サイバシスト[PSYBER EXORCIST]

多比良栄一

文字の大きさ
1 / 13
エピソード1 平家と源氏の末裔

第1話 さぁて、暴走している電幽霊はどこだ?

しおりを挟む
「なぁ、みなもとうじ、さすがにこの深度だと、神経ニューロ臭、結構キツイな」

 平平平たいら・へいべい鼻腔びこうをついてきたヴァーチャル世界特有の臭いに顔をしかめた。醗酵はっこうしたドブ川の臭いにえた刺激臭がまざったような臭い。
「まぁ、ここは神経ニューロコンピュータ内ですからね。これしきの臭いにはもう慣れました」
 平平平へいべいはすげない口調で返答してきた源源子みなもと・みなこのあいかわずの態度に口元をゆるめた。彼女とバディを組んでからすでに数ヶ月経っていたが、彼女がそういう返事をするときは、かなり同意が含まれるとわかってきたからだ。
 彼は町を一望できるひときわ高い塔の屋根から身を乗り出すようにして、手でひさしを作って町を睥睨へいげいした。

「さーて、暴走してるっていう電幽霊Psyber Ghostはどこよ」

 眼下に広がる千メートル級の山をいただいたその麓の街並みは、町の中心地から放射状にひらけたレンガ造りの堅牢な作りで、夜の暗闇のなかでさえ、重厚な雰囲気をかもし出すことに成功していることがわかる。
平平へいべいくん、今日はいでたちが少々華美ではないですか?」
 源子の指摘に、平平が少しだけ首を巡らせ、意地悪な目を向けた。
「そういう、みなもとうじこそ、いつもよりアバターがすぎてるんじゃねーの」

 平の目に映った今日の源子みなこの装いは、流鏑馬やぶさめを行うときに着る狩装束かりしょうぞく姿に似た格好だった。
 源子は細面の整った顔立ちで、誰もが認める美人であるのは確かだったが、りんとした眼差しのせいで、人によっては近寄りにくい、ある種の気品をまとわせていた。すっと背の伸びた立ち姿は優美ではあったが、残念なことに身体のくびれには恵まれておらず、見る人の印象は『細い』というところに集約してしまう。おかげで、本人としては不本意ながらも、必然的に和の服装がよく似合って見える。

「いえ、いつもの格好です」
 あらぬ勘ぐりを否定すべく、キッとした厳しい目つきで源子が平平を見据えた。
 だが平平はそんな視線などおかまいなしに、逸る心を押さえきれない表情で、遠くを眺めていた。
 いつもの彼は日本のサムライを模した素浪人風のラフないでたちだが、今日は兜こそ被っていないながらも、腰からさがる草摺くさずり籠手こて臑当すねあてを装備し、真田幸村よろしく『赤備え』で統一していた。
 甲冑らしきものをまとってはいたが、本物の重厚感は微塵も感じさせないほど軽量化、簡略化され、極めてスタイリッシュに洗練されたデザインが目をひく。
 野生味を感じさせる顔だちと、くるりとした目がいくぶんアンバランスで、子供っぽさが抜け切れない印象を与えるが、いまは髪の毛を素浪人風にうしろに束ね、腰近くまで伸ばしているせいですこし大人びて見えた。
 平平が長いポニーテールを揺らして、こちらに顔を向けながら言った。
「ひっさしぶりの実戦だぜ。ワクワクしねぇのかよ」
「いいえ。まったく……。解散した国民的アイドルグループが、還暦すぎてから20年ぶりに再結成する、というのくらいわくわくしません」  
「なんだよ。ビミョーにワクワクしてんじゃねーか」
 源子が異議を唱えようと口を開きかけた瞬間、ドーンというあたりを揺るがすような轟音がなり響いた。あわてて音の方向を見ると、数キロ先の町なかに火柱が立ち上がっており、周りの建物が崩れ落ちていくのが見えた。
「あそこかぁ」
 平平が快哉のような叫び声をあげた。

 興奮を隠せない平平を横目に、源子は冷静そのものの表情で右手を前につきだし、指先で中空にZの文字を描いた。そのサインのコマンドに呼び出されて、なにもない空間に赤い円が出現した。源子はその円の中に放射線状に区切られたメニューに手を差し入れると、慣れた手つきでその中のコマンドを操作していく。
 ほどなく、メニュー画面の上の空間に、さきほど火柱があがった場所のクローズアップ映像が映し出された。
 そこには10メートルはありそうなモンスターらしき姿。舞い上がる埃のせいで精細な映像ではなかったが、大きな武器を振りまわして暴れているのは垣間見えた。
「大きい…」
 源子の口から思わず漏れたことばに、平が悪戯っぽい目をむけた。
「みなもと氏、なーに言ってる。ここはヴァーチャル空間だろ。物理的デカさは関係ない」
 源子はばつが悪そうに一回軽い咳払いをすると、空中のメニューの操作のほうへ集中しはじめた。
「今、直リンの3次元アドレス検索しますから、いっときの猶予をくだ…」
 が、平平は源子のことばを遮るように言った。
「あそこに見えてんだ。翔んでくよ。みなもと氏は、テレポートで先回りしといてくれ」
 と、全部、言いきらないうちに、平平は塔から体を乗り出すや、勢いよく空へむかって飛びだした。
 数十メートル級の大きな跳躍をした平が、はるか向こうの鉄塔へ飛び移る。月明かりに照らされて、まるで大きな鳥が羽ばたいているようにも見えた。

「御意です……」
 源子はつぶやくようにそう返事をすると、すこしため息混じりに言う。
「まったくあの人は……たゆたうことなく、天翔あまがけるのですね」
 源子は、気を取り直すように、手元に浮いている操作画面を操作しはじめた。
『アドレスを入力すれば、その場所へ移動できるというのに……』
 心のなかで不平を漏らしながら、リターンキーをタップすると、誰に言うでもなく思わず本音が口をついて出た。

「まったく脳みそまで霊力の『霊力馬鹿』には困り果てます」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...