ヒロインが美少女かゴリラかで主人公の行動は変わるのか!?

三船

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第10話 Bパート(ヒロインがゴリラ)

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昨日、朔夜から連絡を受け、指定された18時よりも15分ほど早く優はシンジョウ製薬のビルの前に来ていた。

街のど真ん中にそびえ立つ巨大なビルは見上げるだけで首が痛くなるほど高い。天にも届きそうなそのビルの最上階に今日の目的地であるアストラルの本部が秘密裏に存在している。

この天を突くビルの周りの大人たちはまだまだ慌ただしく動いてる。シンジョウ製薬の社員だけでなく、出入りしている関係企業、荷物の宅配に来た運搬業者。他にも色々な人がビルを出入りしている。アルバイトがなければ、本当なら学校も終わって家でくつろいでいる時間のはずが、周りの社会人と同じうように仕事でこのビルに来ていることに優は少し落胆していた。

優はそんなことを思いながら、シンジョウ製薬ビルの広い地下駐車場に向かう。この地下駐車場の中にアストラル専用の区画があり、そこからでしか、このビルの最上階通じるエレベーターがない。かなり広い地下駐車場の最奥に位置してる場所にその直通エレベーターがあるため、約束の15分前にビルの前まで来たからといって時間に余裕があるわけではない。ここからも歩くと結構時間を要する。

優は早足で地下駐車場を歩く、この時間だと普通に駐車場を使う人と出くわす。たまに高校生がなんの用だという風な顔で見られることが少し気になる。さらに、慣れない場所に来ていて、道順もあやふやなところがあるため、余計に挙動が怪しくなっているのではなかいと不安になる。

結局、優がビルの最上階にある、アストラル総帥の部屋に着いたのは約束の時間を少し過ぎた頃であった。当然のことながら、朔夜も澪もすでに到着しており、最後に来たのは優だった。ばつの悪い感じがして、恐る恐る部屋に入った。

「全員揃ったな。」

アストラルで最高の地位にいる神条愛莉栖が机に頬杖をつきながらこちらを見ている。余裕をもった尊大な態度。相変わらず白髪染めの黒がきつくて違和感がある。だが、愛莉栖本人は白髪染めをしていることを周りに気が付かれていないと思っているということだ。60歳を超えた女性の美への悩みは男が想像している以上に難しいのだろう。

「遅くなってすみません。」

優は少し遅れて到着したことを謝罪をする。それほど遅くなったわけではないが、他のみんなが待っていたことには違いないので謝る。

「構わん、気にするな。」

怒鳴られることを覚悟していたが、意外と怒った様子はない。朔夜も特に気にする様子もなかったが、一人だけやたらと不機嫌な人間が一人いた。六道澪。40代くらいの金髪でパーマのテスタメントであるが、アビスに対して激しい憎悪を抱いているため、アビスをその身に宿している優に対しても嫌悪感を向けている。ただでさえケバい化粧で印象が悪いのにそれを上塗りするように機嫌の悪い表情が出ている。

「さて、本題に入るとするか。柳、資料を。」

愛莉栖と澪の化粧の匂いが充満した中で会議が始まり、秘書の柳が紙の資料を配る。それは地図だった。地図が示すポイントは駅から10分ほど歩いたところにある川沿いの広い敷地。添えられている写真には建設中の建物が写っている。むき出しの鉄骨だけが写っていることからまだ完成には時間がかかりそうだった。たしかこの辺りは新しいショッピングモールができるという話を聞いたことがある場所であった。そして、今回呼び出された趣旨についての説明が始まる。

「先日、楓さんがアビスの出現を予知した。かなりの大物が出てくるのを感じ取ったそうじゃ。複数で討滅に当たりたいところじゃが、出現予測時刻が明日での、他のテスタメントを呼ぶこともできなくもないが、どうしても担当区域を離れることが難しくてな、朔夜、澪、小僧、今回はこの3人で討滅に当たってもらう。」

アビスの出現の予知があった。その予知をしたのは七瀬楓という老婆。以前、優の中にいるモノの正体を突き止めた霊視能力に優れた巫女である。80歳は超えていると思うが、アストラルの活動にはこの予知が重要な役割を果たしている。テスタメントの派遣も予知に基づいて行われ、優がアビスに襲われた時にタイミングよく朔夜が現れた理由も予知によって事前にアビスが出現することを知っていたからに他ならない。しかし、すべての出現を予知できるかというとそうではなく、予知できなかったものもあり、さらには今回のように直前になってから分かるものもある。年のせいで耄碌しているのではと疑問に思ってしまう。

「了解しました。」

「いやいやいや、そんな大物のアビスの討滅に俺なんかが行って大丈夫なんですか!?」

朔夜はすんなりと討滅の参加を承諾したが、優はそうはいかない。先日小物のアビスに大怪我を負わされたところだ。

「そのために朔夜と澪も付けると言っておる。それに実戦の経験はすでにあるじゃろ。澪、お主もよいな?」

「分かってるわよ・・・。」

返事をしてこなかった澪に対して愛莉栖が釘を刺すように言った。それに対して澪は不機嫌そうに返事をする。その後の作戦会議に対しても澪は不機嫌な態度を崩さなかった。


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その日の夜。日付はまだ変わっていないが、もうすぐ今日という日が終わろうとしていた頃、優のスマホに一本の電話がかかってきた。電話の相手は朔夜だ。

「もしもし、香上だけど。」

『もしもし、遅くにごめんなさい。ちょっとだけ時間いいかしら?』

いつになく朔夜が丁寧に話を始める。何のことだろうか?優は特に予想できることはなかった。

「ああ、いいぜ。大丈夫だ。」

『そう、ありがとう。澪さんのことなんだけどね。』

朔夜が女性にしては野太い神妙な声で話を続ける。何か不安を抱えたような声である。普段堂々としている朔夜からはあまり想像がつかないような声をしている。

『今度のアビスの討滅のことなんだけど、できるだけ自分の身を守るようにして。』

「それは言われなくても分かってるけど、どうしたんだ急に?」

『澪さんはおそらく、香上君のことを助けないと思うのよ。』

「・・・知ってるのか?土曜のことを。」

『ええ、総帥から聞いてるわ。澪さんがアビスを放置したことが原因で香上君が怪我をしたっていうことはね。』

「俺としては複雑な気持ちなんだがな。怪我をしたのは確かだけど、助けてもらったことも確かだからな。」

『まあ、そうなんだけど、でも、相手がまだ小物だったから助かったようなものよ。今度の相手はかなりの大物だっていうことだから、私もどれだけフォローできるか分からない。だから、自分の身を守ることに専念して。』

六道澪は自分の子供をアビスに殺されている。そのため、アビスの力を使って戦う優のことが許せないのだろう。しかし、優は人間である。アビスではない。たまたまアビスを宿しているが、アビスを討滅する立場にもある。味方であることは間違いなくても子供を殺された母親としては複雑な心情なのだろう。

「ああ、そうさせてもらうよ。そもそもまだ戦えるとは思ってないからな。六道さんの事情も聞いてるから、俺を嫌うことも理解できるし、後ろから斬られるようなことがないだけマシな方か。」

『それは大丈夫よ。いくらなんでも後ろから斬るような真似はたぶんしないと思うわ。』

「たぶんかよ!?絶対にしてほしくはないんだがな・・・。」

曖昧な朔夜の返答に優は少し困惑する。『たぶん』というところはおそらく冗談だと思うが、下手をしていたらもっと大怪我をしていたかもしれない状況を経験しているため、どうしても不安が残ってしまう。

『さすがに澪さんはもう大人だからね、酒が入ってない状態なら心配ないわよ』

「それって逆に言うと、酒が入ってたらやばいってことか?」

優は恐る恐る聞いてみる。見た目からかなり酒は飲みそうだ。しかも良い酒とは言えそうにない。

『あの人、酔うと暴力を振るうからね。子供を亡くしてから特に酒に依存する傾向が強くなってるようだし。それでも安心して、酒を飲んでアビスの討滅に来るようなことはないから。』

「酒が入っている時に六道さんに近寄らないようにするよ。絶対俺に対して暴力を振るうだろうしな。」

『親しくなる機会もないから大丈夫だと思うけど、一応警戒しておいた方がいいわね。それじゃあ、私はもう寝るわね。おやすみなさい。』

「ああ、おやすみ。」


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次の日、今夜には大物のアビスとの戦闘が控えているため気が重い。しかも、頼みの朔夜も大物相手にどれだけ自分を助けてくれるか分からない。もう一人のテスタメントは絶対に助けてくれない。

プルルルルルー、プルルルルルー

そんなことを考えていると、電話の着信があった。無機質な着信音が鳴り響く。最初に設定されている着信音のまま変えていないので、仕方のないことであるが、愛想のないその着信音に反応して、優が電話に出る。朔夜からの電話だ。

『もしもし、香上君。急な話なんだけどいいかしら?』

「雪宮、どうしたんだ?今夜の討滅のことか?」

今日の討滅は中止になりました、というような内容を期待しながら朔夜の言葉を待つ。

『ええ、そうなの。さっき澪さんから連絡があって、同じ時間に他のアビスの出現も予知されたそうなの。それで、私と香上君はそっちに行ってから、後で澪さんと合流することになったの。』

「それって、もしかして大物だったりするのか?」

やはり気になるのはどんなアビスを相手にしないといけないのか。最初に大物が出ると予測されているため、もう一つ現れるというアビスももしかしたら大物なのかもしれないという不安がよぎる。

『私達が行く方はそれ程強大なものではないということよ。私達がもう一方のアビスを討滅している間は澪さんに時間稼ぎをしてもらうの。こっちが終わったら澪さんの応援に行くわ。』

新たに予知されたアビスはそこまで大きなものではないらしい。それなら朔夜と優に向かわせる理由には納得がいく。優はまだ実戦経験が浅い。他のテスタメントが付いていないといけないのは当然であるが、澪を付けるわけにはいかない。そして、危険な方に優を行かせるわけにもいかないため、優と朔夜が新たに出現した方のアビスの討滅に向かって、そちらを片付けてから澪の応援に行くということだ。

「結局、二つのアビス討滅をやらないといけないってことかよ・・・。」

『そういうことよ。私達が向かう方は最初に行くことになっていた場所からは少し遠いわ。七星学園高校の近くよ。22時に学校で落ち合いましょう。』

「へいへい、分かりましたよ。」

『ええ、お願いね。』

そして、朔夜のとの電話が終わった。今日はアビスとの2連戦になる。大物のアビスと戦う前にもう一戦やらないといけない。優の気分はさらに重くなった。


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21時55分。約束の時間よりも5分早く優は七星学園高校の前に到着した。すると、すでに朔夜は到着しており、特殊部隊のような戦闘服を纏っている。

「悪い、待たせたみたいだな。」

校門の前にいる朔夜と目が合って優は声をかける。朔夜が着ている軍事目的で作られたと思われる戦闘服は学校とは不釣り合いであった。

「大丈夫よ。そんなに待ってないから。」

朔夜は落ち着いた声で返答した。これから二連戦の討滅作戦があるというのに不安を感じさせない声だ。大柄な体に特殊部隊のような戦闘服は近くにいると頼もしい限りであった。

「アビスの出現予想時刻は22時15分~30分くらいよ。じゃあ、現場に向かいましょう。」

朔夜はそういうとアビスの出現予想地点へと歩き出した。優もそれについていく。

「もうすぐか・・・。」

「そうね。ただ、予知もずれることがあるから、気を付けてね。」

「予知って言っても完全なわけじゃないんだな。」

「未来のことだからね。未だ来ていないことを知るなんていうのはそんな簡単なものじゃないのよ。」

「なるほどね。まぁ人間のやることだからな。何でも完璧にできるわけじゃないよな。それでも、これだけ、範囲を絞ってくれてるんだから大したものだよ楓さんは。」

「そうね。楓さんの能力は凄いと思うわ。しかもあの歳で現役の巫女だしね。」

「そうだよな、俺の中に原初のアビスがいるっていうことも楓さんのおかげで分かったしな。」

歩きながら話していて、ふと会話の中から思い出す。楓が半裸の衣装で優の中のアビスを霊視したことを。

「あまりいい思い出ではないようね。」

朔夜が憐れんだ目で見てくる。半裸状態の老婆を目の当たりにしたことを思い出して気分が悪くなったことが表情に出たのだろうか。

「嫌なもんを思い出してしまった・・・。」

優はげんなりした感じで返答をする。楓が悪いわけではないが、それでも嫌なものを見てしまったことに変わりはない。

「余計なこと考えてないでさっさと行くわよ。」

朔夜はそう言うと歩く速度を速めていった。

「お、おう。」

悠長に話をしている時間もないのだろうが、現場にはほどなくして到着した。後十分ほどでアビスの出現があるはずだ。

アビスの出現に備えて会話はなくなっている。出現すると分かっていても緊張はするものだ。今までにも何度かアビスには遭遇している優だが、慣れるものではなかった。

そして、10分が経過する。

「もうすぐよ、準備はいい?」

沈黙を破って朔夜が声をかけてくる。

「あ、ああ、なんとかな・・・。」

優も一応返事をする。そして、また沈黙が訪れる。遠くで聞こえるサイレンの音が高い音から低い音へと変わり、消えていく。時折風が強く吹くこともあったが、それ以外に変化はない。

22時30分。一台の車が通過した。人通りの少ないこの道を車が通ることは珍しかった。時間も遅いため通行人はいない。

22時40分。すでにアビス出現予想時刻は過ぎ去っている。しかし、何も起こる気配がない。

「おかしいわね。」

朔夜が困惑した表情で独りごちる。

「どういうことだ?」

優もさすがにおかしいと思い始めていた頃だ。優がアビスに襲われた時にはすぐにテスタメントが駆けつけていた。ということは、予測の精度はかなり高いと思われる。人間のやることだから、ズレることはあるとのことであるが、どれくらいのズレが許容範囲なのだろうか。

「アストラルの本部に連絡をしてみるわね。」

朔夜はそう言うと、優の返事も待たずに電話をかける。その様子を優は黙って見守るしかなかった。

「もしもし、柳さんですか?雪宮です。」

電話に出たのはどうやら秘書の柳のようだ。優には相手の電話の声が聞こえないので、朔夜の話す内容から状況を推測する。

「こちらのアビスの出現予測について確認したいのですが。」

「え?それは、総帥からこっちに行くようにと命令があったからで。」

「はい。そうです。新たなアビスの出現予測が出たって澪さんから連絡がありまして、私と香上君はまずそっちに向かうようにと。」

「えー!?総帥がそうおっしゃったのではないのですか!?」

普段の様子からは想像できないような慌てようで朔夜は声を荒げて電話をしている。聞こえてくる朔夜の声だけでも手違いがあったという情報は伝わってくる。

「はい、分かりました!」

電話を終えた朔夜が優に話しかける。

「香上君、ここにアビスは出現しないわ。急いで澪さんの所に行くわよ!」
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