昭和官能小説ショートショートショート

露木阿乱

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「あの臭い」

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「どうしたの、旅の疲れが出たの」

 美穂は、怪訝そうな顔つきで、私に問いかけた。
 それは当然だろう。ついさっきまで美穂の秘口を弄っていた指先の臭いを嗅いだ途端、爆発しそうにまで膨張していた肉塊が、惨めなほどに項垂れているのだ。

「どうしたのだろうね。旅の疲れかな。こんなことなかったのに」

「口でしてあげようか」

 心配そうに私の顔を覗き込む美穂を見つめながら、私は大きく息をついた。

 実は、私のモノが萎縮したのには理由があった。
 美穂の秘口に指をいれた際、異様な滑りを感じ、ドロリとした液体を指先ですくい、臭いを嗅いでしまったのだった。それは、濃い精液の臭いがした。それで、猛り狂っていた肉塊が、突然のショックで萎縮してしまったのだった。

 美穂が、この数時間の間に、他の男の性液を体内に受け入れたことは、確かなことだった。

「今朝はどうしていたの」

「事務長と打ち合わせ」

 と聞いて、美穂の相手が事務長であることを確信した。

 私は、ある政府系組織の責任者をしている。事務長は私の部下で、美穂は関連のNPO団体のスタッフだ。私たちは、計画中のイベントの進行状態をチェックするために、数名のチームを組んで現地入りしていた。私は、数年前に妻を亡くして独身、美穂も事務長も夫や妻がいる。私と美穂の関係は一年ほど前から続いていた。彼女と事務長の実態は分からないが、いずれにしても、尻軽な女だと思った。

 私は、潔癖症というわけではないが、結局、旅行中は美穂を抱くことはなかった。

「あの事務長と」と想像すると、自然と萎えてしまうのだ。東京に戻った後の懇親会で、女性職員から耳打ちされた。

「美穂さんに気をつけてくださいね。あの人、うちの複数の職員と関係があるんです。それで、仕事をもらっているとの噂もあります」

 しばらくして、美穂は私たちの事務所に顔を出さなくなった。事務長との浮気がバレて、ひと騒動起こしたからだ。私とは、あの日以来、関係が終わっていた。

 それから、何年か経って、テレビで美穂の姿を見た。
 新しいNPOを立ち上げ、話題の女性として活躍していた。
 彼女は、こうして男たちを踏み台にして、上り詰めていくのだろうと思った。
 その逞しさが、少々羨ましく感じられた。
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