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73.言葉の先
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私たちが席に案内されると、よりによって先生の隣のテーブルだった。ついさっき"それじゃぁ元気でなっ"なんて別れの挨拶をしたばかりなのにだ。莉結は家族連れの先生に対してそれなりに気を遣って軽く会釈だけして会話をせず席へと着いたけど、私はどうせ他人なのだからと、視線すら向ける事なく席に座った。
「瑠衣も頭くらい下げなよ」
そんな私に莉結はテーブルを挟んだ反対側の席から身を乗り出してわざわざ小声で注意してくる。私だってそれくらいした方が世間体的にはいいって分かっているけど、どうせ先生はそんな事気にはしない。あくまでも先生の教え子はこの場所に莉結しか居ないんだから。それをそのまま莉結に言ってやろうとしたけど、その後の莉結の小言が面倒くさそうでやめた。
「で、莉結は何頼むの?」
その言葉に莉結の溜息が響く。別に今の私は先生と無関係なんだからその方が自然だったと思うのに。莉結は何か納得がいかないようだったけど、私のその返答に気持ちを察したのか、それ以上私には何も言わずにメニューへと視線をやった。私はというとメニューを見つつもやっぱり視界の端に映る恩師の姿が気になって、時折隣のテーブルへと視線が動いてしまっていた。
……もし私がこのままの姿なら、先生とはずっと他人のまま。またどこかで会ったとしても学校での思い出や年月の経過を懐かしむような会話をする事も無いんだ。
今更になってそんな当たり前の事に気付いた自分が、どんなに楽観的で何も考えていなかったを知った。
「瑠衣ってさぁ、意外と寂しがり屋?」
その声に顔を上げると、莉結が私を見つめていた。突然変な事を言いだした莉結に、不機嫌さを露わに"何で?"と私が答えると、返ってきたのは"べっつにい"という言葉と不敵な笑みだった。
そんな風に言われると"全てをお見通し"みたいな感じがして何だか尺に触る。でも、きっと莉結は私の考えている事を分かっていてそんな事を言ったんだと思う。だとしても私が寂しがり屋? そんなんじゃない。私が考えている事はもっと深刻で、莉結になんか分かるはずない事なんだから。そう、もっと深刻なのだ。
……しかし"深刻"なんて言葉を使ってみると、その考え自体が軽薄なモノに感じてしまう。自ら深刻だと言える状況は深刻なものなのだろうか……。
すると私に向けられる視線を感じて顔を上げた。
「衣瑠ちゃんの注文待ちですよう」
気付けば隣には小さな端末を手にした店員さんの姿。少し困惑した表情から私の注文を暫く待っていたようだった。
「えっ……と、じゃぁ同じのお願いします」
店員さんが席を離れると、私は莉結を睨みつけた。
「確信犯でしょ」
「だってずっと同じメニュー見たまんま何か考え事してるんだもん。しかもさあ、どうせ瑠衣はいっつも目玉焼きハンバーグじゃん」
「私だってたまには……」
そう言いかけた時、私は気付いてしまった。一番私の事を知っている人間が今も私の存在を知っていてくれている事を。
「まぁいいやっ、いつものでいい。ううん、いつものがいいかな」
「でしょっ?」
やっぱり。私の事を一番知っているのは莉結なんだ。そして私が一番知っていて欲しいのも莉結なんだって。
私たちが何でもないお喋りに花を咲かせていると、食事を終えた先生が席を立った。そして莉結に"それじゃぁ元気でな"と声を掛けた。
「先生もどうかお元気でっ」
莉結が口を開く前に私の口が開いた。満面の笑みでそう言った私に一瞬驚いた様子の先生だったけど、"君もね"と、あの時と変わらない優しい笑顔を投げ掛けてくれたのだった。
莉結と私は先生の後ろ姿を見送る。あの頃と変わらない逞しい背中。すると少し歩いたところで先生の足が止まる。
「もしかして君は……、いや、元気でな」
先生は何か言い掛けてやめた。それがもし私の事だったならどんなに嬉しい事だろう。でも先生のその言葉の先は聞かなくて良かったと思う。だってその先の言葉を想像して期待に留めておくくらいが今の私には丁度良いから。
「瑠衣も頭くらい下げなよ」
そんな私に莉結はテーブルを挟んだ反対側の席から身を乗り出してわざわざ小声で注意してくる。私だってそれくらいした方が世間体的にはいいって分かっているけど、どうせ先生はそんな事気にはしない。あくまでも先生の教え子はこの場所に莉結しか居ないんだから。それをそのまま莉結に言ってやろうとしたけど、その後の莉結の小言が面倒くさそうでやめた。
「で、莉結は何頼むの?」
その言葉に莉結の溜息が響く。別に今の私は先生と無関係なんだからその方が自然だったと思うのに。莉結は何か納得がいかないようだったけど、私のその返答に気持ちを察したのか、それ以上私には何も言わずにメニューへと視線をやった。私はというとメニューを見つつもやっぱり視界の端に映る恩師の姿が気になって、時折隣のテーブルへと視線が動いてしまっていた。
……もし私がこのままの姿なら、先生とはずっと他人のまま。またどこかで会ったとしても学校での思い出や年月の経過を懐かしむような会話をする事も無いんだ。
今更になってそんな当たり前の事に気付いた自分が、どんなに楽観的で何も考えていなかったを知った。
「瑠衣ってさぁ、意外と寂しがり屋?」
その声に顔を上げると、莉結が私を見つめていた。突然変な事を言いだした莉結に、不機嫌さを露わに"何で?"と私が答えると、返ってきたのは"べっつにい"という言葉と不敵な笑みだった。
そんな風に言われると"全てをお見通し"みたいな感じがして何だか尺に触る。でも、きっと莉結は私の考えている事を分かっていてそんな事を言ったんだと思う。だとしても私が寂しがり屋? そんなんじゃない。私が考えている事はもっと深刻で、莉結になんか分かるはずない事なんだから。そう、もっと深刻なのだ。
……しかし"深刻"なんて言葉を使ってみると、その考え自体が軽薄なモノに感じてしまう。自ら深刻だと言える状況は深刻なものなのだろうか……。
すると私に向けられる視線を感じて顔を上げた。
「衣瑠ちゃんの注文待ちですよう」
気付けば隣には小さな端末を手にした店員さんの姿。少し困惑した表情から私の注文を暫く待っていたようだった。
「えっ……と、じゃぁ同じのお願いします」
店員さんが席を離れると、私は莉結を睨みつけた。
「確信犯でしょ」
「だってずっと同じメニュー見たまんま何か考え事してるんだもん。しかもさあ、どうせ瑠衣はいっつも目玉焼きハンバーグじゃん」
「私だってたまには……」
そう言いかけた時、私は気付いてしまった。一番私の事を知っている人間が今も私の存在を知っていてくれている事を。
「まぁいいやっ、いつものでいい。ううん、いつものがいいかな」
「でしょっ?」
やっぱり。私の事を一番知っているのは莉結なんだ。そして私が一番知っていて欲しいのも莉結なんだって。
私たちが何でもないお喋りに花を咲かせていると、食事を終えた先生が席を立った。そして莉結に"それじゃぁ元気でな"と声を掛けた。
「先生もどうかお元気でっ」
莉結が口を開く前に私の口が開いた。満面の笑みでそう言った私に一瞬驚いた様子の先生だったけど、"君もね"と、あの時と変わらない優しい笑顔を投げ掛けてくれたのだった。
莉結と私は先生の後ろ姿を見送る。あの頃と変わらない逞しい背中。すると少し歩いたところで先生の足が止まる。
「もしかして君は……、いや、元気でな」
先生は何か言い掛けてやめた。それがもし私の事だったならどんなに嬉しい事だろう。でも先生のその言葉の先は聞かなくて良かったと思う。だってその先の言葉を想像して期待に留めておくくらいが今の私には丁度良いから。
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