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「最後のスイッチバック」
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1 到着
夏の午後、列車のドアが開くと、むっとする熱気と蝉時雨が一斉に押し寄せてきた。
僕は小さなリュックを背負い、ホームに降り立った。目の前に広がるのは、山々に囲まれた秘境駅――坪尻駅。
四国・土讃線の中でも、とりわけ鉄道ファンの間で知られた存在だ。駅に通じる道路はなく、来るためには鉄路を使うしかない。降り立つ乗客もほとんどいないと聞いていたが、実際にホームに立ってみると、その孤絶感は想像以上だった。
列車は僕を置き去りにして、山の谷間へと走り去っていく。エンジン音が遠ざかるにつれて、駅は完全な静寂に包まれた。残されたのは蝉の声と、わずかに響く風の音だけ。
ホームのベンチに目をやったとき、僕は小さな違和感を覚えた。
そこには、数日前の日付が刷られた新聞が広げられており、その上に使い込まれた古い時刻表が置かれていたのだ。
「……なんだ、これ」
新聞は湿気で少し波打っており、誰かがつい先日ここで読んだまま放置したように見える。しかし坪尻駅は無人駅だし、降りる客もほとんどいないはずだ。
時刻表を手に取ると、紙がすっかり黄ばんでおり、角は擦り切れていた。ページをめくると、表紙に「昭和四十年版」と印刷されている。
思わず息を呑んだ。どう考えても五十年以上前の代物だ。
鉄道趣味の誰かがわざと置いていったのだろうか。けれど新聞は数日前の日付だ。時の隔たりがあまりに奇妙だった。
僕はカメラを取り出し、ホームの様子を撮影した。山間にたたずむ小駅。ベンチに置かれた新聞と古い時刻表。レンズ越しに見ると、その取り合わせはどこか現実感を欠いて見えた。
――まるで、時間が交錯しているみたいだ。
シャッター音がホームに響いた瞬間、ふと背筋にひやりとしたものが走った。だが、すぐに汗が滲むほどの暑さがその感覚をかき消す。
僕は待合室に入った。木造の小さな建物で、薄暗い中に木のベンチが並び、壁に貼られた観光ポスターは色褪せている。端の棚には鉄道雑誌が数冊置かれていたが、どれも十年以上前のものだった。
「さすが秘境駅……」
独り言がやけに大きく響いた。人気のなさに心細さを覚えながらも、僕はノートを取り出し、これまで巡った駅の記録をつけ始めた。写真と簡単な感想、目についた特徴を書き留める。坪尻のページには、さっきの“異物”のこともメモしておいた。
やがて、山の稜線に太陽が沈み始めた。木々の影がホームに長く伸び、赤みを帯びた光がベンチを照らす。蝉の声は弱まり、代わりに遠くでカエルの鳴き声が聞こえ始める。
夕暮れの気配の中で、僕はふと不安を覚えた。
ここで降りたのは自分一人。迎えもなければ、逃げ場もない。
次の列車は夜になるまで来ないと、さっき確認したばかりだ。
――そのとき。
「……お客さん、ここで降りたのか」
不意に背後から声がした。
2 駅員との遭遇
ホームの端に、ひとりの男が立っていた。五十代半ばくらいだろうか。色あせた濃紺の制服、銀色のボタン、胸には古めかしい駅員の徽章。首筋まできちんと締められたネクタイが、蒸し暑い空気の中でやけに場違いに見える。
「あ、はい。秘境駅めぐりで……。ここは有名なので」
僕はとっさに答えた。
彼はふっと口元をゆるめたが、どこか影を落とした笑みだった。
「物好きだな。わざわざこんな不便なところへ」
そう言いながら、彼は僕の隣に歩み寄ってくる。靴底がホームに擦れる音が、妙に重く響いた。
「この駅はな、特殊な造りをしている。スイッチバック、というやつだ」
指さしながら説明を始めた。
「列車はこのままでは坂を上れん。だからいったん引き込み線に入って、進行方向を変える。運転士と車掌の呼吸が合わねばならん。昔は、よく見物人もいた」
僕は頷きながら耳を傾ける。鉄道好きの血が騒ぐ一方で、彼の話しぶりには妙な古めかしさがあった。語尾はどこか明治や大正の小説に出てくるような響きで、現代の駅員とはかけ離れている。
「今は自動化で、駅員など置いていないはずですが……」
そう口にすると、彼はぴたりと僕を見据えた。暗がりのせいで瞳の色までは判別できなかったが、その視線は強烈に胸へ突き刺さる。
「――そう思っているのか」
間を置き、彼はかすれた声で続けた。
「最終列車に乗り遅れた人間は、ここから出られない」
ぞくり、と背筋を氷でなぞられたような感覚。思わず笑い飛ばそうとした。
「はは……それって、冗談ですよね?」
しかし彼は笑わなかった。むしろ唇を引き結び、淡々と告げる。
「冗談ではない。山道は暗く、道を知る者でも迷う。携帯の電波も届かん。もし朝まで閉じ込められれば――」
その先は言わなかった。代わりに、ホームの端に視線をやる。そこは先ほどまで誰もいなかったはずなのに、視界の端で一瞬、揺らぐ影を見た気がした。
「まあ、気をつけることだ。鉄道は時刻で動く。人間の都合など待ってはくれん」
彼はそう締めくくり、制服の裾を直した。
次の瞬間、山鳩の羽音が響き、僕は思わず顔を上げた。けれど、そこにはもう誰もいなかった。
あまりに唐突で、僕は立ち尽くす。夕闇は濃さを増し、駅のホームは灰色に沈んでいる。
本当にさっき、駅員の男がそこにいたのか――。
ポケットのスマホを取り出し、カメラを構えてホームを撮る。画面にはただの無人駅が映るだけ。だがシャッターを切った瞬間、耳の奥にさっきの声が反響するように甦った。
『最終列車で乗り遅れた人間は、ここから出られないんだ』
僕は思わず肩を震わせ、ホームから駅舎の待合室へ駆け込んだ。
3 不思議な一夜
最終列車を見送ったあと、坪尻駅は完全に闇に包まれた。山あいの駅には街灯がほとんどなく、ホームに設置された裸電球だけが、頼りない光を放っている。
蝉の声も途絶え、かわりに虫の羽音や、谷間を渡る夜風のざわめきが耳にしみた。僕は、背負ってきたリュックを下ろし、待合室に腰を落ち着けた。木のベンチは冷たく、古びた板の隙間からは夏の湿気と油のような匂いが漂っている。
スマートフォンを取り出しても、当然のように圏外だった。SNSも地図アプリも、いまは役に立たない。頼りになるのは手元の懐中電灯と、昼間に撮影した数枚の写真だけだ。
ふと画面を確認すると、ベンチの写真に妙な影が写り込んでいるのに気づいた。背後に誰かが立っているように見える。だが撮影時、確かにそこには誰もいなかったはずだ。光の反射か、あるいは木々の影か。祐真はそう自分に言い聞かせ、スマホを閉じた。
夜半、どれほど眠ったのか定かでない。夢と現実の境界が曖昧なまま、僕はふと目を覚ました。
耳に飛び込んできたのは、かすかな「チン、チン」という発車ベルの音だった。古い電鈴のような甲高い響き。次いで、レールを軋ませる車輪の音が谷を震わせた。
慌てて窓際に駆け寄ると、月明かりに照らされたホームには列車の姿などなかった。ただ、霧が流れる線路と、暗闇に沈む山肌があるだけだ。
「……気のせい、か?」
そう呟いた途端、待合室の外にかすかな足音が響いた。砂利を踏みしめる、一定のリズム。
僕の背筋が冷たくなる。懐中電灯を握りしめ、窓越しにホームを覗き込むと、駅舎の端から人影がゆっくりと歩いてくるのが見えた。
薄い光に照らされた背中は、昼間に出会った駅員――あの古風な口調の男とそっくりだった。古びた制服の肩章がちらりと光り、帽子の庇が夜風に揺れた。
「……すみません!」
声をかけたつもりだったが、喉は渇き、音はかすれて空気に溶けた。
男は振り返らない。そのままホーム中央のベンチに腰を下ろすと、手に持った紙束を眺めはじめた。僕は目を凝らした。――それは、あの時刻表のように見えた。
次の瞬間、ふいに電灯が明滅した。暗闇が駅舎を包み込み、再び光が戻った時、ホームには誰もいなかった。ベンチも空っぽで、風が新聞紙の切れ端を転がしているだけだ。
僕は待合室の扉に駆け寄り、外に出ようとした。しかし、不思議なほど体が動かない。足が鉛のように重く、喉元を掴まれるような圧迫感に襲われた。心臓の鼓動だけがやけに大きく響き、視界の端に再び揺らぐ影が立った。
――これは夢なのか、現実なのか。
気づけば僕はベンチに座り込み、頭を抱えていた。外の音も影も、もう感じられない。ただ、自分の荒い呼吸と耳鳴りだけが夜を埋め尽くしている。
それでも眠気は容赦なく訪れ、やがて僕は意識を手放した。
翌朝、鳥のさえずりで目を覚ましたとき、待合室は昨日と同じように静まり返っていた。夜の出来事が幻であったかのように、ホームには何も残っていない。
ただ一つ、違っていたのは――ベンチに置かれた古い時刻表が、ページを開いたまま風に揺れていたことだった。
開かれていたのは「昭和43年 夏季臨時ダイヤ」の頁。そこには赤いボールペンで、震える字が書き込まれていた。
「最終列車に乗り遅れるな」
4 消えた駅員
朝の光が山の稜線を越えて、駅舎の窓から差し込んできた。
蝉の声が一斉に鳴き始める。ざわざわとした音に目を覚ました僕は、木の長椅子から上体を起こした。首筋がじっとりと汗ばんでいる。
昨夜、待合室の隅に横になったはずだ。終電を見送り、薄暗いランプの灯りの下で、夢と現実の境界が曖昧になる時間を過ごした。確かに夜半、ホームを歩く足音を聞いた気がする。発車ベルのような音も耳に残っている。
あれは夢だったのか。いや、それとも……。
僕は思わず立ち上がり、ホームへ出た。朝の空気は湿っていて、緑の山肌から湧き上がる霧がゆっくりと漂っている。昨夜、彼に声をかけてきた“古びた制服の駅員”を探すように視線を走らせた。
しかし、どこにもいない。
駅舎の影も、ホームの端も、スイッチバックの分岐も。
すべてが無人駅らしく、静まり返っている。
――おかしい。確かに、話をした。駅の仕組みを説明してくれたし、忠告まで残した。
「最終列車で乗り遅れた人間は、ここから出られないんだ」
ぞっとする言葉が耳に蘇る。
落ち着こうと深呼吸してから、僕はホームのベンチに近づいた。
そこには昨日見たときと同じように、新聞と時刻表が置かれている。昨日と変わらない配置、まるで時間が止まっているかのように。
僕は手を伸ばし、新聞を広げた。
日付を見て、心臓が強く跳ねる。
昭和五十七年八月十二日。
何十年も前のものだ。紙面は黄ばみ、角は擦り切れている。なのに、まるで昨日配られたばかりのように整った形で残っていた。
時刻表も同じだ。ページをめくると、ダイヤの記載は昭和のまま。今の列車の本数とは全く違う。
思わず息を呑んだ。
――やはり、あの駅員は……。
そのとき、背後から草を踏む音がした。
驚いて振り返ると、作業服を着た年配の男が山道から現れた。背には大きな背負子、手には鎌と道具箱。どうやら地元の山道整備員らしい。
「おや、こんなとこで降りたのかい」
人懐こい笑みを浮かべ、男は言った。
「珍しいな。ここで下りる人なんて滅多にいないのに」
主人公は新聞を胸に抱えたまま、思わず問いかけた。
「ここ……無人駅じゃないんですか? 昨日、駅員さんが……」
整備員は一瞬、怪訝な顔をした。
「駅員? いやいや、ここはもう何十年も無人だよ」
そしてホームを見回しながら、懐かしむように続けた。
「昔は駅員さんが常駐してた。スイッチバックの案内もしてくれてね。でも利用者が減って、昭和の終わりには無人になったんだ」
「……そんなはずは。確かに会ったんです。古い制服を着た中年の男で……」
主人公の声が震える。
整備員はふっと真顔になり、低い声で言った。
「そうか……あんた、見たんだな」
主人公は言葉を失った。
「この駅にはね、昔から噂があるんだ。最終列車を見送る助役さんが、今でも夜になると巡回してるって。みんな、冗談みたいに話してたが……」
男の視線が、遠くの山の斜面を越えて消える線路に向かう。
「ほんとうに、いるのかもしれんな」
整備員はそれ以上多くを語らなかった。ただ、どこか畏れを含んだ眼差しで主人公を見つめ、やがて山道へ戻っていった。
残された僕は、新聞と時刻表を見つめた。
――駅員は幽霊だったのか?
あるいは、この駅そのものに縛られた“最後の守り人”なのか。
答えは出ない。だが確かに、昨夜、彼と会話をした。その記憶は鮮明だ。
僕は静まり返ったホームに立ち尽くし、遠ざかる蝉時雨を聞きながら、決意を固めていた。
――この駅の真相を、もっと知りたい。
5 写真の中の男
翌朝、高松へ戻るはずの予定を変更して、僕は町の郷土資料館に足を運んだ。
駅から山を下り、集落を抜けた先の小さな二階建ての建物。入口の横には「○○町歴史民俗資料館」と木の看板が掲げられている。観光客の姿はなく、館内はひっそりとしていた。
受付にいた年配の女性に「坪尻駅のことを調べたい」と告げると、奥の閲覧室に案内された。
机の上に積まれた古いアルバムと、地元の鉄道史をまとめたファイル。ページをめくると、開業当時の盛況な写真、蒸気機関車がスイッチバックで行き来する様子、そして昭和四十年代の賑わいが次々と現れる。
――だが、目を奪われたのは一枚の集合写真だった。
駅舎の前で職員たちが整列して写っている。制服の襟は古く、胸には国鉄の徽章。前列中央に立つ助役の名札には、くっきりと「○○」と書かれている。
その顔を見た瞬間、僕の呼吸は止まった。
昨日、ホームで出会ったあの男――。
古びた制服に、不自然に時代がかった言葉遣いで「ここからは出られない」と告げた、あの駅員と寸分違わぬ顔だったのだ。
手が震える。ページをめくると、同じ人物がスイッチバックの構内を指差し、見学の子どもたちに説明している写真があった。説明文にはこう記されていた。
「坪尻駅助役・○○氏。昭和六十年、駅無人化に伴い最後まで勤務」
――最後まで、勤務。
つまり彼は事故で亡くなったわけでも、途中で去ったわけでもない。
駅が無人化されるその日まで、忠実に持ち場を守り続け、やがて役目を終えた。
それなのに、なぜ昨夜、ホームに立っていたのか。
なぜ最終列車を見送るように、こちらを見ていたのか。
僕の頭に、昨日整備員の言葉がよみがえる。
「この駅にはずっと“見回りを続ける助役さん”がいる、って昔から噂があるんだよ」
それはただの噂話ではなく、事実だったのかもしれない。
いや、事実と呼ぶべきなのかどうかすら分からない。
ただ、彼は確かに存在していた。冷たい風とともに、ホームの影に。
胸がざわめき、僕は慌ててアルバムを閉じた。指先には紙のざらつきが残る。
再び受付に戻ると、年配の女性が何気なく口を開いた。
「その助役さんね、真面目な方だったそうよ。最後の日も、列車が出ていくまでホームに立ち続けていたって」
「……最後の日?」
「無人化の当日。職員が全員引き上げた後も、ひとりだけ残って、発車する最終列車に深々とお辞儀をしていたそう。まるで駅そのものと別れを告げるみたいに」
僕は返す言葉を失った。
自分が見たのは、その「姿勢」の延長なのかもしれない。
駅に残された記憶が、夏の夜の闇に滲み出していたのだろうか。
その日の午後、僕は再び土讃線に乗り込んだ。
車窓には緑の山並みが流れていく。
やがて列車は減速し、坪尻のスイッチバックへと差しかかった。
ホームが見える。
ベンチには、昨日と同じ古い新聞と時刻表が置かれている。
そして――。
視線の端に、人影があった。
薄い夏の陽射しの中、古い制服をまとった彼が、静かに腰掛けている。
正面は見えない。ただ、肩越しの背中だけがはっきりと浮かんでいた。
列車が動き出す。ホームが遠ざかる。
その背中は微動だにせず、ただ遠くを見つめているようだった。
まるで今もなお、最終列車を送り出しているかのように。
僕は窓に額を寄せ、心の中で小さくつぶやいた。
――さよなら。
音もなくトンネルが迫り、視界から坪尻駅が消えていった。
※この物語はフィクションです。
(完)
夏の午後、列車のドアが開くと、むっとする熱気と蝉時雨が一斉に押し寄せてきた。
僕は小さなリュックを背負い、ホームに降り立った。目の前に広がるのは、山々に囲まれた秘境駅――坪尻駅。
四国・土讃線の中でも、とりわけ鉄道ファンの間で知られた存在だ。駅に通じる道路はなく、来るためには鉄路を使うしかない。降り立つ乗客もほとんどいないと聞いていたが、実際にホームに立ってみると、その孤絶感は想像以上だった。
列車は僕を置き去りにして、山の谷間へと走り去っていく。エンジン音が遠ざかるにつれて、駅は完全な静寂に包まれた。残されたのは蝉の声と、わずかに響く風の音だけ。
ホームのベンチに目をやったとき、僕は小さな違和感を覚えた。
そこには、数日前の日付が刷られた新聞が広げられており、その上に使い込まれた古い時刻表が置かれていたのだ。
「……なんだ、これ」
新聞は湿気で少し波打っており、誰かがつい先日ここで読んだまま放置したように見える。しかし坪尻駅は無人駅だし、降りる客もほとんどいないはずだ。
時刻表を手に取ると、紙がすっかり黄ばんでおり、角は擦り切れていた。ページをめくると、表紙に「昭和四十年版」と印刷されている。
思わず息を呑んだ。どう考えても五十年以上前の代物だ。
鉄道趣味の誰かがわざと置いていったのだろうか。けれど新聞は数日前の日付だ。時の隔たりがあまりに奇妙だった。
僕はカメラを取り出し、ホームの様子を撮影した。山間にたたずむ小駅。ベンチに置かれた新聞と古い時刻表。レンズ越しに見ると、その取り合わせはどこか現実感を欠いて見えた。
――まるで、時間が交錯しているみたいだ。
シャッター音がホームに響いた瞬間、ふと背筋にひやりとしたものが走った。だが、すぐに汗が滲むほどの暑さがその感覚をかき消す。
僕は待合室に入った。木造の小さな建物で、薄暗い中に木のベンチが並び、壁に貼られた観光ポスターは色褪せている。端の棚には鉄道雑誌が数冊置かれていたが、どれも十年以上前のものだった。
「さすが秘境駅……」
独り言がやけに大きく響いた。人気のなさに心細さを覚えながらも、僕はノートを取り出し、これまで巡った駅の記録をつけ始めた。写真と簡単な感想、目についた特徴を書き留める。坪尻のページには、さっきの“異物”のこともメモしておいた。
やがて、山の稜線に太陽が沈み始めた。木々の影がホームに長く伸び、赤みを帯びた光がベンチを照らす。蝉の声は弱まり、代わりに遠くでカエルの鳴き声が聞こえ始める。
夕暮れの気配の中で、僕はふと不安を覚えた。
ここで降りたのは自分一人。迎えもなければ、逃げ場もない。
次の列車は夜になるまで来ないと、さっき確認したばかりだ。
――そのとき。
「……お客さん、ここで降りたのか」
不意に背後から声がした。
2 駅員との遭遇
ホームの端に、ひとりの男が立っていた。五十代半ばくらいだろうか。色あせた濃紺の制服、銀色のボタン、胸には古めかしい駅員の徽章。首筋まできちんと締められたネクタイが、蒸し暑い空気の中でやけに場違いに見える。
「あ、はい。秘境駅めぐりで……。ここは有名なので」
僕はとっさに答えた。
彼はふっと口元をゆるめたが、どこか影を落とした笑みだった。
「物好きだな。わざわざこんな不便なところへ」
そう言いながら、彼は僕の隣に歩み寄ってくる。靴底がホームに擦れる音が、妙に重く響いた。
「この駅はな、特殊な造りをしている。スイッチバック、というやつだ」
指さしながら説明を始めた。
「列車はこのままでは坂を上れん。だからいったん引き込み線に入って、進行方向を変える。運転士と車掌の呼吸が合わねばならん。昔は、よく見物人もいた」
僕は頷きながら耳を傾ける。鉄道好きの血が騒ぐ一方で、彼の話しぶりには妙な古めかしさがあった。語尾はどこか明治や大正の小説に出てくるような響きで、現代の駅員とはかけ離れている。
「今は自動化で、駅員など置いていないはずですが……」
そう口にすると、彼はぴたりと僕を見据えた。暗がりのせいで瞳の色までは判別できなかったが、その視線は強烈に胸へ突き刺さる。
「――そう思っているのか」
間を置き、彼はかすれた声で続けた。
「最終列車に乗り遅れた人間は、ここから出られない」
ぞくり、と背筋を氷でなぞられたような感覚。思わず笑い飛ばそうとした。
「はは……それって、冗談ですよね?」
しかし彼は笑わなかった。むしろ唇を引き結び、淡々と告げる。
「冗談ではない。山道は暗く、道を知る者でも迷う。携帯の電波も届かん。もし朝まで閉じ込められれば――」
その先は言わなかった。代わりに、ホームの端に視線をやる。そこは先ほどまで誰もいなかったはずなのに、視界の端で一瞬、揺らぐ影を見た気がした。
「まあ、気をつけることだ。鉄道は時刻で動く。人間の都合など待ってはくれん」
彼はそう締めくくり、制服の裾を直した。
次の瞬間、山鳩の羽音が響き、僕は思わず顔を上げた。けれど、そこにはもう誰もいなかった。
あまりに唐突で、僕は立ち尽くす。夕闇は濃さを増し、駅のホームは灰色に沈んでいる。
本当にさっき、駅員の男がそこにいたのか――。
ポケットのスマホを取り出し、カメラを構えてホームを撮る。画面にはただの無人駅が映るだけ。だがシャッターを切った瞬間、耳の奥にさっきの声が反響するように甦った。
『最終列車で乗り遅れた人間は、ここから出られないんだ』
僕は思わず肩を震わせ、ホームから駅舎の待合室へ駆け込んだ。
3 不思議な一夜
最終列車を見送ったあと、坪尻駅は完全に闇に包まれた。山あいの駅には街灯がほとんどなく、ホームに設置された裸電球だけが、頼りない光を放っている。
蝉の声も途絶え、かわりに虫の羽音や、谷間を渡る夜風のざわめきが耳にしみた。僕は、背負ってきたリュックを下ろし、待合室に腰を落ち着けた。木のベンチは冷たく、古びた板の隙間からは夏の湿気と油のような匂いが漂っている。
スマートフォンを取り出しても、当然のように圏外だった。SNSも地図アプリも、いまは役に立たない。頼りになるのは手元の懐中電灯と、昼間に撮影した数枚の写真だけだ。
ふと画面を確認すると、ベンチの写真に妙な影が写り込んでいるのに気づいた。背後に誰かが立っているように見える。だが撮影時、確かにそこには誰もいなかったはずだ。光の反射か、あるいは木々の影か。祐真はそう自分に言い聞かせ、スマホを閉じた。
夜半、どれほど眠ったのか定かでない。夢と現実の境界が曖昧なまま、僕はふと目を覚ました。
耳に飛び込んできたのは、かすかな「チン、チン」という発車ベルの音だった。古い電鈴のような甲高い響き。次いで、レールを軋ませる車輪の音が谷を震わせた。
慌てて窓際に駆け寄ると、月明かりに照らされたホームには列車の姿などなかった。ただ、霧が流れる線路と、暗闇に沈む山肌があるだけだ。
「……気のせい、か?」
そう呟いた途端、待合室の外にかすかな足音が響いた。砂利を踏みしめる、一定のリズム。
僕の背筋が冷たくなる。懐中電灯を握りしめ、窓越しにホームを覗き込むと、駅舎の端から人影がゆっくりと歩いてくるのが見えた。
薄い光に照らされた背中は、昼間に出会った駅員――あの古風な口調の男とそっくりだった。古びた制服の肩章がちらりと光り、帽子の庇が夜風に揺れた。
「……すみません!」
声をかけたつもりだったが、喉は渇き、音はかすれて空気に溶けた。
男は振り返らない。そのままホーム中央のベンチに腰を下ろすと、手に持った紙束を眺めはじめた。僕は目を凝らした。――それは、あの時刻表のように見えた。
次の瞬間、ふいに電灯が明滅した。暗闇が駅舎を包み込み、再び光が戻った時、ホームには誰もいなかった。ベンチも空っぽで、風が新聞紙の切れ端を転がしているだけだ。
僕は待合室の扉に駆け寄り、外に出ようとした。しかし、不思議なほど体が動かない。足が鉛のように重く、喉元を掴まれるような圧迫感に襲われた。心臓の鼓動だけがやけに大きく響き、視界の端に再び揺らぐ影が立った。
――これは夢なのか、現実なのか。
気づけば僕はベンチに座り込み、頭を抱えていた。外の音も影も、もう感じられない。ただ、自分の荒い呼吸と耳鳴りだけが夜を埋め尽くしている。
それでも眠気は容赦なく訪れ、やがて僕は意識を手放した。
翌朝、鳥のさえずりで目を覚ましたとき、待合室は昨日と同じように静まり返っていた。夜の出来事が幻であったかのように、ホームには何も残っていない。
ただ一つ、違っていたのは――ベンチに置かれた古い時刻表が、ページを開いたまま風に揺れていたことだった。
開かれていたのは「昭和43年 夏季臨時ダイヤ」の頁。そこには赤いボールペンで、震える字が書き込まれていた。
「最終列車に乗り遅れるな」
4 消えた駅員
朝の光が山の稜線を越えて、駅舎の窓から差し込んできた。
蝉の声が一斉に鳴き始める。ざわざわとした音に目を覚ました僕は、木の長椅子から上体を起こした。首筋がじっとりと汗ばんでいる。
昨夜、待合室の隅に横になったはずだ。終電を見送り、薄暗いランプの灯りの下で、夢と現実の境界が曖昧になる時間を過ごした。確かに夜半、ホームを歩く足音を聞いた気がする。発車ベルのような音も耳に残っている。
あれは夢だったのか。いや、それとも……。
僕は思わず立ち上がり、ホームへ出た。朝の空気は湿っていて、緑の山肌から湧き上がる霧がゆっくりと漂っている。昨夜、彼に声をかけてきた“古びた制服の駅員”を探すように視線を走らせた。
しかし、どこにもいない。
駅舎の影も、ホームの端も、スイッチバックの分岐も。
すべてが無人駅らしく、静まり返っている。
――おかしい。確かに、話をした。駅の仕組みを説明してくれたし、忠告まで残した。
「最終列車で乗り遅れた人間は、ここから出られないんだ」
ぞっとする言葉が耳に蘇る。
落ち着こうと深呼吸してから、僕はホームのベンチに近づいた。
そこには昨日見たときと同じように、新聞と時刻表が置かれている。昨日と変わらない配置、まるで時間が止まっているかのように。
僕は手を伸ばし、新聞を広げた。
日付を見て、心臓が強く跳ねる。
昭和五十七年八月十二日。
何十年も前のものだ。紙面は黄ばみ、角は擦り切れている。なのに、まるで昨日配られたばかりのように整った形で残っていた。
時刻表も同じだ。ページをめくると、ダイヤの記載は昭和のまま。今の列車の本数とは全く違う。
思わず息を呑んだ。
――やはり、あの駅員は……。
そのとき、背後から草を踏む音がした。
驚いて振り返ると、作業服を着た年配の男が山道から現れた。背には大きな背負子、手には鎌と道具箱。どうやら地元の山道整備員らしい。
「おや、こんなとこで降りたのかい」
人懐こい笑みを浮かべ、男は言った。
「珍しいな。ここで下りる人なんて滅多にいないのに」
主人公は新聞を胸に抱えたまま、思わず問いかけた。
「ここ……無人駅じゃないんですか? 昨日、駅員さんが……」
整備員は一瞬、怪訝な顔をした。
「駅員? いやいや、ここはもう何十年も無人だよ」
そしてホームを見回しながら、懐かしむように続けた。
「昔は駅員さんが常駐してた。スイッチバックの案内もしてくれてね。でも利用者が減って、昭和の終わりには無人になったんだ」
「……そんなはずは。確かに会ったんです。古い制服を着た中年の男で……」
主人公の声が震える。
整備員はふっと真顔になり、低い声で言った。
「そうか……あんた、見たんだな」
主人公は言葉を失った。
「この駅にはね、昔から噂があるんだ。最終列車を見送る助役さんが、今でも夜になると巡回してるって。みんな、冗談みたいに話してたが……」
男の視線が、遠くの山の斜面を越えて消える線路に向かう。
「ほんとうに、いるのかもしれんな」
整備員はそれ以上多くを語らなかった。ただ、どこか畏れを含んだ眼差しで主人公を見つめ、やがて山道へ戻っていった。
残された僕は、新聞と時刻表を見つめた。
――駅員は幽霊だったのか?
あるいは、この駅そのものに縛られた“最後の守り人”なのか。
答えは出ない。だが確かに、昨夜、彼と会話をした。その記憶は鮮明だ。
僕は静まり返ったホームに立ち尽くし、遠ざかる蝉時雨を聞きながら、決意を固めていた。
――この駅の真相を、もっと知りたい。
5 写真の中の男
翌朝、高松へ戻るはずの予定を変更して、僕は町の郷土資料館に足を運んだ。
駅から山を下り、集落を抜けた先の小さな二階建ての建物。入口の横には「○○町歴史民俗資料館」と木の看板が掲げられている。観光客の姿はなく、館内はひっそりとしていた。
受付にいた年配の女性に「坪尻駅のことを調べたい」と告げると、奥の閲覧室に案内された。
机の上に積まれた古いアルバムと、地元の鉄道史をまとめたファイル。ページをめくると、開業当時の盛況な写真、蒸気機関車がスイッチバックで行き来する様子、そして昭和四十年代の賑わいが次々と現れる。
――だが、目を奪われたのは一枚の集合写真だった。
駅舎の前で職員たちが整列して写っている。制服の襟は古く、胸には国鉄の徽章。前列中央に立つ助役の名札には、くっきりと「○○」と書かれている。
その顔を見た瞬間、僕の呼吸は止まった。
昨日、ホームで出会ったあの男――。
古びた制服に、不自然に時代がかった言葉遣いで「ここからは出られない」と告げた、あの駅員と寸分違わぬ顔だったのだ。
手が震える。ページをめくると、同じ人物がスイッチバックの構内を指差し、見学の子どもたちに説明している写真があった。説明文にはこう記されていた。
「坪尻駅助役・○○氏。昭和六十年、駅無人化に伴い最後まで勤務」
――最後まで、勤務。
つまり彼は事故で亡くなったわけでも、途中で去ったわけでもない。
駅が無人化されるその日まで、忠実に持ち場を守り続け、やがて役目を終えた。
それなのに、なぜ昨夜、ホームに立っていたのか。
なぜ最終列車を見送るように、こちらを見ていたのか。
僕の頭に、昨日整備員の言葉がよみがえる。
「この駅にはずっと“見回りを続ける助役さん”がいる、って昔から噂があるんだよ」
それはただの噂話ではなく、事実だったのかもしれない。
いや、事実と呼ぶべきなのかどうかすら分からない。
ただ、彼は確かに存在していた。冷たい風とともに、ホームの影に。
胸がざわめき、僕は慌ててアルバムを閉じた。指先には紙のざらつきが残る。
再び受付に戻ると、年配の女性が何気なく口を開いた。
「その助役さんね、真面目な方だったそうよ。最後の日も、列車が出ていくまでホームに立ち続けていたって」
「……最後の日?」
「無人化の当日。職員が全員引き上げた後も、ひとりだけ残って、発車する最終列車に深々とお辞儀をしていたそう。まるで駅そのものと別れを告げるみたいに」
僕は返す言葉を失った。
自分が見たのは、その「姿勢」の延長なのかもしれない。
駅に残された記憶が、夏の夜の闇に滲み出していたのだろうか。
その日の午後、僕は再び土讃線に乗り込んだ。
車窓には緑の山並みが流れていく。
やがて列車は減速し、坪尻のスイッチバックへと差しかかった。
ホームが見える。
ベンチには、昨日と同じ古い新聞と時刻表が置かれている。
そして――。
視線の端に、人影があった。
薄い夏の陽射しの中、古い制服をまとった彼が、静かに腰掛けている。
正面は見えない。ただ、肩越しの背中だけがはっきりと浮かんでいた。
列車が動き出す。ホームが遠ざかる。
その背中は微動だにせず、ただ遠くを見つめているようだった。
まるで今もなお、最終列車を送り出しているかのように。
僕は窓に額を寄せ、心の中で小さくつぶやいた。
――さよなら。
音もなくトンネルが迫り、視界から坪尻駅が消えていった。
※この物語はフィクションです。
(完)
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