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1話 姉上と兄上の帰国パーティー

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 今日は姉上と兄上が留学生活を終えてこの国に帰ってきた喜ばしい日だ。姉上と言っても姉上は私の本当の姉ではない。いずれ姉になる、と言うことだ。姉上はこの国の王子様、私の兄上の婚約者の伯爵令嬢だ。
 姉上に会えるのはもう少し後だろう。私としては、早く姉上にお会いしたいのだが……おっと。こんなことを言っているからシスコンやろうなどと友達から呼ばれるのだ。けれど姉上に捧げるこの破裂しそうな愛は隠すのがとても難しい。……なんだかとても恥ずかしいことを思ってしまった気がする。
 姉上が帰ってきた嬉しさに思わずニヤニヤしていると、母上がノックもせずに部屋に入ってきた。
「ウィリアム、パーティーに行くわよ」
私はうなずくと母上の後について部屋を出た。

 母上の後に続いてパーティー会場に向かう。今日のパーティーは、兄上とその婚約者の帰国を祝う物だ。けれどそれは表向きの話。裏では王子を王太子に任命するのではと噂されている。そうなれば姉上はいずれ王妃様だ。姉上が他の人のものになってしまうのは悲しいが、姉上が幸せになるためならそんなことは我慢できる。姉上の婚約者である兄上、アンドリュー王子が王太子に選ばれますように。そして姉上が喜びますように。
 昔は兄上に辞退してもらってあわよくば私が……なんて考えた時期もあった。けれどそれは叶わない夢と知ってしまったのだ。姉上は兄上といらっしゃる時は本当に幸せそうな笑顔をしていた。その笑顔を見ていると、奪ってしまいたいなどと思うのが恥ずかしくなってしまうのだ。
 パーティー会場のドアが、きいいと音を立てて開けられた。母上は先に父上のもとへ行ってしまったようだ。入った途端、全員の視線がこちらに向けられる。王子という身分はどうしても目立ってしまうものだ。仕方がない。
 キョロキョロと辺りを見渡して姉上と兄上を探す。真っ先に会いたかったのだ。
「兄上、アメリア様。おかえりなさい」
公式な場ではアメリア様はまだ姉ではないので姉上とは呼べない。だが僕にとってはそれがむしろ嬉しかった。その瞬間だけ、僕は弟ではなく一人の男として姉上に会えるのだ。私の背が姉上よりも低いのは残念だけれど。
「おお、ウィリアム。ただいま」
「ありがとうございます、ウィリアム様」
そこで僕は、なんだかお2人の反応がおかしいことに気がついた。いつもならお2人は優しく微笑み返しでくださるのに、今日の笑顔はどこかぎこちない。特に、姉上の笑顔が。
「アメリア様、もしかしてなにか……」
僕の声は、首を振るアメリア様によって止められた。
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