復讐姫の王国記

朝木 彩葉

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過去に戻ったあの日から何度も何度も夢を見たせいで夜にあまり眠れない体になっていた。
その影響か、今世は前世より少し小さい気がする。

今年で3歳になる私には去年、弟のルーカスが生まれた。

ルーカスは前世でも大人しくて賢い良い子だったけれど、今世でもとっても可愛らしい!

ふくふくのほっぺたにむちむちのあんよが赤ん坊の可愛いところ全てを詰め込んだようよ!

私は毎日ルーカスの元へ行き彼を可愛がりながら、どうすればあの未来を変えていけるのか考えていた。

まずいわ。回帰したすぐの頃はよく覚えていたのにメモをすることが出来なかったせいかあまり覚えていないわ…。

メモをするにも産まれたての皇女の部屋だもの。
徹底的に綺麗にされていて隠すところなんてないから何か記録することも出来ないし。
こんなことなら3歳になった今に回帰して欲しかったわ。
3歳なら宝箱が欲しいと言えばくれるでしょうに。
…。そうね、まずはプライベートなものを保管する宝箱から用意しましょう。
今からでも遅くはないわ。

そう思った私はかわいいルーの部屋を出て自室にむかった。

てくてく歩く私の後ろには侍女のマリがいる。

マリは侍女長の孫で、私の着替えや欲しいものがあったときの伝達なんかをしてくれてる。
まだ15歳だからあまり大変な仕事はしていない。はず。

「まり。」
「はい!殿下!」

笑顔で元気に返事をしてくれる。うん、とっても元気だ。

「あのね、おかあさまにね、おねがいがあるの。」
「かしこまりました!本日空いているお時間をお聞きしますね!」
「うん。おねがい。」

マリは耳につけているピアスを触るとコソコソと誰かに連絡を取り始めた。
おそらく彼女の母であるサリーだろう。
サリーはお母様の侍女だ。
マリは努めて真面目に振舞おうとしているが、何かいい事を言われたらしい。ぱあっと笑顔になった。
きっと隠し事が出来ない性格なのだろう。

「殿下、ちょうど休憩をなさっているみたいで、今お会いできるそうです。」

ぐるん!とこちらを向いたマリに驚いたけれど、今会えるのならよかった。
私はどうやら記憶力があまり良くないみたいだから。早く行かないと忘れてしまうかもしれない。

「よかった。ありがとうまり。いまからいきます。」

私はてくてくてくてく、少し早歩きのつもりで母のいる部屋へ急いだ。
この時間は母の執務室かな?

てくてくてく…
てくてくてくてく…

…遠い!
私の短い足ではなかなか着かない。

…止まって考える。
仕方がない。

「殿下?どうされました?」

「…まり。だっこ。」

不貞腐れて下を向きながらおねだりする。
私の精神年齢が子供だったらきっともっとマシにお願いできたのに。
23歳で死んだ私にはちょっと厳しい。
多分耳が真っ赤だ。とても恥ずかしい。

「はぅ!?はい!だっこですね!かしこまりました!失礼致します!!」

マリは何故か突然慌てて私を抱っこした。
でもよし、これで早く部屋に着く。
マリの肩をぽんぽんと叩きながらお母様の執務室へ急いでもらう。

「まり。おかあさまのところへいきたいの。」
「はわわわ…かしこまりましたぁ!!」

マリは鼻息を荒くしながら急いでくれた。

そんなに急ぐ必要はないのだけど。
でも頑張ってくれてるからいいか。
私はマリに揺られながらどんな宝箱をおねだりしようか考えるのだった。

扉の前でマリに降ろしてもらい、コホンと気合いを入れて扉をあける。

…とどかない。

「まり。とどかなかった。」

しょんもりしながら言うと

「はふぅ…。マリが!マリがおあけします!」

と気合いをいれて開けてくれた。

「ありがとう。」

部屋に入るとソファに座り紅茶を飲みながらサリーと話すお母様がいた。

「おかあさま。」

「あらアリス!隣にいらっしゃい。」

ソファによじのぼり隣に座る。

「アリス、何かお願いがあるんですって?」
「そうです。わたし、たからばこがほしいのです。」
「まあ、宝箱?どんな大きさかしら。」
「わたしがりょうてをひろげたよりもすこしだけおおきいくらいがいいです。」
「わかったわ。何を入れるのかしら?中に小さなポケットもつけておきましょうか?」
「おてがみと、もらっただいじなものをいれます。ぽけっともつけてください。」
「大丈夫よ。可愛いのをあげましょうね。」
「はい!ありがとうございます。」

私はそう言うとお母様に抱きついた。
お母様はそんな私を愛おしそうに見つめぎゅっと抱きしめてくれた。
今日はよく歩いたからか、そのままうとうと寝てしまった。

「陛下、私がアリス殿下をお部屋にお連れいたします。」
「大丈夫よ。もう少し時間に余裕があるから私が抱いていくわ。」

母であり皇后であるナリアはアリスの寝顔を見ながらそう言うと、抱き上げてアリスの部屋へ向かった。

そっとベッドに寝かせると、前髪をすいて横に流し頭を撫でた。

「最近はルーカスを見ることが多いから、つい大きくなったと思っていたけれどまだまだ小さいわね。」
「はい!とっても可愛らしいのです!」
「マリ、あまり大声で話しては殿下が起きてしまうでしょう。あなたは少し落ち着きなさい。」
「はあい…。」
「ふふ、大丈夫よ。」
「すみません。ありがとうございます陛下。」
「ありがとうございます!」


「さて、午後の仕事を始めましょうか。今日は早く終わらせて夕食はみんなと一緒にとりたいわ。あと少しなの。」
「かしこまりました。私もおそばで手伝わせていただきます。」
「ありがとうサリー。マリはアリスをよろしくね。」
「はい陛下!」

眠っていた私にはその会話は聞こえてこなかったのだった。
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