Destiny×Memories

創音

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Past.23 ~月明かり~

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 少年は沈む夕日を背に受け、その世界に佇んでいた。
 草原を撫でる風が、彼の金糸の髪をも揺らしながら通り過ぎていく。その左手には、月を模した変わった形の剣。


「未だに目覚めぬ【世界樹ユグドラシル】、か……」


 それだけ【世界樹】は心に深い傷を負っていた、ということなのだろう。
 そっと瞳を閉じながら、彼は【世界樹】たる蒼い髪の少年に話しかける。

「このままで良いわけがないということくらい、お前なら理解しているだろう?」

 返事がないことは、わかっている。だが構うこともなく、少年は言葉を紡ぐ。

「お前が目覚めなければ、この世界は本格的に【神】たちに支配されてしまう。
 ……片割れひとりでは、【世界樹】としての機能は不完全なんだ」

 少年がこの世界に来た時以来……いや、別の異世界で別れて以来、少年は【世界樹】……《彼》との繋がりを絶たれていた。
 それでも、それでも、と少年はただただ《彼》に語りかける。

「お前はまだ……眠り続けるのか? 僕との繋がりを、片割れとの繋がりを、断ってまで」

 眠り続ける蒼の少年は、黙したまま。ただ世界を、見つめ続けていた……。


 +++


「あ、ヒアにソカル。話は終わったの?」


 あの後、みんなの元に戻ったオレたちにそう声をかけてきたのはナヅキだった。普段通りの表情の中に、心配そうな色が見え隠れしている。
 ……まあ、リブラとフィリの二人は露骨に心配してます、という表情で、何を話していたのか尋ねたそうにしている分、ナヅキのそれは少しだけありがたかった。

(話せと言われても突飛な話だし、説明に困るし)

 何よりオレ自身がまだ整理できていないので、説明が出来る自信がない。
 彼女の言葉に頷いて、オレはとりあえず苦笑いを浮かべた。

「心配かけたみたいで、悪い。……ちょっとまだ、よく整理出来てないだけだから……あんまり、聞かないでくれたら助かる」

 後半の言葉は心配そうな二人に対して言ってしまったわけだが、二人は微妙な顔をしながらも頷いてくれた。

「話も纏まったみたいだし、そろそろ行こうか」

 そんなオレたちに、不意に声が降りかかる。完全に忘れていたが、ソレイユ先輩だ。
 もう日暮れだし、今から頑張れば日が完全に沈みきる前に街に着けるだろうから、というのがソレイユ先輩の意見だった。
 他に意見がなかったオレたちは、その言葉に従って歩き出す。

 ……ところで、あのニコニコと始終笑顔を絶やさない白い生き物、もとい深雪先輩に既視感を覚えているのだが。
 《彼》の知り合いだったりしないかと思って心の中で声をかけてみるが、反応がない。

(……いないのか?)

 まあいないならいないでいいのだが……気になる。

「ヒア? どうしたの、難しい顔して……」

「あー、いや、あの深雪って先輩……どっかで見たことあるような……ないような?」

 オレの曖昧な言葉に、ソカルが首を傾げる。

「うーん、元の世界で見たことあるような……でもまさかなぁ」

 同郷の人間がこんなに近くにいるわけない……と思いつつ、そう言えばあの世界から突然消えたという人がいたことを、ふと思い出してしまった。

(そう、テレビで見たその人は、この先輩みたいに真っ白な髪をしていて、名前が確か……)

「……あっ……あぁぁぁぁッ!?」

 突然上げた大声に、先頭を歩いていた先輩方はもちろん、後ろにいたナヅキたちや隣のソカルまでオレを凝視した。

「ひ、ヒア? どうしたの急に……?」

 恐る恐る尋ねるソカルには悪いと思いながらも、オレは前にいた深雪先輩に駆け寄る。

「あ、ああああ……やっぱり、どっかで見たことあると思ったら……!」

「……え、ええっと。ちょっと話の意図がわからないのですが」

 困ったような笑顔の深雪先輩に、オレは色々尋ねようとして……思いとどまる。

 人違い、ということはないとして、だからといってこんな大勢の前で話していい話題ではない。
 ……そもそも『それ』を、ソレイユ先輩は知っているのだろうか?

「えーっと……あんまり人前で話すのもどうかなって話題なんスけど。
 ……オレが先輩と同じ世界出身だ……って言ったら……伝わります?」

「あー、なるほど。気付いちゃった感じですネ」

 動揺するかと思いきや、先輩は変わらない笑顔でそう答えた。


 深雪先輩……羽崇深雪うたかみゆきは、オレと同じ世界にいた。

 五年ほど前、オレが住んでいた街の隣の都市にある学園で、刺傷事件が起きた。
 その犯人の生徒は、クラスメイトを刺した後、学校の屋上から飛び降りて行方不明となったらしい。

(行方不明なんて作り話だと、そう思っていた、のに)

 目の前で絶えず笑顔でいるその人は、テレビや地元紙で報道されていたものと、同じで。

「……羽崇……深雪さん、ッスよね……?」

 悲しそうに、懐かしむように、目の前のその人はただただ笑んでいた。


 +++


 とりあえず暗くなる前に街へ行こう、と言ったソレイユ先輩促されて、再度歩き出したオレたち。
 しばらくして、夕闇に浮かぶような光に包まれた街に着いた。

 その街の名は、オッフェンド。

 ランカストに比べると小さな街だが、夜になっても活気溢れるこの街には、旅人の拠点になっているのか彼らの姿も多く見られる。
 街並みはレンガを使用した建物が多く、街の中央には酒場と小さな噴水広場もあった。

 そんな喧騒溢れる街を横切って、少し静かな通りにあった宿屋にオレたちはやってきた。
 テキパキと受付で手続きを行うソレイユ先輩を横目に、オレは深雪先輩について考えていた。


 ……深雪先輩は、オレたちの世界ではいわゆる“犯罪者”だ。
 級友を傷付けただけでなく両親をもその手で殺めているのだから、まあ当然だろう。

 だけど、きっとそれには理由があったんじゃないかと思う。両親を殺すほどの、何かがあったのでは。
 でなければ、学校の屋上から飛び降りたりするはずない。
 報道の向こう側、本人でしかわからないことが……。


「ヒア、ちょっとアンタ聞いてんの?」


 思考の渦に飲まれていると、頭に軽い衝撃を受け次いで呆れたようなナヅキの声が聞こえてオレは顔を上げた。
 困ったような表情のソカルと心配そうな表情のフィリと、首を傾げているリブラ、不思議そうな表情のソレイユ先輩と笑顔の深雪先輩。
 そんなメンバーの視線を一身に受け、オレは少したじろいだ。

「え、えっと……何だっけ……?」

「…………」

 ナヅキからの冷たい視線が突き刺さる。

「部屋割りの話です、ヒアさん」

 そんなオレに助け舟を出してくれたのは、リブラだった。
 部屋割り。そんな話してたのか……全く聞いていなかった。

「僕とソーくん、アーくんが同じ部屋です」

 後は女の子は女の子、先輩方は先輩方で別れているのだと心配そうな表情のままフィリが教えてくれる。

「なるほど、わかった」

 それに頷いてから、オレは深雪先輩を見やった。先輩は笑顔のまま首を傾げている。
 そんなオレたちを見て、何か納得したように頷いてからソレイユ先輩がソカルたちを連れて先に部屋へ向かってくれた。
 残されたオレたちは、月明かりが射す静かな廊下の真ん中に立っていた。


「……さて。それで、お話とは何ですか?」


 相変わらずの笑顔で、深雪先輩がそう切り出す。

「……先輩について、考えてたッス。先輩は、オレたちの世界では“犯罪者”です」

「まあ、そうですネ。否定しません」

 反省もしてないですけど、と言いながら、目の前のその人は哀しげに笑んでいる。

「……でも、両親まで殺すなんて……よほどのことがない限り、まあ有り得ない話だとオレは思うんス。
 ……テレビや地元紙には載らなかった、深雪先輩にしかわからない真相が、あるんじゃないのかって」

「……それでヒアくんは、私をどうするおつもりで?」

 試すような声色で答えを促す先輩に、今度はオレが笑ってみせた。

「ここはオレたちの世界とは違う世界ッス。……捕まえたとしても、証拠なんてないですし。
 それに……人の家庭事情にまで首を突っ込みたくないし、先輩が真相を話したくないなら聞きません。
 ましてやオレはただの一般人で、他人を裁く権限なんて持ち合わせていませんから」

「……てっきり、根掘り葉掘り聞かれるものだと思いましたヨ。ヒアくんは案外ドライなんですネ……」

 脱力したように笑って紡がれたその言葉に、よく言われます、とオレも苦笑する。

「でも……ありがとうございます」

 月明かりをその身に受け穏やかに笑む深雪先輩に頷いて、オレはソカルたちが待っているであろう部屋へ向かった。
 ああ、そうだ。もう一つ言いたいことがあったんだ。
 立ち止まり振り返ると、首を傾げている先輩が目に入った。

「深雪先輩、これからよろしくお願いします!」

 深雪先輩は、初めて心の底から嬉しそうに笑ってくれた。


 ――ありがとうヒア。深雪のこと、受け入れてくれて……――


 いつの間にいたのか、嬉しそうな《彼》の声が、脳裏に響いた。


 +++


「君が目覚めないのなら、僕が……」


 呟いて、少年は立ち上がる。その手には、星を模した《彼》の剣……【スターゲイザー】。


 ……そして《彼》が眠るその部屋には、《彼》以外、誰もいなくなった――



 Past.23 Fin.
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