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第14話 勇者の正体
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夏休みもあと一週間くらいで終わろうかという、平日のお昼近く。
りんたろーは、カスミ、セシル、ブレタムとともに小岩駅に降り立った。今日は、真理たち追手チームとの初会合だ。
真理から来たメールには、集合場所として線路脇にある旅館が示されていた。
「えー、ここって、怪しい旅館だよねー」カスミが変な顔で寿旅館を見上げた。
入るのをためらっていたら、中からマホミンが出てきた。
「あー、みにゃさん。こんにゃところで立ち止まってたら、旅館に入ってエッチしようか悩んでるアベックみたいにゃんで……早々に中にお入り下さいにゃ!」
マホミンに促されて、旅館の奥の大きな和室に案内されたが、奥の間には、やはり大きな布団が敷かれていて、枕が二つ並んで置いてあった。
「うわー、やっぱ連れ込み旅館なんだー。りんたろー。あとであれで一緒に寝ようか?」
「カス姉、からかわないでよ!」先日の真理の浴衣姿が思い出され、ちょっと興奮してしまったタイミングで、カスミにそんなことを言われ、りんたろーは鼻血が出そうな気がした。
「それで、あなたがマサハルさん? 私、真理ちゃんは信用したけど、あなたをまだ信用したわけではないから……あまり迂闊なおふざけはしない方がいいわよ」
カスミがすごんだ。
「この人が、あんた達が探しているセシル姫。ここまで連れてきたんだから、あんた達が持ってる情報を全部出しなさい。その上で、今後どうするか、姫様交えて話合いましょ」
カスミの言葉に、真理とマサハルがお互いの顔をみながら頷き、真理が、一冊の雑誌をテーブルの上に取り出した。
りんたろーがそれを手に取ってみると、去年の年末に発行された『来年ブレイク必至なロックバンド特集』と題された音楽情報雑誌だった。その中の一ページに附箋が張ってあり、見るとマホガニーというビジュアル系ロックバンドの特集記事のようだった。
「これは?」りんたろーの問いに、真理が答えた。
「そのバンドの……記事読んでみて下さい」
りんたろーが声に出して記事を読み始めた。
「『今年の春過ぎに突然現れた謎多きビジュアル系バンド、マホガニーだが、リーダーで
ボーカル兼リードギターのセシルを中心に……』って、セシル?」
「そう。その人が、勇者ノボルです!」真理が断言した。
「いやいや、たまたまセシルってだけで……」と言うりんたろーから、ガバっと雑誌を取り上げて、セシルが食い入る様にグラビアを眺めている。
「りんたろーさん……確かにメイクとかがすごくて何ですが……間違いないです。この人勇者ノボル様です!」セシルもそう断言した。
「何ですってぇ!」りんたろーとカスミの声がハモッた。
「最初に気が付いたのはマホミンさんです。TVに出ていたのに気が付いて、その場では調べられなかったんですが、日にちとチャンネルをマサハルさんが控えていたので私が検索しました。その番組の出演者達を片っ端からマホミンさんに見てもらって……。
この人の本名は、海藤 登といいます」
「すごいじゃないですか! これで姫様が本懐を遂げられる日もそう遠くない……」
「そうはいかないわよ、ブレたん。なんで元勇者がこんなタレントやってるのか分からないけど、このバンドは私も知ってるわ。友達にも好きな子いるし……。
今、すっごい人気なの。だから、それだけに……どうやって近づくの?」
カスミも途方に暮れているようだ。
「でも……勇者さんが、このセシルさんだって判明しただけでも上出来だよ。
これからどうするかは、また考えないといけないけど……」
りんたろーもまだ興奮が収まらないようだ。
「それで、りんたろーさん。こちらのお二人の事情なんですが、一年以内に成果を上げないといけないらしいのです。こちらにいらっしゃったのが今年二月だそうですので、あと半年もないのですが……」真理がそう語った。
「うーん。それまでに勇者にたどり着くのは難しくないかなー」りんたろーも頭を捻る。
「別に多少期限に遅れても、君たちが怒られるのを我慢すればいいだけではないか?
報酬なら姫様が帰られた際、裏から用立てる事も出来よう」
ブレタムがそう言うと、マホミンが答えた。
「それだと、あたいらは良くても、あんたらのお友達がダメにゃん。
あの……ミルダだっけ? あんたらをこっちに送った魔導士。
私らが期限までに帰らないと、それが死刑になるにゃん!」
「なんですって!」セシルが思わず立ち上がった。
「お、落ち着いて下さい、姫様。多分、王子のブラフです。いくらなんでも、死刑は……」
「馬鹿犬にはわからにゃいかもしれないけど、あれは重罪にゃん!
未承認の術式が事後OKなんてなったら、無法がまかり通っちゃうにゃん!」
「だが、お前達もその術式でこちらに来たのだろう?」
ブレタムも食い下がるが、セシルがそれを制した。
「ブレタム、落ち着いて。確かに兄上のブラフかも知れませんが、確かめる術がありません。万一、本当にミルダが処刑されてしまったりしたら……私は……」
セシルがまた膝を落として床に座りこんだ。
「あー、ですので皆さん。できれば年内に姫様が思いを遂げられ、年明けに私達と一緒にお国にお帰りいただくのが、当面の目標という事ではどうですか?
それに向かって、みんなで力を合わせましょうよ」
サハルがそう提案し、みんながそれに同意して、その日の打ち合わせは終わった。
帰り際に、マサハルがカスミに声をかけた。
「あの……先ほどのお部屋を気にいっていただけたみたいなので……つかぬ事をお伺いしますが、カスミさんとりんたろーさんは、お付き合いなさってるんで? であれば、たまにご利用いただければ、安くしておきますよ……とまあ、こうしていろんな人に営業しないとならない位、経営厳しいんですけどね」
「はは……ただの幼なじみで……別に、男女として付き合っているわけでは……」
そう言って旅館を後にしたが、自室に戻ってカスミは深いため息をついた。
(あーあ。りんたろー、勝浦で姫様と近くなっちゃったかと思ったら、今度は真理ちゃんか……私は……いったい、どうしたいんだろ?)
りんたろーは、カスミ、セシル、ブレタムとともに小岩駅に降り立った。今日は、真理たち追手チームとの初会合だ。
真理から来たメールには、集合場所として線路脇にある旅館が示されていた。
「えー、ここって、怪しい旅館だよねー」カスミが変な顔で寿旅館を見上げた。
入るのをためらっていたら、中からマホミンが出てきた。
「あー、みにゃさん。こんにゃところで立ち止まってたら、旅館に入ってエッチしようか悩んでるアベックみたいにゃんで……早々に中にお入り下さいにゃ!」
マホミンに促されて、旅館の奥の大きな和室に案内されたが、奥の間には、やはり大きな布団が敷かれていて、枕が二つ並んで置いてあった。
「うわー、やっぱ連れ込み旅館なんだー。りんたろー。あとであれで一緒に寝ようか?」
「カス姉、からかわないでよ!」先日の真理の浴衣姿が思い出され、ちょっと興奮してしまったタイミングで、カスミにそんなことを言われ、りんたろーは鼻血が出そうな気がした。
「それで、あなたがマサハルさん? 私、真理ちゃんは信用したけど、あなたをまだ信用したわけではないから……あまり迂闊なおふざけはしない方がいいわよ」
カスミがすごんだ。
「この人が、あんた達が探しているセシル姫。ここまで連れてきたんだから、あんた達が持ってる情報を全部出しなさい。その上で、今後どうするか、姫様交えて話合いましょ」
カスミの言葉に、真理とマサハルがお互いの顔をみながら頷き、真理が、一冊の雑誌をテーブルの上に取り出した。
りんたろーがそれを手に取ってみると、去年の年末に発行された『来年ブレイク必至なロックバンド特集』と題された音楽情報雑誌だった。その中の一ページに附箋が張ってあり、見るとマホガニーというビジュアル系ロックバンドの特集記事のようだった。
「これは?」りんたろーの問いに、真理が答えた。
「そのバンドの……記事読んでみて下さい」
りんたろーが声に出して記事を読み始めた。
「『今年の春過ぎに突然現れた謎多きビジュアル系バンド、マホガニーだが、リーダーで
ボーカル兼リードギターのセシルを中心に……』って、セシル?」
「そう。その人が、勇者ノボルです!」真理が断言した。
「いやいや、たまたまセシルってだけで……」と言うりんたろーから、ガバっと雑誌を取り上げて、セシルが食い入る様にグラビアを眺めている。
「りんたろーさん……確かにメイクとかがすごくて何ですが……間違いないです。この人勇者ノボル様です!」セシルもそう断言した。
「何ですってぇ!」りんたろーとカスミの声がハモッた。
「最初に気が付いたのはマホミンさんです。TVに出ていたのに気が付いて、その場では調べられなかったんですが、日にちとチャンネルをマサハルさんが控えていたので私が検索しました。その番組の出演者達を片っ端からマホミンさんに見てもらって……。
この人の本名は、海藤 登といいます」
「すごいじゃないですか! これで姫様が本懐を遂げられる日もそう遠くない……」
「そうはいかないわよ、ブレたん。なんで元勇者がこんなタレントやってるのか分からないけど、このバンドは私も知ってるわ。友達にも好きな子いるし……。
今、すっごい人気なの。だから、それだけに……どうやって近づくの?」
カスミも途方に暮れているようだ。
「でも……勇者さんが、このセシルさんだって判明しただけでも上出来だよ。
これからどうするかは、また考えないといけないけど……」
りんたろーもまだ興奮が収まらないようだ。
「それで、りんたろーさん。こちらのお二人の事情なんですが、一年以内に成果を上げないといけないらしいのです。こちらにいらっしゃったのが今年二月だそうですので、あと半年もないのですが……」真理がそう語った。
「うーん。それまでに勇者にたどり着くのは難しくないかなー」りんたろーも頭を捻る。
「別に多少期限に遅れても、君たちが怒られるのを我慢すればいいだけではないか?
報酬なら姫様が帰られた際、裏から用立てる事も出来よう」
ブレタムがそう言うと、マホミンが答えた。
「それだと、あたいらは良くても、あんたらのお友達がダメにゃん。
あの……ミルダだっけ? あんたらをこっちに送った魔導士。
私らが期限までに帰らないと、それが死刑になるにゃん!」
「なんですって!」セシルが思わず立ち上がった。
「お、落ち着いて下さい、姫様。多分、王子のブラフです。いくらなんでも、死刑は……」
「馬鹿犬にはわからにゃいかもしれないけど、あれは重罪にゃん!
未承認の術式が事後OKなんてなったら、無法がまかり通っちゃうにゃん!」
「だが、お前達もその術式でこちらに来たのだろう?」
ブレタムも食い下がるが、セシルがそれを制した。
「ブレタム、落ち着いて。確かに兄上のブラフかも知れませんが、確かめる術がありません。万一、本当にミルダが処刑されてしまったりしたら……私は……」
セシルがまた膝を落として床に座りこんだ。
「あー、ですので皆さん。できれば年内に姫様が思いを遂げられ、年明けに私達と一緒にお国にお帰りいただくのが、当面の目標という事ではどうですか?
それに向かって、みんなで力を合わせましょうよ」
サハルがそう提案し、みんながそれに同意して、その日の打ち合わせは終わった。
帰り際に、マサハルがカスミに声をかけた。
「あの……先ほどのお部屋を気にいっていただけたみたいなので……つかぬ事をお伺いしますが、カスミさんとりんたろーさんは、お付き合いなさってるんで? であれば、たまにご利用いただければ、安くしておきますよ……とまあ、こうしていろんな人に営業しないとならない位、経営厳しいんですけどね」
「はは……ただの幼なじみで……別に、男女として付き合っているわけでは……」
そう言って旅館を後にしたが、自室に戻ってカスミは深いため息をついた。
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