サイバシスト[PSYBER EXORCIST]

多比良栄一

文字の大きさ
3 / 13
エピソード1 平家と源氏の末裔

第3話 前前前前前々世から理解しあえるはずがありません

しおりを挟む
 爆発のあった一帯では堅牢なレンガ作りの建物が崩落していた。

 だが暗くてどれほどの範囲が、瓦礫と化しているのか判別しない。あたりの電気や灯類が消失し、粉塵もたちこめているため、視界に映るものは限られていたからだ。
 そのわずかな光のなかを大きなツルハシのブレードが移動していた。それは路上に横転しているトラックとおなじくらいの大きさで、とてつもない規格外のサイズなのがわかる。その大きなブレードが地面から持ち上がると、そのツルハシを持った化物、『コールマイナー』が建物の陰からぬっと現れた。

「採掘してやる!」
 コールマイナーが叫んだ声が、辺りの空気を震わせた。
 ゴーレムのような姿と体躯をした化物——。
 体表面はゴムのようにぶよぶよとしていて、半透明な皮膚のせいで、なかが一部透けて見えている。
 その大きなからだの胸や腹に、掴まった人々がアバターのまま取り込まれていた。まるで身体のいたるところに『人間』を勲章のように埋め込んでいるようですらある。
 そしてその左胸の位置にまさに特等の勲章さながら、憑依された2年生、安倍晴臣はるおみのからだの下半身が埋まっていた。まだ上半身はこちらに見えていたが、ホスト風の顔は今は墨ですすけ、下級生を虜にする端正の顔だちはよく見えない。

「コン化けモンがぁ。そンお方、返してもらうぜよ」

 その化物と真正面から対峙たいじしている人影があった。

 音無・魔陽涙おとなし・まひる——。

 彼女は巫女みこの姿で薙刀なぎなたを構えて、鋭い眼光を化物にむけていた。
 スポーティーで男勝りの性格を感じさせる顔立ちながら、女性らしいしなやかさを感じさせてくれる愛くるしさがあった。流れるような長い黒髪が、たおやかな雰囲気を醸成しているのかもしれない。
 だが、すでにその髪の毛は左側頭部の頭皮ごと削りとられ、血がだくだくとしたたりおちていた。しかも左上半身は甚大なダメージをくらっていて、左肩から左腕がまるごとすでに切り落とされていて、なんとか無事な右半身だけで戦いを挑んでいるというところだ。
 それでもまひるは、絶対、逆転をしてやる、という決意に満ちた表情していた。
 右手に持った薙刀なぎなたの柄をぎゅっと握りしめる。

 ふいに音無まひるの上から声がした。ゆったりとした温和な声。
「まひる、ここはいったんひきますえ」

 声の主は双子の姉、音無・神影おとなし・みかげ——。

 彼女は振り袖姿の和装で正座したままなのに、その姿勢で中空に浮いていた。
 妹のまひるとうり二つの顔立ちながら、ひとに与える印象は180度違っていた。まずだれもが最初にその上品な所作に目を奪われる。おっとりとしたその姿に心休まる思いを抱くが、その実、だれよりも厳しい。
 極限にまで研ぎ澄ませた爪を、たおやかな所作に潜ませている——というべきだろう。

「みかげねぇ。そがんことゆーても、簡単には引けんがや」
 みかげはゆっくりと手元にある湯飲みを口につけて、お茶をすすると言った。
「まひる、そう言わはりましても、相手の攻撃力が強すぎですわ」
 みかげは目の前の中空に浮かんでいる4枚のカードをぼんやり見ながらため息をついた。
「それに、うち、あんさんの体力回復してあげられる護符、使いきりましたわぁ」
 そのことばを聞いたまひるは悔しそうに下唇をかみしめた。目の前の化物、コールマイナーの胸に埋もれている安倍晴臣の顔を見つめる。
 おもわずその目に涙があふれだした。

「音無みかげさん、音無みはるさん、加勢に来ました!!」
 そのとき、直リンクをたどってこの場にテレポートしてきた、源源子みなもと・みなこがふいに姿をあらわした。あわててまひるが目元をぬぐうとミナコに声をかけた。
「ミーナか!」
「みなもとはんやないですかぁ」
 みかげもミナコに声をかけたが、やってきたのが源子ひとりだけなのに気づいて訊いた。

「みなもとはん、あん霊力馬鹿はどないしなはりました?」
「そうだ。ミーナ、あの霊力馬鹿は、どがいした?」
「霊力馬鹿……?。あぁ、そのうち、上から降ってくると思いますわ」
 みかげがそう答えた源子のほうをうえから見下ろして質問した。
「降ってくる?。どういうことだす?」
「さあ?」
「さあ?って…あんさんらバディでおましょ」
 ミナ、うんざりとした顔で上にいるみかげを見あげた。
「バディでも理解できないものはできませんわ。だって、私と平平君は、900年前、お互いの家を潰しあって戦った因縁のある、源氏と平家の血筋のものですよ……」

「前前前前前々世から、理解しあえるはずがありませんわ」

 源子はみかげのほうを見あげたまま、肩をすくめてみせてみせた。
「だから、『さぁ?』です」

 と、上のほうから、雄叫びのようなものが聞こえてきた。
「うおぉぉぉぉ……」
 次第にその声が大きくなってくる。なにかが近づいてきているのがわかった。
 源子がまひるとみかげに、にっこりと笑いかけて言った。

「たぶん、あれです」

 そう言った瞬間、化物、コール・マイナーの胸に、ものすごいスピードでなにかが激突した。砲弾のようなスピードでコール・マイナーの装甲を砕くようにみえたが、その胸郭は見た目からは想像つかないほど柔軟だったようで、ぶつかってきた物体はその反発力で、今度はおなじくらいの勢いで跳ね返された。
 飛込んできた物体は、そのまま反対側に建っているまだ壊れていないビルの壁に激突して大きな穴を穿うがった。

「いやあ、無理だったかぁー」
 粉塵が舞いあがる瓦礫がれきのなかから、平平が頭を掻きながらからだを起こしてきた。が、平平がなんとか立ちあがると、その首筋に薙刀なぎなたの刃が、ぴたりと押し当てられた。刃先がギラリとにぶく光る。
 音無まひるだった——。
 今にも斬ってくれようとばかりの、覚悟の目つきを平平にむけていた。
「まひるッチ、これはなにかな?。オレはモンスターでも電幽霊サイバー・ゴーストでもねーぞ」
「おまん、今、安倍先輩を蹴ったぜよ」
「あぁ、あれ——。蹴り一発で助けられると思ってたんだけど……なぁ……」
「まひるは、安倍先輩のことが好きやから、そんな真似許さしませんわよ」
 みかげがこともなげに、まひるの秘密を暴露したので、まひるの顔はあっと言う間に真っ赤になった。
「お、お姉ちゃん……ちょっと……」
「あ、そう、オレにはどうでもいい……」
 薙刀なぎなたの刃がぐぐっと平平の首筋に食い込んだ。
「秘密を知られたからには、やはり、おまん、死んでもらうぜよ」
「お、おい、みかげ姉貴、まひるッチを止めてく………」

「二人ともよけろぉぉぉ!!」
 突然、上空から女性の警告の声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...