[完]私達の結婚に愛はない。愛した夫は私を恨み憎んでいました。

あいみ

文字の大きさ
19 / 29

19

しおりを挟む
 「ロックス。サイラード公爵様。ありがとうございました」
 「謝らないで。僕がもっと早くに会いに来ていれば、姉さんがこんな理不尽な目に合わずに済んだのに。本当にごめんね」

 大きな手は私の両手を簡単に包む。

 緊張の糸が一気に切れて張り詰めていたものが解けた。

 悲しいわけではないのに涙が溢れる。涙腺が崩壊した。

 足の力が抜けて膝から崩れ落ちそうになるとヴォラン様が支えてくれる。

 「ジュリアンを別室に」
 「かしこまりました。こちらへ」

 ヴォラン様の指示の元、数人のメイドが付き添ってくれた。

 倒れてしまわないように手を取り、腰に手も添えてくれて。

 通された部屋は広く、別の緊張がしてきた。

 心を落ち着かせるハーブティーと、それに合う焼き菓子。

 メイドはテキパキと準備をして退室してしまった。

 一人残されてしまい、焼き立てのお菓子を一口食べると美味しくて、ついつい手が伸びる。

 しばらくしたらヴォラン様が様子を見に来てくれた。

 慌てて立ち上がろうとすると、そのまま楽にしてていいと。

 「ジュリアン。すまない」
 「ヴォ、ヴォラン様!?頭を上げて下さい」
 「身分を偽り、騙していたことは許されることではない」

 声だけでも深く反省しているのが伝わってくる。

 顔を上げたヴォラン様は、ずっと一緒にいてくれたランそのもの。

 イタズラがバレた子供のように、その瞳には自信がない。

 私と目が合わないように視線を泳がせながらも、最終的には逃げずに向き合う。

 「言い訳を……するつもりはない」
 「ロックスは知っていたのですか」
 「偶然に知られてしまった。決して口外さないように私が無理やり約束をしたんだ」
 「どうして……」
 「え?」
 「許されまいとするかのように、自分は悪者だと主張するの」

 ランに聞いた。

 口を閉ざしてしまったランは俯く。

 「嘘をつかせたのは私だから?」

 初めて会ったとき、私はランを貴族子息ではなく平民の子供だと思い込んでいた。

 抵抗なく平民の服に袖を通す貴族はまずいない。
 それもちょっとボロい感じの。

 言葉遣いもかなり崩されていて。

 すっかり街に溶け込んでいた。

 公爵家相手に礼儀を欠いたと私が責任を感じないよう。

 成りきっていた。完璧なまでに。

 そして、今も……。私のために悪者になろうとしてくれている。

 ずっと優しかったんだ。ランは。

 私のために嘘をつき続けてくれていた。

 「謝るべきは私のほうだよ。ごめんね」
 「違う!!わた……俺が自分の意志でそうしたんだ。身分を明かせばジュリアンと友達になれないと思ったから」

 段々と声が小さくなる。

 「ごめん。また嘘ついた」

 私の前で膝を付くランは私の手に触れようとするも、寸前で止まる。

 「君が好きだから……。身分なんかのせいで距離を取られたくなかったんだ」

 突然の告白。

 この場を和ませる冗談でも、当然のことながら嘘でもない。

 赤らんだ頬。極度の緊張から声も震えていた。

 その想いには応えられない。“応えてはいけないんだ”

 「ありがとう。ランにそう言ってもらえてすごく嬉しい」

 それをもっと早くに聞きたかったと思うのは、傲慢でありワガママ。

 「でも、それは婚約者に伝えるべき言葉だよ」
 「……は?こんや……?誰の?」
 「誰のってランのだよ」

 お互いにポカンとした。言葉は通じ合っているのに噛み合ってない気がする。

 確認のために一度、話を整理することにした。

 お互いに色々と誤解が生じている可能性が。

 そこまで複雑に絡んだわけでもない糸が、確実に一本ずつ解けていく。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

【完結】さよなら、馬鹿な王太子殿下

花草青依
恋愛
ビーチェは恋人であるランベルト王太子の傍らで、彼の“婚約破棄宣言”を聞いていた。ランベルトの婚約者であるニナはあっさりと受け入れて去って行った。それを見て、上手く行ったと満足するビーチェ。しかし、彼女の目的はそれだけに留まらず、王宮の平和を大きく乱すのだった。 ■主人公は、いわゆる「悪役令嬢もの」のヒロインのポジションの人です ■画像は生成AI (ChatGPT)

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】愛してたと告げられて殺された私、今度こそあなたの心を救います

椿かもめ
恋愛
伯爵家令嬢のオデットは嵐の晩、慕っていた青年ジョナに殺された。最期の瞬間、ジョナはオデットに「愛していた」と告げる。死んだオデットは気づけば見知らぬ場所にいた。そしてそこでもう一度人生をやり直す選択肢が与えられることになり──。【全7話完結】 ※カクヨムでも公開中

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...