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「ロックス。サイラード公爵様。ありがとうございました」
「謝らないで。僕がもっと早くに会いに来ていれば、姉さんがこんな理不尽な目に合わずに済んだのに。本当にごめんね」
大きな手は私の両手を簡単に包む。
緊張の糸が一気に切れて張り詰めていたものが解けた。
悲しいわけではないのに涙が溢れる。涙腺が崩壊した。
足の力が抜けて膝から崩れ落ちそうになるとヴォラン様が支えてくれる。
「ジュリアンを別室に」
「かしこまりました。こちらへ」
ヴォラン様の指示の元、数人のメイドが付き添ってくれた。
倒れてしまわないように手を取り、腰に手も添えてくれて。
通された部屋は広く、別の緊張がしてきた。
心を落ち着かせるハーブティーと、それに合う焼き菓子。
メイドはテキパキと準備をして退室してしまった。
一人残されてしまい、焼き立てのお菓子を一口食べると美味しくて、ついつい手が伸びる。
しばらくしたらヴォラン様が様子を見に来てくれた。
慌てて立ち上がろうとすると、そのまま楽にしてていいと。
「ジュリアン。すまない」
「ヴォ、ヴォラン様!?頭を上げて下さい」
「身分を偽り、騙していたことは許されることではない」
声だけでも深く反省しているのが伝わってくる。
顔を上げたヴォラン様は、ずっと一緒にいてくれたランそのもの。
イタズラがバレた子供のように、その瞳には自信がない。
私と目が合わないように視線を泳がせながらも、最終的には逃げずに向き合う。
「言い訳を……するつもりはない」
「ロックスは知っていたのですか」
「偶然に知られてしまった。決して口外さないように私が無理やり約束をしたんだ」
「どうして……」
「え?」
「許されまいとするかのように、自分は悪者だと主張するの」
ランに聞いた。
口を閉ざしてしまったランは俯く。
「嘘をつかせたのは私だから?」
初めて会ったとき、私はランを貴族子息ではなく平民の子供だと思い込んでいた。
抵抗なく平民の服に袖を通す貴族はまずいない。
それもちょっとボロい感じの。
言葉遣いもかなり崩されていて。
すっかり街に溶け込んでいた。
公爵家相手に礼儀を欠いたと私が責任を感じないよう。
成りきっていた。完璧なまでに。
そして、今も……。私のために悪者になろうとしてくれている。
ずっと優しかったんだ。ランは。
私のために嘘をつき続けてくれていた。
「謝るべきは私のほうだよ。ごめんね」
「違う!!わた……俺が自分の意志でそうしたんだ。身分を明かせばジュリアンと友達になれないと思ったから」
段々と声が小さくなる。
「ごめん。また嘘ついた」
私の前で膝を付くランは私の手に触れようとするも、寸前で止まる。
「君が好きだから……。身分なんかのせいで距離を取られたくなかったんだ」
突然の告白。
この場を和ませる冗談でも、当然のことながら嘘でもない。
赤らんだ頬。極度の緊張から声も震えていた。
その想いには応えられない。“応えてはいけないんだ”
「ありがとう。ランにそう言ってもらえてすごく嬉しい」
それをもっと早くに聞きたかったと思うのは、傲慢でありワガママ。
「でも、それは婚約者に伝えるべき言葉だよ」
「……は?こんや……?誰の?」
「誰のってランのだよ」
お互いにポカンとした。言葉は通じ合っているのに噛み合ってない気がする。
確認のために一度、話を整理することにした。
お互いに色々と誤解が生じている可能性が。
そこまで複雑に絡んだわけでもない糸が、確実に一本ずつ解けていく。
「謝らないで。僕がもっと早くに会いに来ていれば、姉さんがこんな理不尽な目に合わずに済んだのに。本当にごめんね」
大きな手は私の両手を簡単に包む。
緊張の糸が一気に切れて張り詰めていたものが解けた。
悲しいわけではないのに涙が溢れる。涙腺が崩壊した。
足の力が抜けて膝から崩れ落ちそうになるとヴォラン様が支えてくれる。
「ジュリアンを別室に」
「かしこまりました。こちらへ」
ヴォラン様の指示の元、数人のメイドが付き添ってくれた。
倒れてしまわないように手を取り、腰に手も添えてくれて。
通された部屋は広く、別の緊張がしてきた。
心を落ち着かせるハーブティーと、それに合う焼き菓子。
メイドはテキパキと準備をして退室してしまった。
一人残されてしまい、焼き立てのお菓子を一口食べると美味しくて、ついつい手が伸びる。
しばらくしたらヴォラン様が様子を見に来てくれた。
慌てて立ち上がろうとすると、そのまま楽にしてていいと。
「ジュリアン。すまない」
「ヴォ、ヴォラン様!?頭を上げて下さい」
「身分を偽り、騙していたことは許されることではない」
声だけでも深く反省しているのが伝わってくる。
顔を上げたヴォラン様は、ずっと一緒にいてくれたランそのもの。
イタズラがバレた子供のように、その瞳には自信がない。
私と目が合わないように視線を泳がせながらも、最終的には逃げずに向き合う。
「言い訳を……するつもりはない」
「ロックスは知っていたのですか」
「偶然に知られてしまった。決して口外さないように私が無理やり約束をしたんだ」
「どうして……」
「え?」
「許されまいとするかのように、自分は悪者だと主張するの」
ランに聞いた。
口を閉ざしてしまったランは俯く。
「嘘をつかせたのは私だから?」
初めて会ったとき、私はランを貴族子息ではなく平民の子供だと思い込んでいた。
抵抗なく平民の服に袖を通す貴族はまずいない。
それもちょっとボロい感じの。
言葉遣いもかなり崩されていて。
すっかり街に溶け込んでいた。
公爵家相手に礼儀を欠いたと私が責任を感じないよう。
成りきっていた。完璧なまでに。
そして、今も……。私のために悪者になろうとしてくれている。
ずっと優しかったんだ。ランは。
私のために嘘をつき続けてくれていた。
「謝るべきは私のほうだよ。ごめんね」
「違う!!わた……俺が自分の意志でそうしたんだ。身分を明かせばジュリアンと友達になれないと思ったから」
段々と声が小さくなる。
「ごめん。また嘘ついた」
私の前で膝を付くランは私の手に触れようとするも、寸前で止まる。
「君が好きだから……。身分なんかのせいで距離を取られたくなかったんだ」
突然の告白。
この場を和ませる冗談でも、当然のことながら嘘でもない。
赤らんだ頬。極度の緊張から声も震えていた。
その想いには応えられない。“応えてはいけないんだ”
「ありがとう。ランにそう言ってもらえてすごく嬉しい」
それをもっと早くに聞きたかったと思うのは、傲慢でありワガママ。
「でも、それは婚約者に伝えるべき言葉だよ」
「……は?こんや……?誰の?」
「誰のってランのだよ」
お互いにポカンとした。言葉は通じ合っているのに噛み合ってない気がする。
確認のために一度、話を整理することにした。
お互いに色々と誤解が生じている可能性が。
そこまで複雑に絡んだわけでもない糸が、確実に一本ずつ解けていく。
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