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第二章 第一節 四解文書争奪

第169話 ちょっとぉ、ブライトが休職ってどういうわけ?

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『タケル君、ブライト司令から休職願いが提出されたらしいわ』
 そのニュースがもたらされた時、ヤマトタケルは授業を受けている最中だった。
 教室の後方に待機していた草薙素子が、感応デバイスを通じて語りかけてきた。ヤマトは驚いたが、それを顔色や態度にださないよう、平静を装ったまま草薙に訊いた。
『上からの圧力ですか?』
『まさか。パイロット・データの移送予定が迫ってるのよ。国連軍にとって最大級の機密移送の指揮官を直前ではずすなんてありえない』
『ぼくにはブライトさんが自分から休職を願いでたというほうが、あり得ない気がします』
『今、バトーたちに真相をさぐらせてる』
 ヤマトはこのニュースの意味を、こころのなかで精査した。
 ブライト司令に何があったのだろうか。
 亜獣アトンとの戦いでは多くの犠牲をはらったにせよ、勝利をおさめることができた。リョウマとセラ・プルートをロストした件は不問とはいかないにしても大きな減点もなく、それほどのダメージではない。いや、むしろ日本国防軍との協同作戦が奏攻したことで、評価が高まったほどだ。

 プルートゥに殺されかけたと伝え聞いたが、そのことで何か心境の変化でも起きた?。
 だが体に傷は負っていない。
 では、PTSDを発症している?
 いや、もしそうだとしたら、診察にあたったアイダ李子医師が黙ってない。
 何より、リョウマのパイロット・データの国際連邦本部への移送という重要な任務を目の前にして職務を放りだす真似をブライトがするだろうか?。
 あのブライトがあきらかな減点になることを選択したことがヤマトには解せなかった。

 そのとき、突然、網膜デバイスからミライ副司令の姿が投影されたかと思うと、思い詰めたような表情で、ブライトが休職することを告げた。
 アスカが椅子からやおら立ちあがるなり大声で叫んだ。
「ちょっとぉ、ブライトが休職ってどういうわけ?」
 教壇で授業をおこなっていた社会の先生は突然のことにびくりと身をすくめた。
「ねぇ、タケル!。あんたは知ってたの?」
「いや……、今、はじめて聞いた」
 面倒になりそうだったので、ヤマトはとっさに嘘をついた。
「レイ、あなたは?」
「何が?」
「何かってブライト司令が休職届けを出したって、今、ミライから……」
「そうなの。ごめんなさい。授業中は外部デバイス切ってるから」
 アスカはレイを睨みつけたかと思うと、ぷいっと顔を背けるなり、ドンと派手な音をたてて座った。
「もう、いい!。ひとり大騒ぎしているあたしがボカみたいじゃないの」
 アスカは教壇の方をむいた。
「もう終ったわ、先生続けて」

 突然、バトンを戻された形になった、教師はまごつくばかりだった
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