愛してください!〜前世で元親友と元婚約者に殺されましたが、今世の親友と婚約者と共に復讐します〜

あいみ

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第一章

私のお守り

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 立場が危うくなりそうになると使用人達は次々に心のこもらない謝罪をした。

 屋敷に慣れていないあの子を贔屓してしまったこと、今では悔やんでいるとか。

 ──慣れてない、ね……。

 彼女達にとって一年の月日は、一週間ぐらいにしか感じられないのだろうか。

 季節だって移り変わった。景色も変わるし気温だって。

 よく「暑い」とか「寒い」とか口にしていたのは何だったのかしら。

 それとも本当に、一年で屋敷に慣れるわけがないと思っていたのだろうか。

 随分と失礼な使用人ね。下級ではあるものの、あの子はれっきとした貴族。

 半月もあれば普通は慣れる。それなのに彼女達はヘレンには無理だと決め付けた。

 貴族でもない平民が貴族を侮辱するなんて大罪に等しい。

 私が指摘しなければ気付けない愚かな使用人に、わざわざ教えてあげる義理はなかった。

 どうせ、同じく愚かなヘレンも遠回しの侮辱には気付きもしないのだから。

 追求するつもりもなく小さなため息をつくと、その場に跪いて胸の前で両手を合わせて同じ謝罪を繰り返す。

 そんなに怖がらなくてもニコラとヨゼフのこと以外、私には関係もなければ興味もない。

 私が大切にしたいのは、私を大切に想ってくれる人だけ。

 クビになりたくないのならお父様にゴマをすっていればいい。

 貴方達の雇用契約者は私ではないのだから。

 そろそろ静かにして欲しくて口を開くと同時に、ヨゼフの一喝によりその場は収まった。

 普段、物静かなヨゼフの張った声に皆ポカンとしている。

「クビにされたくなければ持ち場に戻り仕事をしろ」

 従うことを余儀なくされた彼女達は最後まで私の様子を伺いながら戻っていく。

 ヨゼフは他の使用人と違うわね。仕事の出来る男性は素敵よ。

 ──それにしても、「見苦しい」って……。

 あれはエドガー……あの男にも向けられていて、今日のところは聞き分けのいい青年を演じて帰ってくれた。

 ここで屁理屈をこねて無理に居座れば好感度が下がるどころではない。

 聞き分けのない子供は、いくら王族と言えど良い印象を持たれることもなく。

 従者は何度も頭を下げて屋敷を後にする。

 ──彼らの苦労が垣間見えるわ。

 王宮でもあんな感じで従者を困らせているに違いない。

 私を休ませてくれるように部屋には誰も近づけないようにもしてくれた。

 配慮も完璧。

 全員がヨゼフのようになってくれればいいけど、それは高望みしすぎだとわかっている。

 ベッドで横になっていると閉めていた窓が開いて、そこからクラウス様が飛んできた。

 あまりの出来事に思考が停止した。

「せっかく招待してくれたのに間に合わなくてすまなかった」
「いえ……。え!?クラウス様!!?」

 慌てて口を閉じた。

 外では変わらずウォン卿が待機してくれている。

 異変があれば断りを入れてから部屋に足を踏み入れる。私が許可したことなのだから問題はないとはいえ、流石にこの状況は……。

 友国の王太子とはいえ窓から女性の部屋に忍び込むなんて国際問題に発展し兼ねない。

 だからクラウス様も玄関から訪ねて来るのではなく窓から来ているのだろう。

「大丈夫だよ。目眩ましと音消しの結界を張っているからね。外にいる彼らには部屋の音は何も聞こえない」

 最も難しいとされる魔法を……。

 努力では埋まることのない才能の壁。

 人の上に立つべきクラウス様が弛またゆまぬ努力を続けるからこそ、クラウス様を王太子と認める国民もまた共に努力をする。

 全てはより良き国作りのために。

「こんな時間にすまない。実はね。手紙を渡しに来ただけなんだ。すぐ帰るよ」
「これは……」

 受け取った手紙はあまりにも信じられない物で、ドクンと心臓が跳ねた。

 秘密裏に私に届けるならクラウス様に頼むのが一番。使いの者を寄越せば騒ぎになるのも頷ける。

 色々なことを配慮した上でこれしか方法がなかった。ここまで私のことを考えてくれるなんて逆に申し訳ない。

 ただ、この手紙はどうしたらいいのだろうか。

 ──そもそもなぜこのタイミングで?

 思い当たる節はある。でも、ディーを選んだぐらいでそんな……。

 だとすると目的は他にあるのかも。

「私には現状が良いか悪いかはわからないが、未来は確実に変わり、進んでいる」
「そうだといいのですが」
「ディルクを信じているのだろう?ならきっと、アリアナ嬢の望む結末を迎えるはずだ」

 隠していた不安を見透かされている。

 ディーを信じるのは簡単だ。だってディーが私を信じてくれているもの。

 単純な子供騙しかもしれないけど、私にとってはこれ以上ないほどに心強い。

「私はこれで。良い夢を視られるようにまじないをかけておくよ」
「それは楽しみですね」

 一瞬だけ夜空を舞う姿が見えた。

 目眩ましの結界のせいか、満天に輝く星空と大地を照らす月しか見えなくなった。

 手紙を読んでしまえば後戻りは出来なくなる。

 ディーから貰ったブローチを握りしめた。私を見守ってくれるお守り。

 ──あ……大丈夫かも。

 私の中で大きくなったディーの存在は安らぎをくれる。

 手紙の内容が何であれ、臆することはない。

 そっと封を切った。

 国王陛下から私に充てられた招待状てがみを……。
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