アラサー伯爵の病気名は初恋です。

りょう。

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演劇の会場はとても大きなホールだった。
一階部分には人がおよそ500人程入れるようになっており、二階部分は一階の面積の半分辺りまでせり出した個室席が5室ほど、二階よりも少しせり出した三階部分は二階よりは小さな個室が10室ほど並んでいた。

「伯爵……ここ、一番高い席ですよね」
「ん?そうだったかな?」

案内された場所は二階席の左から2番目の席。
二階の真ん中の席よりも高いのは、生演奏の音が一番綺麗に聞こえる事と、今回の演出上一番の見所が目の前で楽しめるからという噂だ。
ただ、席というよりは最早部屋位あるその場所には、ゆっくりとくつろげるソファに、大きな机、お茶が淹れられるセット(従業員付き)そして、シャワールームまでついていた。
シャワールームとか使う必要あるのか。

「どうしてシャワールームが付いているのか、疑問なのかな?」
「そうですね」
「……ここは個室のようなもので、浮気相手と密会するにはいい場所だからだよ」
「………………は?」
「あはは!嘘だよ、感激して泣いてしまう方が居るからではないかな」
「…………やけに信憑性がある嘘はやめてください」

心臓に悪いから!

そんな形で演劇が始まった。


今回の物語は、記憶をなくした少女が心優しい青年に出会い共に生活をしていくところはから始まる。その青年は実はとある国の王子様であり、少女と離れ離れになってしまうのだ。悲しみにくれた少女が青年を求めさまよい歩いていると、ある指輪を見つけて記憶を取り戻し、実は青年の国の有名な魔女だと判明、王子様とめでたく結婚する。

という話し。

「何故記憶無くしていたのかの演出はないのですね」
「……」
「何故指輪を見つけて記憶が戻ったのかも演出はないのですね」
「エマ」
「何故魔女だから結婚ができたのかも……」
「エマ、これは演劇だから現実的な感想は言ってはダメだよ」
「…………」
「口を尖らせても答えないからね」
「と、尖らせてないです!」


少しだけ尖らせてしまった口を直し、伯爵に背を向けて顔を仰いだ。
割と重要な部分だったと思うのだ。だからこそ疑問に思って聞いたことはわかって欲しい。
そんな事を言い訳しながらなんとか顔の熱を冷ますと、ソファに横並びに座る伯爵へ少しだけ睨みをきかせた。

それにしても、演劇に使われていたあの指輪……。

「実は演劇に使われていた指輪は、ファミリアが作った宝石だと噂されているんだ」
「やはり!あの記憶を取り戻す時に使われた宝石ですね」
「ああ、あの輝きは演出だけで出せるものではないよね」
「だから私をここに連れてきて頂けたのですか?」
「まぁ……それもあるかな」

喜んでもらえるかなという気持ちもあったのだけどね、と呟いている伯爵を横目に私は宝石のついた指輪を思い出していた。

主役の少女は暗闇の中あの指輪を見つけた。
演出で灯りは全て消され、全く何も見えないはずの空間に何故か浮かび上がった薄い紫色。
何かの布で隠されていたのだろうが灯りが無い中で光るというのはその物体自体が光る以外考えられないことだ。
それはつまり今現状でそれが出来る石、ファミリアが研磨した宝石かそれに近い石、または魔法石かのどれかと言うことになる。
魔法石は中に魔法が入っていることが原因で動かす時にわずかに水が動くような動きが光に出てしまうのだが、今回、その指輪をつけて動いてもなおその様な動きも見られなかった。

「ふふ……」
「なんでしょう」
「そんな分かりやすくされるとね、エマは本当に可愛いよね」
「かっ……だって気になります」
「この劇団の人物とは知り合いでね、掛け合ってあげようか?」
「いいのですか!」
「もちろん、可愛いエマのお願いなら聞いてあげよう」
「……」

嫌な予感がした。
伯爵が少しだけ笑みを深めて顔を近づけてくる。
先程からずっと目が離せないなと分かっていたのに油断した。

「これは、の可愛いエマから、私へのお願い……という事でいいね?」
「…………私は、は、はくしゃく、の、じゃ」
「いいね?エマ」
「……い……う………はい」

伯爵の瞳を見つめていると何だか頭がぼーっとして肯定の言葉を呟いていた。稀に逆らえない時があるのだけれど、これは一体なんなのかしら。
伯爵は魔法でも使っているの?

「はい、ではエマから可愛くおねだりをしてくれたら叶えてあげる」
「へ!?」
「期限は、この部屋を出るまでだよ」
「なーーー!卑怯ですよお!」







伯爵のお知り合いはこの劇団の団長さんだった。
団長さんは本来、貴族の使用人をしていた方らしいのだが、その使えていた貴族の方が劇団好きらしく……「こんな劇が観たい!この俳優がいい!」等の要求に応えていったところ、劇団ができていたらしい。
なんで。

「いや、久々ですね。まさか顔を出していただけるなんて」
「今回の題材が面白かったから気になって観に来たんだ」
「そうだったのですか!嬉しい限りでございます」
「かなり人気みたいじゃないか」
「ええ、実は貴族の方でもなかなか手に入らなくなっていると聞きました」
「それはいい作品を観れたというものだ」

伯爵はそう言いながら手袋を取り、団長さんと握手をしようとした、すると団長さんが驚いた顔をして伯爵の手を覗き込んだ。

「伯爵、手がとても…赤いようですが」
「これは、可愛い妖精が手をぎゅっと握って来た跡だよ」
「妖精……?」
「ああ、妖精だ」

伯爵は少しだけこちらに顔を向けてウインクしたのち、団長さんに顔を戻して握手を交わした。
どうにも力強い妖精がいるようなのですぐに離れた方がいいのではないですか、という心の中のアドバイスはさておき、団長さんは伯爵と本当に仲が良いようで楽しそうに会話を続けていた。
それはかなりの長時間に及び、私は欠伸をかみ殺し頑張って話を聞いていたのだが、なかなか宝石の話が出てこない。それは困る。これはいつ宝石を見せてもらえるのか分からないではないか、あんなに頑張っておねだりさせられたのに。

少しだけため息をつくと、頭をすっきりさせたいと考えて私は席を立った。

「ん?エマどうしたの?」
「その……お、お手洗いに行ってきます」
「ごめんね、気がつかなかった」

伯爵も席を立つと扉までエスコートをしてくれ、耳元でもう少し待ってね。と言ってきた。
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