囚鳥の誘い

家霊

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永遠

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 行きは微かな希望の灯が存在していたせいか、全く印象に残らなかった冬ざれの景色が窓越しに見え、現実に打ちのめされて逃走した私の心を蝕んでいく。先ほどと同じく電車内には大勢の人がいて、彼らは皆、何の心配もなく生きているように見える。それなのに何故、憐み、蔑み、中傷が私には降りかかるのか。


 好転の兆しを掴んだコンビニにおいては、愛すべきペットのことを思い葛藤の末に勇気を絞り出したが、比べものにならない苦痛に晒されたせいか今回はすっかり枯れてしまった。悪意に満ちた空間での一時間にも及ぶ進退の躊躇は、頭上に連綿と続く夕闇の一部と化した。そのあと負け犬はトボトボと駅に向かい、現在は電車に揺られながら周りの境遇を羨み自らの人生を呪っているところだ。


 しかし一方で、日課として行っている筋トレや読書による手軽な努力ではなく、かつて脱落したレールへ這い上ろうと五里霧中の中で行う懸命な努力は、乱反射する万華鏡のようにキラキラとした世界を垣間見せてくれた。そしてそれは、枯れた土壌でさえ永遠に咲き続ける一輪の花を開かせたに違いない。


 先刻のショックから回復し自己肯定に浸り始めた私を乗せて電車はズンズン進んでいき、自宅の最寄駅へと到着した。改札をくぐり駅の外へ出ると、上空は完全に光を失い地上は寒さに磨きをかけていた。等間隔に置かれた常夜灯による人工の光に照らされながら自宅へと歩き続ける私だが、前日に消滅させようとしたけれど、未だに残存している暖かな光を確かに感じた。暗闇に燦然と輝く天然の光が私の帰るべき場所を照らしている。私とペットの絆はどのような状況でも輝きを放つ。それが自己満足だとしても消えることはない。……


 常夜灯に見放され暗闇を歩き始めた私は、自らが生み出した輝きを求めて駆けだした。
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