アラサー伯爵の病気名は初恋です。

りょう。

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リャードは、最後の研磨を終え、嬉しさを噛み締めていた。

あとは、彼女に最後まで知られないようにするだけだ。

そう思っていた時だ、彼の使用人が慌てたように部屋に飛び込んで『エマ嬢が捕まったようです』と言ってきた。

「分かっているよ、場所はトゥーリカの所だろう」
「え、ええ……」
「殿下をトゥーリカの場所へ向かわせて、私も後から向かうよ」
「しかし、良いのですか」
「何が」
「これでは殿下が力を得てしまうのでは」
「はは……何を言っているの、私が言う殿下というのはレイチェル殿下の方だ」
「か、かしこまりました!」

慌てて駆けていく使用人を見ながら、いつもの使用人でないと、やはり自分は言葉足らずなのだなぁとゆっくりと思考を働かせ
そして、完成したその石を袋に包んだ。

「さて……これで終わりだ」

そう言って彼は出かける準備を始めたのだった。




______________



「まさか、こんな簡単に捕まってくれるとは思いませんでしたよ、エマ嬢」
「はぁ……まぁ、貧乏なものですから」
「あっははは違いない!!!あんな宝石屋で働いているくらいにはそうでしょうな!!」

笑うトゥーリカをじっと見つめると、笑いに飽きたのか私の方に近づいて顔をまじまじと見てきた。

「ふん、貧相な顔だ」

内心、うるせぇと思いながらも私は黙って観察する。
なるほど、後ろに戦闘に長けた人物がいるようだ。だからこそ彼は特に武器はもっていない。ただ彼も魔力を使えた気がするので油断は禁物だと思っていてよいだろう。

「ああ、何故自分が捕まっているのか分からないみたいですね」
「………ええまぁ」

なるほどと思った。
普通はここで、何故自分は捕まってしまったのだろうかと考える場面らしい。この状況位であればいくらでも回避できる自分からしたらその考えに至るという事が無かった。

ただ、それよりもついこの間、自らを『カラン・スタートッド』だと名乗った人物が近くにいることの方が恐怖であり、その人物がまた自分に名乗りはしないかとヒヤヒヤしているのだ。

この世界唯一の魔法使い、カラン・スタートッドは自らの名前に誇りを持っている。
特に、このスタートッドという部分は、世界的に使用を禁止したほど愛してやまない名らしい。

今まで迂闊に名乗り、悪事を働いたものは全員が謎の死を迎えているほどである。

つまり、何が言いたいかと言えば。
こんな目の前にいる人物たちよりも、その人物がここで暴れかねない状況の方が恐ろしいという事だ。

目の前でぺらぺらと、どうやって私を捕まえたのかを話すこの男の話をなるべく引き延ばすべく、私は頭の中にある全ての情報を引っ張り出し会話を続けた。

「という訳だ、分かったか小娘」
「ごめんなさい、分かりません」
「はっ、これだけ話したのに分からないとは時間の無駄だな。もういい」

しばらくは聞いてほしいとばかりに口を開いていた男もどうやら飽きてしまったらしい。
これは、何かを始めようとしている。そう直感した私は、腕を縛っていた紐を少し緩めた。
もしかしたら、魔力を使わずとも逃げられる可能性はある。ここにいるエルはバレるわけにはいかないので、なんとか自力で脱出したいものだ。

「カランよ、入ってこい」
「はいよ」

私は、カランの名を聞いて、ああ……と落胆した。
やはりあの時のカランと名乗った男だった。
これでこの男は言い逃れができなくなる。私の前でその名を語っては、最後まで追われる羽目になるだろう。
きっと楽な死に方はさせてくれないはずだ。

「そして、殿下もお入りください」
「!!!?」

しかし、急に殿下というワードを出された私は戸惑った。

殿下、何故。
私と全く縁のなさそうな人物の登場に、少しだけ冷や汗が出る。一体これから何を始めようというのだろうか。

「ほう、この娘がエマという道具か」
「そうでございます、殿下」

は、道具?いつから私は道具になった。
少しだけ怒りを感じた私は、その殿下と呼ばれた男の方を見てみる。
全くと言っていいほど魅力を感じないその顔は、醜さを秘め、心の中が真っ黒で染まっている事が一目見て分かるほどだった。
こんなのが国の上に立ったら市民は堪ったものではないだろう。

「道具?」
「そうだぞ、道具。最後に私に殺されるのだから光栄に思ってくれ」

おやおや、これは優雅に脱出しようなどと考えている時間がなくなってきたようだ。
にやにやと笑う殿下とやらの笑みが本当に気持ち悪く、少しだけ吐き気がする。

「何故、道具として殺されるのか、説明をお願いしたいのですが」
「おや、説明をしていないのか、トゥーリカ」
「ええ流石に国家機密でしたので……最後までは」
「はっは、いいだろうよ、どうせ死ぬのだ。私のためにどう貢献するのかを説明してやろう」

そうして、殿下直々に説明をうける。

魔女を自分のものにする為には、人の命を捧げなければならない。その命というのは、片思いをしている貴族の人間でなければならない。
魔女を見つけた今、その命を渡すのみとなっていると。

「だからお前なのだ、道具よ」
「…………」
「はは、絶望したか?リチャードが自分を好きだとでも思っていたのか。残念だったな、あれは全部嘘だ。貴族で目立たない女を適当に片思いにさせろと命令したからにすぎない」

その問いに私は_______。


外でガッシャーンと音がして皆がそちらに視線を送った時、私は緩めていた縄を思い切り解いた。
全員が反応をする前に素早く扉の外に出ると隣の部屋に入って鍵を閉じる。魔力によってあける事が出来ないようロックをかけると窓から身を乗り出した。

「3階か」

飛び降りても問題はないが、普通の人間では死んでしまうはず。私は上を見てみると、上にも部屋があるようだった。
私はなるべく魔力は使わないように上の階に移動する。常に家事をして筋力をつけておいてよかったものだ。
上の階の窓は鍵がかかっておらず、押してそのまま入る事ができた。

「……ふう」

私は今、自分に賭けをしている。
人生で初めての恋は、果たして信じても良いものだったのか。それを賭けている。
胸にかかったネックレスを触り、一度目を閉じた。

待つ。

私がやるべきことはそれだけだ。

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