53 / 68
Silbe3. ~希望の名は~
しおりを挟む
燃え盛る城内を、その男は走っていた。
事の発端は、小一時間ほど前。この世界の守護者たちが相対する敵……【神】とその配下である“天使”たちが、この地・王都ロマネーナを強襲したのだ。
守護者……“双騎士”たちは城下町を襲う【神】や天使たちの相手で手いっぱいのようで、この城内に入り込んだ天使たちは騎士団が対処していた。
逃げる貴族、戦う兵士たちを横目に、男はひたすらに走る。
遠い遠い過去の記憶を頼りに、たったひとりを助け出すために。
やがて、元は華美な扉がついていたであろう大広間へと躍り出た。
扉は破壊され、中の装飾もただのガラクタへと変貌している。
(あーあ、修復するのにどれくらいの国家予算が吹っ飛ぶんだか)
自身には関係のない話だけれど、と脳内で呟きながら、男は部屋の中心部へと視線を向けた。
ダンスパーティーなどが開かれるこの部屋へと逃げて来たのだろう、そこにはきらびやかなドレスを煤で汚しながらも、護衛と共に毅然とした顔で一体の天使と対峙する女性……ローズライン国女王、アリーシャ・ロマネーナが立っていた。
「“双騎士”に加担するモノ……殺害対象。破壊します」
無機質な天使の声に、護衛剣士がそれをキツく睨みつける。
幸い、天使も護衛も女王でさえも、男の存在に気づいていないようだ。
ならば、と男は鞘から剣を抜く。そうしてそのまま音もなく走り出し……――
「“双騎士”に加担するモノってなら、オレもそうなるわけか」
そんな言葉と共に、天使を切り捨てた。
「あな……たは……」
きらきらと淡い光を放って消滅した天使を見送って、驚いた表情を浮かべる女王と護衛にくるりと振り返る。
後頭部でひとまとめにした長い薄茶色の髪が、さらりと揺れた。
「……ご無事ですか、女王陛下? ……なんてな」
「……リツ? 本当に……貴方なの、リツ……!?」
みるみるうちにその紺色の瞳に涙を溜める女王。けれど、すぐさまそれを拭い、ありがとう、と微笑んでみせた。
「助かりました。見ての通り、フェリーネ以外の護衛とは混乱のさなかはぐれてしまいましたので……」
「あー……別に、公の場じゃねーんだから敬語じゃなくていいよ。
とりあえず、城から脱出するならオレもアンタを護衛するからさ」
アンタからそんな他人行儀にされると、調子狂う。
そっぽを向いてそう告げると、彼女はふふっと可笑しそうに笑んだ。
「そう……そうね。たったひとりの……家族だものね。
助けに来てくれてありがとう、リツ。護衛、よろしくね」
女王のその発言に、護衛である女騎士……フェリーネ・キュラスが驚いたような声を出す。
「で、ではこちらの御仁が例のアリーシャ陛下の弟君の……!?」
「ええ、改めて紹介するわね、フェリーネ。
彼は“リッゼル・ロマネーナ”。私の大切な弟で……希望よ」
男……リツは幼い頃、前王の時代にこの国から追放された王子で……女王アリーシャの弟だった。
そんな説明をして、ふわり、と花が咲くように、宝物を自慢するように、アリーシャは屈託のない笑顔を浮かべたのだった。
Silbe3. Fin.
Next⇒
事の発端は、小一時間ほど前。この世界の守護者たちが相対する敵……【神】とその配下である“天使”たちが、この地・王都ロマネーナを強襲したのだ。
守護者……“双騎士”たちは城下町を襲う【神】や天使たちの相手で手いっぱいのようで、この城内に入り込んだ天使たちは騎士団が対処していた。
逃げる貴族、戦う兵士たちを横目に、男はひたすらに走る。
遠い遠い過去の記憶を頼りに、たったひとりを助け出すために。
やがて、元は華美な扉がついていたであろう大広間へと躍り出た。
扉は破壊され、中の装飾もただのガラクタへと変貌している。
(あーあ、修復するのにどれくらいの国家予算が吹っ飛ぶんだか)
自身には関係のない話だけれど、と脳内で呟きながら、男は部屋の中心部へと視線を向けた。
ダンスパーティーなどが開かれるこの部屋へと逃げて来たのだろう、そこにはきらびやかなドレスを煤で汚しながらも、護衛と共に毅然とした顔で一体の天使と対峙する女性……ローズライン国女王、アリーシャ・ロマネーナが立っていた。
「“双騎士”に加担するモノ……殺害対象。破壊します」
無機質な天使の声に、護衛剣士がそれをキツく睨みつける。
幸い、天使も護衛も女王でさえも、男の存在に気づいていないようだ。
ならば、と男は鞘から剣を抜く。そうしてそのまま音もなく走り出し……――
「“双騎士”に加担するモノってなら、オレもそうなるわけか」
そんな言葉と共に、天使を切り捨てた。
「あな……たは……」
きらきらと淡い光を放って消滅した天使を見送って、驚いた表情を浮かべる女王と護衛にくるりと振り返る。
後頭部でひとまとめにした長い薄茶色の髪が、さらりと揺れた。
「……ご無事ですか、女王陛下? ……なんてな」
「……リツ? 本当に……貴方なの、リツ……!?」
みるみるうちにその紺色の瞳に涙を溜める女王。けれど、すぐさまそれを拭い、ありがとう、と微笑んでみせた。
「助かりました。見ての通り、フェリーネ以外の護衛とは混乱のさなかはぐれてしまいましたので……」
「あー……別に、公の場じゃねーんだから敬語じゃなくていいよ。
とりあえず、城から脱出するならオレもアンタを護衛するからさ」
アンタからそんな他人行儀にされると、調子狂う。
そっぽを向いてそう告げると、彼女はふふっと可笑しそうに笑んだ。
「そう……そうね。たったひとりの……家族だものね。
助けに来てくれてありがとう、リツ。護衛、よろしくね」
女王のその発言に、護衛である女騎士……フェリーネ・キュラスが驚いたような声を出す。
「で、ではこちらの御仁が例のアリーシャ陛下の弟君の……!?」
「ええ、改めて紹介するわね、フェリーネ。
彼は“リッゼル・ロマネーナ”。私の大切な弟で……希望よ」
男……リツは幼い頃、前王の時代にこの国から追放された王子で……女王アリーシャの弟だった。
そんな説明をして、ふわり、と花が咲くように、宝物を自慢するように、アリーシャは屈託のない笑顔を浮かべたのだった。
Silbe3. Fin.
Next⇒
0
あなたにおすすめの小説
雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~
朽縄咲良
ファンタジー
――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」
魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。
残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。
だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。
――そして、二十分後。
不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。
シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。
「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」
『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!
哀れな魔王の、明日はどっちだ……?
(表紙イラストは、ペケさんから戴きました)
*小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる