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家族になろうよ
しおりを挟む「よう、ちゃんと使えたじゃねぇか」
今夜七時半刻、店先で。
苦労しながらやっと送れたのが、そんな色気の無い短い文。
「どきどきしました」
えへへ、と笑うと頭をうりうり撫でられた。すき…。
ニカリと笑っている彼はカミソリ負けの肌も剃り残しも気にもしてなかったというヒゲを、最近は顎だけ短く揃えて整えている。ヒゲ剃り用に保湿ができるローションを俺が作って渡したので、荒れた肌の上からまたカミソリをあてて怪我をすることが無くなった。よしよしっ。
毎週のように会っているけど、やっぱりいつ見ても素敵だなジルドさん…その顎ヒゲでじょりじょりされたい…。
「酒屋の孫がおまえにって持たせてくれたんだ。そこのばーさんにも世話んなってるから今度顔見せ行くか」
また花酒水を貰ってしまった。それにジルドさんが信頼している酒屋の方々に紹介してもらえるなんて、もう完全に確定交際ルートきましたわ。絶対行く。
商店歩きをしたあの日から、ジルドさんとは休みの度に二人で会っている。といっても山へ入り薬草を採りながら俺が薬師蘊蓄(うんちく)を披露して、言葉をどれだけ習得できているか会話で確認するといった感じだ。
あとは買い物も『トキはぼったくられそうだ』と心配するジルドさんに手伝ってもらっている。俺が支払いをしている間に家具でも小麦袋でもひょいと抱えてしまえる屈強な人…。ステキ。すき。
「いい荷物持ちだなぁ先生!」と店主に声をかけられて、まるで妻のような顔をして照れておいた。
そう、着実に二人の仲は深まっている…はずなのに……
─────えっちな事いっさい起きないッ!!
なぜ!?
毎晩帰宅してジルドさんを想いながらひとりエッチしてるトキは心の準備万端だよ!山歩きしながらちょっとずつ巻きパンツの太股のスリットを深くしていってたら『虫に食われるぞ?』ってぎゅうぎゅう結び直されたけど全然めげない!だって親切の域を越えていると思わない?
そして今日、ついにきた一大イベント!なんと妹のサンドラさん宅のディナーへ招待された!
嫌われないようにせっせと手土産も用意したし、髪も花油で艶々にしておいた。まぁ薬師服で髪なんて見えないけどね!
なんで暑苦しい薬師服を着込んだのかというと、土産を用意するのに必死で大事な場面に着るような服を買うのを忘れていたからだ。トキ不覚。
朝にでも気付いていたら良かったのに、夕方になってそのことに気付いた俺は、清潔感だけはあるおろしたての薬師服を着るしかなかった。
貰った花酒水の瓶を室内へ運び込んでいると、めずらしく何か言いあぐねるジルドさん。どうしたのかしらと近寄ると、頭をかいて「これは俺から」と紙袋を手渡される。
中を覗くと服が入っていた。
「おめぇ何時までもその格好じゃあきついだろうと思ってな」
えっ、すき…!
「俺の言ったこと守って薬師の格好してんだろ」
好きなんですけど!
「奇抜なもんは選んでねぇから着てみろい」
着るんでまず脱がせて貰ってもいいですかねっ……!
なんて大興奮してたらジルドさんは「外で待っとくぞ~」と出ていってしまった。ここでばさっと脱いでトキの吸い付きたくなるような滑らかすべすべ柔肌を見せられるチャンスだったのに!俺のバカ!
慌てて着替えると、襟の詰まった白いワンピースのようなシャツに、足首の絞ってあるもったりしたパンツで、なんだか薬師たちの普段着っぽい格好になった。きっと薬師宿で見たことがあったのだろう。
「服ありがとうございます!トキ、どうですか?」
髪は長くて邪魔なのでひとつにまとめてみた。もっといい感じに結う方法をソーンに聞いておくべきだったと後悔したが、毎晩艶出しをしておいたのは無駄じゃない。ぜひとも触ってほしくて「どう?」「みて!」とアピール。高い位置でくくって馬のしっぽのように揺れる髪先をつるんと撫でたジルドさんは一言「おう、いいな」と目を細め優しく口角をあげた。
見てる俺が照れるほど、その表情は愛しいものを見守るようなあたたかさ。ドキドキして記憶が飛んで、もじもじしているうちにサンドラさん宅へ到着。
「いらっしゃい!さぁさぁかけて!」
外へ迎えに出てきてくれた彼女は、俺とジルドさんを出会わせてくれた恩人でありキューピットだ。背筋の伸びたスタイルの良い女性で、ジルドさんに似て長身。城田啓介(前世)の感覚で例えると、パリコレモデルのような強めの美人だ。でも表情豊かで、喋ると一気に雰囲気が変わる。これはキースくんが子持ちでもいいと言うのも頷けるな。
さぁさぁ!と促されて挨拶もそこそこに案内された。
「ジル兄さんったらせっかちで強引だから困ったことがあったらハッキリ言ってちょうだいね!」
「おめぇが言うな!なぁトキ、言った通りだろ?」
「やだ、なに吹き込んだの?!」
二人のやり取りに緊張も吹き飛ぶ。正直三日前からあまり食事が喉を通らなかった。
「うまく話せなかったらどうしよう」と何度も何度もシミュレーションしたし「もし軟膏が肌に合わなかったら」と何回も作り直した。好きな人の家族に合うなんて前世でも学生時代に付き合っていた彼女の親と鉢合わせて軽く挨拶した程度の経験しかない。
だがシミュレーションなんか全く無意味だったし、二人のぽんぽん飛び交う会話と、それでも俺に聞き取りやすいようにとハッキリ発音してくれている言葉のひとつひとつに優しさを感じた。
「とても似てます、ふたりは」
俺も声をだして笑えた。用意して貰ったサンドラさんの手料理はとても美味しくて、あの日に食べた味だった。泣きそうになりながら、やいやい騒がしい二人と、馬から離れないラルくんの画が可愛くて、心から楽しいディナーだった。
嫌がるラルくんに軟膏を塗るのにまた一悶着あったが、まるで家族に入れてもらえたようで、そのあったかい空間に、ずっと笑っていられた。
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