14 / 68
Past.12 ~かくしごと~
しおりを挟む
――話をしよう、ヒア――
(……話?)
ゆらゆらと揺らめく水中の世界。微笑みながら言った蒼の少年に、オレは首を傾げた。
――そう、話。きみの……過去の話だ――
(……過去……)
そう言われて、脳裏を過ぎったのはあの炎に包まれる城の夢だった。
……なぜだろう、あれは過去……なのか?
――きみを蝕むその夢は、きみの遠い過去の夢――
(過去の、ゆめ……?)
それはつまり、前世だとかそういうことなのだろうか。オレは少年を真っ直ぐ見つめる。
(あの夢を、知っているのか?)
問えば彼は、曖昧な笑顔を浮かべた。蒼い髪が水中の光に反射してきらきらと輝いている。
――きみは、あの夢を……過去を、知りたいの?――
(それは、まあ。……気になるしな)
頷くと、少年は複雑そうな顔で何かを考える素振りを見せた。その様子に首を傾げながら、彼の言葉を待つオレ。
――……その過去が、きみを壊すものだとしても?――
(……は?)
唐突なその発言に、オレはぽかんとする。どういう、ことだ?
――その過去は、キオクは、きみが本来思い出さなくてもいい遠い昔の出来事だよ――
ふわりと悲しげに笑みながら、彼は続ける。
――思い出せば、きっときみは壊れてしまう。……オレの、ように――
(お前……)
悲しげに遠くを見つめる少年に、オレは言葉を無くす。
壊れてしまって、それでこんなところに独りでいるのだろうか、目の前の彼は。
――オレもきみのパートナーも、そんなことは望んでいないよ――
(パートナー……ソカル? お前、ソカルのことも知ってんのか?)
突然出てきた名前に、思わず少年を凝視する。その視線に気づいた彼は、ただ再び曖昧に笑んだだけだった。
ふわふわとした笑みにため息を吐いてから、オレは話題を変えようと言葉を探す。
(……てか、お前さっき『逃げるな』とか言ってなかったか?)
――それとこれとは話が別――
先ほど魔物に襲われたとき、彼は確かにそう言ったはずだ。
そんな疑問に思ったことを口にすれば、すかさずピシャリと言い返された。
てか別ってなんだよ別って!
――夢に出てくる過去は思い出さなくてもいいけど……苦手なものは克服しなくちゃ――
(苦手なもの……なぁ……)
オレの苦手なもの、と言えばやっぱり炎なわけだが。思いっきり顔をしかめながら少年を見やる。
――そんな顔、しないでよ。別に今すぐ克服しろ、なんて言わないから――
(へ? そうなのか?)
無理やりにでも克服させられるんじゃないかと身構えていたから、少年の言葉に拍子抜けしてしまった。
――うん。だって、どっちにしてもきみは克服せざるを得なくなるし――
くすくす笑う少年を怪訝そうに見つめてみる。
(どういう、意味だよ)
――だってこれは、きみの過去と闘う旅だから――
にこりと綺麗に笑って、蒼の少年はオレの問いに答えた。
(過去と闘う旅……?)
――そう。……ああ、そろそろ時間だね。またね、ヒア――
首を傾げたオレに、少年が一方的に言い放つ。歪んで消えていく水の空間に、オレは思わず叫んだ。
(待てよ! お前の、名前……ッ!!)
言い切る前に、世界は白に包まれた。
+++
――数分ほど前。
「ヒア……」
様子がおかしくなったあと、倒れて目を覚まさなくなったヒア。
先ほどまでリブラが泣き出しそうな声でヒアの名前を呼んでいた。
きっと僕も酷い顔をしているのだろう、なんとも言えない空気が漂っていた。
「……やはり、か」
ぽつり、とその空気を破ったのは、琥珀色の剣士だった。
(確か黒翼、とか言う名前の、)
その声に彼の方向を見やる僕ら。彼は再び黙ってしまった。
「……あの……やはり、って?」
しかし気になって仕方ないのか、魔術師がおどおどと剣士に問いかけた。
「ヒア、だっけ? コイツにオレたちの『最終兵器』が憑依してるかもってな」
「調べさせて貰った」
その問いに、苦笑いの呪符使いが答え、剣士が淡々と続けた。
……というより、調べさせてもらった、って……。
「じゃあ、ヒアのことを追い詰めたのは、わざと……!?」
思わず睨みながら、僕は彼らに尋ねる。ああ、澄ましたような顔が腹立たしい!
「そうすれば《彼》が出てくる可能性が高かったからな」
地面に横たわるヒアを冷めた瞳で見つめる剣士に、僕は思わず殴りかかる。
「ソカル!?」
「黒翼!」
それまで沈痛な面持ちで黙っていた猫耳娘が驚いたような声を上げ、呪符使いが剣士の名を叫ぶ。
……僕の拳は、いとも簡単に剣士の冷たい掌に受け止められてしまったのだが。
「……ッ!!」
ギリ、と歯を食いしばりながら、僕は彼を睨む。対する彼は相も変わらず無表情だった。
「……お前もお前だ。本当に緋灯を壊したくないので有れば、契約などせず閉じ込めてしまえば良かったものを」
「……っお前なんかに……何がわかるッ!!」
剣士の言葉に、思わず声を荒げてしまう。
猫耳娘が困惑し魔術師やリブラが怯えているのが気配でわかるが、そんなことに構っていられる余裕なんてなかった。
「……お前は、何を隠している?」
全てを見通すような深い藍色の瞳が、僕を捉える。
……その言葉に、脳裏を過ぎったのは。
あの焼け付くような、紅い、紅い……――
(きみへ。過去は、あまりにも無慈悲にきみたちを傷つけるから。
……思い出さないで、どうか……)
Past.12 Fin.
Next⇒
(……話?)
ゆらゆらと揺らめく水中の世界。微笑みながら言った蒼の少年に、オレは首を傾げた。
――そう、話。きみの……過去の話だ――
(……過去……)
そう言われて、脳裏を過ぎったのはあの炎に包まれる城の夢だった。
……なぜだろう、あれは過去……なのか?
――きみを蝕むその夢は、きみの遠い過去の夢――
(過去の、ゆめ……?)
それはつまり、前世だとかそういうことなのだろうか。オレは少年を真っ直ぐ見つめる。
(あの夢を、知っているのか?)
問えば彼は、曖昧な笑顔を浮かべた。蒼い髪が水中の光に反射してきらきらと輝いている。
――きみは、あの夢を……過去を、知りたいの?――
(それは、まあ。……気になるしな)
頷くと、少年は複雑そうな顔で何かを考える素振りを見せた。その様子に首を傾げながら、彼の言葉を待つオレ。
――……その過去が、きみを壊すものだとしても?――
(……は?)
唐突なその発言に、オレはぽかんとする。どういう、ことだ?
――その過去は、キオクは、きみが本来思い出さなくてもいい遠い昔の出来事だよ――
ふわりと悲しげに笑みながら、彼は続ける。
――思い出せば、きっときみは壊れてしまう。……オレの、ように――
(お前……)
悲しげに遠くを見つめる少年に、オレは言葉を無くす。
壊れてしまって、それでこんなところに独りでいるのだろうか、目の前の彼は。
――オレもきみのパートナーも、そんなことは望んでいないよ――
(パートナー……ソカル? お前、ソカルのことも知ってんのか?)
突然出てきた名前に、思わず少年を凝視する。その視線に気づいた彼は、ただ再び曖昧に笑んだだけだった。
ふわふわとした笑みにため息を吐いてから、オレは話題を変えようと言葉を探す。
(……てか、お前さっき『逃げるな』とか言ってなかったか?)
――それとこれとは話が別――
先ほど魔物に襲われたとき、彼は確かにそう言ったはずだ。
そんな疑問に思ったことを口にすれば、すかさずピシャリと言い返された。
てか別ってなんだよ別って!
――夢に出てくる過去は思い出さなくてもいいけど……苦手なものは克服しなくちゃ――
(苦手なもの……なぁ……)
オレの苦手なもの、と言えばやっぱり炎なわけだが。思いっきり顔をしかめながら少年を見やる。
――そんな顔、しないでよ。別に今すぐ克服しろ、なんて言わないから――
(へ? そうなのか?)
無理やりにでも克服させられるんじゃないかと身構えていたから、少年の言葉に拍子抜けしてしまった。
――うん。だって、どっちにしてもきみは克服せざるを得なくなるし――
くすくす笑う少年を怪訝そうに見つめてみる。
(どういう、意味だよ)
――だってこれは、きみの過去と闘う旅だから――
にこりと綺麗に笑って、蒼の少年はオレの問いに答えた。
(過去と闘う旅……?)
――そう。……ああ、そろそろ時間だね。またね、ヒア――
首を傾げたオレに、少年が一方的に言い放つ。歪んで消えていく水の空間に、オレは思わず叫んだ。
(待てよ! お前の、名前……ッ!!)
言い切る前に、世界は白に包まれた。
+++
――数分ほど前。
「ヒア……」
様子がおかしくなったあと、倒れて目を覚まさなくなったヒア。
先ほどまでリブラが泣き出しそうな声でヒアの名前を呼んでいた。
きっと僕も酷い顔をしているのだろう、なんとも言えない空気が漂っていた。
「……やはり、か」
ぽつり、とその空気を破ったのは、琥珀色の剣士だった。
(確か黒翼、とか言う名前の、)
その声に彼の方向を見やる僕ら。彼は再び黙ってしまった。
「……あの……やはり、って?」
しかし気になって仕方ないのか、魔術師がおどおどと剣士に問いかけた。
「ヒア、だっけ? コイツにオレたちの『最終兵器』が憑依してるかもってな」
「調べさせて貰った」
その問いに、苦笑いの呪符使いが答え、剣士が淡々と続けた。
……というより、調べさせてもらった、って……。
「じゃあ、ヒアのことを追い詰めたのは、わざと……!?」
思わず睨みながら、僕は彼らに尋ねる。ああ、澄ましたような顔が腹立たしい!
「そうすれば《彼》が出てくる可能性が高かったからな」
地面に横たわるヒアを冷めた瞳で見つめる剣士に、僕は思わず殴りかかる。
「ソカル!?」
「黒翼!」
それまで沈痛な面持ちで黙っていた猫耳娘が驚いたような声を上げ、呪符使いが剣士の名を叫ぶ。
……僕の拳は、いとも簡単に剣士の冷たい掌に受け止められてしまったのだが。
「……ッ!!」
ギリ、と歯を食いしばりながら、僕は彼を睨む。対する彼は相も変わらず無表情だった。
「……お前もお前だ。本当に緋灯を壊したくないので有れば、契約などせず閉じ込めてしまえば良かったものを」
「……っお前なんかに……何がわかるッ!!」
剣士の言葉に、思わず声を荒げてしまう。
猫耳娘が困惑し魔術師やリブラが怯えているのが気配でわかるが、そんなことに構っていられる余裕なんてなかった。
「……お前は、何を隠している?」
全てを見通すような深い藍色の瞳が、僕を捉える。
……その言葉に、脳裏を過ぎったのは。
あの焼け付くような、紅い、紅い……――
(きみへ。過去は、あまりにも無慈悲にきみたちを傷つけるから。
……思い出さないで、どうか……)
Past.12 Fin.
Next⇒
0
あなたにおすすめの小説
雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~
朽縄咲良
ファンタジー
――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」
魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。
残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。
だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。
――そして、二十分後。
不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。
シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。
「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」
『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!
哀れな魔王の、明日はどっちだ……?
(表紙イラストは、ペケさんから戴きました)
*小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる