ヒロインが美少女かゴリラかで主人公の行動は変わるのか!?

三船

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第8話 Bパート(ヒロインがゴリラ)

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「吠えろ!フェンリル。」

化粧がケバい女が声を上げてアビスの群れへと突進していく。持っている大鎌の刀身は女の化粧とは対照的に冷たさを帯びた静かな青色をしてる。

飛び込んできた女に対してアビス達も迎撃の体勢を取り、身構えて一斉に女へと飛びかかっていく。女の首を腕を足を腹を喰いちぎらんとして大きくその顎を開いた。

今回出現したアビスの個々の能力だけを見ると今まで見た中では一番貧弱と言える。優でも撃退できたのだから間違いないだろう。まず、大きさが小さい。それだけでも相手にしやすかった。しかし、問題は数が多いこと。今まで優が見たアビスは多くて2体。しかもバラバラで動いていた。だが、今回は群れをなしている。数が多いということはそれだけ手数も多くなる。的も一つに絞り切れない。攻撃力が低いと思われるがそれでも食いつかれたら人間はただでは済まない。

勢いよくアビスに向かって突進したケバい女が大きく大鎌を振り上げる。命を刈り取る形をした刃が文字通りアビスを刈り取るために横一線に薙ぎ払われた。

胴を横凪ぎにされたアビスが2体。足を斬られたアビスも2体、首をはねられたアビスが1体の合計5体のアビスが一撃で刈り取られる。そして、刃の軌跡が残る空間に数瞬の遅れで巨大な氷が出現し、斬られたアビスを巻き込んで氷漬けにした。

「すごい・・・。」

優は思わず声を漏らした。朔夜ほどのスピードやパワーはないにしろ、斬った相手を氷漬けにするその能力には驚愕した。

残ったアビスは警戒の色を強めた。その数はもうパッと見ても判断できるまで減っていた。残り6体。

ケバい女はやや早い足取りで残っているアビスに近づいていく。この状況で散開するという知恵はアビスにはないらしい。一体一体がその場所で身構えている。どうやら連携という意識もないようだ。個々で対応しようとしている。

ケバい女は急に走り出して一番近くにいた一体のアビス目がけて大鎌を振り上げた。素早いが大振りに振られた攻撃はアビスにぎりぎり後方に飛ばれて回避された。が、大鎌が地面に突き刺さると同時に前方に向けて氷柱が発生し、アビスの下半身を巻き込んだ。

空中で旋回する能力を有さない種類のアビスであるため、この攻撃から逃れる術は持ち合わせていない。アビスは下半身を大きな氷の塊に飲み込まれて身動きが取れなくなった。そして、すぐさま大鎌の一閃が飛んでくる。なす術もなく、胴体を二つに分けられたアビスはそこで消滅した。

それを横で見ていた一体のアビスは怯まず女の方へと飛びかかっていった。武器は牙だけではない。その爪も鋭く、肉に喰いこめば骨まで砕かれるのではないかと思うほどである。

大きな鎌を振り回している以上、小回りは聞かない。一撃一撃が強い分、動作は大きく、連続攻撃には向かない。そのため、アビスを一体仕留めたところに次のアビスが飛び込んでくるとカウンターを入れることが難しい。そのあたりのことは女も熟知している。無理に迎撃せずに後方へと飛び退く。

女が後方へ退避したのを見て、怖気づいたと判断したのかどうかは分からないが、残りのアビスも飛びかかっていった。

一斉に飛び込んできているわけではなく、バラバラと連携も取れていないが、目的は一つ。大鎌を振り回すケバい女を攻撃することで一致していた。

女は体を横に捻って体ごと大鎌を斜め上に振り上げる。跳躍してきたアビスを豪風とともに一撃で粉砕するかのごとく斬りつける。

一体のアビスを真っ二つにした大鎌はその勢いを止めることなく次の斬撃へと移る。女は体を大鎌ごと回転させて流れに逆らわずに斜め上から斜め下に向けて刃を振り下ろした。無理に大鎌を止めようとはしない。風に舞う花びらのように流れに逆らわず身を任せて自然な動きで斬撃を繰り出す。それは女の不自然な厚化粧とは対照的な動きであった。そして、さらに流れのまま横に払った一撃がアビスを真っ二つに切り裂く。

残ったアビスは二体。辛うじて踏みとどまった二体である。その残ったアビスの一体はケバい女へ、もう一体は優の方へと飛び込んでいった。アビスが作戦を立てたとは思えないが、一体が女を足止めして、もう一体が戦力として弱いであろう優を狙ってきたのは上手いやり方だった。

「うわっ!?」

アビスはこっちに来ないものと勝手に思っていた優が情けない声を上げる。よくよく考えてみれば、自分もアストラルの一員である。テスタメントではないにしろ、アビスと戦う者だ。そして、アビスにとってはテスタメントであろうとなかろうと関係はない。人間を襲う。それだけだ。

女の闘い方に影響を受けてか、優の攻撃も大振りになっていた。アジ・ダハーカの力を使た攻撃。威力はあるが、単調で隙のある攻撃。当たれば問題ないが、戦闘の素人である優がいきなり大振りの攻撃をすると十中八九外れる。

案の定、優の攻撃は横に躱され、アビスは爪を振りかざして飛んできた。勢いよく斜めに爪を振ったアビスの攻撃を優は何とか転がって回避する。

「ぐっ・・・!」

優は背中に焼けるような痛みを感じた。どれだけの深さかは分からないが、躱しきれずに攻撃を受けた。思わず背中に手をあてる。するとべっとりと手に鮮血が絡みついてきた。血は自分の体温と変わらないため、すぐには分からなかったが、手のひらを見ると真っ赤にそまっていることに顔が青ざめた。

うずくまっている優を見て、好機と判断したアビスが次は牙を剥いて飛んでくる。

寸でのところで優はまたも転がって回避をする。転がった跡の地面に真っ赤な血がこびりついているのが目に入った。出血の量はかなりのものらしい。

攻撃を外してもアビスは諦めずに低空の軌道で再度飛びかかってくる。体勢が安定していない優であるが、攻撃方法はある。右手を突き出してアビスの鋭い顎を迎える。それだけで攻撃が成り立つ。アジ・ダハーカの力を開放して、人の何倍もある大きさの漆黒の禍々しい手を広げる。突っ込んできたアビスをその手で握りしればそれで終わり。

血の気が引いたことで優が冷静になれたのだろうか、それとも動けなくなってそれだけしかできなくなったからか、今の優には分からない。頭が回らないほどに血を失い始めている。結果としてはアジ・ダハーカの力に飲み込まれたアビスは跡形もなく消滅して、優は助かった。と思った瞬間に意識を失い記憶が途切れた。


        2        


優が記憶を取り戻した時に目に入った光景は白い天井。蛍光灯の明かりは消えているが部屋の中は明るい。どうやら夜ではないらしい。そして、自分はベッドの上に寝ている。

(こういう時って何って言うんだっけ?知らない天井だっけ?)

元ネタは分からないが何冊かの漫画でそういう場面があったのを思い出した。気が付いた時に知らない場所に居たらそう言う決まりらしい。

しかし、優にはここがどこであるか見当が付いた。病院のベッドの上。しかも個室。見える範囲では清潔な部屋で広さもある。だが、どこの病院までかは分からない。まだ意識がはっきりしないので、落ち着いて何があったか思い出すようにする。

(何で病院にいるかだが・・・。たしか、アビスと戦ってってそれが全部だよな。)

落ち着いて考えるまでもなく、アビスと戦って大怪我をした。血の量も多かったと覚えている。思い出してみると背中に痛みを感じ始めた。しかし、記憶の中の痛みほどではない。おそらく鎮痛剤が効いているのだろう。薬が切れた時が怖い。

(取りあえず、今どこにいるか。どういう状況なのか。誰が運んでくれたのかって、たぶんあの厚化粧のおばさんだろうけど、あの人はテスタメントみたいだったし。助けてもらったお礼を言わないと。まあ、それは置いておいて、確認できることから確認するか。)

優は辺りを見渡した。無理に動こうとせず、今、自分がどれだけ動くことが可能なのか、点滴や包帯、ギブスなどはどれだけ付けられているのかを確認する。

どうやらギブスはなく、胸から背中にかけて包帯が巻かれているのは分かった。背中以外に怪我をしているところはない。それともう一つ。左腕に点滴の針が刺さっていることだ。点滴の残りはわずか、時間を見計らって看護師が来るだろうと予測する。

(もう少し寝るか。)

今は体を休めることが先決だ。そう判断した優は再び目を閉じた。

何分経過しただろうか。ドアをノックする音が聞こえてきて、一人の看護師が入ってきた。優は目を開けて顔だけを動かして看護師の方を見やる。

「あら、お目覚めですね。良かった。」

女性の看護師が明るい表情で話しかけてきた。穏やかな口調で癒しを思わせる声色をしている。

「あ、はい。さっき目が覚めたばかりなんです。」

「そうですか。どこか痛いところはありませんか?」

「背中が少し痛いですが、大丈夫です。」

「まだ鎮痛剤が効いてますからね。少し、体を起こしてみましょうか。ずっと同じ体勢だと辛いですしね。」

看護師はそう言うと、優の腕から点滴の針を抜き取り手際よく処置を済ませると、優の首の後ろから手をまわして肩をしっかりと持ってゆっくりと体を起こしてくれた。

長い時間同じ体勢をしていたのだろうか、体を起こすと開放感が溢れ出してきた。まるで、狭い牢獄に閉じ込められてから数年ぶりに青空の広がる草原に出てきた気分である。

「伸びはしないでくださいね。背中の傷がまだ塞がってないので。」

「あ、はい。分かりました。」

思わず伸びをしようとしたところを止められた。危ないところであった。しかし、開放感からもの凄く伸びをしたい気分に襲われる。これを優は何とか我慢することに成功した。

「あのう、すみません。質問があるんですが。」

優は恐る恐る声を出した。どこまで質問してもいいのだろうか、それには迷うところだった。アビスのことは当然言えるわけもなく、アストラルやテスタメントのことも出してはいけない。そうなると質問できる内容は限られてくる。

「ここはどこでしょうか?それとどれくらい意識を失っていたか教えてもらえますか。」

まずはこれを聞いておかないといけない。それ以外に聞ける内容がないと言ってもいいが、重要な情報である。

「ここは神条総合病院。シンジョウ製薬の系列病院ですよ。その中でもアストラル専用病棟です。」

看護師が笑顔であっさりと答えてきた。

「ええええええええええええー!!!!???」

あまりにもあっさりとアストラルの名前が出てきたことに優は困惑した。慎重に質問を選んだにも関わらず、実のところ慎重になる必要がなかったということだ。最初からアストラルの関係機関に運び込まれたのだ。

「ふふふ、そんなに驚かなくてもいいですよ。安心してください。全部分かっているところですから。とは言っても香上君の能力までは分かりませんけどね。テスタメントがどういう仕事をしているかは知っているつもりです。」

「ああ、そうなんですか。いやあ、それなら色々と聞きたいこともあるんですよ。」

アストラルの関係機関なら何を聞いても問題はない。この看護師はテスタメントのことも知っている。優は幻魔と契約をしていないのでテスタメントではないが、細かいことはいい。そこまで詳しく知る必要もないのだろう。

「私に聞くよりも神条総帥に聞いた方がいいかもしれませんね。香上君が目を覚ましたら連絡をすることになってるんで、来てくれると思いますよ。あ、それと、もう一つの質問の回答ですが、今日は月曜日です。香上君は土曜の夜にアビスと戦ってから一日半寝ていたことになりますね。」

「えええ!そんなに寝てたんですか!?って学校は!?」

祝日でもない月曜日は当然のことながら学校に登校しないといけない。単位がやばいというわけではないが、今は学校が楽しいのでできるだけ出席をしたかった、

「大丈夫ですよ、神条総帥が学校に連絡をしてくれています。」

「ああ、そうですか。それならいいんですが・・・。」

あまり休みたくないが、最低限学校に連絡が入っているということで安心はできた。

「私は神条総帥に連絡を入れますので、もう一度ベッドに寝かせますね。」

「あ、はい。お願いします。」

看護師はゆっくりと優をベッドに横たえて、病室を出て行った。


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コンコンコン、看護師が病室を後にしてから2時間ほど経過しただろうか、静かな病室にノックの音が入ってきた。

「どうぞ。」

優が答える。看護師が部屋を出た後にも少し寝ていてぼんやりしていたが、今は意識がはっきりとしている。

ガチャッとドアノブを捻る音が聞こえてきた。病室に入ってきたのは二人。白髪染めで不自然に黒く染まった髪をしている60代の女性。アストラルの総帥、神条愛莉栖とその秘書である50代の男性、柳士弦であった。

「土曜の夜は災難じゃったのう、怪我の具合はどうじゃ?」

ババア口調のババアが心配して声をかけてきてくれた。

「怪我の方はどうでしょう。見えないので分かりませんが、今は痛み止めが効いているので何ともありません。あまり動くなとは言われてますが。」

「そうか、五体満足で命があるならそれでいい。しかも、お主は二体もアビスを倒したそうじゃな。」

「ありがとうござます。あ、二体倒したと言っても、小さいやつでしたし、それに大鎌を持ったテスタメントの人がほとんど倒してくれたっていうか、あの、俺をここに運んでくれたのは、大鎌を持ったテスタメントの方ですか?」

優はふと気になって愛莉栖に質問を投げかけた。

「ああ、そうじゃ。病院に連絡をしたのはそのテスタメント。幻魔、フェンリルと契約を結んだ六道りくどう みおじゃ。」

「六道さんですか。お礼を言いたいので会わせてもらうことはできませんか?」

「う~ん、それはどうでしょうねえ・・・。」

これは柳である。何かひっかるものがあるようだ。難しい顔をしている。

「お主の怪我の原因はのう、六道にあるんじゃよ。」

柳が悩んでいる間に愛莉栖が答えてきた。

「え、いや、助けてもらったんですよ俺は。」

「お主が二体のアビスを倒したということは間違いないが、厳密にいうと、六道が放置した二体を処理したということなんじゃ。」

「どういうことですか?」

優が訝し気に質問を投げかける。どういうことか分からない。自分は六道という女性に助けられたはずだ。こうして生きているのも六道がアビスを倒してくれて、病院に連絡をしてくれたからである。

「要するにお主は怪我をするはずではなかった。六道がすべてのアビスを討滅することができたが、お主に向かったアビスを放置して、お主に討滅させたんじゃ。本当はのう、今日の夜にお主を朔夜と六道と一緒に実戦投入しようと考えておったところなんじゃが、一足先にお主が実戦に入ってしもうた。そこに六道が任務で現れたが、フォローすることも疎かにして二体のアビスをお主に丸投げした結果が、今の怪我というわけじゃ。」

「え、どうしてそんなこと!?咄嗟のことで手が回らなかったとかじゃなくてですか?」

信じられないという思いで優は質問を繰り返す。

「手は回っておったよ。だが、手を回さなかった。」

「なぜです?」

「六道はの、我が子をアビスに殺さておる。しかも目の前でな。だから、アビスに対してはかなりの憎しみを持っておる。そこに、原初のアビスを宿したお主が現れて、アストラルの一員となった。当然、六道にも連絡が入って顔写真も見せておる。六道は知っていてお主に二体のアビスを相手させたんじゃよ。」

「そんなこと、俺は知りませんよ・・・。」

優は自分に関係のないところで恨みを買って、怪我を負ったということに理不尽さを感じていた。しかし、それでも助けられたところはある。完全に見殺しにされたわけではない。そこが複雑な気持ちにさせる要因になっていた。

「今日はゆっくり休め。予定していた今日のアビス討滅は朔夜か六道のどちらかに行ってもらう。」

「あのぅ、もしかして、次のアビス討滅は俺一人で行くっていうことになるんですかねぇ・・・?」

「心配せんでもいい。しばらくは朔夜をお守りに付けるわい。とにかく今日は討滅に行かんでもいい、休むことに専念しろ。」

「はい、そうします。」

優は理不尽な中にも安心できることがあって、肩をなでおろした。愛莉栖の言う通り休むことに専念するのがいいだろう。六道のことは後で考えよう。
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