会えない時間は愛育てるとも限りませんのでお気をつけください

ルーキッドアン

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「ご、御無沙汰しております。」

吃った上にひっくり返るような声が出て、喉元を押さえるターニャであった。

つい先ほどまでは、ゲイリーにお礼を言いたいと探していたのに、ゲイリーから声を掛けられるとは夢にも思っていなかったターニャ。

「うん。本当に久しぶり」

「アシュトン公爵令息様...お変わり無く...」

「ゲイリーと!」呼んでください。と被せてきた。

えーっと。
良いの?とソフィアを見れば“良いに決まってるでしょう?!”と大きな目をクルンと回すソフィアであった。
そりゃあ、令嬢達あのこらと一緒くたにされたら泣きたくなるけれど。

「ゲイリー様...」

「はい」

「「.........」」

ほら、お互いにちゃんと段取りして話し掛けないからこうなっちゃう。

「ターニャ、少しの時間で良いですからお兄様とお話してくださらない?ね?」

「え?ソフィア様、あの...」

「ではお兄様、アレックス様が呼んでいますので殿下の所に戻りますわね」

ソフィアがゲイリーの右手の甲をぽんと叩くと、握られていた手が開かれた。
手のひらに爪の跡が...憤りと緊張とで長いこと強く握っていたようであった。

「...タチアナ嬢、もし良ければ少し話せますか?」

「えぇ...勿論。」

「此処ではなく...」「テラスにでも...」

二人の声が重なった。

ゲイリーはフッと笑って、ターニャをエスコートするようにテラスへいざなった。
ターニャの首筋を見つめながらテラスへとゆっくり移動する。
お互いにガチガチのすこぶる緊張感である。
ここまで時間が空いてしまえば、もう初対面の様であるし、事情があったとは言え、すれ違う事態が幾つも起きたことを考えれば、初対面の方が良いくらいであった。

もうすぐテラスに...という所で楽団の演奏が緩やかになり静かになった。
皆が上座に注目する。
ゲイリーとターニャもそれに倣って足を止めて振り返る。

アレックス王太子とソフィアが揃って立たれ、直ぐ脇に国王陛下とマリアンヌ王妃もいらっしゃる。
アレックス王太子が挙式と披露パーティーのために参列してくれたことへの謝辞を述べ、特に各辺境伯領から駆けつけてくれた当主らには日頃の安寧への感謝に合わせて、遠方より上京してくれたことを労った。
若い夫婦が紳士、淑女の礼を取れば、参列した全ての者たちも深い礼の形で返した。

続いてルパート陛下が最後に短く挨拶されて披露パーティーはお開きとなる様であった。
フォーク候爵家ナターシャ嬢の騒動に始まって一時はどうなることかと思われたが無事に終わるようでホッとするターニャであった。

ホッとはしたものの...である。

「今日は時間切れかな、タチアナ嬢」

「...そうですわねアシュ...ゲイリー様」

王族が正面脇の扉から退室して行き、参列者たちは三々五々に散って行く。
楽団の演奏はワルツではなくゆったりとした美しいメロディに変わってパーティーの終りを演出していた。

「ターニャ!」

探したよ、とランディ。

白馬の王子様が颯爽と現れた様だとゲイリーは思った。
自分が一部欠けている月だとすれば、ランディは何処にも瑕疵のない太陽の様であるなと、訳もなく自身を卑下したくなる。
同じ男から見ても辺境伯サイモン殿は畏れ多い程に格好良いし、その子息ランディも頭脳と処世と麗しい見た目とが相乗して


「ランディ・ガルシュ殿、御無沙汰いたしております」とゲイリーが声を掛ける。

「アシュトン様、先程は妹ブライオニーのお相手をして頂きましてありがとうございました。」ランディは深々と頭を下げて、とても光栄でございましたとにっこり笑った。

狙ってるわけでは無いだろうが、ランディの立ち回りのハレーションが凄い。
周りの令嬢方の黄色い声はかつての学園時代を彷彿とさせた。

「私のほうこそ、ブライオニー嬢のデビューにご一緒出来て光栄でした。」

ゲイリーは、ターニャに向き直って時間切れだね、やっぱりと言うと右手を差し出した。

「会えて良かった。」とゲイリー。

「私もです。」とターニャはゲイリーの手を握った。
ゲイリーに触れるのはアシュトン家のガゼボで彼に抱き締められた時以来で、手のひらから伝わる熱に胸が高鳴る。
ゲイリーの顔を真っ直ぐに見られず、彼の喉元を見ていると握手が解かれた。

カーテシーは大袈裟な気がして会釈をし、そのまま大広間の出口に向かう。
目線の先にオースティン夫妻とサイモン・ガルシュ、ブライオニー、ギルバートが待っている。
大勢の人の波に揉まれるように去っていく小柄なターニャをゲイリーは心配そうに見つめて、今まだ此処に残るランディを困惑気味に振り返った。

「タチアナ嬢に付き添ってあげて欲しい」

「ええ、そうします。今日までは。」

「は?!」

「ガルシュに帰りますし」

「ああ、そうなのですね。」

「正直な気持ちとしては、私が何処に居ようとも、貴方がターニャに寄り添ってあげて欲しい」

ランディの言葉にゲイリーは虚を突かれて黙り込んだ。

「これからは「会えなかった時間」をきちんと取り戻して欲しいのですよ、アシュトン様。」

では、と言ってランディはターニャを追いかけて去って行った。









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