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5章 親愛なる3人目
第6話 家族の肖像
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みのりが赤塚さんのスマートフォンに連絡を入れ、悠ちゃんを伴って戻って来ると、みのりと今村お父さんの間に漂う和やかな雰囲気と表情で察してくれたのか。
「良かったな」
そう言ってにっと笑ってくれた。悠ちゃんはどこか不機嫌に見えたが、みのりと目が合うとにっこりと微笑む。良かった、いつもの悠ちゃんだ。
赤塚さんの姿を見たとたん今村お父さんは照れ笑いを浮かべ、「ありがとうねぇ」と小首を傾げた。
「おかげで、みのりちゃんとお話ができたわぁ。聞いて赤塚ちゃん、みのりちゃんね、私が親でおってもええて言うてくれたんよ~!」
さっきまでの湿っぽいながらもほんわかした空気はどこへやら。今村お父さんは盛大に喜びを溢れさせていた。赤塚さんが距離を取っていなければ、抱き付いていてもおかしく無い浮かれ様だ。
「あらっ、みのりちゃんにこんなとこ見せてもてごめんねぇ~。赤塚ちゃんイケメンやからつい~」
今村お父さんはそう言って明るく笑っている。大切な人にはこうやって笑っていて欲しい。今村お父さんがみのりのために流してくれた涙はとても尊いものだったが、みのりはやはり笑顔が好きなのだ。
すると、赤塚さんがこっそりと耳打ちしてくれる。
「防犯カメラの録画は、見んで消しとくから安心してな」
「ありがとうございます」
なにせデリケートな内容だ。その心遣いがありがたかった。
悠ちゃんが何やら赤塚さんに詰め寄っていたが、赤塚さんは大きく首を横に振っていた。
それから数日後の日曜日の夕方、今村お父さんがみのりたちのお家にやってきた。お父さんとお母さんが招待したのだ。もちろんみのりも歓迎だった。悠ちゃんも家族の様な人なので一緒である。ママのバーも定休日は日曜日なのだ。
今村お父さんはゆったりとした赤いワンピース姿だった。お化粧も完璧で、おめかししてくれていることが分かる。今村お父さんは玄関でお父さんとお母さんを見たとたん、きっと目を鋭くし、次には神妙な顔で深々と頭を下げた。
「今まで、ほんまにほんまに、ありがとうございました」
両親は慌てて今村お父さんの頭を上げさせようとしている。
今だから分かるのだが、今村お父さんの睨み付ける様な目、それは涙を堪えているのだ。初対面のとき、赤塚さんのお料理教室見学のときにきつい目で見られた気がしていたのだが、そのときもそうだったのだ。
今村お父さんはかつて、みのりの親であることから逃げたと言った。だが今、こうしてここにいてくれる。みのりにはそれで充分だった。
「ほらほらたっちゃん、顔上げて。みのりが美味しいごはん作ってくれたから、食べよう」
「……ええ」
今村お父さんを呼んでホームパーティをしようと言い出したのは、お父さんだった。両親ももう長年今村お父さんに会えておらず、やきもきしていたとのことだった。
みのりの進学などの節目には連絡したりしていたそうなのだが、今村お父さんからは「ありがとう」と短いお返事が返って来るだけで、やりとりが長く続く様なことは無かったのだそうだ。
今村お父さんは今村お父さんで、遠慮があったのだと思う。だがこれからは違う。こうしてみのりの3人の親が揃った。今のお父さんはもちろん大切だが、今村お父さんとも交流を続けて行けたらと思う。
両親が今村お父さんをダイニングに促し、みのりと悠ちゃんも後に続く。テーブルの上には冷菜や冷めても美味しいものなどがすでに並べられている。
オレンジ色が鮮やかなオレンジ風味のキャロットラペ、こってり濃厚な鶏レバのムース、しっとりと焼き上げたベーコンとほうれん草のキッシュ、さっぱりとした鯖と野菜のマリネ。そしてキッチンのコンロでは、まろやかな酸味の鶏だんごのトマト煮込みがことことと煮えている。
今回はお母さんに手伝ってもらいながら、みのりがメインで作った。ぜひ今村お父さんにみのりが作ったものを食べて欲しかったのだ。どのジャンルのお料理にしようかと考えたのだが、せっかくのホームパーティだし、今村お父さんの様に華やかにしたかったので、フレンチをメインにしたのだ。
テーブルを見た今村お父さんは「まぁ……!」と目を輝かせた。
「これ、全部みのりちゃんが? 凄いわぁ! さすがみのりちゃん!」
今村お父さんはまるでその場で飛び跳ねんばかりの勢いで、表情をきらきらさせている。
「お母さんにもたくさん手伝ってもらいました。今まで習ったこととか活かしてるつもりです。ぜひお父さんに食べて欲しくて」
「え、私?」
お父さんがきょとんとした顔をする。それでみのりは「あ!」と慌てた。
「ええっと、今村さん。この前会ったとき、普通にお父さんて呼んでたからつい」
するとお父さんが「わはは」とおかしそうに笑う。
「そうかそうか。ええこっちゃ。お父さんふたりは全然ええんやけど、むしろ嬉しいんやけど、呼び方ややこいな」
「それやったらみのりちゃん、私のことはママ、でどう?」
今村お父さんの控えめな提案に、みのりは「え?」と目を丸くする。
「お店のお客さんもみんな私のことママって呼ぶし。あ、でも私一応男やから、抵抗あったらパパでも」
そう言いながら慌て出す今村お父さんに、みのりはくすりと笑みを零した。
「ほな、ママって呼ばせてもらいます。そしたらややこしないですもんね、ママ」
「みのりちゃん……」
今村お父さんあらためママが、嬉しそうに目を潤ませた。
「あー、もう、たっちゃん、また泣くんやから。いつからそんな泣き虫になったんや」
お父さんがまたおかしそうに、ママの背中をばんばん叩いた。
「もう悟くんったら! 痛いやん! 私、感激してるんやからぁ!」
ママはぷりぷりと拗ねた様な顔で身体をくねらせた。みのりもおかしくなって「あはは」と笑みを浮かべる。
「ほな、僕はママさんて呼ばせてもろたらええですね」
悠ちゃんが言うと、ママはきっと目を吊り上げた。
「あんたにママ呼ばわりされるいわれはあれへん!」
ママのドスの効いた怒声に、みのりも両親も悠ちゃんも、堪らず笑い声を上げた。
「良かったな」
そう言ってにっと笑ってくれた。悠ちゃんはどこか不機嫌に見えたが、みのりと目が合うとにっこりと微笑む。良かった、いつもの悠ちゃんだ。
赤塚さんの姿を見たとたん今村お父さんは照れ笑いを浮かべ、「ありがとうねぇ」と小首を傾げた。
「おかげで、みのりちゃんとお話ができたわぁ。聞いて赤塚ちゃん、みのりちゃんね、私が親でおってもええて言うてくれたんよ~!」
さっきまでの湿っぽいながらもほんわかした空気はどこへやら。今村お父さんは盛大に喜びを溢れさせていた。赤塚さんが距離を取っていなければ、抱き付いていてもおかしく無い浮かれ様だ。
「あらっ、みのりちゃんにこんなとこ見せてもてごめんねぇ~。赤塚ちゃんイケメンやからつい~」
今村お父さんはそう言って明るく笑っている。大切な人にはこうやって笑っていて欲しい。今村お父さんがみのりのために流してくれた涙はとても尊いものだったが、みのりはやはり笑顔が好きなのだ。
すると、赤塚さんがこっそりと耳打ちしてくれる。
「防犯カメラの録画は、見んで消しとくから安心してな」
「ありがとうございます」
なにせデリケートな内容だ。その心遣いがありがたかった。
悠ちゃんが何やら赤塚さんに詰め寄っていたが、赤塚さんは大きく首を横に振っていた。
それから数日後の日曜日の夕方、今村お父さんがみのりたちのお家にやってきた。お父さんとお母さんが招待したのだ。もちろんみのりも歓迎だった。悠ちゃんも家族の様な人なので一緒である。ママのバーも定休日は日曜日なのだ。
今村お父さんはゆったりとした赤いワンピース姿だった。お化粧も完璧で、おめかししてくれていることが分かる。今村お父さんは玄関でお父さんとお母さんを見たとたん、きっと目を鋭くし、次には神妙な顔で深々と頭を下げた。
「今まで、ほんまにほんまに、ありがとうございました」
両親は慌てて今村お父さんの頭を上げさせようとしている。
今だから分かるのだが、今村お父さんの睨み付ける様な目、それは涙を堪えているのだ。初対面のとき、赤塚さんのお料理教室見学のときにきつい目で見られた気がしていたのだが、そのときもそうだったのだ。
今村お父さんはかつて、みのりの親であることから逃げたと言った。だが今、こうしてここにいてくれる。みのりにはそれで充分だった。
「ほらほらたっちゃん、顔上げて。みのりが美味しいごはん作ってくれたから、食べよう」
「……ええ」
今村お父さんを呼んでホームパーティをしようと言い出したのは、お父さんだった。両親ももう長年今村お父さんに会えておらず、やきもきしていたとのことだった。
みのりの進学などの節目には連絡したりしていたそうなのだが、今村お父さんからは「ありがとう」と短いお返事が返って来るだけで、やりとりが長く続く様なことは無かったのだそうだ。
今村お父さんは今村お父さんで、遠慮があったのだと思う。だがこれからは違う。こうしてみのりの3人の親が揃った。今のお父さんはもちろん大切だが、今村お父さんとも交流を続けて行けたらと思う。
両親が今村お父さんをダイニングに促し、みのりと悠ちゃんも後に続く。テーブルの上には冷菜や冷めても美味しいものなどがすでに並べられている。
オレンジ色が鮮やかなオレンジ風味のキャロットラペ、こってり濃厚な鶏レバのムース、しっとりと焼き上げたベーコンとほうれん草のキッシュ、さっぱりとした鯖と野菜のマリネ。そしてキッチンのコンロでは、まろやかな酸味の鶏だんごのトマト煮込みがことことと煮えている。
今回はお母さんに手伝ってもらいながら、みのりがメインで作った。ぜひ今村お父さんにみのりが作ったものを食べて欲しかったのだ。どのジャンルのお料理にしようかと考えたのだが、せっかくのホームパーティだし、今村お父さんの様に華やかにしたかったので、フレンチをメインにしたのだ。
テーブルを見た今村お父さんは「まぁ……!」と目を輝かせた。
「これ、全部みのりちゃんが? 凄いわぁ! さすがみのりちゃん!」
今村お父さんはまるでその場で飛び跳ねんばかりの勢いで、表情をきらきらさせている。
「お母さんにもたくさん手伝ってもらいました。今まで習ったこととか活かしてるつもりです。ぜひお父さんに食べて欲しくて」
「え、私?」
お父さんがきょとんとした顔をする。それでみのりは「あ!」と慌てた。
「ええっと、今村さん。この前会ったとき、普通にお父さんて呼んでたからつい」
するとお父さんが「わはは」とおかしそうに笑う。
「そうかそうか。ええこっちゃ。お父さんふたりは全然ええんやけど、むしろ嬉しいんやけど、呼び方ややこいな」
「それやったらみのりちゃん、私のことはママ、でどう?」
今村お父さんの控えめな提案に、みのりは「え?」と目を丸くする。
「お店のお客さんもみんな私のことママって呼ぶし。あ、でも私一応男やから、抵抗あったらパパでも」
そう言いながら慌て出す今村お父さんに、みのりはくすりと笑みを零した。
「ほな、ママって呼ばせてもらいます。そしたらややこしないですもんね、ママ」
「みのりちゃん……」
今村お父さんあらためママが、嬉しそうに目を潤ませた。
「あー、もう、たっちゃん、また泣くんやから。いつからそんな泣き虫になったんや」
お父さんがまたおかしそうに、ママの背中をばんばん叩いた。
「もう悟くんったら! 痛いやん! 私、感激してるんやからぁ!」
ママはぷりぷりと拗ねた様な顔で身体をくねらせた。みのりもおかしくなって「あはは」と笑みを浮かべる。
「ほな、僕はママさんて呼ばせてもろたらええですね」
悠ちゃんが言うと、ママはきっと目を吊り上げた。
「あんたにママ呼ばわりされるいわれはあれへん!」
ママのドスの効いた怒声に、みのりも両親も悠ちゃんも、堪らず笑い声を上げた。
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