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第四話 味方探し
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二日後。虎之助がすごく小柄な女の子を連れてきた。例の付喪神に詳しい人らしいが、後頭部が刈り上げのマッシュルームカットで眼鏡をかけているが、目鼻立ちがぱっちりしているのが良くわかる美人さんだ。それに胸とお尻も大きいのに腰はちゃんとくびれていてスタイルもいい。虎之助さんの彼女かしら? ハジッコはそう思った。
「ああ、スミ。この人が、月岡希来里。大学のアウトドア同好会の一個下の後輩だ」
「あの、はじめまして。私は九重澄子です。今日はわざわざ、家まで来ていただいてすいません」
「えー、柿沼先輩。この子が幼なじみのスミちゃん!? かっわいー。それでお二人の仲はどのくらい進展されているので? 先輩とこの子の組み合わせなら、今時ならとっくに、xxくらいは……」
「あほ! 変な妄想すんな。俺とスミはそんな関係じゃねえ! こいつは妹みたいなものなの! すまん、スミ。こいつ妄想癖がひどくて……」
「あー、先輩ひどいー。そりゃ私は趣味の事とかで暴走したり妄想したりしますけどー。スミちゃんが引いちゃうじゃないですかー」
はは。にぎやかな人ね。でもそうか。虎之助さんは、スミちゃんを妹みたいに思ってたんだ……。
ハジッコは、澄子が実は虎之助にあこがれている事をよく知っていた。それも兄というより一人の男性として好意を持っている事を。それなのに虎兄は全然気が付いてくれないと、夜中によくその愚痴を聞かされたものだ。
「それでスミちゃん。付喪神の事が知りたいんだって? なんでまた今時のJKがそんなもんを?」希来里さんが話を振ってくる。
「あー、その。なんていうか。ほんとにいるなら会ってみたいなーと言うか……うまく言えないんですけど、それの事もっと知らなくちゃいけなくて……」
「?? なんかワケ有り? ま、いいわ。付喪神っていうのは、長く年月を経た道具に霊魂みたいのが宿って妖怪化したもので、人を誑かすと言われています。平安時代には記録があるそうよ」
「お前くわしいな」虎之助が横からちゃちゃを入れる。
「何言ってんですか。これでも柳田国夫大先生ではないですが、民族学、とくに妖怪変化・魑魅魍魎の類の研究に一生をささげようかと……あ、いや。先輩に一生捧げてもいいんですが」
「馬鹿。お前、澄子の前で何シレっと言ってんの!」
虎之助が真っ赤になって怒っている。
ああ、スミちゃん。やはり希来里さんは虎之助さんの彼女みたいですよ。
ハジッコは心の中で残念そうにそう呟いた。
「ごめん。先輩のせいで話が脱線したわ。それでスミちゃん。付喪神に会ってどうするの? それにあいつら、結構いろんな種類がいるわよ。まあ、私も会った事はないけど」希来里が真顔に戻ってハジッコに聞いた。
「会いたいのは……鏡を持った女です。たしか夜桜とか言ってたかしら」
「えっ!? それって……あなた、付喪神に会った事があるの?」
希来里だけでなく虎之助も怪訝な顔をしながら、ハジッコを見る。
しまった! うっかり口が滑った。しかしここまで言ってしまったのだ。自分の正体がバレない様にうまく説明するしかないだろう。
「あの、すいません。詳しく申し上げる訳にはいかないんですが、私、その鏡の付喪神に大切なものを取られてしまって……急いで取り返さないといけないんです!」
「おいスミ。それって一体……」話が急展開すぎて虎之助はついてこられていない。
「あー。先輩はちょっと黙っててください。なるほどねー。そりゃ他人に相談出来ないわ。私も高校生の時、幽霊やら妖怪やら宇宙人の話してて、友達に距離置かれてたしなー。でもスミちゃん、安心して。私、あなたの話、百パーセント無条件で信用するから!」
「おい、いいのかよ。そんな事言って……」虎之助が心配そうに希来里の顔を見る。
「何言ってんですか。こんなおもしろそう……じゃなくて学問的に興味深い事。研究するしかないじゃないですか! わかったわ、スミちゃん。話せる範囲でいいから教えて。私も調べてみるから」
「有難うございます」
そして、ハジッコは、夜桜見物の際、夜桜と名乗る付喪神に会い、大事なものを奪われたと説明した。
「お前、警察でも魂取られそうになったって話してたんだよな。でも、取られたって……本当の事なのか?」
虎之助が首をかしげて訝しげに澄子の顔を見つめた。
「そうよね。こんな話を警察にしても、確かに相手にされないわ。
それでスミちゃん。ここからが重要なんだけど……取られたものって何なの?」
「うっ、それは……言わないとダメですか?」
どうしよう。ここで取られたのが澄子の魂だって言ったら、私が澄子でない事がバレてしまう。それはダメだ……ハジッコは、言葉に詰まった。
「うん。その付喪神を特定するにあたって最重要な情報かな。あいつらの嗜好って結構偏っていると、ものの本で読んだ事があるのよ」
「ほんとかよ」自信満々に澄子に詰め寄る希来里に虎之助が疑念を呈したが、そんなものはお構いなしに、希来里がじっとハジッコの眼を睨んでいる。
「あの。ハジッコ……ハジッコの魂を取られちゃったの!」
思い余ってハジッコは、口から出まかせでウソをついた。
「はい!? あの、ハジッコの魂って事は、魂全部ではなく、こうちょびっと右側だけ……みたいな感じ?」希来里が両手の幅でちょびっとな感じを示している。
「いや希来里。ハジッコっていうのは、澄子の飼い犬だ。この間、澄子が夜桜見物中に意識不明になった時、死んじゃったんだが……」
「なんと! それじゃ付喪神が実害を出している!? しかも犬とはいえ命まで……虎先輩。やはりこれは放っておいてはいかんでしょ」
「そう……だな。だが仮にスミの話が本当だとして、肝心のハジッコの遺体はすでに司法解剖されちゃってるし、魂を取り戻してもどうにもならないんじゃないか。もともと今日明日もしれない寿命だったと思うし」
「違います先輩! それだと魂が成仏出来ないじゃないですか!! たとえ犬畜生でも、魂の成仏と輪廻は、全生物の理です!!」
希来里の勢いに押されて、まだ半信半疑の虎之助も何も言い返せない。しかし、まあ、こいつは前からこういうスピリチュアルな奴だったし、澄子もそれで気持ちが軽くなるならいいか。そんな感じでこの話を見守っていこうと虎之助は思った。
◇◇◇
夜桜事件の日から一週間ほどたって、警察がハジッコの遺体を返してくれた。
日中、お父さんは仕事だったので虎兄がいっしょに警察に来てくれ、犬用の棺に入れてもらったハジッコを、予約していたペット用の斎場まで、そのまま車で運んだ。
夕方になって、お父さんとおばあちゃんが来た。そして柿沼さんご夫妻も顔を出してくれた。はは、ビスマルクもついて来てる。
そして告別式には、高橋先生と希来里さんも焼香に来てくれた。希来里さんは、柿沼さんご夫妻に、虎之助さんの彼女アピールを一生懸命していた。
この後、ハジッコの亡骸は荼毘に付され、ペット霊園の集合墓に収める予定だ。
自分の葬儀というのは、何か独特なものだが特に感慨はなかった。
ハジッコは、やはり自分の事よりも、澄子の事を何とかするのが最優先だと痛感していた。
告別式が終わって弔問の人達が帰られ、九重家のみんなもそろそろ引き上げようかという時、見知らぬ中年男性が一人、式場に入ってきた。
「ああ、すいません。遅くなってしまいました。もう終わりですか?」
そういう男性に、お父さんが「いえいえ、まだ大丈夫です。ごゆっくり拝んでやって下さい」と言っていた。
ハジッコの遺影に手を合わせながら焼香をしているその男性の後ろで、おばあちゃんがお父さんに尋ねている。
「あんたの知り合いかい?」
「いや……ご近所さんじゃないの?」
どうやら二人とも知らない人の様だ。
すると、焼香の終わった男性が、くるりと二人の方を向いて挨拶をした。
「失礼しました。警視庁特殊犯罪課の刑事、豊川と申します。今回のお嬢さんへの暴行事件に関し、今少しお話を伺いたいのですが」そういいながら豊川さんは、警察手帳を見せた。
それから、ペット斎場を出て、豊川刑事とともにみんなで喫茶店に入った。
「それで、特殊犯罪課って?」お父さんが不思議そうに尋ねた。
「ああ、いえ。気になさらないで下さい。そんな大仰なものじゃありません。
お宅の犬の死因も、まあ強い衝撃が原因で寿命が尽きたという事みたいでした。
ただ、最初の聴取の時、お嬢さんが結構スピリチュアルな話をされた様で、そうした方々の為に専門部隊があるって程度です」
「そんな……別にうちの娘は頭がおかしい訳では……」お父さんは怒っている様だ。
「あー、いや。すいません。誤解を招く様な言い方で。お嬢さんに問題はありません。ただ、今回発生した事例が今までとちょっと違ってまして……」
「はあ、一体何が? 刑事さん。あなたのお話はまるで要領を得ない」
お父さんがイライラしている。
「すいません。職務上伝えられない事も多くて。それでは率直に伺います。
お嬢さん。あなたあの時、あなたの魂の替わりに、犬の魂を取られてしまったのではありませんか?」
「はあ!?」豊川刑事のあまりに突拍子もない質問に、お父さんもおばあちゃんも口をあんぐりあけたまま固まってしまった。
しかし、ハジッコは別の意味で驚いていた。
この人は、ことの真相を知っている?
そうであれば、この人と情報交換するのは悪い事ではない様に思える。
だが……そうなると、私が澄子でない事が、お父さんやおばあちゃんにバレてしまわないだろうか。それ以前に、この人にバレたらそこで終わりだ。
そう考えて、ハジッコは豊川刑事とは今しばらく距離を置く事に決めた。
少なくとも、どういう言い方で今の状況を説明すべきか考え、相手がどこまで知っていて、どうしたいのかが分からない限り、深入りは危険だろう。
「すいません。取られたという事は無かったと思います。
ハジッコは私を守ろうとして、地面にたたきつけられて死んだのだと……」
「そうですか」目の前の澄子が本当の事を話しそうにないと察したのか、豊川刑事はあっさり引き下がった。そして、何か気づいた事があれば連絡を下さいと、自分の名刺を澄子に渡して店を出ていった。
「ああ、スミ。この人が、月岡希来里。大学のアウトドア同好会の一個下の後輩だ」
「あの、はじめまして。私は九重澄子です。今日はわざわざ、家まで来ていただいてすいません」
「えー、柿沼先輩。この子が幼なじみのスミちゃん!? かっわいー。それでお二人の仲はどのくらい進展されているので? 先輩とこの子の組み合わせなら、今時ならとっくに、xxくらいは……」
「あほ! 変な妄想すんな。俺とスミはそんな関係じゃねえ! こいつは妹みたいなものなの! すまん、スミ。こいつ妄想癖がひどくて……」
「あー、先輩ひどいー。そりゃ私は趣味の事とかで暴走したり妄想したりしますけどー。スミちゃんが引いちゃうじゃないですかー」
はは。にぎやかな人ね。でもそうか。虎之助さんは、スミちゃんを妹みたいに思ってたんだ……。
ハジッコは、澄子が実は虎之助にあこがれている事をよく知っていた。それも兄というより一人の男性として好意を持っている事を。それなのに虎兄は全然気が付いてくれないと、夜中によくその愚痴を聞かされたものだ。
「それでスミちゃん。付喪神の事が知りたいんだって? なんでまた今時のJKがそんなもんを?」希来里さんが話を振ってくる。
「あー、その。なんていうか。ほんとにいるなら会ってみたいなーと言うか……うまく言えないんですけど、それの事もっと知らなくちゃいけなくて……」
「?? なんかワケ有り? ま、いいわ。付喪神っていうのは、長く年月を経た道具に霊魂みたいのが宿って妖怪化したもので、人を誑かすと言われています。平安時代には記録があるそうよ」
「お前くわしいな」虎之助が横からちゃちゃを入れる。
「何言ってんですか。これでも柳田国夫大先生ではないですが、民族学、とくに妖怪変化・魑魅魍魎の類の研究に一生をささげようかと……あ、いや。先輩に一生捧げてもいいんですが」
「馬鹿。お前、澄子の前で何シレっと言ってんの!」
虎之助が真っ赤になって怒っている。
ああ、スミちゃん。やはり希来里さんは虎之助さんの彼女みたいですよ。
ハジッコは心の中で残念そうにそう呟いた。
「ごめん。先輩のせいで話が脱線したわ。それでスミちゃん。付喪神に会ってどうするの? それにあいつら、結構いろんな種類がいるわよ。まあ、私も会った事はないけど」希来里が真顔に戻ってハジッコに聞いた。
「会いたいのは……鏡を持った女です。たしか夜桜とか言ってたかしら」
「えっ!? それって……あなた、付喪神に会った事があるの?」
希来里だけでなく虎之助も怪訝な顔をしながら、ハジッコを見る。
しまった! うっかり口が滑った。しかしここまで言ってしまったのだ。自分の正体がバレない様にうまく説明するしかないだろう。
「あの、すいません。詳しく申し上げる訳にはいかないんですが、私、その鏡の付喪神に大切なものを取られてしまって……急いで取り返さないといけないんです!」
「おいスミ。それって一体……」話が急展開すぎて虎之助はついてこられていない。
「あー。先輩はちょっと黙っててください。なるほどねー。そりゃ他人に相談出来ないわ。私も高校生の時、幽霊やら妖怪やら宇宙人の話してて、友達に距離置かれてたしなー。でもスミちゃん、安心して。私、あなたの話、百パーセント無条件で信用するから!」
「おい、いいのかよ。そんな事言って……」虎之助が心配そうに希来里の顔を見る。
「何言ってんですか。こんなおもしろそう……じゃなくて学問的に興味深い事。研究するしかないじゃないですか! わかったわ、スミちゃん。話せる範囲でいいから教えて。私も調べてみるから」
「有難うございます」
そして、ハジッコは、夜桜見物の際、夜桜と名乗る付喪神に会い、大事なものを奪われたと説明した。
「お前、警察でも魂取られそうになったって話してたんだよな。でも、取られたって……本当の事なのか?」
虎之助が首をかしげて訝しげに澄子の顔を見つめた。
「そうよね。こんな話を警察にしても、確かに相手にされないわ。
それでスミちゃん。ここからが重要なんだけど……取られたものって何なの?」
「うっ、それは……言わないとダメですか?」
どうしよう。ここで取られたのが澄子の魂だって言ったら、私が澄子でない事がバレてしまう。それはダメだ……ハジッコは、言葉に詰まった。
「うん。その付喪神を特定するにあたって最重要な情報かな。あいつらの嗜好って結構偏っていると、ものの本で読んだ事があるのよ」
「ほんとかよ」自信満々に澄子に詰め寄る希来里に虎之助が疑念を呈したが、そんなものはお構いなしに、希来里がじっとハジッコの眼を睨んでいる。
「あの。ハジッコ……ハジッコの魂を取られちゃったの!」
思い余ってハジッコは、口から出まかせでウソをついた。
「はい!? あの、ハジッコの魂って事は、魂全部ではなく、こうちょびっと右側だけ……みたいな感じ?」希来里が両手の幅でちょびっとな感じを示している。
「いや希来里。ハジッコっていうのは、澄子の飼い犬だ。この間、澄子が夜桜見物中に意識不明になった時、死んじゃったんだが……」
「なんと! それじゃ付喪神が実害を出している!? しかも犬とはいえ命まで……虎先輩。やはりこれは放っておいてはいかんでしょ」
「そう……だな。だが仮にスミの話が本当だとして、肝心のハジッコの遺体はすでに司法解剖されちゃってるし、魂を取り戻してもどうにもならないんじゃないか。もともと今日明日もしれない寿命だったと思うし」
「違います先輩! それだと魂が成仏出来ないじゃないですか!! たとえ犬畜生でも、魂の成仏と輪廻は、全生物の理です!!」
希来里の勢いに押されて、まだ半信半疑の虎之助も何も言い返せない。しかし、まあ、こいつは前からこういうスピリチュアルな奴だったし、澄子もそれで気持ちが軽くなるならいいか。そんな感じでこの話を見守っていこうと虎之助は思った。
◇◇◇
夜桜事件の日から一週間ほどたって、警察がハジッコの遺体を返してくれた。
日中、お父さんは仕事だったので虎兄がいっしょに警察に来てくれ、犬用の棺に入れてもらったハジッコを、予約していたペット用の斎場まで、そのまま車で運んだ。
夕方になって、お父さんとおばあちゃんが来た。そして柿沼さんご夫妻も顔を出してくれた。はは、ビスマルクもついて来てる。
そして告別式には、高橋先生と希来里さんも焼香に来てくれた。希来里さんは、柿沼さんご夫妻に、虎之助さんの彼女アピールを一生懸命していた。
この後、ハジッコの亡骸は荼毘に付され、ペット霊園の集合墓に収める予定だ。
自分の葬儀というのは、何か独特なものだが特に感慨はなかった。
ハジッコは、やはり自分の事よりも、澄子の事を何とかするのが最優先だと痛感していた。
告別式が終わって弔問の人達が帰られ、九重家のみんなもそろそろ引き上げようかという時、見知らぬ中年男性が一人、式場に入ってきた。
「ああ、すいません。遅くなってしまいました。もう終わりですか?」
そういう男性に、お父さんが「いえいえ、まだ大丈夫です。ごゆっくり拝んでやって下さい」と言っていた。
ハジッコの遺影に手を合わせながら焼香をしているその男性の後ろで、おばあちゃんがお父さんに尋ねている。
「あんたの知り合いかい?」
「いや……ご近所さんじゃないの?」
どうやら二人とも知らない人の様だ。
すると、焼香の終わった男性が、くるりと二人の方を向いて挨拶をした。
「失礼しました。警視庁特殊犯罪課の刑事、豊川と申します。今回のお嬢さんへの暴行事件に関し、今少しお話を伺いたいのですが」そういいながら豊川さんは、警察手帳を見せた。
それから、ペット斎場を出て、豊川刑事とともにみんなで喫茶店に入った。
「それで、特殊犯罪課って?」お父さんが不思議そうに尋ねた。
「ああ、いえ。気になさらないで下さい。そんな大仰なものじゃありません。
お宅の犬の死因も、まあ強い衝撃が原因で寿命が尽きたという事みたいでした。
ただ、最初の聴取の時、お嬢さんが結構スピリチュアルな話をされた様で、そうした方々の為に専門部隊があるって程度です」
「そんな……別にうちの娘は頭がおかしい訳では……」お父さんは怒っている様だ。
「あー、いや。すいません。誤解を招く様な言い方で。お嬢さんに問題はありません。ただ、今回発生した事例が今までとちょっと違ってまして……」
「はあ、一体何が? 刑事さん。あなたのお話はまるで要領を得ない」
お父さんがイライラしている。
「すいません。職務上伝えられない事も多くて。それでは率直に伺います。
お嬢さん。あなたあの時、あなたの魂の替わりに、犬の魂を取られてしまったのではありませんか?」
「はあ!?」豊川刑事のあまりに突拍子もない質問に、お父さんもおばあちゃんも口をあんぐりあけたまま固まってしまった。
しかし、ハジッコは別の意味で驚いていた。
この人は、ことの真相を知っている?
そうであれば、この人と情報交換するのは悪い事ではない様に思える。
だが……そうなると、私が澄子でない事が、お父さんやおばあちゃんにバレてしまわないだろうか。それ以前に、この人にバレたらそこで終わりだ。
そう考えて、ハジッコは豊川刑事とは今しばらく距離を置く事に決めた。
少なくとも、どういう言い方で今の状況を説明すべきか考え、相手がどこまで知っていて、どうしたいのかが分からない限り、深入りは危険だろう。
「すいません。取られたという事は無かったと思います。
ハジッコは私を守ろうとして、地面にたたきつけられて死んだのだと……」
「そうですか」目の前の澄子が本当の事を話しそうにないと察したのか、豊川刑事はあっさり引き下がった。そして、何か気づいた事があれば連絡を下さいと、自分の名刺を澄子に渡して店を出ていった。
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