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第三章 第一節 魔法少女

第299話 クララ、よく聞いて

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「クララ、よく聞いて」

 その前置きにクララはゾクリとした。およそレイらしくない物言いに、ただならぬ気配を感じた。
 大変なことが起きている——?。
「さっきの電撃、わたしも無傷じゃなかった。かなり厳しい状況であなたを助けられない。だけどイオージャをなんとかして、あなたの機体に近づけないようにする。だから早く逃げて」
 クララは意味がわからずレイの機体が映し出されたモニタのほうへ目をむけた。
 レイのセラ・サターンが腕だけで地面を這い回っていた。
 電撃の直撃は免れていたはずだったが、下半身になにかしらのダメージを受けたらしかった。レイのセラ・サターンは腰から下が動いてなかった。立つことができず。サターンは手と上半身だけを使って、ビルの谷間をうようにして這っていた。
「レイさん。あなたのほうも……」
 クララが思わずレイに声をかけると、レイがことさら厳しい口調でいさめてきた。
「クララ!。ひとのことはいい。あなたは自分のことを心配して!」
 レイらしくない切羽詰まったような態度に、クララはぼわっとした驚きを感じた。その時、アルが張りつめた表情で、クララに警告してきた。
「クララ、すまねぇ。なんとか動かせねぇか。かなりまずいことになったんだ」
「まずいこと?。アルさん。でもこのセラ・ジュピターは動かせないんです。この機体にはムラなく超絶縁体が塗布されているんじゃないんですの?。わたしのからだ、まだ痺れていますのよ」
「クララ、それは謝る。こちらの想定を超える高負荷のパワーだったんだ。完全には遮断できなかった」
 アルの表情が引きって、あまりに申し訳なさそうにうつったので、クララはアルを責めるのをやめて、そのあとの指示を仰ぐことにした。
「で、アルさん、わたくしはどうすれば?」
 アルに尋ねたはずだったが、答えは逼迫ひっぱくした声のミサトからもたらされた。
「クララ、どうやっても、そこから逃げて。レイが今、時間を稼いでいる。もう一発くらったら、あなたの命が危ないわ」
「わたしの?」
 クララはセラ・ジュピターを映し出しているカメラの映像を呼び出した。倒れているセラ・ジュピターを真上から映し出している映像を見ると、からだのあちこちがけぶっているように、淡い煙が出ているのがわかった。
 が、そのカメラに胸部分にあるコックピットが映し出されると、クララは呆然とした。

 コックピットに全面塗布されていたはずの起絶縁体の一部が剥がれ落ちていた——。
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