勇者様、姫が処女を捧げに参りました!

SoftCareer

文字の大きさ
20 / 25

第20話 勇者の本音

しおりを挟む
 そして大晦日の午後十一時過ぎ、三人は原宿駅を降り立った。すでに周りは、明治神宮に初詣に向かう人であふれていた。

「どうする? まだ約束の時間まで二時間以上あるけど」カスミが問う。
「これなら、神宮に初詣してからでもいいかもね。約束の場所は、新宿の南口側だから、
歩いてもそんなにかからないよ……にしても、これ。ライブハウスか何かかな? 特に大晦日でライブやるとかは、ファンサイトにも書いてなかったけど……」
「まあ、行ってみればわかるでしょ」一人で来いと言われているが、真理もカスミも
近くまでいっしょに行ってくれる予定だ。

 そのまま、神宮の参拝者の列に並び、やがて年が明けた。参拝の列が前進しだす。

 人に揉まれながら、ゆっくり全身するが、しばらくして……あれ? カス姉は?
「どうしよ。りんたろーさん。カスミ様、はぐれちゃったみたい!」真理も慌てているが、周りを探そうにも身動きが取れず、人の流れに身を任せるしかない。
「仕方ないよ、真理ちゃん。勇者との約束の場所はカス姉もわかっているし、最悪、そこで落ち合えるでしょ……真理ちゃんも、はぐれないでね」そう言いながら、りんたろーが真理の手を握った。

「ひゃ!」真理はびっくりしたが、まあ、これ以上離ればなれにならないようにとの配慮だろう。ドキドキしながら、人混みの中を、りんたろーにくっついてゆっくり進んだ。

 プールの様な賽銭箱になんとかお賽銭を投げ入れて、人混みから解放された時、午前一時を過ぎていた。りんたろーと真理は、手をつないだまま、新宿に向かって山手線の脇を歩いている。
 深夜で人通りもまばらであり、りんたろーは心配して手を握ってくれているのだろう。
 さっき真理は、神様に「りんたろーさんと親しくなれますように」とお願いした。
 それが、もうかなってしまっているみたいで、これならもっと欲張ってもよかったかなと、ちょっと後悔していた。

「ここだよね……」
 午前二時ちょっと前、りんたろーと真理は、新宿三丁目にほど近い路地裏の、カサンドラというお店の前に来た。ドアには準備中の看板がかかっている。
 カスミの姿は見当たらないなと思ったら、RINEが入っていた。
「えー! カス姉、間違って恵比寿の方に歩いて行っちゃったみたい……仕方ないから先に帰るってさ」

 はは、りんたろーさんと二人っきりになっちゃったぞ。私のお願い……神様、まだまだ頑張ってくれてるんだ……と真理は思わずにはいられなかった。

「でも、ここ。なんか雰囲気よくないよね……ヤンキーみたいのもうろついてるし……。
 一人でって言われたけど、真理ちゃん一人には出来ないや。怒られてもいいから、二人で入ろう」そう言って、りんたろーは、真理を伴って店に入った。

 中は普通の喫茶店風だったが、準備中とあったせいか誰もいない。
 いや……奥のシートに一人……ああ、勇者ノボルに間違いない。

「なんだ、お前。一人でって言ったのに……女連れとはいい度胸だな」
「すいません。外で待ってもらおうと思ってたんですが、このあたり、なんか治安が悪そうで……だめでしょうか?」
「ふっ。いきなり姫様連れてきてたら叩き出したけど……まあいいや。あんたも、前橋にいたよな?」
「はい。私は、浜松真理と言います。
 あっちの世界から来た姫様の追手と組んでいる人間です」
「えっ? 真理ちゃん? 突然、それ勇者さんに言う?」りんたろーが動揺する。
「多分、勇者さんにブラフは通用しなさそうなんで、こちらの手の内先に見せたほうがいいですよね?」
「ははは、お嬢さんのほうがよっぽど肝が据わってやがる。なるほど、了解だ……。
 それで……お前達は、どうしたいんだ?」

「率直に言います。姫様に直接会って、貴方の気持ちをはっきり伝えて下さい!」
 りんたろーが勇者ノボルに告げた。
「先日のノボルさんの様子だと、もう姫様に未練はないのでしょう? 
 それをはっきり伝えて、きっぱり振ってあげて下さい。姫様もそれを望んでいます」

「……ふー。前橋で、あきらめて帰ってくれた方がよかったんだがな……また会えってか……なー、真理ちゃん。あんたのところに追手来てるんだろ? そいつらにさっさと姫様連れてってもらえないかな?」
「いえ……追手の方達もいい人で、今少し、姫様の御心が定まるまで待ってくれるようでして……」
「ちっ、使えねえ追手だな……そう……お前、りんたろーだっけ。おまえ、姫様が好きなんだろ? そうでなければ、あんなに身体張らないよな? 俺の事は気にしなくていいから、お前が姫様貰ってくれ! ヤッちゃっていいから」
「なっ! ふざけてるんですか! 仮にも勇者様なんでしょ? あんな女の子一人くらい、ちゃんとお断りすればいいんじゃないですか!」
 憤るりんたろーを制して真理が言った。

「あの、勇者様。どうして、姫様と直接お会いになりたがらないのですか? 前橋では、
あんなにはっきり拒絶されたのに……もしかして……まだ、姫様への思いが残ってる?」

「!」勇者が言葉に詰まった。
「えっ? 真理ちゃん。何言ってんの?」
「りんたろーさんは、黙ってて! あの……もしかして、二人きりで会ったら思いが再燃しちゃうとか……そういうのを恐れているのですか?」

「…………やれやれ。やっぱ女の子は鋭いな。だから小僧一人で来いって言ったんだ。
 チェリーボーイ一人位なら簡単に煙に巻けると思ったんだが…………。
 そうさ! その通りさ。俺はまだ、彼女を慕っている。
 二人っきりで会ったら最後、押し倒さない自信がない。だから……会いたくないんだ」

「そんな……それって両想いですよね! なんで……」
「だから、りんたろーさんは黙ってて! 勇者さん……怖いんですか?」
 真理が真剣な眼差しで勇者を見つめる。
「ああ、そうだよ。俺は、彼女と人生を共にするのが怖いんだ。
 勇者なのに……なさけないよな」
「怖いって……? あんなに可愛くて優しい姫様じゃないですか。いったい……」

「りんたろー。人生を共にするってのは、今だけじゃないんだよ。そりゃセシルは可愛いさ。一緒に居たいし、キスもしたい。セックスもしたい……でもな、五十年後に、あいつは今のまま、ほとんど何も変わらないんだ。こっちはもうヨボヨボのシワシワ。下手すりゃ墓の下ってな。そんなんで、本当にあいつを幸せに出来るのか? 寂しい想いをさせるだけじゃないのか? 少なくとも俺には今、あいつを生涯幸せにする自信がない。そうならば、あいつの恋心がどこかの中坊みたいに、恋に恋しているような今の状況なら……あいつは、自分の世界で、ちゃんとしたエルフと結ばれた方が幸せなんじゃないか?」

「……」りんたろーも真理も何も言い返せない。言い返すほどの人生経験も蘊蓄うんちくもない。

「そんでな。勇者の魔王討伐の報酬ってなんだか知ってるか? 
 夢を一つ叶えてくれるんだよ。こう、魔力を封印した宝玉があってな……まあ、それはどうでもいいか。それで、俺は、メジャーなミュージシャンになりたいと願った。そして今こうなってる。
 群馬の山奥出身だった俺は、メジャーなミュージシャンになりたくて、親に無理言って東京の三流大学に通いながら、どこにでもある学生バンドやってたんだ。
 そしてあの日。メッセでコンサートがあって、俺、バイトで機材運びやってる途中で召喚されちゃって……で、まあ、あっちでいろいろあって、こっち帰って来てからメジャーデビュー出来たんだが……姫様に付き合ったら、それも手放さなくちゃならん。
……まあ、これは姫様にもらった様なものでもあるんで、返せって言われたら、そりゃ仕方ないけどな」
 そこまでしゃべってから、勇者ノボルは、水割りを飲みながら、だんまりになった。

「それでも……」りんたろーが口を開いた。
「それでも、今の話は、勇者さんが直接姫様にしたほうがいいと思います! 
 彼女は馬鹿ではありません。
 多分、今の勇者さんの気持ちを理解してくれるはずです!」
「……そうかもな。だがさっきも言ったろ。会ったら最後、押し倒さない自信が無いって……それで振っちゃうんだから……そうだな。俺に押し倒されて、ヤラれちゃった後で、振られてもいいって言うんなら、会わない事もないか……ははは、馬鹿らしい」

「馬鹿らしいかどうかはわかりませんよ。今のお話を、僕は姫様に伝えます。
 それで、姫様がそれでもいいと言うなら、二人で会ってくれますか?」
「おいおい。お前正気か?」
「そうよ、りんたろーさん。それはいくら何でも姫様が可哀そう……」
「ううん、真理ちゃん。僕には、姫様が、そんな体の関係云々よりも、勇者さんと会話して筋を通す事を望んでいるようにも思えるんだ。だから、話してみる。
 まあ、嫌だっていったらそれで終わりなんで、素直にマホミンさんと帰って貰おうよ。
 でも……もしそれでも会いたいと言ったら、会っていただけますよね。勇者さん!」
「……ああ。それは……約束する。男に二言はない」

 カサンドラを出たときは、すでに午前三時を回っていたが、さすがにもう始発を待たないと家には帰れない。あと二時間ない位なので、新宿駅近くの公園のベンチに、りんたろーと真理は腰かけた。

「りんたろーさん……姫様、あれで勇者と会うっていうかしら?」
「うーん。何とも言えないけど……でも、何て言おう。犯されちゃうけど振られちゃいますって……さすがにまずい気がしてきた」
「ふふ、りんたろーさんって、ああいう場面で、変に度胸がいいですよね。あんなに自信たっぷりに言われたら、勇者でもビビっちゃいますよ。でも……私はそんなあなたが好きですよ!」
「えっ? 真理ちゃん……」
「……ごめん。りんたろーさん。今、神様が応援してくれてたような気がしてて……。
 いやいや、言い訳じゃないし……カスミ様いがいないところで、抜け駆けみたいで何なんですが……あ、あの寿旅館の時は、何も覚悟ないまま、マサハルさんに言われてあんな事しましたけど……今ははっきり言えます。私、あなたの事が好きです。
 なんかさっきの勇者とのやり取り見てたら……やっぱり自分の気持ちをはっきり伝える事って重要かなーって……」
「……真理ちゃん、有難う。すごくうれしいです……でも、何か……ごめん」
「あー、いいの、いいの。わかってたから。りんたろーさん、姫様のこと気になってるし、カスミ様もりんたろーさんが大好きだし……」
「えっ? カス姉も?」
「……あー、やっぱり気づいてないんだ……。カスミ様も、一人の男性として、あなたの事が好きなんだよ。気づいていないの多分あなただけ……」
「そ、そうなんだ……あまりに身近すぎて、考えた事もなかったけど……」
「そういうところが、りんたろーさんらしいな……でもまあ、始発までまだちょっとあるし、結構冷え込んできたし……今しばらくは、私があなたを独占してていいかな?」
 そういいながら、真理は思い切り、りんたろーの腕にしがみついてきた。
「はは、あったかいや」

 しばらくすると、東の空が白んできて、やがて初日の出が見られた。
 女の子と腕組ながら見る初日の出って、なんかいいなと、りんたろーは思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...