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ナルシスト王子、登場
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「ナターシャ。君との婚約は本日を持って破棄させてもらう」
突然、訪ねて来たかと思えばエルリックは真剣な表情でそう言った。どうやら冗談ではない。
「理由を教えてやろう」
「いえ。結構です」
エルリックの隣にミリアがいることから、そういうことで間違いないだろう。
前々から噂は耳にしていた。エルリックとミリアの距離が異常なまでに近いと。
私はエルリックを束縛するつもりはないから放っておいた。そもそも、好きでもないし。
「俺はミリアを愛してしまったのだ」
え、言わなくていいって言ったのに。
見てわかることを説明しなくてもいい。
「ごめんねナターシャ!こんなつもりじゃなかったの!!」
泣きながら謝るミリアの目に涙はない。嘘泣き。
口元も笑っている。
私の婚約者、しかも王太子を奪えて喜んでいるのだろう。
喜ぶならせめて、私にバレないようにしてくれないかな。
──台無しだよ。色々と。
いつからだろう。親友だったはずのミリアの態度が少しずつ、変わっていったのは。
「ミリアが謝ることは何もない!悪いのは全て、この俺なのだから」
私はエルリックを好きではない。むしろ嫌いだ。
幼い頃から周りに甘やかされたせいで、超ナルシストになってしまった。
第一王子に本音で話す人はほとんどいない。ご機嫌取りをされていたことにも気付くことなく、そのまま鵜呑みにしてきた。
その結果。
この世界で一番美しいのは自分。カッコ良いのは自分。愛されるのは自分。
全てにおいて自分こそが絶対であると信じて疑わない。王太子、いや、人として最低な人間が誕生した。
そんな男の婚約者になってしまったのは同い歳という、なんとも雑な理由で決められてしまったから。
宰相として陛下を支えたきたお父様でさえ、この婚約に関してだけは最後まで納得していなかった。最終的に王命だと言われて嫌々、仕方なく、受けた。
決して大手を振って喜んではいない。
初めて会ったのは七歳だったかな。
婚約者になってしまったため、面倒だけど挨拶に行ったとき。
第一声が
「俺はまた、女の子を一人、虜にしてしまったのか」
だ。
全身に鳥肌が立つほど気持ち悪かった。
お互いのことを知るために自己紹介をした際に、衝撃なことを聞かされた。
エルリックは毎日、起きてからと寝る前に鏡の前で顔をチェックする。自分の顔に三十分は見とれるらしい。
キモすぎなんだけど!!
数分でも引くのに三十分!?
どんな暇人でも、何もせず鏡の前で座って自分の顔を見るだけなんて苦行しないよ。
あの日から私は、どうにかこの男と婚約破棄出来ないかと考えていた。
残念なことによっぽどの不祥事がないと、私達の関係は終わらない。
でっち上げた証拠で断ち切ることは難しくないけど、そんな卑怯な手は使いたくなかった。
一緒にいれば嫌でも見えてくる気持ち悪い部分。
女性からの視線を感じるとすぐに、「美しすぎる美貌のせいで惚れられたしまった」とぼやき、男性からの視線だと「美しすぎる美貌のせいで妬まれてしまった」と嘆く。
そして、最後には必ず「美しすぎるのは罪だ」と言うのだ。
「そうね。私との婚約中に他の女性、しかも私の親友に手を出したエルリックのせい」
「エルは悪くないわ!」
おっと。愛称呼び。
まぁ、いいけどね。気にしてないし。
「ナターシャ。残念だが、俺の愛はもうミリア一人だけのものだ。だからこそ、君を縛りたくないんだ。わかってくれるだろう?」
「かしこまりました。婚約破棄、お受け致します」
「いい、の?ナターシャはエルのこと……」
「いいに決まってるじゃない。だって二人は愛し合っているんでしょ?」
ここまでミリアに夢中になっていたら気が変わるなんてことはないだろうけど、今日中に手続きを終わらせよう。
十一年間。私はよく耐えた。
黙ってさえいれば顔が良いナルシストの婚約者という立場を。
今日という素晴らしい日を記念日にしたいぐらい。
「そうか。ナターシャ。君は……。そんなにも俺のことを愛してくれていたのか」
「………………は?」
突然、訪ねて来たかと思えばエルリックは真剣な表情でそう言った。どうやら冗談ではない。
「理由を教えてやろう」
「いえ。結構です」
エルリックの隣にミリアがいることから、そういうことで間違いないだろう。
前々から噂は耳にしていた。エルリックとミリアの距離が異常なまでに近いと。
私はエルリックを束縛するつもりはないから放っておいた。そもそも、好きでもないし。
「俺はミリアを愛してしまったのだ」
え、言わなくていいって言ったのに。
見てわかることを説明しなくてもいい。
「ごめんねナターシャ!こんなつもりじゃなかったの!!」
泣きながら謝るミリアの目に涙はない。嘘泣き。
口元も笑っている。
私の婚約者、しかも王太子を奪えて喜んでいるのだろう。
喜ぶならせめて、私にバレないようにしてくれないかな。
──台無しだよ。色々と。
いつからだろう。親友だったはずのミリアの態度が少しずつ、変わっていったのは。
「ミリアが謝ることは何もない!悪いのは全て、この俺なのだから」
私はエルリックを好きではない。むしろ嫌いだ。
幼い頃から周りに甘やかされたせいで、超ナルシストになってしまった。
第一王子に本音で話す人はほとんどいない。ご機嫌取りをされていたことにも気付くことなく、そのまま鵜呑みにしてきた。
その結果。
この世界で一番美しいのは自分。カッコ良いのは自分。愛されるのは自分。
全てにおいて自分こそが絶対であると信じて疑わない。王太子、いや、人として最低な人間が誕生した。
そんな男の婚約者になってしまったのは同い歳という、なんとも雑な理由で決められてしまったから。
宰相として陛下を支えたきたお父様でさえ、この婚約に関してだけは最後まで納得していなかった。最終的に王命だと言われて嫌々、仕方なく、受けた。
決して大手を振って喜んではいない。
初めて会ったのは七歳だったかな。
婚約者になってしまったため、面倒だけど挨拶に行ったとき。
第一声が
「俺はまた、女の子を一人、虜にしてしまったのか」
だ。
全身に鳥肌が立つほど気持ち悪かった。
お互いのことを知るために自己紹介をした際に、衝撃なことを聞かされた。
エルリックは毎日、起きてからと寝る前に鏡の前で顔をチェックする。自分の顔に三十分は見とれるらしい。
キモすぎなんだけど!!
数分でも引くのに三十分!?
どんな暇人でも、何もせず鏡の前で座って自分の顔を見るだけなんて苦行しないよ。
あの日から私は、どうにかこの男と婚約破棄出来ないかと考えていた。
残念なことによっぽどの不祥事がないと、私達の関係は終わらない。
でっち上げた証拠で断ち切ることは難しくないけど、そんな卑怯な手は使いたくなかった。
一緒にいれば嫌でも見えてくる気持ち悪い部分。
女性からの視線を感じるとすぐに、「美しすぎる美貌のせいで惚れられたしまった」とぼやき、男性からの視線だと「美しすぎる美貌のせいで妬まれてしまった」と嘆く。
そして、最後には必ず「美しすぎるのは罪だ」と言うのだ。
「そうね。私との婚約中に他の女性、しかも私の親友に手を出したエルリックのせい」
「エルは悪くないわ!」
おっと。愛称呼び。
まぁ、いいけどね。気にしてないし。
「ナターシャ。残念だが、俺の愛はもうミリア一人だけのものだ。だからこそ、君を縛りたくないんだ。わかってくれるだろう?」
「かしこまりました。婚約破棄、お受け致します」
「いい、の?ナターシャはエルのこと……」
「いいに決まってるじゃない。だって二人は愛し合っているんでしょ?」
ここまでミリアに夢中になっていたら気が変わるなんてことはないだろうけど、今日中に手続きを終わらせよう。
十一年間。私はよく耐えた。
黙ってさえいれば顔が良いナルシストの婚約者という立場を。
今日という素晴らしい日を記念日にしたいぐらい。
「そうか。ナターシャ。君は……。そんなにも俺のことを愛してくれていたのか」
「………………は?」
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