19 / 20
訪問者C スー・ケイソウ 7
しおりを挟む
ケマルのスタンスに呆れながらも、自分の成果を思い出すとどうしてもにやついてしまうメイプルは、そんな自分をなんとか押し込めて、真面目に振り返る。
「でもまさかこの店に本当に入るとは、かなりのおまぬけさんもいたものね」
囮にするとしていても実際に犯行が行われる可能性は低くなるようには計画はしていたために、その強欲さにメイプルは呆れ顔だ。
開店を知らせる看板を出して、表の掃除もしていたショートンが戻ってきた。
「念のためスーさんにいてもらって良かったっす」
どこから聞いていたのかあっさり会話に参加するショートンを、ちらりと見たケマルだったが、もう何も言わない。
カッコよかったとスーを見上げるショートンに、そうでもないですと謙遜するスーにメイプルもその肩を叩く。
「思ってたより大活躍だったみたいじゃない。私が仕掛けておいた物使わずに済んじゃったわね」
それは聞き捨てならなかった。
「おい!」
けれどそれは最早誰の耳にも届かない。
スーは一番の部外者のはずなのに、メイプルに頼みごとを始める。
「それはこれからの防犯のためにそのままでお願いします」
そしてショートンもケマルの知らない話を始める。
「僕も使い方習ったあれ持ったままでもいいっすか?」
それが知りたいわけではないケマルは、なんだそれはとは言えず、それぞれに視線をさ迷わせながらどう正すべきか迷っているうちに話は進んでしまう。
「もちろんよ、次がいつかなんて分かんないんだから。ただね、ちょっと腑に落ちないことがあるのよね」
話題が移りそうになっているとケマルが止めようとした。
「いや、だから」
聞き入れられるはずもない。
「何かあったすか」
ショートンが真剣な顔でメイプルに近寄る。
「ちょっと簡単に情報が手に入りすぎた気がするのよ」
「あっちが油断したんじゃないっすか」
「そうだとしても、それまで一切姿を掴めてなかったのに、私たちが探り出した途端まるで導かれるみたいな感じがして」
「本当はもっと大きな黒幕がいるとかでしょうか」
スーも重い声を出す。
「んー、それもねぇ」
「そんな話はヨソでやれよ。ここは今営業中の俺の店の中だぞ。せめて裏でやれ」
しかし、店内で立ち読みや本を探している客人はお構いなくといった感じで微笑んでいる人ばかりだった。
「みんな大丈夫だって」
「ご主人、もう今更っすよ。これも含めてウチの店でやんす。むしろ名物っす」
「名物って……、そしてウチって言うな」
「それこそ今更では」
「うっせぇ」
「でね、黒幕って犯罪に加担してる相手でしょ。でもねー、そうじゃなくてもっと外からの視点っていうか。足切りとかじゃなくて、君達捕まえたいの? そう、ならどうぞって感じ。しかも警察じゃなくて私たちに情報分かるようにわざとしてる感がね」
「それってただの親切ってことですか?」
「親切なら警察にとっくにタレこんでるでしょ」
「じゃあ僕らに親切ってことっすか」
「本当に親切だったら危険から遠ざけるだろう、向かわせてどうする」
ケマルも思わず口を挟む。
「確かにそうですね」
スーが首を傾げる。
「じゃあ罠だった」
「窃盗犯たちにとってはね。私たちにはなんの被害はなかったじゃない」
「お前の考えすぎなんだろ」
「そう言われたそうなのかもしれないけど」
店の扉が開いたを思ったら、台車が入ってきた。押している人が見えず、ケマルがまた珍妙な客が本の持ち込みにでも来たのかと手助けに向かうと、押していたのはフミだった。
「小豆もらってきた!」
「は!? 小豆は洗うもので仕事道具? あれ、違うのか。給料も小豆なのか?」
首を傾げながらもケマルが押し手を変わると、フミの姿が隠れるほど積まれた麻袋は台車であっても重い。さらに呆れながら、フミがそんなものをどっからか押してきたことは追及する気もなかった。そんな力があるのかとか、それとも質量を変える術があるのかと、さては店の前まで誰かに押してもらったのかとか。そんなことは聞かず、真実より、ここにこれがある事実にケマルは重きを置いた。
「ちゃんとお給料も貰ったよ。あと友達が新しい服のデザインもしてくれるって! 小豆はいっぱいあるから貰っていいよって言うから、ね」
「ね! ってなんだよ。どうするんだ、これ」
とりあえずカウンターの前においた小豆の袋たちをケマルは邪魔そうに眺めた。その横で胸の前で手を組んで祈るように見上げてくるフミがいる。
「炊いてよ~、あんこにするとかお赤飯にするとか~」
その猫なで声を聞いて店のあちこちで働いている者たちが何事かと寄ってくる。
ケマルは目を細めて腕を組んでフミを見下げる。
「俺にそんなスキルはない」
フミは眉毛を下げて、悲し気に周りを見る。
「僕にもないっす~」
「私にもないわよ」
「僕できますよ」
もう転職したと言っても過言でないほど店に入り浸っているスーがその顔の横で手を挙げていた。
「え?」
「僕料理とかお菓子作るのが趣味なんです」
「カボチャ~、すばらしいね~、作って作って!」
早速らんらんと目を輝かせ、台車ごと迫っていくフミの後ろでメイプルが目を丸くしていた。
「頭がカボチャだからかしら」
「そんなの関係あるっすかね?」
ショートンもしきりに首を捻る。むしろ逆じゃないかとメイプルと謎の意見交換を始めだす。
「できるって言うなら任せればいいさ」
ケマルは台車から一抱えもある麻袋を持ち上げスーに投げる。
「ほれ」
「わっ、と、とと」
「じゃあ頼むわ、三階に台所あるから使え」
「いいんですか?」
てっきりケマルが三階まで付いていくものだと思っていたショートンは飛び上がらんばかりに驚いた。
ショートンはこれまで三階のプライベートな空間にはケマルが居ないときには立ち入らないと決めていた。特にケマルに言われたわけじゃないけれど、礼儀だと心得ていた。
ケマルはそもそも子供の頃農村で暮らしいたことがあり、特に一人きりのスペースは必要としなくなっていた。もちろん店を経営していく上できちんとした管理が必要な物はあるため、金庫などもしっかり備えている。そしてそれは緊急時のためにショートンも開け方まで知っている。なぜなら店にはそれ以上に価値がある商品が真横に並んでいるし、さらに言えば倉庫にもツジー仕込みの様々な術が施されている。
「隠すようなもんはないし、お前もいまさら勝手に家捜しするような奴じゃないだろ」
スーがぴしりと音がしそうなほど姿勢を正した。
「もちろんです! しっかり美味しいものを作らさせていただきます」
大げさな態度にケマルがはたと気が付く。
「あっ、でも道具がたりないんじゃないか? ウチにあるの包丁、まな板、小さい鍋とフライパンくらいだぞ」
ケマルはほとんど使わず、最近ではショートンが簡単な料理をするから辛うじて使われている調理器具では大量の小豆は処理できないとケマルとショートンはスーを見る。
「大丈夫です、どこかで調達してきましょう」
スーが伝手を考え始める。それは意外に近くにいた。
「それならあたしが貸してあげるわよ」
今度はメイプルが手を挙げた。
「薬品調合用のとかで作ったものは俺はごめんだぞ」
ケマルが言うとメイプルはしっかり顔を顰めた。
「失礼ね、ちゃんと調理用のものよ。小豆炊くなんてしたことないけど、一般的な料理くらいはするの」
「おお、こんなところにも居たか」
「すぐ出せるけど、もう使う?」
「どこに持ってんだよ」
「マジックボックスに決まってるじゃない」
「お前くらいの奴が持ってないわけ無いよな」
ケマルもリュック型のそれを貰ってはいるが、それでも常に携帯するサイズではなく魔力なしのケマルが使うには内容量を確保するためにリュックにせざるを得なかった経緯から未だに簡単に大量に持ち歩いている様には羨ましさがあるケマルだった。
「からまないでよ」
言いながらポイポイと大きな鍋や蒸籠なんかが出てくる。
「なんか、どれもサイズでかくないか? 一般的な料理の範囲以上のサイズ感に見えるんだけど」
「そう? 普通だと思うけど」
ショートンが面白そうにそれらを見詰めている。
「メイプルさんは食べても太らない体質なんすね!」
「そうね、それに魔法って意外に体力使うのよね」
メイプルが出した道具を持って階段を上がっていったスーの後ろを跳ねるようにフミが付いて行った。
「よっぽど楽しみなんっすね」
「座敷童だからな、サガには抗えないんだろ」
その日は一階にいてもいい匂いがずっと漂っていた。小豆を煮ている匂いから、ごはんが炊けるようなの匂い、あんこの甘い匂い。
そして、当たり前のようにそれから数日ケマルも小豆料理を食べることになった。
「南瓜と小豆って、ありか?」
南瓜と小豆の煮物を見て、ケマルは顔を顰めていた。
「普通だよ」
小豆が好物な座敷童のとなりでスーがメニューの説明をする。
「あんこを乗せるのでもいいんですが、今回は南瓜の甘さを生かしたパターンにしました」
「気を使いました、みたいな言い方だけど、俺の常識では存在しないメニューなんだけど。甘さ控えてればいいってもんじゃ」
見ただけで甘そうな雰囲気に二の足を踏んでいる横でショートンが箸を進めている。
「おいしぃっすよ!」
「ありがとうございます」
「またもらってくるね」
満足げな三人にケマルが言えることはもうなかった。
「もんじゃない……、けど、作ってもらったんだから文句は言わないさ。たとえ勝手に作って出されたものだとしても、感謝して食べるさ。いただきます」
ケマルは本当にただ黙々と食べた。特に甘党でも辛党でもない。そして好き嫌いもない。だから、作ってもらったものに文句を言い続けることはできない。違和感があっても、ただ食べるだけだ。そしてスーの作るもので不味いものはなく、違和感を感じつつもしっかりと食べた。
それから、なぜだかスーはしょっちゅう三階で料理をするようになっていた。フミが強請っているのか、ショートンが頼んでいるのか、メイプルに言いくるめられているのか、ケマルはもう確認もしてないが、夕飯はスーが作る料理であることが多くなっていた。
そしてこの小豆がご近所に評判で、小豆そのものも、調理された物もメイプルが世話になっているお礼として差し入れると喜ばれた。
「でもまさかこの店に本当に入るとは、かなりのおまぬけさんもいたものね」
囮にするとしていても実際に犯行が行われる可能性は低くなるようには計画はしていたために、その強欲さにメイプルは呆れ顔だ。
開店を知らせる看板を出して、表の掃除もしていたショートンが戻ってきた。
「念のためスーさんにいてもらって良かったっす」
どこから聞いていたのかあっさり会話に参加するショートンを、ちらりと見たケマルだったが、もう何も言わない。
カッコよかったとスーを見上げるショートンに、そうでもないですと謙遜するスーにメイプルもその肩を叩く。
「思ってたより大活躍だったみたいじゃない。私が仕掛けておいた物使わずに済んじゃったわね」
それは聞き捨てならなかった。
「おい!」
けれどそれは最早誰の耳にも届かない。
スーは一番の部外者のはずなのに、メイプルに頼みごとを始める。
「それはこれからの防犯のためにそのままでお願いします」
そしてショートンもケマルの知らない話を始める。
「僕も使い方習ったあれ持ったままでもいいっすか?」
それが知りたいわけではないケマルは、なんだそれはとは言えず、それぞれに視線をさ迷わせながらどう正すべきか迷っているうちに話は進んでしまう。
「もちろんよ、次がいつかなんて分かんないんだから。ただね、ちょっと腑に落ちないことがあるのよね」
話題が移りそうになっているとケマルが止めようとした。
「いや、だから」
聞き入れられるはずもない。
「何かあったすか」
ショートンが真剣な顔でメイプルに近寄る。
「ちょっと簡単に情報が手に入りすぎた気がするのよ」
「あっちが油断したんじゃないっすか」
「そうだとしても、それまで一切姿を掴めてなかったのに、私たちが探り出した途端まるで導かれるみたいな感じがして」
「本当はもっと大きな黒幕がいるとかでしょうか」
スーも重い声を出す。
「んー、それもねぇ」
「そんな話はヨソでやれよ。ここは今営業中の俺の店の中だぞ。せめて裏でやれ」
しかし、店内で立ち読みや本を探している客人はお構いなくといった感じで微笑んでいる人ばかりだった。
「みんな大丈夫だって」
「ご主人、もう今更っすよ。これも含めてウチの店でやんす。むしろ名物っす」
「名物って……、そしてウチって言うな」
「それこそ今更では」
「うっせぇ」
「でね、黒幕って犯罪に加担してる相手でしょ。でもねー、そうじゃなくてもっと外からの視点っていうか。足切りとかじゃなくて、君達捕まえたいの? そう、ならどうぞって感じ。しかも警察じゃなくて私たちに情報分かるようにわざとしてる感がね」
「それってただの親切ってことですか?」
「親切なら警察にとっくにタレこんでるでしょ」
「じゃあ僕らに親切ってことっすか」
「本当に親切だったら危険から遠ざけるだろう、向かわせてどうする」
ケマルも思わず口を挟む。
「確かにそうですね」
スーが首を傾げる。
「じゃあ罠だった」
「窃盗犯たちにとってはね。私たちにはなんの被害はなかったじゃない」
「お前の考えすぎなんだろ」
「そう言われたそうなのかもしれないけど」
店の扉が開いたを思ったら、台車が入ってきた。押している人が見えず、ケマルがまた珍妙な客が本の持ち込みにでも来たのかと手助けに向かうと、押していたのはフミだった。
「小豆もらってきた!」
「は!? 小豆は洗うもので仕事道具? あれ、違うのか。給料も小豆なのか?」
首を傾げながらもケマルが押し手を変わると、フミの姿が隠れるほど積まれた麻袋は台車であっても重い。さらに呆れながら、フミがそんなものをどっからか押してきたことは追及する気もなかった。そんな力があるのかとか、それとも質量を変える術があるのかと、さては店の前まで誰かに押してもらったのかとか。そんなことは聞かず、真実より、ここにこれがある事実にケマルは重きを置いた。
「ちゃんとお給料も貰ったよ。あと友達が新しい服のデザインもしてくれるって! 小豆はいっぱいあるから貰っていいよって言うから、ね」
「ね! ってなんだよ。どうするんだ、これ」
とりあえずカウンターの前においた小豆の袋たちをケマルは邪魔そうに眺めた。その横で胸の前で手を組んで祈るように見上げてくるフミがいる。
「炊いてよ~、あんこにするとかお赤飯にするとか~」
その猫なで声を聞いて店のあちこちで働いている者たちが何事かと寄ってくる。
ケマルは目を細めて腕を組んでフミを見下げる。
「俺にそんなスキルはない」
フミは眉毛を下げて、悲し気に周りを見る。
「僕にもないっす~」
「私にもないわよ」
「僕できますよ」
もう転職したと言っても過言でないほど店に入り浸っているスーがその顔の横で手を挙げていた。
「え?」
「僕料理とかお菓子作るのが趣味なんです」
「カボチャ~、すばらしいね~、作って作って!」
早速らんらんと目を輝かせ、台車ごと迫っていくフミの後ろでメイプルが目を丸くしていた。
「頭がカボチャだからかしら」
「そんなの関係あるっすかね?」
ショートンもしきりに首を捻る。むしろ逆じゃないかとメイプルと謎の意見交換を始めだす。
「できるって言うなら任せればいいさ」
ケマルは台車から一抱えもある麻袋を持ち上げスーに投げる。
「ほれ」
「わっ、と、とと」
「じゃあ頼むわ、三階に台所あるから使え」
「いいんですか?」
てっきりケマルが三階まで付いていくものだと思っていたショートンは飛び上がらんばかりに驚いた。
ショートンはこれまで三階のプライベートな空間にはケマルが居ないときには立ち入らないと決めていた。特にケマルに言われたわけじゃないけれど、礼儀だと心得ていた。
ケマルはそもそも子供の頃農村で暮らしいたことがあり、特に一人きりのスペースは必要としなくなっていた。もちろん店を経営していく上できちんとした管理が必要な物はあるため、金庫などもしっかり備えている。そしてそれは緊急時のためにショートンも開け方まで知っている。なぜなら店にはそれ以上に価値がある商品が真横に並んでいるし、さらに言えば倉庫にもツジー仕込みの様々な術が施されている。
「隠すようなもんはないし、お前もいまさら勝手に家捜しするような奴じゃないだろ」
スーがぴしりと音がしそうなほど姿勢を正した。
「もちろんです! しっかり美味しいものを作らさせていただきます」
大げさな態度にケマルがはたと気が付く。
「あっ、でも道具がたりないんじゃないか? ウチにあるの包丁、まな板、小さい鍋とフライパンくらいだぞ」
ケマルはほとんど使わず、最近ではショートンが簡単な料理をするから辛うじて使われている調理器具では大量の小豆は処理できないとケマルとショートンはスーを見る。
「大丈夫です、どこかで調達してきましょう」
スーが伝手を考え始める。それは意外に近くにいた。
「それならあたしが貸してあげるわよ」
今度はメイプルが手を挙げた。
「薬品調合用のとかで作ったものは俺はごめんだぞ」
ケマルが言うとメイプルはしっかり顔を顰めた。
「失礼ね、ちゃんと調理用のものよ。小豆炊くなんてしたことないけど、一般的な料理くらいはするの」
「おお、こんなところにも居たか」
「すぐ出せるけど、もう使う?」
「どこに持ってんだよ」
「マジックボックスに決まってるじゃない」
「お前くらいの奴が持ってないわけ無いよな」
ケマルもリュック型のそれを貰ってはいるが、それでも常に携帯するサイズではなく魔力なしのケマルが使うには内容量を確保するためにリュックにせざるを得なかった経緯から未だに簡単に大量に持ち歩いている様には羨ましさがあるケマルだった。
「からまないでよ」
言いながらポイポイと大きな鍋や蒸籠なんかが出てくる。
「なんか、どれもサイズでかくないか? 一般的な料理の範囲以上のサイズ感に見えるんだけど」
「そう? 普通だと思うけど」
ショートンが面白そうにそれらを見詰めている。
「メイプルさんは食べても太らない体質なんすね!」
「そうね、それに魔法って意外に体力使うのよね」
メイプルが出した道具を持って階段を上がっていったスーの後ろを跳ねるようにフミが付いて行った。
「よっぽど楽しみなんっすね」
「座敷童だからな、サガには抗えないんだろ」
その日は一階にいてもいい匂いがずっと漂っていた。小豆を煮ている匂いから、ごはんが炊けるようなの匂い、あんこの甘い匂い。
そして、当たり前のようにそれから数日ケマルも小豆料理を食べることになった。
「南瓜と小豆って、ありか?」
南瓜と小豆の煮物を見て、ケマルは顔を顰めていた。
「普通だよ」
小豆が好物な座敷童のとなりでスーがメニューの説明をする。
「あんこを乗せるのでもいいんですが、今回は南瓜の甘さを生かしたパターンにしました」
「気を使いました、みたいな言い方だけど、俺の常識では存在しないメニューなんだけど。甘さ控えてればいいってもんじゃ」
見ただけで甘そうな雰囲気に二の足を踏んでいる横でショートンが箸を進めている。
「おいしぃっすよ!」
「ありがとうございます」
「またもらってくるね」
満足げな三人にケマルが言えることはもうなかった。
「もんじゃない……、けど、作ってもらったんだから文句は言わないさ。たとえ勝手に作って出されたものだとしても、感謝して食べるさ。いただきます」
ケマルは本当にただ黙々と食べた。特に甘党でも辛党でもない。そして好き嫌いもない。だから、作ってもらったものに文句を言い続けることはできない。違和感があっても、ただ食べるだけだ。そしてスーの作るもので不味いものはなく、違和感を感じつつもしっかりと食べた。
それから、なぜだかスーはしょっちゅう三階で料理をするようになっていた。フミが強請っているのか、ショートンが頼んでいるのか、メイプルに言いくるめられているのか、ケマルはもう確認もしてないが、夕飯はスーが作る料理であることが多くなっていた。
そしてこの小豆がご近所に評判で、小豆そのものも、調理された物もメイプルが世話になっているお礼として差し入れると喜ばれた。
0
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる