掃除機人間と思いを寄せていた女性の入れ替わり

ジャンタマオ

文字の大きさ
1 / 1

掃除機人間と思いを寄せていた女性の入れ替わり

しおりを挟む
謎の研究者が生み出した「なんでも合成機」。
その実験体として選ばれたのは、一人の平凡な青年だった。
彼は掃除機と融合させられ、掃除機人間となる。

外見は普通の人間と変わらない。
だが口を大きく開けたときだけ、強烈な吸引力が発生し、目の前のものを容赦なく吸い込んでしまう。
しかも恐ろしいことに、吸い込んだものの能力や特性をコピーできるのだった。

青年には一人、心を寄せている女性がいた。
彼女は優しく、気遣いができ、彼の人生に唯一差し込む光だった。
しかし掃除機人間としての能力を得てから、彼は奇妙な衝動に悩まされる。

「……もし、彼女を吸い込んでしまったらどうなるのか?」

頭の片隅でそんな禁断の想像が膨らんでいく。
否定しようとすればするほど、口の奥がうずき、空気が渦を巻く。
人間の欲望と、機械の本能が拮抗するように。

ある日、二人きりになった瞬間だった。
彼女が笑顔で彼に話しかけると、不意に彼の口が――勝手に開いた。

ゴォォッ――!!


信じられない吸引力が発生し、彼女は悲鳴を上げる間もなく吸い込まれてしまった。
室内は静まり返り、彼の腕の中にはもう誰もいない。

だが次の瞬間、彼の心臓が高鳴った。
体の奥から彼女の声、彼女の記憶、彼女の温もりが流れ込んでくる。
――彼女の能力、感情、そして存在そのものが、自分の中にコピーされていた。

鏡を見れば、自分の顔が彼女の微笑みに重なって見える。
彼女の言葉遣いが口をついて出てくる。
彼女の記憶が、自分のもののように錯覚されていく。

「これで……ずっと一緒だ……」

彼は震える声でそう呟いた。
それは愛なのか、狂気なのか。
もはや自分が誰なのかさえ、曖昧になっていった。

女性を吸い込んだ後、青年はただ彼女の記憶や感情をコピーしたと思っていた。
だがある夜、鏡の前で自分の姿を見つめていると、全身がじわじわと変化を始めた。

黒髪が伸び、目元の形が変わり、声が高く澄んでいく。
そして――鏡に映っていたのは、彼女そのものの姿。

「……これ……俺じゃない。彼女だ……!」


吸い込んだ存在を、丸ごと再現して変身できる能力に目覚めたのだった。

最初は恐る恐る、彼女の服を着て外に出てみた。
友人も同僚も、誰一人疑いを抱かない。
声も仕草も記憶もすべてが本物だからだ。

「彼女」としての生活は、思っていた以上に甘美だった。
みんなが笑顔で自分に接し、愛され、必要とされる。
青年としては一度も得られなかった温もりが、今は当たり前のように注がれる。

やがて、彼女がかつて愛していた恋人の前に立つ時が来る。
彼は微笑んで言った。

「……やっぱり君が一番だな」

胸の奥で、吸い込まれた女性の声が微かに響いた気がした。
「それは……私じゃない……」

だが、もうその声は誰にも届かない。
青年は彼女の笑顔を完全に自分のものにして、
その恋人の腕に身を委ねるのだった。


彼女を吸い込み、完全に姿を再現できるようになった青年は、鏡の前に立ち尽くしていた。
そこにいるのは確かに「彼女」なのだが、内側はもう自分自身だ。
声を出せば甘く澄んだ声が響く。笑顔を作れば、かつて憧れた女性そのものがそこにいた。

だが――心の奥に湧き上がるのは、彼女をそのまま演じる満足ではなく、
「どうせなら、自分好みにしてしまおう」という欲望だった。

青年はクローゼットを開け、試すように服を組み合わせていった。
黒のチューブトップが胸元を強調し、黒のレザーショートパンツが脚線美を際立たせる。
耳には大きなゴールドのフープピアス、そしてお腹にはきらりと光るへそピアス。

鏡の前に立つ「彼女」は、もう以前の清楚な姿ではなかった。
大胆で、挑発的で、男の視線を集める――そんな存在に変貌していた。

「……元の彼女なら、絶対にこんな服、着てくれなかっただろうな」


鏡越しに妖艶な笑みを浮かべながら、青年はしみじみと呟いた。
それは罪悪感ではなく、むしろ満ち足りた感覚だった。

かつて憧れた女性を、ただ自分の中に閉じ込めるだけではなく、
「自分の理想像」にまで作り替えてしまった快感。
それは彼女への愛情というより、所有欲の完成形だった。

彼はゆっくりと髪をかき上げ、腰をひねり、
まるでモデルのようにポーズを取ってみる。
レザーが光を反射し、ピアスとへそピアスが揺れる。

「……これが、俺の望んだ彼女だ」

元の女性がどんな気持ちで体内に沈んでいるのか。
そんなことを考える余裕は、もう彼にはなかった。

青年はその体を操るように、両腕をゆっくりと頭上に上げた。
ゴールドのフープピアスが揺れ、腹元のへそピアスがライトを反射して輝く。
「……元の彼女なら絶対にこんなポーズ、取ってくれなかっただろうな」


鏡越しに映るのは、清楚な彼女ではなく、
大胆で挑発的なモデルのような存在だった。

腕を上げただけなのに、
胸のラインはより強調され、細いウエストのカーブが際立つ。
その姿を自分で演じながら、青年はどんどん陶酔していく。

「この身体、この表情、このポーズ……全部俺のものだ」

かつて一方的に憧れていた女性を、
今は自分の意思で操り、望んだ通りに変えてしまっている。
その背徳感と優越感は、甘美な麻薬のように彼を侵食していった。

青年は新たに作り替えた「彼女」の身体を、さらに自分好みに演出した。
黒のチューブトップとレザーショートパンツに身を包んだ姿で、鏡の前に立つ。
今度は片足をまっすぐに伸ばし、もう片方を軽く曲げて重心を移す。

スラリとした脚線が露わになり、長さと形がより強調される。
ヒールを履いた足先から腰のラインまで、ひとつの曲線として繋がるその姿は、
かつて憧れの対象だった「彼女」ではなく、青年が思い描いた理想の彼女像そのものだった。

「……清楚な彼女には、こんなポーズ絶対にできなかったよな」


鏡越しに呟きながら、自分の中に湧き上がる優越感を噛みしめる。
男の視線を奪うことにためらいを見せていた彼女を、
今や誰もが振り返る存在に変えてしまった。

それは所有であり、支配であり、同時に陶酔でもあった。
青年はその長い足を撫でるように視線で追い、
「これが、俺の作り上げた彼女だ」と心の中で繰り返すのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

交換した性別

廣瀬純七
ファンタジー
幼い頃に魔法で性別を交換した男女の話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

令和の俺と昭和の私

廣瀬純七
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

ボディチェンジウォッチ

廣瀬純七
SF
体を交換できる腕時計で体を交換する男女の話

未来への転送

廣瀬純七
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

処理中です...