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第十三章 人はサイズじゃないんだよ
13-6 黎藤珀弥という人
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* * * * * * * *
プールでお遊び再開の後、今は帰路についております。
夕方の六時近くにはなるけれど、夏だからまだまだ明るい。
アブラゼミやミンミンゼミがまだ鳴いている中、ヒグラシの悲しげな声も聞こえてきた。
私と珀弥君は長い影を作り、田んぼ道を二人並んで歩いている。
「今日は楽しかったね!」
「うん、そうだね」
私の呼びかけに、珀弥君は優しく頷いてくれた。今は機嫌も悪くないみたい。
ふと、今日の出来事を振り返り、こんな事を聞いてみた。
「ねぇねぇ、珀弥君の初恋の人っているの?」
「へっ!?」
珀弥君は驚いたのか、珍しく奇声を上げる。
「いきなり何!?」
「ご、ごめん。昼間のこと思い出してさ、ちょっと気になっちゃったんだ」
「そ、そう……」
珀弥君は翼君みたいに『女の子大好き!』な感じでもないから、気になる女の子の話なんて聞いたこともない。
というか、関心が無いように見える。
だから、珀弥君が恋したことがあるのか気になるのだ。
でも、男の子って普通は恋バナなんてしないかな?
「それで、実際はどうなんですか?」
よくわからないけれど、何となく追求したくなった。自分でも気付かなかったが、私は貪欲なのかもしれない。
「……わからない」
珀弥君は戸惑いながら言葉を絞り出す。
「わからない?」
「うん。恋心っていう感情がわからないんだ」
そう困ったように笑うと、『僕は別に無感情な俺カッコいいって言ってる中二病では無いよ』と付け加える。
「自分の抱いている感情がわかるって、凄いことだと思うよ」
「そうなの?」
自分が抱いている感情を一番知っているのは、自分自身だと思うけれど。
「少なくとも、僕はそう思う」
珀弥君は朱い空を見つめる。空にはカラスが舞い、山の方へと飛んでいってしまった。
「珀弥君……?」
彼は今、何を思っているのだろう。その静かな瞳からは、感情が読み取れなかった。
「ねぇ、千真さん。僕は誰だと思う?」
急に何を言い出すのだろうか。
珀弥君の声は微かに震えており、緊張しているように思えた。
「え? 珀弥君は珀弥君でしょ?」
この人は黎藤珀弥君。私と同い年の男の子……のハズ。
まさか、いきなり記憶喪失!? それは大変だ! 早く病院に連れて行かなきゃ!
彼は困惑する私を見て、クスリと笑う。
「ごめんごめん、今のは忘れて。ちょっとした冗談だから」
「冗談?」
「そう、冗談。まだボケるほど歳は取ってないよ」
「よ、よかったぁ……」
本当に冗談なの? 随分と重みのある冗談だった気がする。
本気で、自分が何者なのかを私に尋ねてきたように見えた。
でも、本当に冗談なら……。
「あーっ、珀弥君! もしかして誤魔化そうとしたんでしょ!?」
「まさか、そんなこと無いよ?」
「嘘だぁ!」
「嘘じゃないですー」
珀弥君はイタズラっぽく笑い、私から逃げるように駆け出す。
「待てぇい!」
私も走り出し、彼を追いかけた。
大人びているように見せかけて、年相応の子供らしさもある。いつも私に笑いかけてくれて、優しく接してくれる男の子。
これが、私の知っている珀弥君だ。
でも、私は黎藤珀弥という人物をよく理解出来ていなかったのだと思う。
だから、あの言葉の本当の意味に、気付いてあげられなかったんだ。
プールでお遊び再開の後、今は帰路についております。
夕方の六時近くにはなるけれど、夏だからまだまだ明るい。
アブラゼミやミンミンゼミがまだ鳴いている中、ヒグラシの悲しげな声も聞こえてきた。
私と珀弥君は長い影を作り、田んぼ道を二人並んで歩いている。
「今日は楽しかったね!」
「うん、そうだね」
私の呼びかけに、珀弥君は優しく頷いてくれた。今は機嫌も悪くないみたい。
ふと、今日の出来事を振り返り、こんな事を聞いてみた。
「ねぇねぇ、珀弥君の初恋の人っているの?」
「へっ!?」
珀弥君は驚いたのか、珍しく奇声を上げる。
「いきなり何!?」
「ご、ごめん。昼間のこと思い出してさ、ちょっと気になっちゃったんだ」
「そ、そう……」
珀弥君は翼君みたいに『女の子大好き!』な感じでもないから、気になる女の子の話なんて聞いたこともない。
というか、関心が無いように見える。
だから、珀弥君が恋したことがあるのか気になるのだ。
でも、男の子って普通は恋バナなんてしないかな?
「それで、実際はどうなんですか?」
よくわからないけれど、何となく追求したくなった。自分でも気付かなかったが、私は貪欲なのかもしれない。
「……わからない」
珀弥君は戸惑いながら言葉を絞り出す。
「わからない?」
「うん。恋心っていう感情がわからないんだ」
そう困ったように笑うと、『僕は別に無感情な俺カッコいいって言ってる中二病では無いよ』と付け加える。
「自分の抱いている感情がわかるって、凄いことだと思うよ」
「そうなの?」
自分が抱いている感情を一番知っているのは、自分自身だと思うけれど。
「少なくとも、僕はそう思う」
珀弥君は朱い空を見つめる。空にはカラスが舞い、山の方へと飛んでいってしまった。
「珀弥君……?」
彼は今、何を思っているのだろう。その静かな瞳からは、感情が読み取れなかった。
「ねぇ、千真さん。僕は誰だと思う?」
急に何を言い出すのだろうか。
珀弥君の声は微かに震えており、緊張しているように思えた。
「え? 珀弥君は珀弥君でしょ?」
この人は黎藤珀弥君。私と同い年の男の子……のハズ。
まさか、いきなり記憶喪失!? それは大変だ! 早く病院に連れて行かなきゃ!
彼は困惑する私を見て、クスリと笑う。
「ごめんごめん、今のは忘れて。ちょっとした冗談だから」
「冗談?」
「そう、冗談。まだボケるほど歳は取ってないよ」
「よ、よかったぁ……」
本当に冗談なの? 随分と重みのある冗談だった気がする。
本気で、自分が何者なのかを私に尋ねてきたように見えた。
でも、本当に冗談なら……。
「あーっ、珀弥君! もしかして誤魔化そうとしたんでしょ!?」
「まさか、そんなこと無いよ?」
「嘘だぁ!」
「嘘じゃないですー」
珀弥君はイタズラっぽく笑い、私から逃げるように駆け出す。
「待てぇい!」
私も走り出し、彼を追いかけた。
大人びているように見せかけて、年相応の子供らしさもある。いつも私に笑いかけてくれて、優しく接してくれる男の子。
これが、私の知っている珀弥君だ。
でも、私は黎藤珀弥という人物をよく理解出来ていなかったのだと思う。
だから、あの言葉の本当の意味に、気付いてあげられなかったんだ。
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