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13話 お金

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 この女の子……どこかで見たことがあるような気がする。けれど、会ったことがあるわけではない。こんなに可愛らしい女の子と会っていたのなら覚えているはずだ。
 店員の女性がどうすればいいのかわからないのかおろおろしている横で私たちは見つめあっていた。まるでこの人は何者なのかとはかり合うように。
「はじめまして。失礼かもしれませんが、お持ちになった予算をお伺いしてもよろしいでしょうか」
私から声をかける。小さな弱々しい声で教えてくれたその数字は、とてもじゃないがこの店のドレスは買えないような金額だった。おそらく一番安いものでも手は届かないだろう。この店はそれなりのお高い店。ここでなくともいいだろうに。
「ここ、憧れのお店だったんです。だから、ちょっと覗いてみるくらい、と思ってしまって……」
なるほど。確かにここは有名な店だし、入学パーティーなどの特別な日に着るドレスに最適な品が置いてある。訳をあえて聞く気はないが、ここのお店に来たいと相談していればお金ももう少し多く貰えたかもしれないのに。まあ、それなりに稼いでいる家でなければこの店の品を買うことは厳しいかもしれないが。同じドレスを着回すのはマナー違反だし、一度高いドレスを着て仕舞えばその後も同レベルのドレスを着てくると思われて当然だ。まあ、要するに社会は厳しいのだ。
「もし仮にここのドレスが手に入ったとして、次回からはどうするおつもりだったのですか」
それをいうと少女は目線を下に落とし俯いてしまった。うーん、厳しいことを言ってしまっただろうか。けれどこれが現実なわけで……。
「で、では、私と約束をしてくださるのであれば足りない分は私がお支払いいたしましょう」
あーあ、言っちゃった。やっちゃった。チラリとマテオの方を見るがマテオは顔色ひとつ変えずに私に微笑みかけ、頷いた。良かった、勝手なことをして怒られるかと思った……。
「い、いいんですか」
先ほどの女の子の方に視線を戻すと、その子は目をキラキラと輝かせて私を見ていた。
「ええ」
ていうか……約束の内容も聞かずに飛びついてくるなんて、大丈夫かしら。この子……。入学パーティーと言うからには私と同じ年齢、少なくとも近い年齢なんだろうけど……なんなんだろ、母性が湧くというか……。
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