ゲームショーコンパニオンとオタク彼女の入れ替わり

ジャンタマオ

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ゲームショーコンパニオンとオタク彼女の入れ替わり

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会場は眩しいライトと電子音で満ちていた。巨大なスクリーンには最新ゲームのトレーラーが流れ、ブースごとに人だかりができている。
オタクカップルの彼氏は目を輝かせて次々と展示を見て回っていたが、あるブースの前でぴたりと足を止めた。

そこには、美人なコンパニオンが立っていた。
長身でモデルのようにスラリとした体、つややかな黒髪、笑顔を浮かべながら来場者にパンフレットを手渡している。彼氏の視線は釘付けになり、思わず口を半開きにして見惚れてしまった。



隣に立つ彼女は、その様子を見て心が沈んでいった。
自分は地味なTシャツにジーンズ、髪もただひとつに結んだだけ。
鏡を見れば、化粧も薄くて華やかさに欠ける。比べるまでもなく、あのコンパニオンと並べば自分は霞んでしまう。

彼氏の目の輝きが、自分に向けられたことはあっただろうか――そう思った瞬間、胸がきゅっと締めつけられた。

「ゲームを楽しみに来たのに、なんで私、比べて落ち込んでるんだろう…」
そう思っても、心は追いつかない。
彼氏が一歩前に出てコンパニオンに声をかけそうになった時、彼女は思わず袖を掴んだ。

「……行こ、次のブースも見たいでしょ」

そう言った声は少し震えていた。彼氏は「お、おう」と頷いたが、未練がましく振り返ってしまう。
その仕草が彼女の心にさらに影を落とす。

雑踏の中を歩きながら、彼女は無理に笑顔を作っていた。
だけど胸の奥で、「私じゃ彼にとって物足りないのかな」という不安が渦巻いている。

ゲームショーの華やかさの中で、二人の心の距離はほんの少しだけ離れてしまったのだった。


人混みの波をかき分け、会場を後にした二人。
さっきまでの熱気はまだ余韻として残っていたが、空気はどこかぎこちない。

ふと、彼氏が何気なく呟いた。

「……あのコンパニオンさん、美人だったよなあ」

耳に入った瞬間、彼女の心臓が強く脈打った。
――今、私の隣にいるのに。
――どうしてわざわざ口に出すの。

胸がズキリと痛み、視界が滲む。
彼氏は自分がどれほど残酷な言葉を言ったか、気づいていない。
ただ感想を漏らしただけのように見えるその無神経さが、余計に苦しかった。

「……っ!」
彼女は立ち止まり、振り返って彼氏を見つめた。
目には涙が浮かび、唇が震えている。

「私が……隣にいるのに……」

その言葉を残して、彼女は踵を返し、泣きながら走り出した。
人混みの中に小さな背中が消えていく。


彼氏はようやく自分の言葉の重さに気づき、慌てて手を伸ばした。
「お、おい! 待ってよ!」
だが声は雑踏にかき消され、彼女の姿はもう遠い。

華やかな会場の灯りが、二人の心の距離を際立たせていた。


涙で視界が滲み、ただ無我夢中で走っていた。
街の人混みも、足元の痛みも気にせず、彼氏の言葉が頭の中で何度も反響していた。
「美人だったよなあ……」
その一言が、彼女の胸を締めつけ続けていた。

その時だった。
角を曲がった瞬間、まるで待ち伏せされていたかのように、あのコンパニオンが現れた。
衣装を着替え、会場からの帰りらしい。

「――っ!」
避ける間もなく、二人は勢いよくぶつかった。
地面に転がり、視界がぐるぐると回る。

頭がくらくらする中で、彼女は目を開けた。
見下ろした自分の手――白く細長い指、そして艶やかな黒髪が肩から流れ落ちている。

「え……?」

慌てて立ち上がると、目の前にはTシャツとジーンズ姿の自分の体が、呆然と座り込んでいた。
その顔には、さっきまで自分が流していた涙が残っている。

「まさか……」


互いの目が合った瞬間、理解した。
――私と、あのコンパニオンが入れ替わってしまったのだ。

彼女は立ち尽くす。
人々の視線は、自分に向けられている――いや、コンパニオンの美しい姿をまとった“自分”に向けられているのだ。

震える心の奥に、奇妙な感覚が芽生える。
あれほど憧れて、彼氏の目を奪った存在の体が、今まさに自分のものになっている。

涙で曇ったはずの心に、初めて「優越感」のような影が差していった。


街中での衝突からしばらくして――彼女は自分の姿を確認する。
黒髪ロングに艶やかな肌、白いワンピースに黒のニーハイブーツ。
鏡を使わずとも、周囲の人の視線が雄弁に語っていた。

「……これが、私?」


胸元からウエスト、すらりと伸びた脚にかけて、すべてが自分のものとは思えない完璧さ。
それでも確かに、この体を動かしているのは自分なのだ。

混乱と興奮のまま彼氏の元へと走る。
人混みを抜け、振り返った彼氏の目が大きく見開かれた。
目の前に現れた美人が、まさか自分の彼女だとは思わなかったのだろう。

「ねぇ!」
彼女は勢いよく飛び込むように彼氏に抱きついた。


腕の中に収まった“彼女”のあまりの美貌に、彼氏は思わず顔を真っ赤にして固まる。
そんな彼を見上げ、彼女は小さく笑った。

「……ねえ、私、美人かな?」

普段なら絶対に言えない言葉が、今は自然に口をついて出る。
胸の奥で、地味だった自分が誇らしげに囁いていた。

彼氏は目を泳がせながらも、抑えきれない笑みを浮かべた。
「……あ、ああ……すごく、綺麗だよ。信じられないくらい」

その言葉に、彼女の頬は緩み、心の奥に温かい波が広がる。
ついさっきまで“コンパニオンを羨んで泣いていた自分”が、今はその姿で愛されている。

彼氏はデレデレと顔をほころばせ、彼女の肩を抱き寄せる。
そして彼女もまた、「今度は絶対に、彼の視線を独り占めしてやる」と心の中で強く誓ったのだった。


街灯が夜の通りを照らし、ざわめきの中で二人は抱き合っていた。
美しいコンパニオンの体に入った彼女は、彼氏の腕の温もりを感じながらも、内心ドキドキしていた。

彼氏は頬を真っ赤にしながらも、信じられないといった表情で彼女を見つめる。
「な、なんで僕なんかに抱きついてくれたの?」

その言葉に、彼女は唇をわずかに上げて笑う。
「……一目惚れ、かな」

彼女自身にとっても、こんな台詞を口にする日が来るとは思わなかった。

彼氏は嬉しそうに笑みを広げる。
「うそだろ……だって、さっき彼女と別れたばっかりなんだ」

その無神経な言葉に、彼女の心はチクリと刺された。
――その“彼女”は、私だよ。
けれど、今はそのことを明かすわけにはいかなかった。

彼女は平静を装い、少しムッとした表情を隠しながら、柔らかな声で返す。
「……じゃあ、お付き合いしましょ」

その言葉と同時に、彼女は彼氏の首に手を回し、そっと顔を近づけた。
人混みのざわめきも、ネオンの光も、この瞬間だけは遠ざかっていく。


彼氏は夢のように目を閉じ、彼女は胸の奥で密かに微笑む。
――今度は“美人な私”として、あなたを独り占めするの。

二人の物語は、皮肉にも入れ替わりから始まってしまったのだった。


夜の街を抜け、二人は彼氏の1Kマンションにたどり着いた。
小さな玄関を開けると、いつも通りの生活感が漂う。脱ぎ捨てられたゲーム雑誌、半端に積まれた漫画の山、そして机の上には空き缶が二つ。

彼氏は心臓が爆発しそうな思いでその空間を振り返った。
――ここに、あの美人なコンパニオンがいる。
それだけで現実感が吹き飛び、足が地に着いていないような感覚に襲われていた。

「ふぅ……」
コンパニオンの体になった彼女は、自然な仕草でベッドに腰を下ろし、すらりとした脚を組んだ。
ニーハイブーツ越しに伸びる足は艶めかしく、白いワンピースがふわりと揺れる。


その光景に、彼氏は思わず息を呑んだ。
「……信じられない……こんな美人が、俺の部屋に……」

だが当の彼女は、部屋を見渡して小さく笑った。
「なんだ、やっぱり落ち着くな。この部屋」

彼氏は目を瞬かせる。
「え……? え、えっと……?」

「だって、何度も来てるからね。見慣れた部屋だし」
そう言う彼女の声色は、以前と何も変わらない“彼女”そのものだった。

彼氏は頭の中で混乱する。
――さっき別れたはずの彼女と同じ口調、同じ表情。
だけど今、目の前にいるのは誰もが振り返る美人コンパニオン。

「……どういうことなんだろう」
胸の奥でそんな疑問を抱きながらも、彼氏は視線を外せなかった。

一方の彼女は、ベッドに腰を落ち着け、内心で小さく安堵していた。
――中身は変わっても、ここは“私の知っている場所”。
その安心感が、混乱した心をわずかに落ち着かせていた。


部屋のテレビ画面に、いつも二人で遊んでいるゲームのタイトルが映し出された。
コントローラーを手にした彼女は、すっかり馴染みのある動作で操作を始める。
白いワンピースに黒のニーハイブーツ姿という圧倒的なビジュアルなのに、画面に夢中になって熱く語る仕草は、紛れもなく“あの彼女”そのものだった。

「いやいや、そこで必殺技出すのは甘いんだって」
「甘い? じゃあアンタ、どうやってかわすわけ?」

そんなやり取りが飛び交うと、自然と笑いが溢れていく。
彼氏は心の奥で混乱を抱えながらも、目の前の美人と、いつもの“オタク彼女”が重なって見えてしまう。

ふと彼氏はコントローラーを止め、彼女を見つめた。
「……まさか、だけど……今日、一緒にゲームショーに行った……?」


彼女は一瞬きょとんとした後、唇を緩めて微笑んだ。
「……そのまさか、だよ」

彼氏の心臓は跳ね上がる。信じられないはずなのに、確信が芽生えていく。
その様子を見透かしたように、彼女は身体を少し傾け、上目遣いで覗き込む。

「ねぇ……この体が好きなんでしょ?」

挑発めいた囁きに、彼氏の顔は一気に赤く染まる。
彼女はいたずらっぽく笑い、コントローラーを再び握り直した。
――オタクカップルのゲーム時間は、今までとはまったく違う意味を帯び始めていた。


ゲームの試合がひと段落ついたところで、彼女はコントローラーを膝に置き、ぽつりと呟いた。

「……ごめんね。やっぱり、こんな美人な彼女の方がいいよね」

黒髪ロングに、華やかなメイク。白いワンピースとニーハイブーツ姿の自分を見下ろしながら、どこか不安げに笑う。

その言葉に、彼氏は首を横に振り、真剣な眼差しで言った。

「そんなことないよ。君と好きなゲームをして、オタクな会話ができる……それだけで、俺は幸せなんだ」

一瞬、時間が止まったように感じる。
彼女は思わず目を瞬かせ、そして頬を赤らめた。

「……そうかな」
そう言って彼女は、はにかむように微笑んだ。
普段の地味な姿では決して見られなかった、コンパニオンの美貌を纏った照れ笑い。


その可愛らしさと美しさが同居する表情に、彼氏の胸は高鳴り続けた。

――やばい、これは反則だろ。
目の前の彼女は、自分と同じオタク会話で盛り上がれる最高のパートナー。
それなのに見た目は、誰もが振り返るコンパニオン級の美人。

彼氏は表情を必死で抑えつつも、心の中ではにやけが止まらなかった。
そしてその横顔を見ながら、彼女は少し誇らしげに笑った。

「……じゃあ、もうちょっとゲームしよっか」

二人の時間は、ますます甘く、特別なものへと変わっていくのだった。


ゲームの電源を切ったあと、彼女は「ふぅ」とひと息ついて、黒のニーハイブーツを脱ぎはじめた。
ベッドの上に転がるように仰向けになり、白いワンピースの裾がふわりと揺れる。
解放された素足が長く伸び、照明の光を受けてきれいなラインを描いていた。

彼氏は目のやり場に困りながらも、気づけば彼女の長い足に視線を奪われていた。
ゲーム機のコントローラーをまだ手に握りしめながら、胸の鼓動が落ち着かない。

その視線に気づいた彼女は、いたずらっぽく笑って声をかける。
「ねぇ……本当に“ゲームしてオタクの会話するだけ”で幸せなの?」

そう言うと、彼女はゆっくりと片足を伸ばし、彼氏の足をつんつんと遊ぶように触れた。
柔らかくしなやかな感触に、彼氏は一瞬で固まる。


彼女は仰向けのまま視線だけをこちらに送り、からかうように囁いた。
「やっぱり、この体も気に入ってるんでしょ?」

顔を赤くしながらも、彼氏はかすかに笑みを浮かべた。
「……どっちもだよ。君とゲームできるのも、この姿で隣にいてくれるのも、全部幸せなんだ」

その言葉に、彼女の頬がほんのり赤く染まり、照れくさそうに目を逸らす。
――けれど、伸ばした足を下ろすことはなかった。


薄いカーテンの隙間から、やわらかな朝の光が差し込んでいた。
ゲームと笑い合った夜の延長で、二人は自然に同じベッドに身を寄せ合い、気づけば眠っていた。

先に目を覚ましたのは彼氏だった。
ふと横を見ると、そこには信じられないほど美しい寝顔があった。
黒髪が枕に広がり、白い肌が朝日に照らされて淡く輝く。
長い睫毛、ほんのり上気した頬、穏やかな寝息――どこを切り取っても完璧な美人。

彼氏は思わず息を呑んだ。
「……夢じゃないのか……?」


昨夜まで、オタクな彼女と肩を並べて遊んでいた。
いつもは地味で冴えない服を着て、同じようなゲームの話で盛り上がる。
その彼女が今――目の前で、コンパニオンの体を持つ美女として眠っている。

「……まさか俺の彼女が、こんな美女になっちゃうなんて……」

言葉に出した瞬間、胸の奥でこみ上げてくるものがあった。
誇らしさ、驚き、そして少しの不安。

彼氏はそっと彼女の頬にかかる髪を指で払った。
その仕草にも彼女は気づかず、安らかな寝息を立てている。
まるで夢の中の出来事を、そのまま引き延ばしたかのような朝。

彼氏はしみじみと余韻に浸りながら、
「……やっぱり幸せだ」
と心の中で呟いた。

彼女の寝顔を眺めながら、二人の“秘密”がこれからどうなるのかを想像する。
それでも今はただ、この奇跡のような一瞬を抱きしめていた。

彼女がゆっくりとまぶたを開いた。
寝ぼけ眼で髪をかきあげながら、かすれた声で「……おはよう」と一声。
それだけなのに、とびきりの美人の寝顔から零れるその仕草は、彼氏にとって胸を射抜かれるような可愛さだった。
――まるで普段通りの彼女なのに、いちいち可愛い。

「……お腹空いたなぁ」
彼女はベッドから降りると、裸足のまま小さなキッチンへと歩いていく。
そこには一人暮らし用の小さな冷蔵庫。

しゃがみこんで扉を開き、冷気とともに中を覗き込みながらゴソゴソと食材を探す。
ワンピース姿のまま冷蔵庫に向かうその姿は、モデルのような美貌にもかかわらず、仕草はどこまでも“いつもの彼女”そのものだった。

「卵と……ウインナーくらいならあるね」
にこりと笑いながら振り返る彼女。


昨夜まで夢のような非日常を過ごしていたはずなのに、今のこの朝の風景はまぎれもない日常だった。
ただ違うのは、その日常を送る彼女が、まるで雑誌から抜け出したような美人に変わってしまっていること。

それでも、冷蔵庫を探す仕草も、口にする言葉も――全部「いつもの彼女」であることに、彼氏は胸を打たれていた。

彼女は冷蔵庫から取り出した卵とウインナーを軽やかに手際よく調理し始めた。
黒髪を耳にかけ、白いワンピースの裾をひらめかせながら、フライパンの上で食材を転がす。

ふと、キッチンの調理台を見下ろして微笑んだ。
「……あれ、足が長くなったからかな。いつものキッチンが、ちょっと低く感じる」


自分の体の変化をさりげなく口にしながらも、その表情はどこか楽しそうだった。

やがて、皿に盛られた目玉焼きとウインナー、簡単なサラダが出来上がる。
「はい、おまちどうさま」

彼女はテーブルへと料理を運び、優しい笑みを浮かべた。
その姿は、まぎれもなく「いつもの彼女」なのに、
美貌とスタイルを兼ね備えた“コンパニオンの体”で行うその一つひとつの仕草は、眩しいほどに美しかった。

「こうして朝ごはん作るの、変わらないはずなのに……ちょっと特別な気がするね」
彼女がそう言って椅子に腰掛ける。

普段通りの朝食が、今はまるで非日常のワンシーンのように感じられるのだった。


朝食を食べ終えると、彼女は食器を片づけながらふと笑みを浮かべた。
「ねえ、思いついたんだけど……」

椅子に座る彼氏が首をかしげると、彼女は身を乗り出すようにして言った。

「この体ならさ、君が好きな メイド無双 のヒロインになりきれるかもしれない」

メイド服を纏いながらも、鋭い刀さばきで敵をなぎ倒す。
華奢なメイド姿に隠された、長身で抜群のスタイル。
それが彼氏が夢中になっているゲームの主人公だった。

普段は地味で目立たない自分には到底真似できない――そう思っていたけれど、今のこの体なら。
コンパニオン並みの美貌とスタイルを備えた今の自分なら、まさに「リアル・ヒロイン」になれる。

「……まさか、やってくれるの?」
彼氏の瞳がきらめいた。

彼女は得意げに片目をつぶって微笑む。
「もちろん。君のお気に入りのヒロイン、私がやってあげる」

その瞬間、彼氏の胸の鼓動は一気に早まった。
ただのオタクカップルだったはずの二人が、非日常のコスプレと憧れのヒロインを介して、さらに特別な時間を共有しようとしていた。


彼女は再び着替えて、今度は「ナースバスター」のヒロインを完璧に再現してみせた。
片目に黒い眼帯をつけ、真っ白なナース服に身を包む。
その手には銀色に輝く銃――ゲームの中でゾンビを蹴散らしていく象徴的な武器。

「キャーッ!」
軽やかに走り出すと、振り返っては銃を構え、迫る“見えないゾンビ”に向けて狙いを定める。
長身でスラリとした体がナース服に映え、眼帯が凛々しい美貌に影を落としている。


まるでゲームの画面から飛び出してきたかのような迫真の演技だった。

部屋の片隅で見守る彼氏は、あまりの完成度に言葉を失った。
「……すごい、本物だ……」

目の前でゾンビから逃げ惑うヒロインは、自分がいつも操作していたキャラクターそのもの。
しかも、それを演じているのは自分の彼女。

彼氏の心臓は高鳴り、興奮で顔が赤くなる。
「……最高すぎる……」

ひとしきり演じ終えた彼女は、眼帯の下からにやりと笑って銃を肩に担いだ。
「ふふ、どう? 君のお気に入りのナースバスター、私に似合ってる?」

彼氏は首がもげそうなくらい勢いよく頷いた。
彼女の美貌とゲーム愛が重なった瞬間、二人の関係はさらに深く、熱を帯びていくのだった。


朝食の後、彼女はふと思い出したようにクローゼットの奥を探りはじめた。
そこからそっと取り出したのは、黒いフリルのワンピースに猫耳カチューシャ、そして小さな尻尾がついた衣装。

「……これ、買っちゃったんだ」

声に出すのは少し恥ずかしかった。
でも、彼氏が一番好きなゲーム―― 『毎日黒猫生活』 のヒロイン。
黒猫が人間の姿になって主人公と恋や日常を過ごすそのキャラクターを、彼女は密かに知っていた。
そして、彼が本気で好きなのはこのキャラだということも。

衣装を着て、鏡の前に立つ。
黒髪ロングの自分には、黒猫の耳がよく似合っていた。
ワンピースの裾をひらりとつまみ、猫らしい仕草で片目を細めて笑う。

「……にゃん♪」

思わず小声で真似すると、自分でも顔が赤くなる。

リビングでくつろいでいる彼氏の前に、そっと姿を現す。
猫耳をぴょこんと揺らしながら、いたずらっぽく微笑んだ。

「ねぇ……“黒猫”の私、どうかな?」


彼氏は目を疑った。
大好きなゲームのヒロインが、まるで現実に飛び出してきたような光景。
「……え……うそ、最高すぎる……」

言葉にならないほどに頬を赤らめる彼氏を見て、彼女は小さく満足そうに頷いた。

――やっぱり知ってるんだよ、君が一番好きなのはこの黒猫ヒロインだって。
でも今は、その“ヒロイン”が私なんだから。

彼女の胸には、ちょっとした優越感が芽生えていた。


黒猫コスプレを終えた後、鏡を見つめながら彼女は小さく笑った。
「……この体なら、なんでも似合っちゃうなあ」

その言葉どおり、彼女はコスプレやコンパニオン活動、さらにはグラビア撮影にまで挑戦。
持ち前の明るさと“オタク気質”を隠さず、逆にそれを武器にすることで、唯一無二の存在として注目を浴びていった。

「ただの美人じゃない、筋金入りのオタク美人コンパニオン」
そんな肩書きが広まり、彼女は瞬く間に時の人となった。

ついに迎えた次の年のゲームショウ。
会場は例年以上の熱気に包まれ、スポットライトがステージを照らす。

アナウンスが響き渡る。
「今年のゲームショウにふさわしい人物は……この人しかいないでしょう!」

観客の歓声が一気に膨れ上がる中、彼女が堂々とステージに姿を現した。


黒髪ロングを揺らしながら、彼女は一歩一歩、ステージ中央へ。
その姿勢は凛として、笑顔は自信に満ちている。
かつてオタクの彼女だったことを知る者はほとんどいない。
今や“オタクを代表するコンパニオン”として、世界が彼女に注目していた。

「――どう? 最高でしょ?」

そう言わんばかりに、ステージ中央で堂々とポーズを決める。
ライトに照らされるその姿は、誰よりも輝いていた。

ゲームショウのステージから降りた彼女は、眩しいライトの余韻をそのまま背負いながら、楽屋の鏡に映る自分の姿を眺めた。
艶やかな黒髪、大きな瞳、モデルのようなスタイル。
街を歩けば振り返られ、男たちの視線を集めるのも当然だろう。

「……美人になると、こんなに目立つんだ。
それに、男の子って、ほんと優しくしてくれるのね」

そう言って唇を吊り上げると、彼女は鏡に向かって不敵な笑みを浮かべた。
「オタクの彼氏とも……そろそろ別れ時かもね。新しい彼氏、作っちゃおうかな」

彼女の胸には、かつての自分では決して抱けなかった“余裕”が芽生えていた。


一方、入れ替わりで地味な体を手に入れてしまったコンパニオン。
最初こそ、ステージで輝いていた頃との落差に落ち込んだ。
鏡に映る姿は地味で、背もそこまで高くなく、誰の視線も集めない。

だが、日が経つにつれ、その静かな生活に心が解けていくのを感じた。
「……あれ、気を張らなくてもいいんだ」

華やかな体では、常に人目を意識しなければならなかった。
笑顔を作る、スタイルを保つ、声をかけられたら応じる。
けれど今は、誰も自分に気づかない。
気楽に散歩をして、気兼ねなく一人で外食して、気楽に映画館に足を運べる。


そしてある日、彼女は元の彼女がよく遊んでいたゲーム機を手に取った。
「……ちょっと試してみようかな」

最初は興味半分だった。
けれど、気づけば夢中になっていた。
ステージで見せる笑顔のために演じていた自分ではなく、純粋に楽しむためにコントローラーを握る“オタクの体”。

「こんなに楽しいなんて……知らなかった」

コンパニオンは初めて、“目立たない日常”の中に、自由と喜びを見出していた。

美人になって新しい男の子を求める彼女と、地味な体で静かなオタク生活を楽しむコンパニオン。
二人の道は皮肉にも、互いのかつての望みを裏返すように進み始めていた。


翌年のゲームショウ。
眩しいライトが照らすステージでは、かつての自分――コンパニオンの体を持つ彼女が、堂々とポーズを決めていた。
喝采を浴び、カメラのフラッシュに囲まれる華やかな姿。

だが、ゲームオタクの体になった彼女は、そこに視線を向けることなく、ひたすら大好きなゲームの新作試遊ブースへと並んでいた。
「こっちの方が断然わくわくするな……」
そう小さく笑いながら。

列が進み、後ろに人が並んだ気配を感じた時。
「この新作、ずっと楽しみにしてたんだよね」

振り返ると、そこにはステージ上でポーズを決めていた“元自分の体”の彼氏、
つまり今の自分“オタク彼女の体”の元彼氏が立っていた。
驚いたことに、彼はまったく気づかず、自然に話しかけてくる。

「最近さ、彼女コンパニオンの仕事ばっかりで、一緒にゲームできてないんだよな」
少し照れくさそうに笑うその姿は、かつて“オタク彼女”の隣でゲームをしていた時と変わらなかった。

思わず口をついて出た。
「……じゃあ、私と一緒にゲームしない?」

一瞬驚いた表情を見せた彼氏だったが、すぐに頷き、笑みを浮かべる。
「いいね、楽しそうだ」

試遊を終える頃には、二人はすっかり意気投合していた。
ゲームの話で盛り上がり、笑い合い、気づけば同じ方向へと歩いて帰っていく。


ステージ上のスポットライトとは無縁の、静かで穏やかな時間。
けれどそれこそが、彼女にとって何よりも心地よい“幸せのかたち”だった。
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