すこやか食堂のゆかいな人々

山いい奈

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3章 とある食材の探求者

第5話 お客さまと作り上げる喜び

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 ツナさんが玉ねぎを食べられることは、これまでのご注文で分かっている。生のものでも加熱のものでもお惣菜で食べられていたので、使えると踏んだのだ。好きかはともかく嫌いでは無いだろうし、アレルギーも大丈夫なはずだ。

 玉ねぎにはアリシンという成分が含まれている。硫化アリルの一種で、ねぎ属に共通してあるもので、これが辛みの原因だ。動脈硬化や高血圧の予防、コレステロール値を下げるといった効果がある。

 ただこのアリシン、熱に弱いとされていて、充分な効果を期待するなら生で食べることがすすめられている。

 だが玉ねぎは加熱することで、その甘みを発揮する。甘み成分を覆っているアリシンが分解されるからだ。

 確かに栄養素は大事だ。だが美味しく食べられることもお食事には大切で、今回はツナをふんだんに食べられることを重視して、ツナと合うお野菜として組み合わせたのだ。

 特に今の季節、新玉ねぎが出回っている。今回使ったのも新玉ねぎだ。年中食べられる貯蔵玉ねぎよりも甘みが強く、水分も多いのでねっとりとした食感になる。

「そっか、新玉ねぎか。せやからこんな瑞々みずみずしいんですね。でも、チヂミにはニラが必要不可欠や無いんですか?」

「特にお野菜に決まりは無いんですって。なんで、玉ねぎでもちゃんとチヂミなんですよ。でも確かにニラのイメージは強いですよね。色が綺麗で味がしっかりしてるから、使われることが多いんかも知れません」

 そう、チヂミの定義は「いろいろな食材を小麦粉などで作った生地で平たく焼いた韓国料理」だ。なのでニラで無くても良いのだ。それに「すこやか食堂」では小麦粉すら使っていないので、そもそも正統派とは言えない。

「そうなんですね。へぇ、なるほどなぁ。でも確かに玉ねぎやったら、ツナの味も引き立ってええですね」

 ツナさんは嬉しそうに、もりもりと新生ツナチヂミを平らげて行く。そして半分ほどになったころ。

「すいません、同じの、あと2枚お願いしてええですか?」

「もちろんですよ。お待ちくださいね」

 みのりは微笑んで、新玉ねぎを手にした。



「ツナ魔人、侮れんな」

 翌日、お昼の時間帯、落ち着いたころに来られた沙雪さゆきさんは、新玉ねぎで作ったツナチヂミを口にして「なるほどな」と頷く。お隣の赤塚あかつかさんも「はぁー」と感心した様な息を吐いた。

「純粋にツナを味わいたいってことなんやな。そのためには確かにニラは風味が強かったか。組み合わせとしては悪ぅ無いと思ったんやけど」

「私も、チヂミやからニラやって思ってしもて。でもチヂミってもっと自由度の高いもんですもんね。あらためてお勉強さしてもらいました」

「でもそれやったら、他のお客にはどうしてたん? しながきにはニラって書いてたやろ?」

「他のお客さまには基本ニラでお出ししてました。ご注文はそう多く無かったんですけどね。やっぱり人気はお肉なんで」

「まぁそうか。ほな、これからツナチヂミは玉ねぎでやるんか?」

「そのつもりです。このチヂミはツナがお好きなお客さまに向けて作ったもんなんで。他のツナのお料理も、少し変えるつもりです。お好み焼きはきゃべつを入れるんで、幸いこれもあんまりツナの味を邪魔せんと思うんですよ。ツナ団子とハンバーグも玉ねぎのですし。お客さまに食べてもろたら、また改善点が出てくるかも知れませんけど、こうしてお客さまと一緒に作るんも楽しいなって思って」

「それができるんが、みのりちゃんの強みやな」

「そうでしょうか」

「せやな。頭がやらかいんやわ。さすが若いだけあるわな。羨ましいわ」

「そんな。赤塚さんかてまだまだお若いのに」

 慌てるみのりに赤塚さんは否定も肯定もせず、おかしそうに「わはは」と笑った。

「まぁ、お好み焼きも甘酢団子もハンバーグも、また食わせてもらうわ。楽しみにしてる」

「はい。またご意見聞かせてください。よろしくお願いします」

 みのりはぺこりと頭を下げた。



 それからツナさんはこれまで通り月曜日と木曜日に来られ、お好み焼きと甘酢団子、ハンバーグも召し上がった。お好み焼きとハンバーグは及第点をもらい、甘酢団子は少し甘酢の酸っぱさが強いと言われたので、お砂糖を適量足した。

 「すこやか食堂」では甘酢にトマトケチャップは使わない。アレルゲン除去のためだ。ケチャップに使われる玉ねぎと、ブランドによっては入っているりんごなどにアレルゲンが含まれるからだ。見えないところでは使わない、使えば明記する。それが「すこやか食堂」の鉄則である。

 なので甘酢は鶏がらスープとお醤油、お酢とお砂糖と片栗粉で作っている。だから甘みが足りないと思われてしまったのだろう。

 そうして「すこやか食堂」のツナ料理は整って行ったのだ。

「私、ツナ缶開けて、こしょうだけ掛けて食べるん好きなんです」

 そんな生粋きっすいなツナ好きのツナさんのお墨付きがもらえたら、他のツナ好きの人にも満足してもらえるだろう。

 正直、ツナさんに匹敵するツナ好きさんは、そうそう現れない様な気がするのだが。
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