30 / 277
30."死んでもいいわ"はまだ聞けない
しおりを挟む
広場に戻る事にした私達は、保健の先生にお礼を言うと宿泊棟を後にした。
外に出ると、冷たい風が私達の髪を靡かせ、樹々の揺れる音と共にキャンプファイヤーの方から陽気な音楽が聞こえてきた。その音楽とは裏腹に、私は何だか胸の奥がギュッと締め付けられるような感覚を覚えた。そしてその気持ちは、自然と足を止めさせる。
そして、広場の周りに生い茂った木の上に見える空に小さな赤い光の粒が昇っていくのを見つめながら、私は「ごめん、やっぱり……戻りたくない」と呟いた。
すると莉結は立ち止まり、私に振り返ると「うんっ、宿泊棟に戻ろっ」と微笑む。でも、私はそんな莉結にできる限りの笑顔を造ってこう言った。
「莉結は行って来なよっ、一生に一度の林間学校だしさっ」
自分の身勝手に莉結を巻き込みたくは無かったのだ。だから私は……大人のフリをした。
「それじゃ、楽しんできなよっ」
私はそう言って来た道に足を進めた。すると私の背中に小さな声が響いた。
「……無いからっ」
その声に私が振り向こうとすると、背中に柔らかな感触がぶつかった。
「衣瑠が居なきゃ意味無いからっ。戻ろっ」
……また私の目頭が熱くなる。だけどそれは、さっきとは違って、温かさに溢れていた。
「莉結……」
私が振り返ると、そこには雲ひとつない空と、そこに浮かぶ満月。
「綺麗……」
私の口から自然と声が漏れた。すると、それを聞いた莉結が、私の視線の先を見て小さく呟いた。
「月が綺麗ですね」
「うん、そうだねっ」
「……だよねっ、そう言うと思った」
莉結は月を見つめたままそう言って笑った。
「えっ、何でっ?」
「いつか衣瑠が分かってくれる日が来る事を願ってますっ」
私の肩をポンと叩いた莉結の顔は、何だか昔の莉結を見ているみたいで……その無垢な笑顔は、私の心に掛かった靄(もや)を一瞬にして吹き飛ばしてしまった。
「莉結……ありがとっ」
私はそう言うと、莉結の手を取って走り出す。
「ちょっ……何で走るのっ?」
「そういう気分だからっ!」
もう何でもいいやっ……私には沢山の敵と、それよりもっともっと沢山の味方、そして莉結が居る。もし味方が一人も居なくたって、私には莉結が居ればいい、莉結だけは居て欲しいなって思った。
夜空に響く楽しげな声達から逃げるように走っていく私達は、何だか悪い事をしているみたいで……これが青春っていうのかな、なんて思ったりした。
そして、宿泊棟の灯りが段々と大きくなって来た時、私達は……宙を舞った。
外に出ると、冷たい風が私達の髪を靡かせ、樹々の揺れる音と共にキャンプファイヤーの方から陽気な音楽が聞こえてきた。その音楽とは裏腹に、私は何だか胸の奥がギュッと締め付けられるような感覚を覚えた。そしてその気持ちは、自然と足を止めさせる。
そして、広場の周りに生い茂った木の上に見える空に小さな赤い光の粒が昇っていくのを見つめながら、私は「ごめん、やっぱり……戻りたくない」と呟いた。
すると莉結は立ち止まり、私に振り返ると「うんっ、宿泊棟に戻ろっ」と微笑む。でも、私はそんな莉結にできる限りの笑顔を造ってこう言った。
「莉結は行って来なよっ、一生に一度の林間学校だしさっ」
自分の身勝手に莉結を巻き込みたくは無かったのだ。だから私は……大人のフリをした。
「それじゃ、楽しんできなよっ」
私はそう言って来た道に足を進めた。すると私の背中に小さな声が響いた。
「……無いからっ」
その声に私が振り向こうとすると、背中に柔らかな感触がぶつかった。
「衣瑠が居なきゃ意味無いからっ。戻ろっ」
……また私の目頭が熱くなる。だけどそれは、さっきとは違って、温かさに溢れていた。
「莉結……」
私が振り返ると、そこには雲ひとつない空と、そこに浮かぶ満月。
「綺麗……」
私の口から自然と声が漏れた。すると、それを聞いた莉結が、私の視線の先を見て小さく呟いた。
「月が綺麗ですね」
「うん、そうだねっ」
「……だよねっ、そう言うと思った」
莉結は月を見つめたままそう言って笑った。
「えっ、何でっ?」
「いつか衣瑠が分かってくれる日が来る事を願ってますっ」
私の肩をポンと叩いた莉結の顔は、何だか昔の莉結を見ているみたいで……その無垢な笑顔は、私の心に掛かった靄(もや)を一瞬にして吹き飛ばしてしまった。
「莉結……ありがとっ」
私はそう言うと、莉結の手を取って走り出す。
「ちょっ……何で走るのっ?」
「そういう気分だからっ!」
もう何でもいいやっ……私には沢山の敵と、それよりもっともっと沢山の味方、そして莉結が居る。もし味方が一人も居なくたって、私には莉結が居ればいい、莉結だけは居て欲しいなって思った。
夜空に響く楽しげな声達から逃げるように走っていく私達は、何だか悪い事をしているみたいで……これが青春っていうのかな、なんて思ったりした。
そして、宿泊棟の灯りが段々と大きくなって来た時、私達は……宙を舞った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
ほのぼの学園百合小説 キタコミ!
水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。
帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、ほのぼの学園百合小説。
♪ 野阪 千紗都(のさか ちさと):一人称の主人公。帰宅部部長。
♪ 猪谷 涼夏(いのや すずか):帰宅部。雑貨屋でバイトをしている。
♪ 西畑 絢音(にしはた あやね):帰宅部。塾に行っていて成績優秀。
♪ 今澤 奈都(いまざわ なつ):バトン部。千紗都の中学からの親友。
※本小説は小説家になろう等、他サイトにも掲載しております。
★Kindle情報★
1巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4
2巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP
3巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3
4巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P
5巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL
6巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ
7巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0F7FLTV8P
Chit-Chat!1:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H
Chit-Chat!2:https://www.amazon.co.jp/dp/B0FP9YBQSL
★YouTube情報★
第1話『アイス』朗読
https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE
番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読
https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI
Chit-Chat!1
https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34
イラスト:tojo様(@tojonatori)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる