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小次郎を倒す者
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「なに言ってるんですか。小倉には宮本武蔵がいるじゃないですか!」
「!」
小幡は、阿国を見た。
忠明はさっと腕を組み思考にふけった。
「そうか武蔵がいたな…」
忠明は下総の国、相馬原での一刀流継承者を決める試合を思い出した。
あのときは太陽を背にし、坂の上から打ち込んで勝った。
そして泣きながら力なく去って行ったあの善鬼の姿が浮かんだ。
忠明は目を静かに目をつむり静かに去ってゆく善鬼を見送った。
佐々木小次郎もそれなりに名のある剣士…
小次郎がもし武蔵に敗れれば武蔵の武勇伝の足しにはなるだろう…
忠明は目を開くと言った。
「確かに佐々木小次郎を倒す者がいるとしたら宮本武蔵をおいて他にいまい」
「武蔵の武勇伝は有名ですな。佐々木小次郎対宮本武蔵!達人同志の闘い。これ以上の試合はありますまい。もしかすると語り継がれる試合となりましょう」
語り継がれる…?
「宮本武蔵の武勇伝の中で佐々木小次郎は永遠に生き続けられるってことね」
「…それもまた一興か」
「先に噂を流して、当日人が集まるようにしないとね。語り継がれるような最高の決闘にしてあげますよ」
旅芸人をしていた阿国は、見世物の要領で小次郎対武蔵の決闘を断然盛り上げるつもりだ。
小幡は意を決し膝を叩いた。
「噂の件はお任せください!拙者と柳生でやりましょう」
午後、小倉城道場では、細川忠利が小次郎相手に打ち込み稽古をしていた。
「でやぁあああああ!」
軽く捌いてゆく小次郎。
だが、いつのまにか道場の隅へと押されていった。
忠利はここぞとばかりに振りかぶって打ち込んだ。
さっと下がって、それを捌いた次の瞬間、忠利は真下から斬り上げてきた。
燕返しだ。
刹那、小次郎は腰を落とし正眼に構えていた木剣でそのまま忠利の燕返しをただ抑えた。
「あっ」
忠利が気づくと小次郎はもう目の前にいなかった。
道場の中央に歩いて行くところだった。
「もう少しだったのう…」
「見事でございます。道場の隅に追いやり体捌きを封じ、そこで燕返しとは…」
「今日こそ、おぬしに一撃食らわせられると思ったのだが」
「某、十分に追い詰められました。教えてきた甲斐がございます」
「そうか!珍しくおぬしに褒められるとは、成果があったのだな」
「ところで殿。お話したい儀がございます」
「…江戸に戻るという話か…」
忠利はさきほどの動きを復習しながら聞いている。
「…ご存じでありましたか」
「もっとこうか…」
ブンッと燕返しを素振りする。
「こちらには戻ってこんのか」
「はい。よって佐々木小次郎を…亡き者にしたいと考えております」
忠利が振り返った。
「なに?亡き者にするだと?」
「試合をして負けるのです」
「佐々木小次郎がか?試合をして負け…誰にじゃ?」
「宮本武蔵にです」
忠利は思わず木刀を強く握った。
「宮本武蔵か!」
忠利は一点を見つめ想像しようとした。
「佐々木小次郎 対 宮本武蔵か…うーむこれはすごい組み合わせじゃ。藩を上げて小次郎の最後を飾ってやろう」
翌日、さっそく新免無二斎は忠利の命令を武蔵に伝えた。
「つまり、おぬしが佐々木小次郎と、八百長試合をして打倒すふりをせよとのことだ」
「…」
「おぬしも少しは喧嘩で知られた男。佐々木小次郎を倒したとしてもおかしくあるまい」
「…」
「言っておくが、これに乗じて佐々木殿におかしな真似をするでないぞ。御家おとり潰しになるでな」
息子を理解しない父親に武蔵は言い返した。
「勝たせてくれるというものを、わざわざ台無しにするようなことはしない」
「…細かい試合運びは、佐々木殿とじかに打ち合わせするがよい。重ねていうが今までやってきたような騙し討ちなど…」
「馬鹿なことを言うな!俺はかつてあいつの兄弟子だった男だ。そんなぶざまな真似などするか!」
武蔵は猛然と部屋を出た。
「!」
小幡は、阿国を見た。
忠明はさっと腕を組み思考にふけった。
「そうか武蔵がいたな…」
忠明は下総の国、相馬原での一刀流継承者を決める試合を思い出した。
あのときは太陽を背にし、坂の上から打ち込んで勝った。
そして泣きながら力なく去って行ったあの善鬼の姿が浮かんだ。
忠明は目を静かに目をつむり静かに去ってゆく善鬼を見送った。
佐々木小次郎もそれなりに名のある剣士…
小次郎がもし武蔵に敗れれば武蔵の武勇伝の足しにはなるだろう…
忠明は目を開くと言った。
「確かに佐々木小次郎を倒す者がいるとしたら宮本武蔵をおいて他にいまい」
「武蔵の武勇伝は有名ですな。佐々木小次郎対宮本武蔵!達人同志の闘い。これ以上の試合はありますまい。もしかすると語り継がれる試合となりましょう」
語り継がれる…?
「宮本武蔵の武勇伝の中で佐々木小次郎は永遠に生き続けられるってことね」
「…それもまた一興か」
「先に噂を流して、当日人が集まるようにしないとね。語り継がれるような最高の決闘にしてあげますよ」
旅芸人をしていた阿国は、見世物の要領で小次郎対武蔵の決闘を断然盛り上げるつもりだ。
小幡は意を決し膝を叩いた。
「噂の件はお任せください!拙者と柳生でやりましょう」
午後、小倉城道場では、細川忠利が小次郎相手に打ち込み稽古をしていた。
「でやぁあああああ!」
軽く捌いてゆく小次郎。
だが、いつのまにか道場の隅へと押されていった。
忠利はここぞとばかりに振りかぶって打ち込んだ。
さっと下がって、それを捌いた次の瞬間、忠利は真下から斬り上げてきた。
燕返しだ。
刹那、小次郎は腰を落とし正眼に構えていた木剣でそのまま忠利の燕返しをただ抑えた。
「あっ」
忠利が気づくと小次郎はもう目の前にいなかった。
道場の中央に歩いて行くところだった。
「もう少しだったのう…」
「見事でございます。道場の隅に追いやり体捌きを封じ、そこで燕返しとは…」
「今日こそ、おぬしに一撃食らわせられると思ったのだが」
「某、十分に追い詰められました。教えてきた甲斐がございます」
「そうか!珍しくおぬしに褒められるとは、成果があったのだな」
「ところで殿。お話したい儀がございます」
「…江戸に戻るという話か…」
忠利はさきほどの動きを復習しながら聞いている。
「…ご存じでありましたか」
「もっとこうか…」
ブンッと燕返しを素振りする。
「こちらには戻ってこんのか」
「はい。よって佐々木小次郎を…亡き者にしたいと考えております」
忠利が振り返った。
「なに?亡き者にするだと?」
「試合をして負けるのです」
「佐々木小次郎がか?試合をして負け…誰にじゃ?」
「宮本武蔵にです」
忠利は思わず木刀を強く握った。
「宮本武蔵か!」
忠利は一点を見つめ想像しようとした。
「佐々木小次郎 対 宮本武蔵か…うーむこれはすごい組み合わせじゃ。藩を上げて小次郎の最後を飾ってやろう」
翌日、さっそく新免無二斎は忠利の命令を武蔵に伝えた。
「つまり、おぬしが佐々木小次郎と、八百長試合をして打倒すふりをせよとのことだ」
「…」
「おぬしも少しは喧嘩で知られた男。佐々木小次郎を倒したとしてもおかしくあるまい」
「…」
「言っておくが、これに乗じて佐々木殿におかしな真似をするでないぞ。御家おとり潰しになるでな」
息子を理解しない父親に武蔵は言い返した。
「勝たせてくれるというものを、わざわざ台無しにするようなことはしない」
「…細かい試合運びは、佐々木殿とじかに打ち合わせするがよい。重ねていうが今までやってきたような騙し討ちなど…」
「馬鹿なことを言うな!俺はかつてあいつの兄弟子だった男だ。そんなぶざまな真似などするか!」
武蔵は猛然と部屋を出た。
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