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【第四章 救世主編】

お母さん! 救世主の親玉?

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 ______ホワイトシーフ王国______

 ◇ ◇ ◇
 ■ ■ ■

「はぁはぁ。やっと着いたね」
「お、俺、もう......」
「ぜえ......。ひゅ~」

 どれくらいの間、森を走っただろうか。
 途中、ホワイトの肩に乗せてもらって小休憩を取ったが、デブの天敵である運動を行った事で膝は悲鳴を上げていた。
 引きこもりであるホワイトの兄もまるで、陸に上げられた魚のように死んだ魚の目をしている。

「し、静かだね」

「はぁはぁ。......夜だしな」

 ホワイトシーフ王国には娯楽がない。
 なので、夜の街は風の音が良く聞こえる。
 何の変哲もない光景、そう言いたかったのだが、路地の脇から姿を現した黒ずくめのマント集団を見て、「ま、そうなるよね」とお約束の流れに納得した。

「ちっ! やっぱり、先回りされていたか」

「うん。森を彷徨うよりも私達がここに来るのを分かっているなら、待ち伏せしていた方が効率的だしね」

「1、2、3......。5人か。ホワイト一人で行ける?」

「大丈夫だと思う」

 黒ずくめの集団は首飾りや指輪、腕輪などに魔石を埋め込んでいる。
 恐らく、彼等も魔法を使える魔術師なのだろう。
 背格好から以前、俺たちを襲った奴等とはまた別に見える。
 救世主は一体何人いるんだ?
 そもそも、魔法を使える者が少ないこの世界でどうやってこれだけの魔術師を集めたんだ?

「klll oyjgg!」

 黒ずくめの一人が右手をかざすと、右手からバスケットボールほどの大きさの火球が放たれる。
 熱を纏い、轟音を上げながら近付いてくる火球に対し、ホワイトは瞬きもせずに平然と受け止める。

「お、おい。大丈夫か?」

「うん。全然平気。ミーレの魔法に比べたらどうってことないよ」

 ホワイトは眉一つ動かさず手の内の火球を握り潰す。
 それを見た他の魔術師達は間髪入れずに氷の球や光の球を集中砲火。

「何度やっても意味ないよっと!」

 ホワイトは筋肉質な足を腰の高さまでズイッと上げ、捻りを加え、迫ってくる球を黒ずくめ集団に蹴り返す。
 自身の放った球が戻ってくる事を想定していなかったのか、黒ずくめの集団はそれを避けようと慌てて地面に転がった。

「よし! チャンス! 試しにやってみっか!」

「ん? やる?」

 俺は片膝を突き、右手で地面に触れ。

「”あいつらを拘束しろ”」

 と呪文のように言葉を吐く。
 すると、地面から岩石の蛇が数匹現れ、横たわる黒ずくめの集団に巻き付き、身動きを取れなくした。

「くっ! 何だこれは!」
「こいつらの中に魔術師がいるなんて聞いてないぞ!」

 慌てふためく黒ずくめの集団。
 俺がゴーレム幼女の能力を使用した事にホワイトも驚いているようで目を丸くしながら。

「花島。どうして、ゴーレムちゃんの能力を?」

 と尋ねてきた。

「多分、これのお陰だ」

「これ?」

 俺は服を捲り、脇腹に移植された赤い魔石をホワイトとホワイトの兄に見せる。

「魔石?」
「な、なんで、こんな所に......」

「ゴーレム幼女の中に入っていた時、ヴァ二アル・クックの孫に埋め込まれた」

「ヴァ、ヴァ二アル・クックだって!? た、確か、数百年前に実在したと言われる伝説の魔具職人じゃあ......」

「うん。そうだよ」

「そ、そ、そうだよって! お、お前、何を言っているかわ、分かっているのか!?」

 いつになく取り乱すホワイトの兄。
 何こいつ、ヴァ二アル・クックのファンか?

「うん。掻い摘んで説明すると、ゴーレム幼女はヴァ二アル・クックの最後の秘宝だったのね、で、ゴーレム幼女の中にはヴァ二アル・クックの魂とクックの孫の魂があって......」

「ちょ、ちょっと待って花島! 秘宝? クックの魂?」

 そういや、ゴーレム幼女が暴走した時、俺がどこに居て、何をしていたのか皆に言うの忘れてたわ。
 しかし、ホワイトもこれだけ驚くなんて珍しい。
 説明してやりたいのは山々だが、今はシルフの元まで行く事が最重要任務であり、お喋りするのはその後でいい。

「あ! ちょっと! 花島!」
「おま、お前! せ、説明しろ!」

 俺は巨人の兄妹を無視し、横たわる黒ずくめの集団に話をかける。

「おい。お前ら救世主だな。どうして、俺達を襲う?」

「......」

 だんまりか。
 それなら。

「岩石の蛇よ。そいつらをきつく締め付けろ」

 命令すると、岩石の蛇はぎりぎりと音を立てながらゆっくりと食い込み、黒ずくめの五人は鳥のような高い声で鳴いた。

「ぐあああ!!!」
「骨が折れる!!!」

 悲鳴を上げる黒ずくめの五人。
「お、俺達も知らない! 命令されただけなんだ!」
 と痛みに耐えかねた一人が声を上げた。

「あのマモルとかいうオッサンか?」

「あ、ああ! お前らを城に近づけるなって!」

「城に近付けるなだって? お前達は一体何を______」

「花島!!! 離れて!」

 救世主に尋問をしている最中、後ろにいたホワイトが俺の首根っこを鷲掴み、俺の身体は見えないゴムに引っ張られるように宙に舞った。

「いてえ! 急に何をす______」

 ゴロゴロと巨体が地面を転がり、顔を上げると、木のツルのようなものが黒ずくめの五人の手足に絡みつき、中ずり状態。

「や、やめ______」

 黒ずくめの一人が身体を左右に振り、抵抗すると木のツルは俺の出した岩石の蛇ごと黒ずくめの一人と一緒に地面に空いた穴に入る。
 他の4人の足元を見ると、同様の穴が空いており、木のツルが地中から出て来たことが容易にうかがえた。

「あれは、オッサンが出した木のツル? どうして仲間を拘束している?」

「分からないよ。ただ、少しマズイ状況かな」

 周囲を見渡すと、俺とホワイト、ホワイトの兄を取り囲むように無数の穴が空いており、俺達もあの木のツルに拘束されてもおかしくない状況。
 先程まで聞こえていた黒ずくめの一人の悲鳴は聞こえず、穴は風切り音を上げ、次なる獲物が入ってくるのを待っているようだ。

「ふう... ...」

「珍しく緊張してる?」

「いや、その逆だ。ピンチに違いないんだが不自然なくらいに落ち着いている。色々な事を経験したからかな?」

「私も。多分、マンションでミーレとレミーに魔法を撃たれた時が一番死ぬかと思ったよ」

 修羅場を色々と経験したことで俺たちはちょっとやそっとの事で取り乱したりしなくなっていた。

 木のツルもオッサンの出した能力であればホワイトの能力で打ち消す事が出来る。

「まぁ、恐るるに足らん」

「来るなら来いだね!」

 凛々しい顔付きで、ホワイトは拳を穴に向かって突き立てた。



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