ジルド・エヴァンズの嫁探し

やきめし

文字の大きさ
23 / 34

しおりを挟む

 ぐっと背伸びをして気合いをいれた。寝不足だけど昨日の朝には感じなかった気力がふつふつとわいて、やる気に満ち溢れている。
 
 「よし!」
 
 まだ暗いうちから薬草を干し、店先を掃除していると太陽が昇ってきた。陽射しが強い。これなら薬草もよく乾く。

 今日も暑くなりそうだ。

 「こんなもんか」
 
 やることを済ませてして一息つく。小腹がすいたので昨日ジルドさんから頂いたクッキーを食べようと袋から出すと、なんと可愛らしいリボンにメッセージカードまで入っている。とてもじゃないが妹が兄に渡すようなものじゃない。
 
 「……いや、でも妹さんの手作りだって言ってたし!」
 
 わざわざジルドさんが嘘をつく理由がないし、恋人から貰ったものを他人へ渡すような人に見えない。手さげ袋ごと渡されて、昨日のうちにきちんと中を確認しなかったのが悔やまれる。その中の紙袋にクッキーが入っていたので、ジルドさんも持たされた時にカードまでついてると知らなかった可能性はある。

 これは妹さんが誰かへ宛てたプレゼントなのでは?

 悪いと思いつつカードを読むと、きちんと宛名があった。読み方が合っているかわからないけど『キースくんへ』と書かれてある。昨日のジルドさんの話に出てきた同僚の若い男の子がそういう感じの名前だったような……。
 
 これはまずい!
 
 慌てて袋へ戻し、戸締まりをしてから店を飛び出した。ジルドさんは配達をしていると言っていたので、きっと誰でも彼を知っているはずだ。
 
 人間不信なんてことを忘れたかの如く、目に入った露店の主人に配達屋の営業所があることを教えてもらい、道がわからなくなると近くにいる町の人へ聞いて走り回る。

 そして三十分もしないうちに真新しい建物に辿り着いた。

 「ここが……」
 
 クリーム色の四角い、なんだか可愛らしい職場。薄いカーテン越しに人影が見えたので、勇気を振り絞り扉をノックする。

 何度かコンコンとノックしても中が騒がしいせいか聞こえていないようだ。鍵はかかっていない。そろりと開けてみた。
 
 「…あの」
 
 中の騒ぎがおさまり人影が動く。
 
 「トキじゃねえか!」
 
 ジルドさんだ。今日も朝からワイルドでかっこいい。一緒に出てきた都会的な雰囲気の男の子にも挨拶をして中へ入れてもらった。
 
 「クッキー。宛名ある。トキ貰えない」
 
 物珍しそうに俺を見ていた男の子が、ああ!と大声をあげる。やはり彼のだった。食べる前で良かったとホッとする。
 
 「いや俺が悪い。すまねぇなわざわざ」
 
 眉を下げたジルドさん。俺が悪い、だって!すき。
 
 それから事情を説明してくれたジルドさんとクッキーを大事そうに抱えている彼は、楽しそうにやいやい言い合いしながらじゃれあっている。頑張って聞き取ろうとするが、俺には二人の会話の速度がはやくて所々しか理解できなかった。
 
 なんか近い。うらやましすぎる。
 
 「ではぼくは休日なので!」
 
 テンポのいい会話が飛び交ったあと、彼はそう言って帰っていった。出勤していたわけではなかったらしい。
 ルンルン跳ねて帰った彼を見送りぽけっとしているうちにジルドさんと二人きりになってしまった。嬉しいけど、仕事の邪魔にならないように俺もそろそろ帰らなければ。
 
 「トキも、かえる」
 
 名残惜しすぎる…っ。だけど邪魔はしたくない。仕事着ジルドさんの姿を目に焼き付けていると「時間があるなら少し待て」と声をかけられ心臓が跳ねた。
 
 時間なんていくらでもあるし、この瞬間にジルドさんより優先する用事なんてひとつもない。トキはいい子で待ちます!
 ドキドキしながら眺めていると、ジルドさんは氷を削りだした。そういえば暑いな…とこのときになって思い出し、薬師服の中が蒸れていることに気付く。

 薬師は森や山を歩くので獣や虫を寄せ付けないよう常にニオイ消しをつけているが、俺は汗臭くないだろうか。走り回っちゃったし。やだな、あんなに急いで出るんじゃなかった。
 
 「トキ」
 
 ジルドさんが俺を呼ぶ。どっと心拍数が上がって、また汗が噴き出してしまう。
 
 「ぁ…つめたい」
 
 冷えた革袋を頭布の合間に入れられた。
 
 「頭のてっぺんが温まってちゃ危ねぇからな」
 
 ええ……すき…。
 
 ニカリと笑顔でそう言われちゃあ、一瞬で溶けてしまいそうだ。
 
 すき。ステキ。としか考えられなくなった俺に、ジルドさんは「ほれ」と飲み物を持たせた。桜より大ぶりのピンクの花が入った瓶を出してきたので気になっていたのだが「飲んでみろ」とすすめられてコップを傾ける。
 このコップってジルドさんがさっきまで使ってたやつですよね?なんて言わずに間接キスに浮かれながら飲むと、下心を吹き飛ばす美味さだった。
 
 「おいしい…」
 
 上品に口をつけていたのに、ジルドさんが見ているのも忘れてイッキ飲み。ぷはぁ~と酒を飲んだみたいな息を吐くと「店は何時からやるんだ」と聞かれた。特に決まってないので「昼過ぎにでも」と答える。
 決まってないのは天候に左右されるからだ。薬草はしっかり乾かしたいので、今日みたいにカンカン照りの日には沢山干しておく。開店は薬草の下準備が出来てからっていうのがダンとの生活で身に付いていた。
 
 なら時間あるな、と頷いたジルドさん。  
 
 「トキの買い物できるようなとこ案内したらぁ」
 
 彼は手頃な台車を持ってくるからと営業所の奥へ引っ込んだ。
 
 
 俺、死んでないよな?今からジルドさんとデートすることになったんだけど。デートだろ完全に?ふたりで買い物って同棲生活……?え、結婚…?
 
 都合よすぎる展開に混乱する俺。
 
 まさか、なにか裏があるんじゃ……。壺とか買わされたり?今なら借金してでも買ってしまいそうなんだけど。それかどこか引っ張り込まれて身ぐるみ剥がされ「ほぉ、スケベな身体してらぁ」って……!って!えっ?そっちは大歓迎!
 
 「おいトキ!出てこい!」
 
 でへへ、とニヤついていると外から声をかけられた。
 台車を押して裏からまわってきたジルドさんが営業所に鍵をかける。次の荷物は昼に来るらしいので、それまで空き時間だという。その時間を使って俺が町に馴染めるよう案内してくれるなんて…これは、もう結婚……。
 
 妄想してる間に、さっき飲んでいた花の入った瓶を何本も積んで、その重さを感じさせないように軽々と台車を操っていくジルドさん。薄くシンプルな作業着に浮き出る筋肉のスジをなぞりたくなる。そんな下心をぶり返している俺に、身体の大きな彼は「俺の影におさまってろ」と日を遮ってくれた。すき。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...