ですか?」

 意味が判らないと言う様に、ルーシーは首を傾げる。

「お通じのリズムを作りたいんです。気配がしなくても、お手洗いでお腹に力を入れてみてください。食事の後が良くお腹が動いてくれるので、そのタイミングが良いと思います。勿論気配があったら時間関係無くお手洗いに行ってください。我慢してしまうと、益々ますますお通じが悪くなります」

「そう言うものなんですかぁ。だったら晩ご飯の後かなぁ。朝はお仕事前で忙しないし、お昼はいつもは仕事場だし」

「それで大丈夫です。食べて、要らないものを出して、のリズムが巧く出来上がれば、もっと減量効果アップです。最初は巧く行かないかも知れませんが、焦らずに行けば大丈夫ですから」

「は、はい。頑張ってみます」

「ああ、あまり緊張するとお腹にも良く無いので、あまり気負わずに」

「こ、心掛けます」

 ルーシーはやや緊張の面持ちで頷いた。



 ルーシーたちが仕事に行き、アントンたちが病院に戻ると、浅葱たちは朝食の後片付けをし、公民館の掃除をする。

 そして昼食の準備に取り掛かる。

 この合宿を始めてから、浅葱は糖質の高い食品を控え、食物繊維と蛋白質を中心に献立を考えている。

 ビタミンやミネラルなども勿論大切な栄養素なのだが、そう言ったものは野菜を食べれば自然と付いて来るので問題無い。

 芋類や南瓜以外の野菜と大豆、そして肉と魚類をしっかりとバランス良く摂る様にする。間食をしたいのならナッツ類を。

 そしてお通じを良くする事。その為のヨーグルトとフルーツ、蜂蜜である。

 それに加えて軽い運動。無理に激しいものにする必要は無い。

 結局のところ、浅葱が今回実施している減量方法はたったこれだけだ。言うなれば、普段の規則正しい生活と何ら変わりの無いものなのだ。

 食事は大きなかたよりが無ければ問題無いし、運動も仕事や家事などをしていれば適度に動く事になる。特に子育てがあれば更にハードにもなる。

 ただただ、そんな生活リズムを整えているだけなのである。

 さて、昼食は何にしよう。そうだな、レタスをたっぷりと使ってみようか。
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