アイスとチーズ

はじまりの序章

沙織はふとなにかを思いついた。

「ちょっと手の平見せてパンチ受けてよ」

真紀理は手の平を沙織に向けると沙織は拳の小指の付け根側を真紀理の手の平に当てた。

「拳頭を当てることないよね。これだったらタンサオから合気道の呼吸投げにもいけるし、そのまま頂肘が打てる」

沙織は手の平を上に向けると真紀理の首と肩の間へ伸ばしたり、戻して溝に八極拳の肘打ちの形を取った。

「ネエさん天才！」

「なかなか拳を咄嗟の瞬間に相手に正確に当てるってムズいかもと思ったからよ」

沙織は下から大きく懐から振り上げて打つ動作をした。

「それはジャブじゃないですね」

亜香里がなにかに気づいた。

「それは居合の斬りつけじゃな」

「う～ん。避掛掌を拳でやる感じをやってみたんだけど。つまり小さくやったらジャブになるし大きくやれば斬りつけでも避掛拳でもなる」

「へえ。なんかっぽくなってきたね」

香織が感心してると沙織はドヤ顔で親指を立てた。

「これが地井頭沙織拳だから」

「世界征服のための？」

「そうそう。やっぱ女として生まれたからには一度は世界征服したいじゃない」

「いやよくわからないけど」

沙織は楽しそうだ。
香織は沙織が楽しそうにしてることがなぜか嬉しい。
友達だから…というよりその笑顔を見たくて自分が生まれてきたような感覚を覚えた。

その夜、香織が寝ているとドンドンドンドンッとけたたましい音で目が覚めた。

「先生！先生ぇ～！起きてください！」

先生…？誰が？

寝ぼけ半分で頭を起こした。

「娘が！娘がたいへんなんです！」

香織は飛び起きた。
着物を羽織り袴に脚を通し素早く紐を結んだ。

あれ？わたしなにやってるんだろ？

と、うっすら思ったが次の瞬間そんなことは忘れてしまっていた。
刀掛けから両差しを手に取り廊下を早歩きしなが腰に差した。
裏口の戸口を開けると近所の夫婦が涙ながらに香織を拝んでいる。

「河本一家のやつらに娘を取られたんです！先生お願いです。娘を取り返してください」

「また賭博か！」

「もう！もうやめます！ですから先生！お願いです！」

母親は香織に掴みかかる勢いで言った。

「娘を…お願いです。後生です！」

「ええ～いわかったから案内せよ！」