遠い海に消える。

中原涼

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 久し振りに重ねる唇に、心地良さより喜びが勝り、心臓が震えた。そっと唇を開くと、兄の熱く薄い舌が、遠慮がちに伸びて来た。歯列を舐められ、自らも舌を差し出し絡めて、舌の間で互いの唾液を絡ませていく。甘い。俺はゆっくりと息を吸って、兄の背中に手を回した。肩甲骨の窪みを確かめ、浮き立つ背骨を指先で辿ると、兄の息が少しずつ荒くなってきた。
「ん、んん、ふぁ……」
 兄の手が俺の脇腹を撫でてから、ゆっくりとシャツのボタンを丁寧に片手で外していく。すべて外し終えると、平らな胸を優しく、大きな掌が這う。温かくて、少し湿った掌。
 ずっと待ち望んでいた愛撫が、そこにあると思うと、気が触れそうだった。あの時よりも優しい手つきで、彼の指先が乳首に触れると、俺は反射的に体を引いた。しかし、それを察した兄の腕がそれを許さないと、俺の腰を強く引き寄せる。
「ん、っぁ……は」
 何度か指の腹で捏ねる様に撫でてから、摘ままれ、優しく引っ張られる。
「あ、ん……っ」
 ここに快楽があるのは、今までの経験上で培われていた。それでも、今までの誰とも違う、絶対にあり得てはならない相手だと思うと、身体が敏感に反応し、急速に下半身が溶けていく。
 俺は手を伸ばして兄の股間に触れた。布越しでも分かる、窮屈そうに勃起しているだろうそこを指先で擦ると、兄の身体が面白い程揺れた。
「やめろ、出るだろ」
 手を握られ、再び口づけされる。今度は遠慮なく口内の襞を深く愛撫され、喉奥へと唾液が流れ込んでくる。俺はそれを嚥下しながら、繋いだ片手を強く握り締めた。
 場違いなテレビの音の隙間に、兄のベルトを外す金属音、ジッパーを下ろす音が聞こえた。俺はもう一方の空いている手で、兄の股間に触れてみる。
 布から顔を出している肉棒が、熱く上向きに興奮しているのが分かった。それだけで心臓が鼓動を速め、下半身が疼く。
 ――俺ってこんなにセックスが好きだったっけ。
 そんな風に思ってしまう程、身体が素直に相手を求めていた。
 下着ごとズボンを下ろすと、今度は俺の下半身に指が移ってくる。慣れた手つきで前を開くと、上のシャツは残したまま、ズボンも下着も全て奪われ、キッチンの隅へと追いやられてしまった。見下ろすと、予想した通り、俺の性器も兄の性器も上向きに相手を欲していた。俺に関してはそれよりも、奥にある別の場所も疼いて、心臓が鼓膜のそばでどくどくと鳴り響いていた。
 これが、オメガの性なのか、俺自身の問題なのか分からないけれど。
 床に身体を横たえ、俺の足を割って入ると、兄の自分よりも大きな性器の亀頭が、何度も俺の双球から性器の裏筋に擦り当てられた。そのたびにびりっと強い快楽が走り、腰が揺れる。
「ふ、あっ……あ」
 膝裏を高く持ち上げ、何度も焦らされるように敏感になった性器同士を擦り当てられると、堪え切れず短い呼吸の合間に、声が溢れてしまう。
 俺を見下ろす兄の瞳には、俺しかいない。けれど、向けられている視線の先に、俺は本当に存在しているのかふと不安になった。熱に浮かされて蕩けている兄の強い眼差しが、今はほんの少しだけ幼くて、迷子の子供のようで、守ってやりたくなる。
「兄さん、挿れて……」
 懇願しながら手を伸ばすと、触れた唇が少し震えていた。兄は驚いたように俺を見つめてから、大きな身体で包み込むように覆い被さってくる。ねっとりと落ちた先走りが、俺と兄の腹の間で溶けた。
 腰を撫でてから、俺の性器を握って愛撫し、とろとろと溢れるそれを指に絡ませると、掌で尻の形を確かめる様に下り、太い指が秘孔に触れた。入り口の確かめる様に円を描いてからゆっくり熱い粘膜で覆われた指が挿入される。奥の奥まで沈み込んで、丁寧で慎重な抽送が始まる。ゆっくりと、次第に滑るようにして激しく内壁を擦り上げられ、指も一本から二本と増えていく。身体の奥が開かれていくたびに、襞を強く擦られ、それが目に見える形で、性器が勃ちあがり、身体が震えて悦ぶのが分かった。
「あ、っああ……はぁ、ん」
 兄の舌が尖り切った乳首を舐る。
 強く吸われて、軽く歯を立てられるけれど、痛みが快楽に変わってしまう。いよいよ何処かで踏み止まっていた理性が、完全に崖の隅ぎりぎりまで追いやられている事に気付いた。崖の下はもう二度と這い上がる事が出来ない程の、深い闇と霧で覆われている。
「全部俺のせいにしていいから」
 兄はそう言った。
 そう言って、俺と手を握ったまま崖から飛び降りた。
 兄の言葉を合図に指が引き抜かれ、既に膨張し堅く反り立っていた性器の先端が秘孔に触れる。
 ずぶずぶと狭い襞を押し退けながら挿入されると、心臓がどくりと大きく脈打った。
「ああ……っ、兄さんっ」
 俺は兄の背に指を立てて、内腿を震わせた。想像以上の内臓が押し上げられるような圧迫感と、堅いその存在感に、俺はただ縋りつくしかできない。
 兄は上半身を起こして、初めはゆっくりと、徐々に激しく俺の奥と襞を責め立て始める。
 快楽が身体に突き刺さるたび、頭の中から全てのものが流れ出ていく気がした。理性も本能も、好きも嫌いも。
「あっ、あっ、うう……んっ、ああっ」
 律動されるたびに、俺の生殖器から分泌される体液と、兄の精子が混ざる水音が、ぶつかる肉音と共に響く。時折腰を左右に振って入り口を押し広げ、更に奥へと侵入されると、びくびくと身体が勝手に跳ねた。
 甘美な痺れが細かい神経までも支配し、力を奪っていくのを感じて、涙が次々に溢れた。
「んっ、あ、気持ちいい……っ」
 ざわざわと脊髄を這い上がる様な快楽に、脳の中枢が溶かされていく。
「もっと突いてっ、んく、…はぁ、あ、いいっ」
「えろくなったなあ」
 感慨深そうに、揶揄う口調で兄が笑った。すると、
「俺も良い。こんなの、久し振りだ……っ」
 兄は意地悪な笑みを浮かべながら、荒々しく乱暴に腰を大きく振り、脳天に突き刺さる様な快楽を送り込んできた。足の指先まで痺れ、理性など微塵もなく砕かれる。

 どうにかここまで、こうなる事を避けて来た。兄に愛されたくても、それは禁忌であると知っていたから。
 けれど、そう言い聞かせる理性が、簡単に砕かれ目の前で塵になって行く。砕かれてその中で眠っていたのは、本能だ。快楽に痺れて、目の前の事しか考えられず、ただ兄だけを求める自分自身の本能だけだった。
「光、もう……っ、もたないっ」
「いいっ、もっと奥、兄さんっ…ああっ」
 鼓膜に届くのは兄の声と、体内で混ざり合う俺達の音。飛びそうな意識の中で、俺はただひたすら兄を求めた。この人が好きだと、理性を取っ払ってしまった本能が叫ぶ。喉奥が詰まる様な痛みを伴い、網膜で涙が滲んだ。
 俺は自らも足を開いて、兄の雄がもっと奥底まで届く様にと腰を律動に合わせて振った。
「兄さんっ、う、あっ、いいっ、そこっ。気持ちいい……っ、いくっ」
 虐められているような激しい突き上げに耐え切れず、幾度目かの打ち付けで、目の前の白い闇が弾け飛んだ。
「も、ああっ、ああ……っ」
 自分の悲鳴にも似た喘ぎが、鼓膜に響くと、秘部の奥にあった性器が勢いよく引き抜かれ、俺の腹と性器に白濁を飛び散らせた。最後の一滴まで絞り出すように、震える内腿に、兄の性器が擦り当てられる。
「はぁ、あ、……兄さん」
 達したばかりの気怠い腕を持ち上げると、兄の手が手を握ってくれた。早い鼓動がゆっくりと静まってくると同時に、意識が少しずつ遠ざかって行き、視界が暗転してくる。瞼の裏側にある闇が、これから先を示しているようで怖い。
 けれど、もう戻れない場所にいるのは、分かっていた。
 俺は今だけは、と不安を腹の底に隠して、ゆっくりと意識を手放し、何もかもを置き去りにして、深い闇に真っ逆さまに落ちて行った。
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