学校怪談は眠らない

漆目 人鳥

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たったひとつの攻めたやりかた

隠形鬼

 声が出なかった。
 多分、叫びたかったんだと思う。
 ただ、その時叫んでいたら、正気は保てなかったかも知れない。
 まるで、ブレーカーが落ちるようにして、私の頭の中は真っ白になり、心を守った。
「どういう?どうゆう事ですか?あれが白石くんって?」
 三沢さんが身を乗り出す。
 三沢さんのメンタル強い。
「ここからは半分、私の推測」
 黒川さんがそう言って続けた。
「あそこに居たのは、白石正樹。彼は『禍神』になっていた」
「マガカミ?」
 三沢さんが訪ね返す。
 うん、なんだろう?『マガカミ』って。
 白井君が『なっていた』?
 姿を変えていたって事?
 コスプレじゃないよね?いなくなっちゃったもの。
「私のいた世界の話をするとね」
 黒川さんちょっと考えるようにして話し出した。
「こっちの世界で言う霊みたいな物が、あっちでは世間に認識されているのよ。一般的なの。人や魚や動物、鳥達の生態系に霊も組み込まれているって感じが一番近いかな」
 嘘、何その日本昔話みたいな世界観!
 あまりうれしくないファンタジーわーるど。
「そういう奴らを私の世界では『隠形鬼おんぎょうき』って言うんだけど。意味的には『姿を隠して悪さをする』って感じだから、幽霊と言うよりは、コチラの世界の妖怪に近いかも」
「そいつは呪いを使う、使えるんですか?」
 間髪入れず三沢さんが突っ込む。
 三沢さん、なんかはしゃいでる様にも見える。
「呪いって訳じゃないけど、人には出来ないような力は持ってる。それも、妖怪を想像してもらえばいいかな。名前のとおり、普段は姿を隠しているから、酷い悪戯をされてしまって命を落としたりする人も居る。飽くまで隠形鬼のやることは悪戯なんだけど、まあ、こちらの世界で同じ事が行われれば、呪いって事になるのかも」
 悪戯?
 度が過ぎるでしょ。
 そんなのが闊歩してる世界が存在する?
 怖すぎる。
「その隠形鬼に殺されたりするとね、隠形鬼の中にはそいつを従者ズサにする事が出来る奴がいる」
「ズサ?」
 私が聞き返すと、黒川さんは言葉を探しながら答えた。
「えーと、そこからか――。主従関係――かな?それを、殺した相手に結ばせるの」
「手下にするって事ですか?」
 私が言い換えると、黒川さんは人差し指で私を刺して笑った。
「それ。そんなところかな?その手下のことを禍神って言うの。つまり、アレは隠形鬼に殺された白石君が従者――禍神になった姿――だと思う」
 黒川さんはそう言ってひとつ伸びをした。
「『だと思う』って言うのはね、コチラの世界が私の居た世界と同じ理屈で動いているとは限らないから――」
「もし、アレが禍神だとしたら、白石さんを禍神にしたのは――」
 私が尋ねると、黒川さんは少し声のトーンを落として答える。
「ヒトノモリでしょうね」
 ヒトノモリの呪いは存在する!
「黒川さんは、どうやってあの禍神を倒したのですか、何をしたのでしょう?」
 三沢さんの質問は、私も聞きたかったことだ。
 あまりにも話が現実離れしていて聞きたかった事を忘れていた。
「倒した訳じゃないよ」
 黒川さんがそう言って小首を傾げる。
「強いて言えば呪いを解いた――かな?」
 黒川さんが続ける。
「『よもつへぐい』って知ってる?」
 私と三沢さんが首を横に振る。
「黄泉の国の食べ物を食べてしまうと、身体の中に穢れをため込んでしまって、そのせいで現世には帰ってこれない。っていう話なんだけどね。そんな感じの逆で、清めた力をため込んだ食べ物を食べさせる事で、呪いを浄化したってとこかな」
「あっちの世界の人は、そんな事が普通に出来るんですか?」
 驚いたせいで、そう問いかける私の声は大きくなってしまっていた。
「出来るよ。ある程度力を貯めないといけないから、それなりの精神力と体力は必要になるけどね」
「清めた力をため込んだ物って。ひょっとしたら」
 三沢さんが自分の口元を指さしながら尋ねた。
「そう、口の中で転がしていた飴。最初に自分で食べてもらおうとしたんだけど、食べてくれないから口移しして舌で押し込んであげた」
 黒川さんはそう言ってべえーと舌を出して笑う。
 なんて羨ましい――じゃなかった、おぞましい。
「それじゃあ、黒川さんがいつも飴を舐めているのって――」
 私の言葉に被せ気味で黒川さんは答える。
「ここの世界って、私にとっては『知らない世界』だからねぇ。護身用というか、お守りというか――。そろそろ必要ないかなと思い始めた矢先にこれだもの。やっぱ保険は必要」
 なんとなく、事の成り行きは理解出来てきた。
 でもだとしたらとても大切な事を話し合わなくてはならない。
 それは――。
「黒川さん!三沢さん!これからどうします!」
 私が2人に問いかけると、2人の返事はハモりつつ帰ってきた
「どうしますって?」
「どうしますって?」
「ヒトノモリです!このままにしておいていいんですか?だって、人を殺すんですよ?禍神にしちゃうんですよ?何とかしなくちゃ!」
 久しぶりに力説した。
 だってホントにそうだろう。
 このままにはしておけない。
「『何とか』ってどのように?」
  黒川さんのとても意地悪な言葉が返ってくる。
「……何とか」
 それしか言葉が出てこない。
 『何とか』の部分は、当然黒川さんからの発案があると信じていた。
「ほっとくことを推奨するよ」
 そう言って黒川さんがカップのコーヒーに口を付ける。
「ヒトノモリがどんな奴かも解らないのに、明神の言うとおり相手は攻撃してくるんだ。コチラから手を出すのは悪手。君らは自分を守る術がない。どうする?明日裏サイトに名前を書かれて、ヒトノモリが『イラナイノ』って聞いてきたりしたら」
 うわ、考えつかなかった。
「パニックでしょうね――」
 そうだよ、名前を書かれただけで呪われる可能性だってあるんだ。
「ほっとく事は無責任だって思うかも知れないけど――動かないんじゃ無い。動けないんだ。むしろ、一番危険なのは君らだから。だから、手を出さない」
「手を出さないって話は納得しますけど、じゃあなんで、そんなアブナイ物に黒川さんは手を出したんですかあ!」
 さっきまでの責任感は何処へやら。
 私はもう、怖くて泣きそうだった。
「……ごめん」
 黒川さんはそう言って俯いた。
「自殺した白石君の幽霊でも居るもんだと軽く思ってた。まさか、あんなに危ないものがいるなんて思いもしなかったんだ。あそこまでやって、引き下がる訳にもいかなかったし――」
 黒川さんは、私にそう言うと同意を伺うように口角を上げた。
「黒川さんに、ひとつ質問。聞きたいことがあります」
 三沢さんの声に黒川さんが視線を向ける。
「これからの事もあります。なので、質問。聞かせてください。万が一、私達がヒトノモリと戦わなくてはならなくなったら。なったとして――」
 三沢さんの表情が怖い。
「黒川さんは勝てる?勝つ自信があるのでしょうか?」
「……勝てるよ」
 黒川さんはにべもなく答えた。
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