Destiny×Memories

創音

文字の大きさ
31 / 68

Past.29 ~きみのこと~

しおりを挟む
 あれから次の街・カスファニーに到着したオレたち。ソレイユ先輩は相変わらず黙ったままだった。
 いつも通り宿を確保して、その一室に集まる。何とも言えない空気が、この場を支配していた。


「……色々聞きたいことはあるけど……まずその【歌神候補】ってなんなのよ?」

 誰もがどう切り出すか悩んでいたところに落とされたのは、ナヅキの問いかけ。
 それに少しだけ微笑んで、ソレイユ先輩は宿の木目調の天井を見上げながら語りだした。


 【歌神候補】……ツィールト・ザンクは、この世界とは違う世界……神々の住まう世界、『神界』の神様だった。
 いや、厳密には神様にはなれなかったのだが。
 彼はその身に【闇】……オレの中にいる《彼》曰く【魔王因子ヘルファクター】というものを宿し、【全能神】たちにその存在の抹消を望まれ、味方である仲間たちと共に逃亡していたそうだ。
 【全能神】たちはそんな【歌神候補】と仲間たちを追い詰め、やがて仲間たちを殺した。
 仲間たちによって逃げることに成功した【歌神候補】だが、彼らの死に耐えきれず……現れた【神殺しディーサイド】に殺してくれ、と頼んだという。


 先輩の説明に、オレたちは思わず【神殺し】……ディアナを見る。彼は何かに耐えるように俯いていた。

「……別に、ディアナを責めたいわけじゃないんだ。オレは【歌神候補】と直接関わりがあったわけじゃないし……」

 ただ一度だけ見たその儚い少年を追い詰め、自分を含む配下の天使たちに事実を語ろうとしなかった【全能神】に対して不信感を抱いているだけだ、とソレイユ先輩は語る。

「ところで」

 ふと疑問が沸き上がったオレの声が、一瞬の静寂に包まれた空気を破った。

「その【全能神】……って、つまりカミサマッスか?」

 その言葉に、ナヅキたちも先輩たちを見つめる。
 答えをくれたのは、それまで黙って聞いていたリブラだった。

「……はい、そうです。
 【全能神】……ゼウス様は、数多の天使と神々を束ねる、いわば神々の王。
 その二つ名の通り、全知全能の力を持つとされる威厳ある神……のはずです……」

 しかし連日の戦いや先ほどのソレイユ先輩の話が堪えているのだろう、後半は曖昧な声音になっていた。
 そんな彼女に感謝を述べてから、オレは今度は深雪先輩に視線を向ける。

「……深雪先輩、この前自分のことを【ウタガミ】と言ってたけど……何か関係があるんスか?」

「たいしたものではありませんヨ。
 ただ、その【歌神候補】さんのお力を受け継いだというだけですから。
 厳密には【神】ではないんです。その辺、ややこしいですからネ」

 確か【海神うみがみ】セシリアと逢ったときにそのようなことを言っていたはずだ、と思い出し問いかければ、思いの外あっさりと返事が返ってきた。
 まだ少し疑問点はあるが、まあオレが気になることはこの辺かな……と口を閉じた時だった。


「……あの、蒼い剣士……」


 ぽつりと声が漏れる。隣に座っていたソカルだ。

「……ヒアを、殺すって……言った」

「そ、そうよ!! なんなのアイツ!! 初対面でいきなり宣戦布告とか何様のつもり!?」

 ソカルとナヅキの剣幕に、折角考えないようにしてたのになあと苦笑いを溢す。
 フィリとリブラも先輩たちをじっと見つめている。

「……あの人、深雪さんたちの知り合いですか?」

 尋ねたフィリに、先輩たちはそうだと頷く。

「……彼の名前は、アサ。……我々と同じ……“双騎士ナイト”です」

「“双騎士”……!? あんな奴がっ!?」

 そっと深紅の瞳を閉じて答えた深雪先輩を、ソカルがきつく睨んだ。
 オレとしても、殺すと言ってきた相手が自分たちと同じ……そして恐らく先輩に当たるであろう“双騎士”だということに、少なからずショックを受けている。
 なぜ、そんな殺意を受けなければならないのか。
 問えば、先輩たちは苦々しい表情を浮かべた。

「……それは……」

「……前に、イビアさんたちが『ヒアの中に自分たちの最終兵器が憑依してる』って言ってたけど、もしかしてそれ?
 だとしたら、随分と傍迷惑な最終兵器ね。
 今までヒアが特に何も言わなかったから、あえて触れずにいたけどさ!」

 まるで自分のことのように怒ってくれているナヅキとそれに同意するように頷くソカルたちを見て、説明が面倒くさくてあえて黙っていた《彼》に関することで、仲間たちにずいぶん心配をかけていたことに今更気付いてしまった。

(ああ、そんな顔をさせたいわけじゃなかったのになあ)

「……そうですネ。彼……朝くんがヒアくんの命を奪うと宣言した理由としては……我々が《彼》と呼ぶ存在がヒアくんの中にいるからです」

「……一体どうして、アーくんの中にいるです……?」

 不安げな顔でフィリが首を傾げれば、深雪先輩は「そこまではわからない」と俯いてしまった。

「なぜ《彼》がヒアくんの中にいるのか……なぜ、ヒアくんでなければいけなかったのか……我々もわからないのです。
 ……《彼》は、私たちですら……避けているようですから」

 悲しそうな笑顔を浮かべる先輩に、オレは思わず中で聞いているであろう当人に心の中で話しかけた。

(……お前、お前の話題出てるけど……なんか言うことないのか?)

 しかし《彼》からは返事がなく、脳裏にはただ静寂が広がるばかりだった。

「ヒア。アンタは何か知ってんの? 当事者なわけだし」

 ナヅキの問いかけに、オレは答えを持ち合わせていない。首を横に振ってから、静かに口を開く。

「……オレだって、《あいつ》のこと知ってるわけじゃない。
 いつもオレのピンチに助けてくれるくらいだし……」

 言いかけて、ふと目の前にいる先輩たちを見る。この人たちは、《彼》の正体や名前を……知っているのではないか?

「……《あいつ》は……何者なんですか? 先輩たち、知ってるんですよね?」

 《彼》のことも、あの朝という名前の蒼い剣士のことも。
 だが、それに答えたのは先ほどまで黙したままだった話題の人物だった。


 ――おねがい、ヒア。……なにも、きかないで――


 舌っ足らずで泣き出しそうなその声に、口を噤んでしまう。
 しかしそんなオレに気が付いたのか、俯いたままだったディアナがこちらを真っ直ぐに見つめてきた。

「……今、《彼》から何か言われたのか」

「え、あ……うん……。『何も聞くな』って……」

 そう素直に言葉を返せば、ディアナと先輩たちが複雑そうな表情でため息を吐いた。

「……まあ、《彼》がそう言うのでしたら……我々は何もお教えすることはできませんネ……」

「……っそうやって!! そうやってまた何も説明せずに、そうしてヒアに嫌な思いをさせたり傷付けたりするのか、お前らはっ!!」

 あくまでも静かに語っていた深雪先輩に、ソカルが激昂する。
 まあ彼にしては随分と平静を保った方だな、とどこか他人事のように考えながら、オレはそっと彼の腕を引いた。

「ソカル、いいんだ」

「いいって、何が!! 全然よくないよ!!」

「……それでもオレは、いつも助けてくれる《あいつ》のことを信じてる。
 たとえそれで……あの剣士に、命を狙われているとしても」

 辛そうなソカルを横目にそう言い切れば、その場にいた全員が息を飲んだ。


(そう、命を狙われるなんて慣れっこだ)

(“あの時”……前世のときから、ずっと……――)


 涙を湛えた相棒には、気が付けずに。


 +++


「あああああっ!! トリトア!! トリトアがぁっ!!」


 黒に包まれた、どこかの世界。青い髪の少女……【海神】セシリアが悲痛そうな声をあげた。

「ミネルくぅん!! あたし、あたしの部下がやられたよー!!」

「……“双騎士”……いえ、あの【世界樹ユグドラシル】が……まさか」

 ポニーテールを揺らしながら自身に泣きつくセシリアをそのままに、【識神】ミネルは手を口元に当てて独り言ちている。
 その様子を見ながら、緑髪の少年……アルティがぽつりと呟いた。

「部下を……殺されたのなら、セシリアが……“双騎士”たちを直接……倒せば、いいんじゃない……?」

「……はっ! ……そうね、そうよね!!
 てかあたし、前にあいつらに『絶対倒す』って言ったし!!」

 彼の発言に気を取り直したのか、セシリアはパッと顔をあげてうんうん、と頷き背の高いミネルを見上げた。

「てわけでミネルくん、あたしちょっと行ってくるねー!!」

 やられたらやり返すのが基本だよね! と明るく言い放ち、彼女はそのまま駆け出してしまった。
 呆然とするミネルに、傍で静かに彼らの会話を聞いていた金髪の女性……アーディが苦笑いを浮かべる。

「セシリアちゃん行かせてもてよかったん、ミネルくん?」

「……まあ、問題はない……はずです。色々と、不安ではありますが」

 ミネルは呆れたようにため息を吐き、【全能神】ゼウスに報告をする、と言って踵を返した。
 焚き付けた張本人であるアルティを引き摺るように連れていきながら。

「……セシリアちゃん、相手は“双騎士”だけやあらへん……【世界樹】もおるみたいやから、どうか気ぃ付けてな……?」

 彼らの後ろ姿を見送りながら、アーディは妹分に思いを馳せる。
 見上げた天井は、闇を映したかのようにどこまでも深く……【全能神】の憎しみを、嫌でも彼女に思い知らさせた。


(きっと、全部、アズールちゃんのせいなんや)

(わたしもミネルくんたちも、そう思わんと……耐えれへんかった)



 想いは、すれ違ったままに。



 Past.29 Fin.
 Next⇒
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...