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夜に溶ける方法
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びゅおう。夜の冷たい風が、私を呼んでいる。今私は、貴女の住んでいたマンションの屋上に来ている。「・・・」貴女と過ごした、場所だった。なんとなく寝転んでみる。今日は星がよく見える。
―――小さい頃、星が好きだった。いつか私も大人になったら星みたいに輝く大人になると信じていたから。でも、その夢は溶かされてしまった。
―――小さい頃、月が好きだった。夜の空にひっそりと浮かぶ月は、誰もが見とれる。そんな大人になると信じていたから。でも、その夢も溶かされてしまった。
―――小さい頃、夜景が好きだった。いつか私も大人になったら夜景でも見ながらお酒を飲んでいる、少しかっこいい大人になれると信じていたから。でも、その夢さえも、溶かされてしまった。
私の好きだったものは全てこの世の中に溶かされてしまった。待ってくれと言っても無情にも夢は溶かされた。
―――!
―――私は、人間が嫌いだ。上へと上がるためなら平気で人を利用し、捨てる輩があまりにも多すぎるから。でも、この事実は溶けずに残っている。
―――私は、世間が嫌いだ。己の夢さえも決めつけてしまうから。夢を持てと教えられたのにいい加減現実を見ろという輩があまりにも多すぎるから。でも、この事実も溶けずに残っている。
―――私は、この世界が嫌いだ。貴女を否定し、誰も信じてくれなかったから。大っ嫌いだ……でも、この事実さえ溶けずに残っている。
どうして?私の好きだったものは溶けていくのに、嫌いなものだけ溶けずに残っているんだよ!もう全部全部溶けてしまえばいいのに…!
―――私は、私が嫌いだ。本当は全部世の中のせいじゃなくて自分のせいなのに、環境ばかり呪う醜い自分がいるから。 嫌いだ。だから、嫌いなものも、好きな物も溶かすためにこの屋上に来た。命を絶つためじゃない。溶けるためだ。
ゆっくりと、起き上がる。
私の好きな夜の景色が目に映る。あぁ、これも私が溶かすんだ。今私はあなたと過ごしてる時と同じくらい笑顔だろう。妙に軽い足取りでフェンスに手を掛けて、下を見る。
車が行き交ういつもの道路が見えた。あぁ、いつも通り。貴女が居ないことを除けば、いつも通りなのだ。貴女が居なくなっても世界は回り続けている。私を置いて、回り続ける。
フェンスのその先へ行くために。またがる。足は少しも震えていなかった。
フェンスのその先に来た。もう誰も私を止めない。最後に見る景色がコンクリート、というのは少し嫌なので、夜の空を見ながら溶けることにした。先まで自分がいた所を見る形になった。びゅおう、とまた風が吹いた。向かい風だ。いや、追い風か?どちらにせよ、夜が私を誘っている。えぇ、そんなに急かさなくても今行きます。足場を軽く蹴って、落ちた。ゆっくり、ゆっくり、溶けていく。私の好きだったもの、今も好きなものを見ながら。涙が溢れた。私がもっとちゃんとしていれば貴女は死ななかったというのに、悔やまれる。冤罪だって、何度も言ったのに、信じてくれない世の中が嫌いだ。もし私が生まれ変わったら、弁護士ではなく裁判長になろう。そうして、次こそは正しい判決を貴女に言い渡そう。裁判長になれるように、と貴女から貰ったガベル、まだ持ってるよ。このガベルも私と一緒に夜に溶かすんだ。またいつか、逢えますように。
ぐちゃり。
鈍い音と共に、私は夜に溶けた。貴方が、笑いかけている、ような、そんな、気が、した。―――――――――。
―――小さい頃、星が好きだった。いつか私も大人になったら星みたいに輝く大人になると信じていたから。でも、その夢は溶かされてしまった。
―――小さい頃、月が好きだった。夜の空にひっそりと浮かぶ月は、誰もが見とれる。そんな大人になると信じていたから。でも、その夢も溶かされてしまった。
―――小さい頃、夜景が好きだった。いつか私も大人になったら夜景でも見ながらお酒を飲んでいる、少しかっこいい大人になれると信じていたから。でも、その夢さえも、溶かされてしまった。
私の好きだったものは全てこの世の中に溶かされてしまった。待ってくれと言っても無情にも夢は溶かされた。
―――!
―――私は、人間が嫌いだ。上へと上がるためなら平気で人を利用し、捨てる輩があまりにも多すぎるから。でも、この事実は溶けずに残っている。
―――私は、世間が嫌いだ。己の夢さえも決めつけてしまうから。夢を持てと教えられたのにいい加減現実を見ろという輩があまりにも多すぎるから。でも、この事実も溶けずに残っている。
―――私は、この世界が嫌いだ。貴女を否定し、誰も信じてくれなかったから。大っ嫌いだ……でも、この事実さえ溶けずに残っている。
どうして?私の好きだったものは溶けていくのに、嫌いなものだけ溶けずに残っているんだよ!もう全部全部溶けてしまえばいいのに…!
―――私は、私が嫌いだ。本当は全部世の中のせいじゃなくて自分のせいなのに、環境ばかり呪う醜い自分がいるから。 嫌いだ。だから、嫌いなものも、好きな物も溶かすためにこの屋上に来た。命を絶つためじゃない。溶けるためだ。
ゆっくりと、起き上がる。
私の好きな夜の景色が目に映る。あぁ、これも私が溶かすんだ。今私はあなたと過ごしてる時と同じくらい笑顔だろう。妙に軽い足取りでフェンスに手を掛けて、下を見る。
車が行き交ういつもの道路が見えた。あぁ、いつも通り。貴女が居ないことを除けば、いつも通りなのだ。貴女が居なくなっても世界は回り続けている。私を置いて、回り続ける。
フェンスのその先へ行くために。またがる。足は少しも震えていなかった。
フェンスのその先に来た。もう誰も私を止めない。最後に見る景色がコンクリート、というのは少し嫌なので、夜の空を見ながら溶けることにした。先まで自分がいた所を見る形になった。びゅおう、とまた風が吹いた。向かい風だ。いや、追い風か?どちらにせよ、夜が私を誘っている。えぇ、そんなに急かさなくても今行きます。足場を軽く蹴って、落ちた。ゆっくり、ゆっくり、溶けていく。私の好きだったもの、今も好きなものを見ながら。涙が溢れた。私がもっとちゃんとしていれば貴女は死ななかったというのに、悔やまれる。冤罪だって、何度も言ったのに、信じてくれない世の中が嫌いだ。もし私が生まれ変わったら、弁護士ではなく裁判長になろう。そうして、次こそは正しい判決を貴女に言い渡そう。裁判長になれるように、と貴女から貰ったガベル、まだ持ってるよ。このガベルも私と一緒に夜に溶かすんだ。またいつか、逢えますように。
ぐちゃり。
鈍い音と共に、私は夜に溶けた。貴方が、笑いかけている、ような、そんな、気が、した。―――――――――。
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