Destiny×Memories

創音

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Past.15 ~残響~

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 ふわり、と堕ちていく感覚に、意識が浮上する。
 深い海の中のように、少し明るいこの場所は、《彼》の精神世界の中でも一番深い場所……いわゆる深層心理の空間だ。
 時々ここに堕ちる僕は、未だにこの世界の主たる《彼》とこの場所で会ったことがない。
 拒絶、されているのだろう、きっと。無意識のうちに、《彼》に。

(哀しい、なんて思うのは、ただの僕のワガママだ)

 未だ目覚めることのない、大切な存在。その深層心理の海は、深い絶望や虚無感に苛まれていた。

「きみのために、僕は……――」

 呟いたそれは、水中に溶けていった。


 +++


 朝食を終えたオレたちは、初夏の香り漂うランカストの街から次の街を目指して出発しようとしていた。


「とりあえず、必要な物は全部買ったし……これで出発できるわね」

「おー……」

 ナヅキの言葉に、オレはやる気なく答える。
 ぶっちゃけ、横で無表情に佇んでいるソカルのことが気になって仕方ないのだ。


 朝食の途中で席を立ったソカル。
 その後合流した時は普段通りを装っていたけれど、どこか思い詰めてるというか……辛そうな表情を押し殺している感じがする。現在進行形で。


 歩き出しながらちらりと横目で死神を見やれば、何かを考えているようだった。
 ……と、不意に彼がこちらを向いた。訝しげな視線が、突き刺さる。

「…………何?」

「いや、別に……」

 そっと視線を外しながら答えれば、ソカルもオレから視線を外したようだった。

 そんな何とも言えない気まずい空気の中、オレたちは街を抜け、どこまでも広がる草原を歩いていた。
 涼しい風に、草木が揺れる。
 穏やかな光景に心が奪われたそのとき、目の前にクマみたいな魔物が現れた。

「こいつくらいなら一人でも大丈夫だな……よし、ヒア」

「無理ッス」

 魔物を前にして呟いたイビアさんの考えてることがわかり、オレは即拒絶した。

「まだ何も言ってないだろー?」

「言わなくてもわかるッス!! アイツをオレ一人で倒せとかそういう感じでしょう!?」

「よくわかってるじゃん。じゃあ頑張れ! 何事も経験経験!」

 それはもう素晴らしい笑顔でオレの背を押すイビアさん。
 オレは慌てて仲間たちを見るが、ナヅキとリブラもにっこりとした笑顔で手を振ってるし、フィリに関してはオロオロしながらも助ける気はなさそうだし、黒翼は相変わらず無表情だった。
 そこでソカルに助けを求めようと彼の方を向こうとした瞬間、彼が声を上げた。

「ヒアに無茶はさせたくない。パートナーである僕が手助けするくらい、いいだろ」

 イビアさんを睨みつけながらもオレを庇ってくれるソカルは、いつも通りで。オレは密かにほっと息を吐いた。

「まあ……仕方ないな。んじゃ、お前ら二人で頑張れ!」

 危なくなったら助けてやるよ、とからから笑う彼に、オレは脱力しつつも剣を握って目の前の魔物と対峙する。

「ヒア」

 横に並んで鎌を構えて魔物を真っ直ぐ見ていたソカルが、不意にオレの名を呼んだ。

「さっきは、ごめんね」

「えっ。いや、別に」

 申し訳なさそうな声で急に謝りだしたソカルに、オレは慌てて首を振る。

「とりあえず、コイツ倒すぞ!」

「……うん!」

 明るくそう言えば笑顔で頷き返してくれたソカルに、少し安堵した。

 ……のも、束の間のことでした。

「はっ!? ちょっまっ、いっイビアさぁぁぁぁんんんんっ!?」

「なんだー?」

 ははは、と遠くで呑気に笑うイビアさんが少し憎たらしい。
 熊型魔物の攻撃を避けながら、オレは彼を睨む。

 何が起こってるかと言うと、数分前。
 意気揚々と魔物に攻撃を仕掛けたオレだけど、その攻撃にキレたのか魔物が凶暴化して襲ってきました。どうしてこうなった!?

「いや、だって、そいつはそう言う特性を持つ魔物だし」

 だし、じゃねえよ! だし、じゃ!!
 のんびりと情報をくれたイビアさんに言いたい文句はたくさんあれど、とにかくこの魔物をなんとかしないと。
 オレは避けてばかりだけど、ソカルは何回か攻撃を食らわせている。

「ヒア、大丈夫っ!?」

 逃げ回るオレに、魔物の隙をついてソカルが声をかけてくれた。

「いやオレは大丈夫だけど、お前こそ大丈夫か?」

「僕は平気。でも……どうしようね」

 明らかにオレより攻撃を食らっているであろうソカルが、困ったような顔をする。

「……ごめん、オレが強かったら……っ!!」

「っヒアッ!!」

 オレの言葉を遮るようにソカルが叫び、ふいに視界が暗くなったことに気付く。
 驚いて顔を上げると、いつの間にか魔物がオレに至近距離攻撃をしようとしていた。

「――――ッ!?」

 クマに遭ったら死んだフリを、とは言うけれど、こいつはクマの姿をした魔物だし、そもそもパニック状態なオレは固まるしかできなかった。

「ヒア……っ!!」

 慌てたようにソカルが、鎌を振りかざす。
 だけど、魔物の攻撃がオレに当たる方がきっと早い。

「……ッ××××――ッ!!」

「……っ!!」

 ソカルが何かを叫び、オレは思わず目を閉じる。
 ……しかし、痛みは襲って来なかった。
 恐る恐る目を開けると、自分が手に握っていた剣がクマ型魔物に突き刺さっていた。

「……へっ……?」

 ゆっくり剣を抜くと、魔物はよろめくように後ろに倒れる。
 それを見計らって、ソカルが最後の仕上げと言わんばかりに鎌で魔物を薙ぎ払った。
 魔物は倒れ、ゆっくりとその姿が空へ消えていった。どういう仕組みになっているのかはわからないけど……とにかく、オレたちが倒したらしい。

「ヒアっ!! 大丈夫!? 怪我は!?」

 急いで駆け寄ってきたソカルが、焦ったようにオレに聞いた。

「う、うん。それより、お前……」

 さっき、なんて叫んでいたんだ?

 不安げに瞳を揺らすソカルに頷いてから、そう尋ねようとして……なぜかオレは黙ってしまった。
 聞いてしまったらいけないような……そんな、気がして。

「ヒア!!」

「ヒアさん!!」

「アーくん!!」

 ナヅキが、リブラが、フィリが駆け寄ってくる。
 それに苦笑しながら手を振ることで答えて、オレは心配そうな顔の彼らに近づいて行った。

 そんなオレの後ろで、ソカルが泣き出しそうな顔をしていたことに、気づかないまま。

(××××!!)

 ――あの叫び声が、残響する。その事実に耳を塞ぎながら。


(きみへ。聞こえないフリは、間違いではないよ)



 Past.15 Fin.
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